近年、耳目に触れることが多くなった「ジョブ型雇用」。専門職人材の不足や、コロナ禍で進んだテレワークの影響などを理由に導入する企業も増えています。
ジョブ型雇用は「人に仕事をつける」のではなく、「仕事に人をつける」のが特徴。本記事では、言葉の意味や従来の「メンバーシップ型雇用」との違い、労使双方のメリットとデメリット、導入する際のステップなどを解説します。
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ジョブ型雇用の基礎知識

これまで日本で一般的だった年功序列や終身雇用制度が見直されつつあります。雇用への考え方が時代とともに変化するなか、注目されているのがジョブ型雇用です。
まずは、言葉の持つ意味や、従来の「メンバーシップ型採用」との違い、導入企業の割合などの基礎知識について解説します。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」で職務を定義して雇用するシステムを指します。欧米では一般的な雇用制度です。
日本経済団体連合会(経団連)による報告書では、「特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと」と表現されています。
ジョブディスクリプションとは、募集するポストの詳細な職務内容や必要なスキル、経験などを詳しく記載したもので、一般的には以下のような項目を記載します。
- 職種、役職(ポジション名)
- 職務の責任・権限
- 担当する具体的な業務・職務内容
- 目標、評価方法
- 必要な資格、スキル、経験
- 歓迎されるスキル、資格、経験
- 給与、待遇
- 勤務地、勤務形態
ジョブディスクリプションは求人の募集要項と大きな違いはありません。職種や雇用形態、給与などの雇用条件を端的にまとめたものを募集要項とするなら、それらに加え、詳細な職務内容や必要な経験まで定義するのがジョブディスクリプションです。
ジョブディスクリプションの詳しい作り方や記述例については、以下の記事からご覧ください。
また、ジョブ型雇用は新しい雇用形態のように感じますが、派遣やアルバイトといった雇用形態と似ています。
派遣やアルバイトも、特定のポストが空いた場合に募集され、必要なスキルや資格、経験などから判断して採用します。特定の決まった職務を遂行する点がジョブ型雇用と同じと考えると、わかりやすいのではないでしょうか。
参考:採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書「Society 5.0 に向けた大学教育と 採用に関する考え方」
▼適切なジョブディスクリプションを作成するには、求める人物像を明確化させることが重要です。人材要件定義の仕方については、こちらの資料で詳しく解説しております▼
メンバーシップ型雇用との違い
日本の従来の雇用制度は、ジョブ型に対して「メンバーシップ型」と呼ばれます。職務や勤務地などを限定せずに雇用するメンバーシップ型には主に、「雇用が安定する」「仕事を通じてスキルアップできる」といったメリットがあります。
ジョブ型が「仕事に人をつける」のに対し、メンバーシップ型は「人に仕事をつける」制度。新卒の一括採用で労働力を確保し、年功序列の終身雇用で離職を抑止し、企業側の都合で人を異動させる雇用システムは、日本の高度経済成長を支えてきたともいえるでしょう。
しかし近年では、時代にそぐわなくなった部分もあり、メリットの裏返しで「人材の流動性が低い」「専門人材が育たない」といったマイナス面も指摘されています。ジョブ型とメンバーシップ型の特徴を比較すると、下図のようになります。

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注目を集める背景
2013年に産業競争力会議雇用・人材分科会で、ジョブ型雇用を取り入れつつ「柔軟で多様な働き方ができる社会」の構築を目指す提言がされました。2020年には経団連がジョブ型雇用の比率を高めていく指針を示しました。
2022年9月、岸田文雄首相が「日本の経済界とも協力し、メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す」と述べたため、さらに注目が高まっています。
こうした提言や指針が出された背景には、以下のような事象があります。

メンバーシップ型はゼネラリストの育成には向きますが、スペシャリストは育ちにくい傾向があります。企業自体の専門性も高まりにくく、国際競争力の低下の一因と考えられています。
第4次産業革命ともいわれる今、人工知能 (AI) 、ロボット、ナノテクノロジー、量子コンピューター、生物工学、IoT、5G、自動運転、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)など、多岐にわたる分野で技術革新が進んでいます。こうした分野の技術を持ったITエンジニアやデータサイエンティストなどの専門職が不足しています。
また、ダイバーシティを推進する企業も増加しています。勤務地や職務などを限定できるジョブ型は、「専門スキルを持っているが、メンバーシップ型では就業が難しい」という人の雇用にも向いています。
上記3つに加えて、コロナ禍によるテレワークの普及によって、評価がしやすいジョブ型への関心はさらに高まっています。業績不振をきっかけに、生産性向上や人件費を見直す手段としてジョブ型を検討している企業もあり、さまざまな理由でジョブ型は注目を集めています。
参考:首相官邸「ニューヨーク証券取引所における岸田内閣総理大臣スピーチ」
ジョブ型雇用の現状
中途採用を中心に広まりを見せていたジョブ型雇用ですが、近年は新卒採用においても導入されつつあります。
2023年1月に経団連が発表した「2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によると、新卒採用における採用方法としてジョブ型を利用している企業は14.8%。今後、ジョブ型の採用割合を増やすと回答した企業は34.3%でした。半数近くがジョブ型を導入・導入予定とあり、従来のメンバーシップ型に見られる新卒一括採用が見直されつつあるといえます。
一方、経験者採用でジョブ型を導入している企業は43.8%。今後、ジョブ型の採用割合を増やすとした企業は19.5%でした。
2020年の同調査結果によると、ジョブ型雇用の導入事由は「専門性を持つ社員の重要性が高まったため」が60.2%でトップ、次いで「仕事・役割・貢献を適正に処遇へ反映するため」が59.2%、「優秀な人材を確保・定着させるため」が53.4%という結果。スペシャリストの採用のほか、年功序列ではなく仕事の成果で従業員評価をしたいという企業の狙いもみてとれます。
参考:日本経済団体連合会「2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」、日本経済団体連合会「2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」
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ジョブ型雇用のメリット

ジョブ型雇用には、企業側と求職者側、双方にメリット・デメリットがあります。まずはメリットについて、下図に沿って解説します。

企業側のメリット
ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプションによって具体的な業務や役割、責任、権限などを明確にできるため、無駄な仕事をする機会が省け、業務の効率化が図れます。各自の役割が明らかになることで、成果や達成度での評価がしやすくなるでしょう。
また、高い専門スキルを持った人材は、そのスキルを生かして働きたいと考える傾向があります。採用時に求めるスキルや職務を細かく明示するジョブ型雇用は、そのような人材とマッチングしやすくなるのが特徴です。
年齢や勤務年数に関係なく、職務やスキルに応じた給与を設定できることもメリットの一つです。専門性の高い人材が活躍できる環境を作ることで、従業員一人一人の業務の品質が上がり、生産性向上につながる可能性も高まります。
求職者側のメリット
一方、求職者から見たジョブ型雇用のメリットは、自分の専門性に特化した領域で仕事ができるという点です。契約外の職務を行う必要はなく、打診されても拒否できるため、特定の分野で自らのスキルを磨けます。
二つ目のメリットは、自身のスキルアップによって報酬を上げていくことが可能ということ。ジョブ型雇用の報酬は、経験や学歴は関係なくスキルや職務で定められています。スキルに見合った報酬を得られることで、適切な評価を受けていると感じ、仕事へのモチベーションが保ちやすくなるでしょう。
また、高いスキルを身につけて市場価値を高めれば、より高待遇の会社への転職につながる可能性もあります。
ジョブ型雇用の企業側のデメリット

では、企業側から見たデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。主な4つを解説します。

こちらもメリットと同様、企業側・求職者側の視点にわけて解説します。
企業側のデメリット
ジョブディスクリプションには勤務地や配属も明記されており、会社都合の転勤や異動ができません。企業側が変更したい場合は再契約が必要になりますが、従業員はそれを拒否することができるため、注意が必要です。
加えて、メンバーシップ型雇用のようにジョブローテーションや転勤によってさまざまな業務を経験させながら、人材を育成していくことができません。広範囲な知識や経験を持つゼネラリストを育てにくくなります。
即戦力人材の需要が増加し、高い専門スキルを持った人材は転職市場で引く手あまた。よい人材が採用できても、会社への愛着や帰属意識を高められないと、より年収や待遇のよい会社にあっさり転職してしまうこともあります。
また、ジョブディスクリプションに記した職務によっては、条件に合致した人材が見つからないといったケースも想定されるでしょう。「この人は素質がありそうだから、入社してからスキルを身につけてもらおう」と期待する採用もできないことから、採用の難度が上がってしまう可能性も考えられます。
求職者側のデメリット
求職者側の最大のデメリットは、メンバーシップ型に比べて解雇のリスクが高いことといえるでしょう。
ジョブ型は「仕事に人をつける」ため、その業務がなくなれば人材は不要になります。会社都合であっても、業務がなくなった場合には解雇される可能性があります。ちなみに、経団連が方向性として示しているジョブ型雇用は、アメリカ型のような「業務がなくなったら解雇」というものではありません。スキルに応じて社員を異動させる「専門業務型・プロフェッショナル型」に近い雇用区分です。
メンバーシップ型雇用では、通常業務に加え、さまざまな研修やジョブローテーションによってスキルを向上させていきます。しかしジョブ型の場合、基本は自己研さん。会社に依存せず、自分でスキルアップしていくことが必要となります。
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ジョブ型雇用の導入ステップ

ジョブ型雇用の制度を導入するには、ジョブディスクリプションの作成が必須です。きちんとステップを踏まないと法律上の違反が生じたり、従業員から不満が出たりすることもあります。給与体系や評価方法、新卒採用計画などの関連制度も必要に応じて見直しましょう。
ジョブ型雇用する職種やポジションを決め、職務を定義します。行う業務はすべてジョブディスクリプションに記載する必要があるので、現場の意見をしっかりヒアリングすることも必要不可欠です。以下の項目をベースに、自社の状況に合わせて作成しましょう。
- 職種、役職
- 担当する具体的な職務内容
- 目標、評価方法
- 必要な資格、スキル、経験
- 歓迎されるスキル、資格、経験
- 給与、待遇
- 勤務地、勤務形態
作成したジョブディスクリプションは必ず複数名で確認します。経営層、人事、現場スタッフ、現場マネージャーは必須です。できれば関連部署にも確認してもらいましょう。
ジョブ型雇用ではジョブディスクリプションに基づいて評価を行います。給与制度も年功序列型では対応できないので、評価と処遇の関係をあらかじめ定める必要があります。その他、必要に応じて各種制度を見直しましょう。
全社員にジョブ型雇用の制度や導入目的を周知します。現場がきちんと仕組みやルールを理解していないと、雇用した人材の早期離職につながるだけでなく、他の従業員に不満が生じる原因にもなります。
ジョブ型雇用であることを明示し、ジョブディスクリプションを掲載して求人を出します。面談や面接では、改めて業務内容や評価方法をきちんと説明し、誤解や齟齬がないようにしましょう。
ジョブ型雇用の導入事例

すでにジョブ型を導入した日本企業も多くあります。ここでは事例となる企業を4つ紹介します。
カゴメ株式会社
大手総合食品メーカーのカゴメ株式会社は、職務等級を中心としたグローバル共通のジョブ型人事制度を導入しています。
2021年にビズリーチが主催したWebセミナーにご登壇されたカゴメの常務執行役員CHO・有沢正人氏によると、かつての同社は完全年功序列型の組織だったとのこと。
有沢氏が2012年に同社入社後、執行役員の報酬と賞与が1円単位で同じだったことに驚き、「職務に対価を支払うPay for jobに切り替えないといけない」と社長に提言。適材適所の「抜擢人事」を進めるべく、人事体制づくりに着手したといいます。
ジョブ型人事制度導入のポイントは「年功型から職務型等級制度への移行」「より業績/評価と連動した報酬制度への改革」「メリハリをつけた明確な処遇の実現」。職務の大きさを仕事の影響度や達成責任度など20項目の数値で定量化・点数化するなど、社員の納得感の醸成とモチベーション向上やダイバーシティ対応力強化、グローバル・カゴメ・グループでの「適材適所の実現」を目指しています。
SOMPOホールディングス株式会社
損害保険大手のSOMPOホールディングスは、社員自らが自分のキャリアを選択できる環境を整えることが重要との思いから、2020年度に「ジョブ型人事制度」を導入しました。特徴は「会社主導の人事異動を原則として実施しない」「評価制度は絶対評価」という点です。
SOMPOホールディングス株式会社グループCHRO執行役専務・原伸一氏は、同社のジョブ型人事制度について、「社員の自律性を尊重している」と説明しています。2022年6月、株式会社ビズリーチが開催したWebセミナーにご登壇された原氏。会社主導ではなく自らキャリアを選択し、プロフェッショナルとして成果を出すことが同社のジョブ型の目的とし、「社内外の人材が自分の希望する職務につくことで、内発的動機に基づいた高いパフォーマンスを発揮できるようになると考えています」と述べました。
立候補制度を設け、ジョブ自体の変更も可能とのこと。原氏は「SOMPOのジョブ型人事制度は社員の自律性を尊重し、一つのジョブに限ることなくジョブ自体の変更が可能です。キャリア形成の起点を社員一人ひとりに置いているのです」と力を込められました。
株式会社日立製作所
大手電機メーカーの株式会社日立製作所では、在宅勤務を含めた働き方の多様化に向けて、全社員のジョブディスクリプションを作成すると公表し、導入を進めています。社員の職務や社内組織の見える化を図り、生産性向上を目指すことが目的です。
従業員数は約30万人、その過半数が外国籍とあり、国や地域をまたぐワンチームでの事業推進において「メンバーシップ型」は通用しないと判断し、グローバル共通となる人事制度として、10年ほど前から「ジョブ型」に関する取り組みを行っています。
2020年4月からジョブ型雇用・採用を一層強化したといい、新卒採用についても職種別のジョブ型採用を実施。2020年度からAIやデジタル領域など一部の職種を対象に、学歴ごとに一律の初任給額ではなく、対象者の専門性や経験、職務の内容などを考慮した個別の処遇設定を開始し、2022年度は技術系を500名、事務系を30名、それぞれジョブ型で採用する予定とのことです。
事務系職種でも「職種別採用コース」を新設するなど、ジョブ型の採用に力を入れています。
参考:株式会社日立製作所「日立が進める『ジョブ型』とは? わかりやすく解説」、株式会社日立製作所「日立が人事制度として『ジョブ型』を日本に導入するのは必然的な流れ」
富士通株式会社
IT大手の富士通株式会社では、2020年4月から管理職1万5000人に対してジョブ型の人事制度を導入。さらに2022年には国内グループ(一部を除く)の一般社員4万5000人向けに導入しています。
一人一人の職務の明確化と職責の高さに応じた報酬により、従業員の主体的な挑戦と成長を後押しする人事制度を新たに設け、評価は基本的にジョブディスクリプションに明記された職務の遂行レベルで判断されます。
職務に対するグレードをベースとした評価・報酬制度のみならず、事業戦略に基づく組織設計と人員計画、社内外からの柔軟かつタイムリーな人材の獲得・最適配置もジョブ型導入の目的。「従業員のキャリアオーナーシップに基づく挑戦・成長の支援を含め、全面的に『ジョブ型人材マネジメント』への転換を加速していく」との方針を打ち出しています。
参考: 富士通株式会社「富士通と従業員の成長に向けた『ジョブ型人材マネジメント』の加速」
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ジョブ型雇用=成果主義は誤解

ジョブ型雇用は、よく「成果主義」とセットで解説されることも多いため、「ジョブ型雇用=成果主義」と混同してしまう方もいるのではないでしょうか。
そもそも成果主義とは、年齢や勤続年数に関係なく、企業における業績や社員個人の成果によって報酬および昇進・昇格を決める仕組みです。この成果主義の対極には年功序列制度があり、先述したメンバーシップ型雇用に多く用いられる評価制度です。
しかし、ジョブ型雇用と成果主義は別物であり、切り離して考えることが大切です。ジョブ型雇用の目的は、決められた職務内容をしっかり遂行することであるため、成果の良しあしによって大きく評価が変わるとはいえないからです。
ジョブ型雇用への移行を検討する企業は、評価の方法についても従業員にわかりやすく周知する必要があるため、ジョブ型雇用=成果主義ではないことを踏まえて仕組みを整えましょう。
ジョブ型雇用が向かない企業も

ジョブ型雇用が注目されているとはいえ、実際には導入に向かない企業もあります。
ジョブディスクリプションがなくても、慣例として異動や転勤のない専門職が多く、みんながイキイキと働いている企業もあるでしょう。また、一人にさまざまなスキルを身に着けさせ、ゼネラリストを育てたい企業には、ジョブ型は不向きといえます。
極端な話ですが、全従業員が「ジョブディスクリプションで規定されていないことはやらない」となれば、床に落ちたゴミを誰も拾わない、困っている同僚を誰も助けない、ということが起こらないとも限りません。
大切なのは、企業と従業員にとってよい雇用形態を模索すること。「メンバーシップ型か、ジョブ型か」といった二元論で考えないようにしましょう。
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