【セッションレポート】経営戦略を実現する人材ポートフォリオ構築 〜人事トップに聞く実践と課題〜

人的資本経営の観点から、企業が持続的な成長を実現するために人材ポートフォリオを活用した戦略的な人材マネジメントが求められています。2025年7月10日に開催したHR SUCCESS SUMMIT 2025の中で、事業変革の鍵となる人材ポートフォリオを描きながら、現状とのギャップ解消に取り組む2社を事例としたセッションが行われました。その模様をレポートします。

酒井 香世子氏

取材対象者プロフィール酒井 香世子氏

損害保険ジャパン株式会社 常務執行役員 CHRO・CCuO

1992年安田火災海上保険(現:損害保険ジャパン)に入社。営業、CSR 、広報部門を経て、内閣府男女共同参画局へ2年間出向し、男女共同参画推進連携会議事務局、男女共同参画社会づくりのためのムーブメント醸成を担当。その後人事部、秘書部、内部監査部長を経て取締役執行役員に就任。2023年にはグループ会社の損保ジャパンDC証券社長を務め、2024年4月より現職。
堀川 大介氏

取材対象者プロフィール堀川 大介氏

日本電気株式会社(NEC) 執行役 Corporate EVP 兼 CHRO 兼 ピープル&カルチャー部門長

1992年日本電気株式会社入社後、官公庁関係の営業を担当。その後、経営企画部門にて中期経営計画立案等を推進。パブリック企画本部長、社会基盤企画本部長、NECマネジメントパートナー社長を経て、2023年より現職。「選ばれる」NECを目指し、人とカルチャーの変革に取り組む。
加藤 守和氏

取材対象者プロフィール加藤 守和氏

PwCコンサルティング合同会社 People Transformation Director

事業会社の人事部のほか、日系および外資系のファーム数社を経て現職。製造、製薬、広告、ITなど幅広い業界に対して、約20年間の人事コンサルティング経験を持つ。著書に『ジョブ型人事制度の教科書』(共著、日本能率協会マネジメントセンター、2021年)、『EX 従業員エクスペリエンス』(日本能率協会マネジメントセンター、2024年)等多数。

事業ポートフォリオの変化から人材の多様化が求められる

講演の冒頭は、モデレーターを務めるPwCコンサルティングの加藤氏から、「なぜ、今企業が人材ポートフォリオ構築に取り組むのか」について概要の説明がありました。

人材ポートフォリオの構築が求められる理由は大きく4つあります。1つ目は経営環境の変化により人材の再配置・育成を行う「事業ポートフォリオ転換の推進」、2つ目はデジタル領域を始めとした「特定専門領域の強化」、3つ目は社員が自らの意志を持ってキャリア開発を行いエンゲージメント向上につなげる「自律的なキャリアの促進」です。そして4つ目は、投資家からの興味・関心が急速に高まっていることによる「人的資本の開示要請の高まり」です。社会的にも開示が期待されていることを明示しました。

そのうえで加藤氏は「人材ポートフォリオを用いた人材戦略では、人材マネジメント戦略と連動していくことが重要なポイント。特に、DXやサステナビリティーなど不確実性の高い専門領域では、ゼネラリストのみで戦うのは厳しい。自律的なキャリア形成を促しつつ、事業を行うために必要な人材の量と質をそろえて開示していくことも必要です」と指摘しました。

「人を大切にし、育てる。」 損保ジャパンの取り組み

続いて、損保ジャパンの酒井氏から同社の人材ポートフォリオに関する取り組みについての説明がありました。

酒井氏が着任した当時、同社は「保険業法の改正」「業務改善計画の実施」「データ、デジタル、AIの推進」「働く人の価値観の変化」といった業界やグループ全体を取り巻く環境変化による課題を抱えていました。そこで、まずは全国の1万5,000名をこえる社員と対話を重ね、ビジョン(目指す姿)やバリュー(価値基準)の刷新に取り組みました。

「保険という目に見えない商品だからこそ、『社員がモチベーションを高く持って働くこと』が商品やサービスを良くすることにつながる」という考えのもと、実際に社員からあがってきた声やキーワードを入れ込んだことで、社員にとって納得感の持てる内容に刷新できたといいます。これらを社内に浸透させていくことを2025年の目標として掲げています。

また、「人を大切にし、育てる。」をコンセプトにおく同社では、人材をベースとする企業経営を意識し、3つの観点での人材ポートフォリオ施策を行っています。

1つ目の「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」の観点では、多様な経験や価値観を持つ人材の採用ならびに、年齢や性別などにとらわれない能力の開発ができるような環境整備を進めています。また、これまで新卒中心の採用だったところから、最近では中途採用の割合が4割ほどに増えました。2つ目の「専門性の強化」の観点では、ゼネラリスト中心の人事異動・育成から、ジョブ型を導入し、専門人材育成にも着手し、バランス型へとシフトしています。3つ目の「タレントマネジメント」の観点では、タレントマネジメントシステムの導入を予定しており、データを整え管理することで、社内の人材やスキルの「見える化」を目指しています。

最後に酒井氏は、「損保ジャパンでは、パーパスに基づく対話が行われている一部の組織では、社員のエンゲージメントスコアの高さとチャレンジ意欲の向上の相関といった、ポジティブな変化が見えてきており、ゆくゆくはこれを対外的にも発信していきたいと考えている」とまとめていました。

「再びグローバルで勝てる強い会社へ」 NECの取り組み

日本電気株式会社(NEC)の堀川氏は「変革はトップの強い危機感から始まった」と話します。

同社は過去、半導体シェアで世界1位になるなど、社会に対する大きな影響力を持っていました。2000年には売り上げが5.4兆円のピークを迎えましたが、そこから2010年代にかけて、グローバル競争力を失い経営危機に陥りました。そこで、改めて経営陣で「NECは何のために存在するのか」という存在意義を考え、「社会価値創造型企業」を掲げ、事業ポートフォリオの転換を打ち出しました。

NECの強みは技術であり、「技術が生み出す普遍的価値」を追求していった結果、世界中の社会課題を解決する企業になることを定め、会社の原点であるパーパスを「モノづくり」から「コトづくり」へと大きく見直したのです。しかし、そこからの5、6年間はなかなかうまくはいきませんでした。パーパスだけでなく、戦略を実行する「人」の力を最大限に引き出す必要性に気づき、スタートしたのが2018年からの実行力の改革です。

同質性の高い企業ではなかなかイノベーションを起こせないという課題に対し、グローバル競争での勝ち方を知る人材を経営陣に迎え入れるなど、多様性をキーとし変革を推進。「働き方改革」として、働く場所や働き方を見直し、社員が自律的に働ける環境へと変えていきました。そのほか、評価を中心とした人事制度改革も推進し、ジョブ型エコシステムを段階的に整備していきました。

2018年から取り始めた社員のエンゲージメントスコアは当初19%で、日本企業の平均28%よりも低いところからのスタートでした。そこから6年たち2024年時点では42%まで上昇し、連動して営業利益は4倍、株価も5.5倍まで回復しました。創業120年をこえる会社がこのように変革を続け、結果を出し続けることは、社員の誇りであると同時に、多くの日本企業に希望を与えるのではないかと語ります。

NECがもう一度グローバルで勝てる会社になるために、現在注力しているのが「ジョブ型人材マネジメント」です。これまでは「人・カルチャーの変革」というインフラづくりを行ってきましたが、今後は戦略の実行力を高める、「最適な人材ポートフォリオ」の実現のため、ジョブ型人材マネジメントの活用を進めています。

行動と業績を軸にした「9ブロック」という評価の仕組みにより、フェアな評価を促進し、属性にとらわれない人材登用ができるようになりました。その他、2024年度は社内制度を活用し、NEC単体で2万2,000人いる社員のうち約5,000人を、それぞれにとっての最適なポジションに流動させることができました。同社として注力したいDXやAIセキュリティといった領域に適切な人材を登用できたり、20代の管理職が生まれたり、男女の昇格比率の健全化といった効果も生まれたといいます。

最後に堀川氏は、「活用が始まったばかりのジョブ型をより強化していくためには、現場との対話を忘れず、その声を生かしながらより良い制度を模索していくことや、働く人に寄り添い、管理するのではなく支援することが大切だ」とまとめていました。

多様性とジョブ型が切り開く、これからの人材マネジメント

これまでの日本企業では、画一的な人材マネジメントが主流となっていましたが、これからは社員それぞれの個性や多様性を重視したジョブ型の人材マネジメントに移行していくといわれています。人材ポートフォリオを整えることで、「〇〇のスキル・経験を持っている人」「〇〇というキャリア志向を持っている人」といった社内のさまざまな人材を、事業成長のためにより戦略的に組み合わせていけるといいます。

セッションの最後にPwCコンサルティングの加藤氏が、今回の両社の人材戦略やカルチャーの変革のポイントについて問いかけました。

NECの堀川氏は、「部分的な改革ではなく、全方位で改革を愚直に進められたことが大きかった。社長の森田がよく使う『変わり続けることを変えない』という言葉が社内でもカルチャーとして根付き始め、次なる成長ステージに向け会社として前進しつつある。これからも個人の価値観や思考といった『深層の多様性』の重視と、ジョブ型のさらなる推進により、会社と社員が『選び・選ばれる』対等な関係を構築し、社員のキャリア自律と事業の戦略実現性を高めるモデルを追求していきたい」と話しました。

損保ジャパンの酒井氏も、「『経営から変わる』という姿勢を貫き、経営陣が率先して社員との対話の場に出向いたり、お客様の声を聞く活動を実施したりしてきたことが成功のポイントだった。現在も、多様性の推進を『運動ではなく仕組み』にすることによる当事者意識の醸成や、専門性の高い部署での『プロフェッショナルジョブ型制度』の導入による、社員の自律的なキャリア形成などの動きが進んでいる。社内に向けても、世の中の変化に柔軟に対応し機動的に成長できる、『変わることを楽しめる』組織になってほしいという期待を伝えている」とまとめました。

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