少子高齢化に伴う労働力人口の減少や働き方改革への取り組みに伴い、「労働生産性」という言葉に注目が集まっています。ニュースや業務上で耳にしたことのあるビジネスパーソンも多いかと思いますが、その定義や計算方法を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。
本記事では労働生産性の意味・定義、種類ごとの計算方法を紹介するとともに、高めるメリットや方法についても詳しく解説します。
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労働生産性とは?

まずは労働生産性についての基礎知識から見ていきましょう。言葉の持つ意味や種類、計算式を解説します。
労働生産性の意味・定義
労働生産性とは、労働者1人あたり、あるいは労働1時間あたりでどれだけ成果を生み出したかを数値化したものです。労働の効率性をはかる尺度として活用されており、労働生産性が高いケースは、労働力が効率的に利用されているといえます。
公益財団法人「日本生産性本部」による労働生産性の定義は以下のとおりです。
労働生産性は「労働投入量1単位あたりの産出量・産出額」として表され、労働者1人あたり、あるいは労働1時間あたりでどれだけ成果を生み出したかを示すものです。
引用:公益財団法人日本生産性本部「生産性の定義」
あわせて生産性の定義についても紹介しましょう。ヨーロッパ生産性本部(※)によると「生産性とは生産諸要素の有効利用の度合いである」とされています。
生産の際に必要とする原材料・機械設備・人などを「生産要素」といい、実際に生み出された「生産」と「生産要素」の割合が生産性です。生産諸要素をどれだけ効果的に使っているのかを示す指標です。
生産要素のうち「人」に注目するのが労働生産性で、少ない労働量で多くの生産成果を得るほど労働生産性が高いことになります。
※ヨーロッパ生産性本部…生産性を向上させる組織的な活動が必要であるとの考えから、1953年に発足した組織。1959年にはローマ会議において生産性の概念について定義した。
▼一人一人の従業員が短い時間で効率よく成果をあげ、労働生産性を高めていくことが「働き方改革」を推進するために重要となります。「働き方改革」の目的、実際の取組みなどはこちらの資料で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください▼
労働生産性の種類
労働生産性には「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類があります。
物的労働生産性は、生産するものの個数や重さ、大きさなどの成果に対して生産量や金額を表す数値で、従業員がサービスや商品をどのくらい効率よく生産しているのかを把握するのに役立ちます。
一方、付加価値生産性とは企業が新しく生み出した金額ベースの価値のことを指します。企業は、原材料など外部から購入したものを加工して製品を販売しますが、その際、さまざまな手を加えることによって新たに付け加えた価値を金額で表したものが、付加価値となります。
物的労働生産性は「量」を、付加価値労働生産性は「質(利益)」を測ります。どちらに注目するのかは、その産業の特徴や量と質、インプットとアウトプットのプロセスのうち、労働者をどこに位置づけるのかによっても変わるため、企業によってどちらの生産性に注目していくかは異なります。
労働生産性の計算式
産性の基本の計算式は「産出(output)÷投入(input)」ですが、ここでは前項で説明した2種類の労働生産性について、計算式を紹介していきます。
■物的労働生産性の計算式
物的労働生産性=生産量÷労働者数(もしくは労働者数×労働時間)
計算式にある生産量とは、物理的に作り出された産出量のことで、大きさや重さ、個数などが該当します。また、計算する際には「労働者数」を「労働者数×労働時間」とすることがあります。「労働者数」で計算した場合は1人あたりの生産性が、「労働者数×労働時間」で計算した場合は1時間あたりの生産性を算出できます。
たとえば、10人の従業員が5時間かけて50個の商品を生産した場合、物的労働生産性の数値は以下のように計算されます。
- 従業員1人あたりの成果=生産量(50個)÷労働者数(5人)=1人あたり10個
- 従業員1時間あたりの成果=生産量(50個)÷(労働者5人×労働時間5時間)=従業員1人、1時間あたり2個
一方、付加価値労働生産性の計算式は以下のとおりです。
■付加価値労働生産性の計算式
付加価値労働生産性=付加価値額÷労働者数(もしくは労働者数×労働時間)
付加価値額とは新しく生み出したものの価値を金銭的に算出したものです。一般的に売り上げから外部購入価値(原材料費、購入部品費、運送費、外注加工費など)」を差し引いた金額で表されます。
たとえば、10人の従業員が4時間で10万円を売り上げ、原材料費や運送費などに2万円がかかったケースを考えてみましょう。付加価値労働生産性の数値は以下のように計算できます。
- 従業員1人あたりの成果=付加価値額(100,000円-20,000円)÷労働者数(10人)=1人あたり8,000円
- 従業員1人1時間あたりの成果=付加価値額(100,000円-20,000円)÷(労働者数10人×労働時間4時間)=従業員1人、1時間あたり2,000円
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日本における労働生産性の現状と課題

日本の労働生産性は「低い」と指摘されていますが、現状はどうなっているでしょうか。課題と合わせて解説します。
【ランキング】労働生産性の国際比較
公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2022」によると、OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の1人あたりの労働生産性(GDPベースの労働生産性)を比較した場合、日本は加盟38カ国中、29番目(2021年)となる81,510ドルです。
ポーランドやハンガリーなどの東欧諸国やニュージーランドとほぼ同水準で、順位で見ても1970年代以降最も低い29位に落ち込んでいます(下図参照)。

1990年には15位でしたが、その後徐々に順位を落とし、成長率も、他国の成長率と比べて横ばいです。
また、日本の時間あたり労働生産性(就業1時間あたり付加価値)は、49.9 ドル。米国(85.0ドル)の6割弱の数値です。これはOECD加盟38カ国中27位で、データが取得可能な1970年以降、最も低い順位になっています。
原因としては非効率な長時間労働のほか、勤続年数や年齢の上昇に従って賃金(基本給)も上昇する「年功序列制度」、倒産などしない限り定年まで雇用する「終身雇用」などが考えられます。
数値を見るうえで注意すべき点もあります。これは単純に就業者1人あたりで見た労働生産性を測っており、正規・非正規雇用の区別がされているわけではなく、短時間労働者も含まれています。
日本では1990年代後半から非正規雇用が増加してきていますし、正規・非正規雇用の構成が国によって異なることを踏まえて、1人あたりの労働生産性を見るべきだといえるでしょう。
参考:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」
業種・企業規模別の労働生産性
中小企業庁「2022年版 中小企業白書」によると、日本において従業員1人あたりの労働生産性が高い業種は建設業、情報通信業、卸売業などです。一方、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業は労働生産性が低い業種になっています。

業種にかかわらず、企業規模が大きくなるにつれて労働生産性が高くなっていることが、上図から見て取れます。
労働生産性の格差についても詳しく見ていきましょう。厚生労働省の「平成28年版 労働経済の分析」によると、製造業と飲食サービス業を比較した場合の格差が大きく、2013年の飲食サービス業の労働生産性を「1」とした場合の製造業の割合は「3.83」です。主要国のなかで見た場合も、ドイツに次いで格差が大きくなっています。
さらに、日本生産性本部の「日本の労働生産性の動向2022」から、労働生産性の伸び率を紹介します。
2021年度において、最も労働生産性上昇率が高かったのは宿泊業で、前年比プラス22.4%。次いで生活関連サービス業の7.2%、鉱業の6.3%となっています。宿泊業については、新型コロナウイルス感染拡大によって業況が縮小した反動で高くなっているという点に留意する必要があります。一方、建設業はマイナス7.8%、物品賃貸業はマイナス5.1%と、大きく数字を落としました。
このように見ていくと、産業構造によって労働生産性の水準が異なることがわかります。リーマン・ショックやコロナ禍のように、経済全体に影響を与える出来事が発生したとしても、それがどの程度労働生産性に影響するかは産業ごとに差があります。
そのため、労働生産性を自社運営に活用する場合、同じ産業で比較をするなら単純比較も可能ですが、他の産業と比べて比較する場合は産業構造の違いも踏まえて考えなければなりません。
参考:中小企業庁「中小企業白書2022年版」、厚生労働省「平成28年版 労働経済の分析」、公益財団法人日本生産性本部「日本の労働生産性の動向2022」
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【課題】人的資本への投資
人的資本とは、企業の経営資源のなかでヒトの持つ能力を資本として捉える考え方です。
厚生労働省の「平成30年版 労働経済の分析」によると小売業、飲食サービス業など、複数の産業において1人あたりの能力開発費は伸び悩んでいます。能力開発費は、その事業に従事する人材の能力を開発するためにかかった額。研修費用や教材費、外部施設使用料などが含まれます。
日本の少子高齢化などを踏まえると、一人一人が生み出す付加価値を向上させることが非常に重要です。そのため、人的資本への投資を増加させることが課題であるといえるでしょう。
また労働生産性の課題は「社会構造」と「企業における仕組み」の両方から解決を図る必要もあります。企業が取り組める「企業の課題解決」については「労働生産性を向上させる方法」の項目で触れていきます。
労働生産性を高めるメリット

労働生産性を高めると、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。3つの項目に分けて紹介します。
企業競争力の向上
労働生産性の向上にとって、少ない「投入(input)」に対して多くの「算出(output)」を生み出せれば、市場環境において競合他社よりも優位な位置を築くことができます。
たとえば、労働生産性を高めることで、従業員数が少なくても「短時間で多くの製品を作り出せる」「より満足度の高いサービスを提供できる」などの効果が期待でき、企業の利益拡大につながります。
先述のとおり、国際社会から見た日本の労働生産性は低い水準で推移していることが特徴。ビジネスのグローバル化に伴い、企業においては国際市場でも競争力を高める必要があります。そのため、現代は労働生産性の向上が求められている時代といえるでしょう。
コスト削減
従業員1人あたりの労働生産性が向上すると、少ない労働力で成果を生み出せるようになります。その結果、長時間労働や休日出勤が減り、人件費や光熱費の削減につながります。さらに、作業や連携のミスによって発生する余分な生産も防げるでしょう。
削減できたコストを、開発費用や設備投資、人材の能力開発費などに活用できれば、さらなる生産性向上が見込めるという好循環が生まれます。
ワークライフバランスの充実
労働生産性の向上によって社内の業務が効率化されると従業員の負担が軽減し、労働時間が短縮されます。残業の減少、有給休暇を取得しやすくなるなど労働環境の改善につながり、「仕事と生活の調和」を意味する「ワークライフバランス」が実現できます。
ワークライフバランスを実現しやすい職場は、求職者にとっても魅力があります。企業の採用の間口を広げることが期待できるほか、既存従業員の定着化にもつながり、離職率の低下も望めるでしょう。
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労働生産性を向上させる方法

従業員個々の労働生産性を向上させるために、企業が取り組める施策を5つ紹介します。
- 業務プロセス・フローの見直し
- コア業務に集中した人材配置
- 適切なマネジメントと人材育成
- テクノロジーの活用
- 労働環境の改善
業務プロセス・フローの見直し
労働生産性を向上させるためには、業務を可視化して現状を把握し、見直していくことが重要なプロセスとなります。
まず「コストがかかっている工程はどこか」「人員が足りていない部署の発見」など、自社における労働生産性の課題を見つけます。課題が見えたら解決のために工程のスリム化や組織内の業務分配の見直しなど、業務プロセス・フローを改善させるために必要な対策を行います。
無駄を発見して取り除いていく作業を繰り返し、労働生産性における本来のポテンシャルを取り戻していきましょう。
コア業務に集中した人材配置
変化が激しく先が見通しづらい現代は「VUCA時代」とも呼ばれています。そのような時代で企業が生き残っていくためには、「競合他社と比較して優位性のある中核事業」を意味する「コアコンピタンス」を確立することが重要となっています。
企業には自社の強みである領域や中核業務(コア業務)を選び、そこに人材を集中的に投入することが求められます。これは、直接利益に結び付かないノンコア業務の負担が大きい場合に、特に有効な手法です。
事務的作業などのノンコア業務についてはアウトソーシングを行い、投入していた人材や時間をコア業務へ集中させるのも一つの方法ですが、委託コストがかかることに注意しましょう。
適切なマネジメントと人材育成
個々の従業員の適性や能力を知り、特性や能力に応じた人員配置をすることも重要です。
そのためには、丁寧なマネジメントに加えて、能力やステージごとの研修を行うといった人材育成が必要です。ほかにも、社員の教育のために、戦略的に人事異動や配置転換を行う「ジョブローテーション制度」を導入したり、相手の自発性を促す「コーチング」を実施したりする方法もあります。
従業員が成長する仕組みをつくりあげていくことで従業員一人一人の生産性向上につながるでしょう。

テクノロジーの活用
AIや機械学習などの認知技術を活用したソフトウエア型のロボットである、RPA(Robotic Process Automation)を取り入れることで業務自動化が図れます。またグループウエアの活用は情報共有を容易にすることで作業効率を向上させます。
特に互いに離れた場所で働くリモート環境では、業務の共有やコミュニケーションを取るのにテクノロジーの活用が重要です。
経済産業省、 厚生労働省、文部科学省による「2020年版 ものづくり白書」ではデジタル技術を導入したほうが人材の定着状況が「よい」との調査が出ています。
また「デジタル技術を活用したことによる、ものづくり人材の配置や異動における変化」の質問に対しては「そのままの人員配置で、業務効率が上がったり、成果が拡大した」と回答した企業が約半数で、かつ最多でした。
テクノロジーの活用によって作業効率が上がるだけでなく、従業員の業務負担を軽減することで人材定着の効果も得られるでしょう。
参考:2020年版 ものづくり白書(p21)|経済産業省 厚生労働省 文部科学省
労働環境の改善
従業員が働きやすい環境を整えることで仕事への意欲が高まり、労働生産性の向上につながることが期待できます。
環境改善の手法はさまざまですが、たとえば以下のようなものが考えられます。
- 残業の削減
業務の可視化で作業の無駄を省いたり、従業員間で互いに業務サポートを行ったりして、職場全体で定時に業務を終わらせる仕組みをつくります。円滑に進むよう、上司のマネジメントも徹底する必要があります。
- 福利厚生の充実
健康診断・人間ドック・各種予防接種などを実施することで従業員やその家族の健康面に対するサポートを行います。それにより日々安心して働くことができ、仕事へのモチベーションも高まるでしょう。
- 有給休暇の取得
プライベートも充実できるよう、必要に応じて有給休暇が取得できることも重要です。働き方改革に伴い2019年から年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています。従業員のリフレッシュを図るだけでなく、仕事への意欲向上やイノベーションの創出を促し生産性の向上が期待できます。
- 柔軟な働き方の実現
近年は働き方の多様化が進んでおり、柔軟な働き方を実現できる環境があれば、社員の満足度は向上する傾向にあります。時短勤務制度やフレックスタイム制、リモートワークのほか、週休3日制を導入する企業も増えています。
これらの施策を実施することで、従業員の満足度を向上させ、優秀な人材の流出を防ぐことも重要です。
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労働生産性を向上させるためのポイント

労働生産性の向上のためには人材育成によって一人一人のスキルを高めることも重要です。その際、現場レベルではなく明確な経営方針を持って人材育成を行うことで、安定した育成が行えます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」によると、従業員の能力が向上すると、仕事への意欲も高まるとされています。現場に時間的余裕がない場合はOFF-JT(職場外研修)や、自己啓発支援など、職場以外での育成方法も検討するとよいでしょう。
また、従業員を育成するほかにも、優秀な人材を採用することも選択肢の一つとなります。企業側が「欲しい」人材を獲得するために、企業自身が選択できる手段を主体的に考え、能動的に実行する採用活動を指す「ダイレクトリクルーティング」を取り入れ、候補者に積極的にアピールしていく姿勢が重要です。
そのほか、労働生産性向上のためにテクノロジーやツールを取り入れることも大切ですが、最終的にそれらを運用していく従業員の視点に立って、導入を進める必要があります。
組織を構成するのは人である以上、人が企業の原動力といえます。従業員一人一人が「効率がいい」「働きやすい」と思える組織をつくることで、長期的に労働生産性の向上を実現していきましょう。
「働き方改革」の現状がわかる実態調査レポート

ビズリーチでは、企業に属するビジネスパーソンに対し、現在の勤務先の「働き方改革」への取り組みに関する調査を行いました。本資料では、施策の実行による業務への影響、働き方改革に対するニーズなどをご紹介します。