日本の正社員雇用の多くは、倒産などしない限り定年まで雇用するというものが一般的で、簡単に解雇されることのない雇用となっており、これを「終身雇用」と呼びます。
経済産業省が2022年4月21日に取りまとめた「未来人材戦略」では、「終身雇用に象徴される日本型の雇用体系との決別」が宣言され、新たな働き方への転換を提言しています。
今回の記事では、終身雇用とはどんな制度なのか、歴史背景、メリット・デメリット、社会に合わせて終身雇用がどのように変化してきたのかなど、終身雇用が今後どうなるかについて、現状と併せて解説します。
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終身雇用とは

厚生労働省の調査によると、若年期(22〜24歳)に入社しそのまま同じ企業に勤め続けている大卒の正社員は、約5割(2016年時点)。このことからも日本の終身雇用の傾向はまだまだ続いていると捉えられます。同調査では1995年からのデータをとっており、終身雇用は、長期的には低下傾向です。
参考:我が国の構造問題・雇用慣行等について|平成30年6月 厚生労働省職業安定局
終身雇用の法的な位置付け
終身雇用は日本的な“慣行”(ならわし)であって、法令上で定義されているわけではありません。終身雇用であることを示す制度としては、年功序列型の賃金制度・昇進制度、退職金制度、新卒一括採用などが挙げられます。終身雇用とは、そのような制度のもと雇用が続いてきた結果であるといえるでしょう。
労働基準法第16条には「解雇権濫用の法理」が明文化されています。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています。法的な観点でも、日本の雇用は守られているといえるでしょう。
終身雇用と年功序列の関係性
年功序列とは、勤続年数や年齢の上昇に従って、賃金(基本給)も上昇する制度のことです。年功序列制度のもとでは、従業員は同じ企業で長く働けば働くほど安定した収入や役職が得られ、企業は長期的な視点で人材育成を行うことができます。
従業員が定年まで安心して働けるように保障する終身雇用とセットで、年功序列の制度も定着しました。
ジョブ型雇用との比較
日本の雇用を海外と比較すると、その考え方の違いがわかります。
海外では、ポジションに応じて適格なスキルがある人を雇用する「ジョブ型雇用」が一般的です。採用された際に決められた職務範囲から外れることはなく、労働者の専門性によって職務が決まり、「人事として採用されたが、数年後に営業に異動になった」ということは発生しないのです。
給与は職務によって決まるため、より高い収入や待遇を得るためには別の職に就く、つまり転職をする必要があります。そのため欧米型の雇用環境では、キャリアアップ・スキルアップのための転職が自然と行われます。
一方、日本で多く行われているのは「メンバーシップ型雇用」です。新卒一括採用ののち、適性を見て職種を割り当てる雇用形式で。いわゆる「総合職」として採用され、その企業内で育成され、ジョブローテーションで営業や人事、企画など多様な職種を経験します。
同じ企業の中で勤続年数を重ねることで給与や役職がアップするため、転職を経験しない人も多く存在するのが特徴です。
このように、雇用形態の違いによって、キャリアアップ・転職への考え方が異なってくることがわかります。
日本独自の雇用慣行である終身雇用は、そもそもいつ始まり、なぜ続いてきたのでしょうか。ここからは終身雇用制度の歴史と変化についてご紹介していきます。
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終身雇用制度の歴史

終身雇用制度の原型ができたのは、大正末期から昭和初期にかけてといわれています。そして第二次世界大戦後、本格的に日本全国に普及しました。
企業の奨励制度や国の労働統制から生まれた終身雇用
実は戦前の日本では、転職が盛んに行われていました。企業による労働者の解雇も日常的に発生していたといいます。
特に工場で働く熟練工は、給与のより高い職場を求めて転職を繰り返し、優秀な人材の引き抜きも行われました。そこで優秀な人材を引き留めるために企業が考えたのが、さまざまな奨励制度。勤続年数に応じた昇給や積み立て式の退職金制度、福利厚生の充実などを図った結果、大正末期から昭和初期にかけてブルーカラー層の転職率は高かったものの、ホワイトカラー層の長期雇用化が進みます。
ところが1937年から始まった日中戦争の影響で、労働者の移動はいっそう激しくなりました。働き手である男性が徴兵されることに加え、軍需産業の高まりによって、人手不足が深刻化したのです。そのため、国が労働統制(戦時下の限られた労働力をどう配置し動員するか、国家が管理)を行うようになりました。
戦時中は「労務調整令」によって自由な転職・解雇が禁止されるなど「職場の固定化」や、年1回の定期昇給・退職金支給が半義務化されるなど「賃金統制」が図られていきました。
そのようななかで「国・企業は労働者の生活を保障し、労働者は国・企業のために働く」という価値観・慣行が広まっていったのです。
参考:終身雇用制はいつからあるの?|公文書に見る戦時と戦後 -統治機構の変転-
高度成長経済期に定着した終身雇用
終身雇用制度が定着したのは、戦後になってから。戦後は社会が混乱し多くの人が貧困に苦しむなか、人々はまず生活の安定と保障を求めます。年功に応じた定期昇給や退職金の支給制度が一般化し、不当な解雇も規制されました。そうして高度経済成長期に、多くの企業で終身雇用が定着していったのです。
終身雇用制度を形作っている年功序列の昇給制度や退職金制度などは、業績が右肩上がりであれば持続可能性が高いでしょう。一方、業績が横ばいまたは悪化傾向のなかでは、従業員を長く雇用し給与を上げ続けることは困難です。
現在は業績に苦しむ大手企業も珍しくなく、転職が一般化しました。成果主義の導入や、働き方の多様化などに合わせて、終身雇用の慣行は変化しつつあります。
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終身雇用制度の現状は?
現在では、成果主義や有期雇用の普及、フリーランスなど働き方の多様化などが進んでおり、終身雇用の慣行は変化を迎えています。
社会状況の変化から継続は困難に
戦後から続いてきた終身雇用制度について、経済界からはどのような見方がされているのでしょうか。
一般社団法人 日本経済団体連合会の中西宏明氏は2019年に「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」と発言。終身雇用を保障できる時代ではなくなってきていることがこの発言からもわかります。
参考:朝日新聞デジタル:「経団連・中西会長「終身雇用は制度疲労」改めて持論展開
同じく2019年に、トヨタ自動車株式会社の豊田章男社長は「なかなか終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきたのではないか」と発言しました。現状では、雇用を長く続ける企業にインセンティブがあまりないことも指摘しています。自動車業界のトップも、終身雇用の継続は難しいと認識しているのです。
参考:テレ朝news:「終身雇用守るの難しい」トヨタ社長が“限界”発言
企業と労働者の意識は逆行している
終身雇用は実質的にまだ続いているものの、それに対する認識は大きく変わってきていることが、前出の発言からもわかります。
企業と労働者の終身雇用への認識や実態は、どのように変化してきているのか、各種データから考えてみましょう。
2019年に日本経済新聞が100人の社長を対象に実施したアンケートでは「年功賃金の見直し」を考えている社長が72.2%でした。年功賃金を見直す理由については「優秀な若手や高度な技術者などを処遇できない」が76.9%と最多で、年功賃金による歪みが多くの企業で発生していることがうかがえます。
また、2016年の独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査では、終身雇用を支持する人(終身雇用は「良いことだと思う」「どちらかといえば良いことだと思う」と回答した人)の割合が87.9%と過去最高に。終身雇用の継続は難しくなる一方、不安定な社会の中では雇用の保障への意識が高まります。企業の現実と労働者の意識は、逆行しているともいえるでしょう。
2019年リクルートワークス研究所が発表した「全国就業実態パネル調査2019」では、これまでの退職回数が調査されており、雇用者全体でみると、1回が17.9%、2回が14.7%、3回が12.1%という結果が出ています。退職経験者の割合(退職回数0回および在学中の人の割合を除いたもの)は66%と、終身雇用は実際に崩壊してきていることがわかります。
【参考】
年功賃金「見直す」72%、人材に危機感 社長アンケート: 日本経済新聞
記者発表「第 7 回勤労生活に関する調査」結果―スペシャル・トピック「『全員参加型社会』に関する意識」―:労働政策研究・研修機構(JILPT)
全国就業実態パネル調査2019データ集 :リクルートワークス研究所
終身雇用のメリット
終身雇用は実態として崩れてきていますが、一概に悪いものとはいえません。企業・従業員それぞれにメリット・デメリットがあります。まず、終身雇用のメリットについて解説します。
長期的な人材育成や人材確保がしやすい
企業側のメリットとして、長期的な人材育成や人材確保がしやすいことが挙げられます。終身雇用制度のもと新卒一括採用で人材を採用すれば、長期的な人材育成の計画が立てられ、雇用が保障されることで人材確保もしやすいと考えられます。
採用にかかるコストを抑えやすい
終身雇用を前提とした新卒一括採用を行うため、企業が採用にかける人員や費用といったコストを抑えられます。求人の広告費などがかかる中途採用に比べて、選考期間も決まっている新卒一括採用はコストを抑えられる点もメリットと言えます。
安定した雇用・収入が得られる
従業員側のメリットには、安定した雇用と収入が得られる点があります。入社から定年までの雇用が保障されるとともに、年功序列制度によって基本給や役職も上がっていきます。また、理由なく解雇される心配がないため、精神的にも安定した生活を維持しやすいでしょう。
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終身雇用のデメリット
次に、終身雇用制度のデメリットについて解説します。
人件費の高騰
終身雇用における企業のデメリットとしてまず挙げられるのは、人件費の高騰です。また、新卒生え抜き社員で構成される組織のため、人材の多様性に欠ける点もデメリットと捉えられるでしょう。
人員整理や転職が難しい
終身雇用制度のもとでは、人員整理や転職が難しいのがデメリット。終身雇用は、適材適所での労働力配置を妨げることが指摘されており、これは企業・労働者どちらにとってもデメリットだといえるでしょう。
モチベーションが低下しやすい
年功序列の評価制度により、若手社員が成果を出してもその勤続年数や年齢から評価されにくい側面があります。一方、成果を上げなくても役職や基本給がアップしていくため、中堅社員は努力を怠ってしまうことが考えられます。こうしたモチベーションの低下を防ぐには、研修制度を整えたり、スキルアップのための資格取得を支援したりなどの仕組みづくりが大切です。
自らの意思でキャリアを選択できない
従業員は、異動や転勤などを伴う大きな変化も企業に委ねることになるため、自らの意思でキャリアを選択できない傾向にあります。また、出向などの辞令を断ることも難しく、希望する部署への配置転換も受け入れられないこともあるでしょう。
終身雇用に関する論点や観点

終身雇用は崩壊する(した)のか?
厚生労働省の資料によると、2016年時点で生え抜き社員(若年期に入社し、そのまま同一企業に勤め続けている人)の割合は大卒正社員の5割程度。高卒正社員では3割程度というデータがあります。減少傾向ではあるものの終身雇用の慣行は続いているといえます。
終身雇用の崩壊に影響を与えている現象としてまず挙げられるのは、経済の低迷。また、優秀な若手人材確保などのために成果主義を導入する企業が増えていることも、終身雇用の崩壊を象徴する流れだと言えるでしょう。
大手企業が一定の年齢以上の社員を対象に早期希望退職者を募集するなど人員削減策を図っていることからも、終身雇用の崩壊が進んでいることがわかります。
参考:我が国の構造問題・雇用慣行等について|平成30年6月29日 厚生労働省職業安定局
企業の「人事権」と終身雇用
日本の正社員雇用の特徴は、無期限雇用であり、ポストも職務も曖昧であることです。企業は労働者のポジション異動などを比較的自由に行うことができ、大きな「人事権」を持っています。「企業が強い人事権を持つこと」と「終身雇用制度」は相性が良く、切っても切れない関係であるといえます。
日本企業では例えば、上位の役職に就いている人が辞めても、課長が部長に、部長が事業部長に、事業部長が役員に……といった形で昇進が行われます。そうなると結果的に平社員のポジションに空席ができますが、そこに新卒入社した社員が収まることで人材の補充が完了します。
欧米企業では、同じようにポストが空席になった場合、社外から人材を探し中途採用するのが一般的です。なぜなら、欧米の雇用契約はポストや職務が限定されて結ばれるもので、本人の同意なしでは異動させられないためです。
ここまで説明したように、新卒一括採用と終身雇用制度はセットで機能する側面があり、新卒一括採用がなくなったり、企業が強い人事権を手放したりしない限り、終身雇用はなくならないとも指摘されています。
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終身雇用の今後と、企業がすべき対策

終身雇用は、いますぐ完全に崩壊するというものではありませんが、今後も雇用の在り方の変化は続いていくでしょう。終身雇用制度の特性の一つとして「誰もが年功序列で昇進できる仕組み」がありましたが、これはなくなっていく、もしくは既にない仕組みといえそうです。
終身雇用が廃止されていくなかで、企業にはどのような対策が求められるのかを解説します。
新たな雇用システム・評価制度の導入
株式会社日本総合研究所の山田久氏は「これまでの長期雇用を前提とした日本の在り方と、欧米の流動的な在り方を組み合わせたハイブリッド形式が望ましいと考えている」と発言しており、ハイブリッド型の雇用システムを提唱しています。
また、企業の業績や個人の成果によって報酬や昇進・昇格を決める「成果主義」も取り入れ、これまでの人事評価制度の見直しや整備が求められます。
参考:ハイブリッド型労働などが課題(金融ファクシミリ新聞)
キャリア開発の支援
終身雇用の廃止が進むとなれば、転職を考える従業員も一定数増えるでしょう。これまで終身雇用制度によって人材を確保していた企業は、従業員の離職を防止する対策が必要です。その一つとして従業員のキャリア開発が挙げられます。
現代は先の見通しがつかないVUCA時代。長く勤めることで安定した雇用や収入が保障されていたこれまでと変わり、個人のキャリアやスキルによって人材の市場価値が上がり、安心感につながります。
企業は従業員のキャリア形成を積極的にサポートし、スキルアップできる環境を整えて支援していくことが求められます。
多様な働き方の推進
人材の定着や採用を進めるうえでは、従業員それぞれに合った働き方を選択できる環境づくりが大切になります。例えば、フレックスタイム制やテレワーク、時短勤務といった柔軟な勤務形態が可能となれば、出産・育児、介護などを理由とする離職も防止できるでしょう。
また、魅力的な福利厚生制度や、企業独自の制度を取り入れることで他社との差別化が図れるため、より多くの人材を集めやすくなります。
終身雇用からジョブ型雇用に移行した企業の事例
日本の企業でも、従来の終身雇用からジョブ型雇用へ移行している企業が増えてきています。
富士通株式会社
富士通は、2020年4月から幹部社員を対象にジョブ型制度を導入していましたが、2022年4月からは、一部を除く国内グループの一般社員4万5,000人に対象を拡大しています。市場のグローバル化に伴い、従来の年功序列・終身雇用制度を見直した同社は、従業員の主体的な挑戦と成長を後押しすることを狙いとしています。
参考:富士通と従業員の成長に向けた「ジョブ型人材マネジメント」の加速 │富士通
株式会社日立製作所
日立では、技術系職種において以前から取り入れていたジョブ型採用を、2020年4月から一層強化しています。一部を対象に、技能、経験、職務内容などを考慮したマッチングを実施。主体的に行動できる多様な人材の活躍を後押しするとともに、感染症の流行や働き方改革による従業員のワークライフバランスを支えられるジョブ型制度の導入は、必然的な流れと考えています。
日本電気株式会社(NEC)
NECは、2023年度に全社員を対象としたジョブ型人材マネジメントの導入を目指していると公表しました。2025中期経営計画の実現を目指す一環として、ダイバーシティの取り組みとともにジョブ型制度の浸透を進めています。性別や年齢、国籍を問わず、一人一人が正当に評価され、ベストを尽くせる環境整備に重点的に取り組んでいます。
参考:ジョブ型人材マネジメントやダイバーシティの加速に向けた採用計画を決定 (2022年4月6日): プレスリリース | NEC
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