持続的な企業成長に役立つ「先進企業のベストプラクティス」と事業をドライブさせる「現場で今すぐ活用できる具体策」を通して、人事・採用領域において、企業の皆様と学びあえるセミナー「ビズリーチ チャンネル」。
2021年6月10日、株式会社ビズリーチ主催で、カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(最高人事責任者)の有沢正人氏をゲストにお招きし、「社員の自律的成長で、経営改革を実現するカゴメの人事戦略」と題してWebセミナーを開催いたしました。

登壇者プロフィール有沢 正人氏
カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(最高人事責任者)
2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。
2008年にAIU保険会社(現AIG損害保険株式会社)に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。
2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。同年10月より執行役員人事部長に就任。2018年4月より常務執行役員CHO(最高人事責任者)となり国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者に。

モデレータープロフィール多田 洋祐氏
株式会社ビズリーチ 代表取締役社長
※株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 多田 洋祐は、2022年7月2日に逝去し、同日をもって代表取締役社長を退任いたしました。生前のご厚誼に深く感謝いたしますとともに、謹んでお知らせいたします。
自律的な働き方を後押しする人事制度 ~公平でオープンな評価と報酬とは~
今回は、カゴメにおけるジョブ型人事制度導入におけるポイントをお話しいたします。
ただ、ジョブ型を是としているわけではなく、その組織に合った制度であれば、ジョブ型であろうとメンバーシップ型であろうとどちらもよいと考えています。あくまでも、カゴメのケースとしてご理解ください。
グローバルで職務等級を中心とした「ジョブ型人事制度」を導入した過程
2012年にカゴメに入社してから、職務等級を中心とした、グローバル共通のジョブ型人事制度の導入を進めてきました。
私が入社するまで、カゴメは完全年功序列型の組織でした。驚いたのは、16名いた執行役員の報酬と賞与までもが、1円単位で同じだったこと。6名いた常務執行役員、2名いた専務執行役員も1円単位まで全く同じ報酬と賞与でした。これでは、健全な競争意識や、よりよいパフォーマンスを発揮するモチベーションが生まれません。
そこで、職務に対価を支払うPay for Jobに切り替えないといけないと社長に提言。適材適所の「抜擢人事」を進めるべく、人事体制づくりを始めました。

年功型から職務型に移行するには「職務等級」をつくる必要があります。
では、職務等級はどうつくったのか。
カゴメでは、職務の大きさを、仕事の影響度や達成責任の度合いなど20項目の数値で定量化・点数化しました。職務の大きさに対してお金を払うため、誰が担当しても、同じ仕事であれば報酬は同じとなります。

職務等級の導入で徹底したのは、「トップから始めること」です。
入社当時、社長・会長は80%が固定報酬、執行役員は90%が固定報酬でした。まずは社長・会長が固定報酬を50%に引き下げ、残り50%を変動報酬に変更することを決めました。職務の責任の重さに応じて、固定報酬も変わります。次に執行役員、そして部長へと1年ごとに導入を進め、現場に不満がたまらないよう考慮しました。
情報開示が社員の心理的安全性を担保する
さらに、重視したのは社内の情報格差をなくすことです。情報をできる限りオープンにすることは、従業員の心理的安全性の担保には欠かせません。そこで、定期発行の社内報「カゴメ通信」で「社長の年収大公開!」という特集を組み、先ほどの固定報酬と変動報酬の割合を公開しました。

社長に関しては、「以前は月額これだけもらっていたけれど、これからはこの額になります」と情報を開示。新たな報酬制度について聞いた社長へのインタビュー記事では、「厳しい世の中になりましたね」といったコメントもそのまま掲載しました。
この社内報は大いに話題になりました。読んだ途端、私のところにきて、「いいんですか、こんなものを出して!」と言った社員もいました。でも「カゴメも変わりましたね」と言われたとき、私はひそかに「勝ったな」と思いました。社員に、変わったと実感してもらうところから、社内改革は始まるからです。
すべての人がイキイキと働ける環境 ~社員にとっての理想的な働き方とは~
制度は、ハードだけつくるのではなく、ソフトも一緒につくることが大切です。
例えばいわゆる「働き方改革」はあくまで会社側の論理です。つまり労働生産性の向上が目的となり、少ないインプット(時間)でアウトプット(パフォーマンス)を出すことが求められます。
一方、従業員個人に目を向けると、大事なのは「暮らし方」でしょう。人事制度とは本来、生活の質(QOL)向上につながる多様な働き方を後押しすべきもの。そこでカゴメでは、働き方改革と個人の暮らし方改革を合わせた「生き方改革」に向けて、さまざまな施策に取り組んでいます。

これまで会社で使いすぎていた時間を、家族との時間に充てたり、食品メーカーだからこそ料理の時間を増やしたり…。自己研鑽に使いたい人は使ってもいいですが、会社から時間の使い方を示唆するようなことはしません。あくまでも自分がやりたいことに時間を使ってほしいと考えています。
生き方改革(ソフト)と人事戦略(ハード)の両輪が大事
カゴメは、2016年に長期ビジョンとして「トマトの会社から野菜の会社になる」ことを打ち出しています。さらに、社員から役員に至るまで、あらゆるレイヤーでの女性比率50%を掲げ、新卒・中途採用に取り組んできました。
カゴメの商品を直接購買される方のうち約6割は女性です。お客様の期待を超えるものを提供し、多様化するお客様のニーズに対応するために、社内のダイバーシティ推進は重要なテーマとなっています。
カゴメにおけるダイバーシティ推進は、持続的に成長できる「強いカゴメ」をつくるための経営戦略です。従業員に「カゴメで働いてよかった」と思ってもらえるかどうかは、社内のダイバーシティが進み、個人の価値観が大事にされているかにかかっています。ダイバーシティは、エンゲージメントになっているのです。
価値観や考えの異なる多様な個人、異能異才が集まることで、社内に健全なコンフリクトが生まれます。イノベーションはコンフリクトのみから生まれるもの。均一性・同質性から、イノベーションは起こりません。
お互いに異なる能力を発揮するためには、ソフト面で相互理解と違いを尊重する土壌づくりを進め、ハード面で制度や仕組みを整備していくことが大切です。
あるべき未来の「理想の働き方」から考える人事制度改革
コロナ時代の今、未来の理想の働き方は「個人の価値観に応じて、自分のキャリアを自分でつくる」ことにあるでしょう。
キャリア自律のための制度や仕組みも、会社に向いたものではなく、個人に向いたものであるべきです。そこで、カゴメでは大きく6つの人事制度改革を進めてきました。
1. スケジューラーの活用
今は、どこでどの時間帯で働くのかを、個人が選択できる時代です。カゴメでは2017年にスケジューラーを導入し、1週間前に各自が予定を入力しています。
これも、まずは役員から始め、スケジュールを全社にオープンにすることで、社員も続くようになりました。
週次ミーティングが不要になったほか、勤怠時間と連動して総労働時間が分かるため、働きすぎの部署やマネージャーにはすぐ警告が行くようになっています。

2. スーパーフレックス勤務制度
2017年から導入した時差通勤制度の「コアタイム」を廃止し、2019年からは、5時から22時内でいつ始業しても、いつ終業してもいい制度を導入しています。
ただ、工場勤務の方には適用できないため、工場向けの休暇や報酬の制度設計も行っています。

3. 地域カード
今の勤務地から動きたくない人、家族の事情につき希望勤務地に動きたい人、それぞれの希望をかなえる「地域カード」を、3年間で2回利用できます。
これまで、女性の退職の一番の理由が「配偶者の転勤」でした。あるいは単身赴任で家族がバラバラになり、育児や介護との両立に苦労する方も多くいます。よく考えればこれは会社側の勝手な都合であり、個人にとっては理不尽なこともあるでしょう。
実際、私が海外拠点のローカルのCEOやマネージャーに単身赴任制度について話をしたところ、「それは何かの罰なのか?」「自ら希望して家族が別居になるのはおかしいだろう」と驚かれたことがあります。これからは、そもそも「動かない」ことを当たり前にした制度設計を進めていくべきだと考えています。

4. テレワーク勤務制度
コロナ前の2019年より導入しており、スーパーフレックス勤務制度との併用で、働き方の自由度はかなり高められています。以前の回数制限を緩和し、自宅や自宅外で勤務することも可能に。ただ、工場勤務の方の働き方をどうフレキシブルにできるかが、引き続き課題となっています。
5. 副業制度
2019年より導入し、キャリア構築の機会を提供しています。
主な目的は、
- 自己研鑽による自律したキャリア構築の一助とする
- 社外での学びや経験をカゴメでのキャリアへ生かす
- 総労働時間の削減により増える個人の可処分時間を有効活用する
こと。入社2年目以上(新卒は4年目以上)で、年間総労働時間が1,900時間未満の人なら誰でも副業ができます。仕事内容への制限はありません。
さらに、他社との雇用契約も許可しており、2022年より社外の方がカゴメで働くのも受け入れる予定です。
キャリアを築くのは個人ですが、希望する方がいれば使える制度をつくるのが、会社の役割だと考えています。
6. 専門職コース
2020年より、新たなキャリアとして専門職コースをつくりました。
これまでは、キャリアアップのためにはマネジメントポジションにつかなくてはいけないとされてきました。しかし、専門職コースでは、マネジメントをせずとも役員の道が開かれています。マーケットバリューが高い専門人材に、活躍のフィールドを広げています。

これらの人事制度の背景には、人材は人的資産(Human Resource)ではなく、人的資本(Human Capital)ととらえるべきだ、という考え方があります。会社も個人も、資本を増やすことが大切で、そのためにはフェアに対価を払う必要があると考えています。
カゴメではいわゆるジョブ型を導入していますが、「ジョブディスクリプション」は一切作っておりません。その代わり年度の初めに役員を含む全社員がKPI評価シートを作成します。
また40ほどのキーポジションごとに、ビジョンとミッション、何をいつまでにやるかが定量化されています。メンバーの育成状況も一目で分かります。
ここでもオープンであることを大事にしており、社長以下、全員がシートを作成し、社内で誰でも見られる状態になっています。役員や上司のことも「あの人は、今年はこのプロジェクトに取り組むんだな」と確認できますし、ミッションのためにはどんなスキルやキャリアパスが必要なのかもすべてシートに記されています。ロングタームの業務も、1年単位で置き換えた数値、スケジュール目標を作成しています。

社員のポテンシャルを最大限引き出すHRBPの存在 ~個人のキャリアに寄り添うHRビジネスパートナーとは~
人材と組織、両面の成長を加速させるべく、2017年に取り入れたのがHRBP制度です。
キャリアの自律のために制度や仕組みを整え、従業員一人一人をサポートするのは会社の役割。HRBPはまさにそのサポート機能を担っています。

HRBPの役割は、現場での面談、ヒアリングを通じて個人のキャリアの自律を目指すことです。営業現場であれば、新人から支店長まですべてのレイヤーで面談を行います。
カゴメでは、タレントマネジメントシステムの一環として、年に2回、自分のキャリア志向や何にチャレンジしたいかをシートに書きます。それに基づきHRBPは現地に赴き、直接社員に「どうして、この仕事をしたいのか」「そのために今やっていることは何か」などを質問していきます。面談のなかで、「3年後に介護の可能性が出てくる」といったライフイベントについてもヒアリングできれば、「この方は異動させないほうがいい」と個別対応につなげられます。
ポイントは、「質問」と「傾聴」に徹する、ということ。HRBPから何か解を提示することは原則ありません。質問によって、個人が自分のキャリアを考えるヒントに気づいてもらうこと、本人のなかにある思いを引き出すことが、HRBPの仕事です。
現在、HRBPは3名おり、全員、現場経験の豊富なメンバーです。人事経験はあえて求めませんでした。つまり現場の痛みや苦労、エンドユーザーのことをよく理解していることが重要です。現場視点を取り入れることで、HRBPが事業戦略と人事戦略のブリッジになってほしいと考えています。
人材育成を進めるには、制度をきちんと整備するとともに、キャリアの自律に対する理解を広げるソフト面のサポートが大事なのです。
視聴者からの質疑応答
本セミナーでは視聴者から多くの質問が寄せられ、モデレーターの多田が抜粋した質問に、有沢様にお答えいただきました。
【まとめ】会社は社員から選ばれる時代である
最後に、社内変革のポイントのおさらいと、視聴者の皆様へのメッセージをいただきました。

カゴメに入社し、硬直していた組織変革に向けて動き出してから、約10年がたちました。一貫して実践してきたことは、次の4点です。
・現場で1次情報を得て、事実を突き止めて、社長に提言する
・トップから変えていく
・情報を開示することで社員の心理的安全性を担保する
・個人のキャリアの自律を、ソフトとハードの面で支えていく
ただ、カゴメの変革もまだ道半ばです。目指すのは、もっともっと個人が自由にキャリアを選べる組織。社内外の人材が自由に出入りでき、「一度はカゴメで働いてみたい」「カゴメで働いて、自分の力を上げよう」とマーケットから思われる会社になりたいと考えています。
会社は、社員から選ばれる時代です。皆様も一緒に、選ばれる組織づくりを進めていきましょう。
「ビズリーチ」の公募による転職事例も紹介

ミドル層が利用する「転職活動の手段」とは。「今後実現したい雇用形態」とは。「身につけたいスキル」とは。
年収別などミドル層の「これからの働き方」をレポート。即戦力人材を採用するためにどのようなアプローチをすべきか、そのヒントがあります。