ビジネスシーンにおいて、自分自身のなりたい姿を目指し、成長していくために取り組む自己啓発。本人の意志で自主的に取り組むことが前提ですが、企業が社員に対して自己啓発の支援を実施しているケースも珍しくありません。
そこでこの記事では、企業が社員の自己啓発を支援する目的やメリット、支援内容のいくつかの例や、実際の企業事例なども含めて詳しく解説します。
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自己啓発とは

自己啓発とは、「本人の意思で、自分自身の能力向上や精神的な成長を目指すこと。また、そのための訓練」(デジタル大辞泉)を意味します。
厚生労働省の能力開発基本調査によると、「労働者が職業生活を継続するために行う、職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動」と定義されており、ビジネスシーンにおいて仕事へのモチベーション向上やスキル向上のための行動を指すことがわかります。
自己啓発は、他者に指示されて取り組むのではなく、社員本人の意志によって取り組むものであり、「仕事で高い成果を上げている人の話を聞き、成功のヒントを得る」といったことも自己啓発に含まれます。
自己研さんとの違い
自己啓発と似た言葉に「自己研さん(じこけんさん)」があります。
研さんとは「学問などを深くきわめること」(デジタル大辞泉)を意味する言葉です。自己啓発は、自身の精神的な成長も目的に含みますが、自己研さんは、スキルや能力の向上に重きを置いており、より具体的なことを学んだり訓練したりすることを指します。
たとえば、資格取得に向けた勉強や、マネジメント手法を学んだりすることは、自己啓発というよりも自己研さんにあたるといえるでしょう。
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ビジネスの現場で役立つ、自己啓発の4つのテーマ

ビジネスシーンにおける主な自己啓発にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は4つのテーマをピックアップして紹介します。
心理学
人の心や行動を研究するのが心理学です。一口に心理学といっても、臨床心理・発達心理・学習心理などさまざまな分野があり、教育やスポーツに生かせるものや、カウンセリングや心理療法といった医療分野に生かせるものなど多岐にわたります。
そして、人の心や行動、脳の動きを理解し、職場環境の改善やマーケティングなどに応用できる「ビジネス心理学」というものも存在します。これを自己啓発に取り入れることで、対人関係の悩みや解消法のヒントになったり、ストレスとの上手な向き合い方を理解したりすることに役立ちます。
モチベーション
仕事に対するモチベーションを向上させるために自己啓発に取り組むケースも少なくありません。「なにが人のモチベーションを高め、やる気を出させるのか」を研究した理論は「モチベーション理論」と呼ばれ、この理論を学ぶことで、モチベーションが低下する原因として考えられるものや、それに対する適切な対処法・考え方が身につきます。
モチベーションに関する自己啓発を管理職やリーダー自身が行うことで、自分だけでなく、部下の自己啓発をサポートしやすくなることが期待できます。
リーダーシップ
自己啓発のテーマのなかでも、リーダーシップに関するものは多くあります。
リーダーとして身につけるべき考え方や価値観、部下との接し方などを学ぶことで、経営者や管理職として活躍している方はもちろん、今後管理職としてキャリアアップを目指している方にも役立ちます。また、優秀なリーダーの行動を学び実践することも自己啓発のひとつといえるでしょう。
思考法
ものの考え方や捉え方の方法論は「思考法」と呼ばれ、論理的思考法(ロジカルシンキング)や水平思考(ラテラルシンキング)に代表される、さまざまな方法論が存在します。
たとえば、ネガティブな思考に陥ったとき、負の思考から脱却することが難しい場合も多いですが、そのようなケースで生かせるのが「ポジティブ思考」と呼ばれる思考法です。ポジティブ思考を取り入れることによって、ネガティブな思考からポジティブな思考へと切り替える方法やポイントを身につけられ、自己啓発につながります。
他にも、自分自身の成長やスキルアップにつながるさまざまな思考法が存在します。
企業が社員の自己啓発を支援する2つの理由

厚生労働省が公表した2020年度の「能力開発基本調査」によると、企業が社員の自己啓発に対して支援を行っている割合は79.5%にも達したことがわかりました。
これほどまでに多くの企業が社員に対して自己啓発の支援をするのはなぜなのでしょうか。主に考えられる理由として2つのポイントを解説します。
社員に主体的に学んでもらうため
現代は、ビジネス環境の変化が激しく将来の予測が難しいVUCA(ブーカ)時代と呼ばれています。このような環境下では、過去に学んだ知識や身につけたスキルが生涯にわたって役立つとは限りません。
そのため、一度学習したら終わりではなく、常に情報をアップデートし、学び続ける姿勢が社員に求められています。
企業が社員に対して教育の機会を設けることも必要ですが、それと同時に、社員に主体的に学ぶ習慣を身につけてもらう必要があります。そのために自己啓発を支援する企業が多いと考えられます。
キャリア形成の支援
自己啓発に取り組むことで得られるのは、知識やスキルだけにとどまりません。新たな価値観や考え方を身につけられます。
これにより、社員がさまざまな職種、役職にチャレンジしようという前向きな気持ちをもつことにつながる可能性もあります。
企業が社員に期待することと、社員が自己啓発で学んだことを関連づけることで、社員自身の主体的なキャリア形成を支援でき、エンゲージメント向上や離職率低下にもつながると考えられます。このことから、自己啓発を支援する企業が多いと考えられます。
企業が社員の自己啓発を支援することで得られるメリット

企業の視点で考えたとき、自己啓発を支援することで具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
社員のモチベーションが向上し、安定したパフォーマンスを発揮
自己啓発によって、社員の仕事に対するモチベーションが向上することで、生産性や業務効率にもよい影響を与えます。
モチベーションが低下する要因は、職場の人間関係やプライベートな問題などさまざまですが、社員が自ら要因となっている問題に対処できるようになると、モチベーションが維持され、安定したパフォーマンスが期待できるでしょう。
社員のスキルアップにより業績・生産性が向上
企業が社員の自己啓発を支援し、社員自ら学ぶ姿勢が定着すると、社員自身が積極的にスキルを磨いたり、新たなスキルを身につけたりできるようになります。
マネジメントスキルやリーダーシップなど、組織の成長につながるスキルが身につくことで、業績アップやチームの生産性向上につながっていきます。
多角的な視点が身につき問題解決力が向上
社員の自己啓発を支援することは、社員がさまざまな視点からものごとを考える力を身につけることを助けます。業務を進めるなかで課題や問題に直面したときには、別の角度からアプローチしたり複数の方法を検討したりする必要がありますが、多角的な視点で考えることによって、さまざまな解決法を模索でき、臨機応変な対応ができるようになります。
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企業が社員の自己啓発を支援する具体的な方法

自己啓発は、社員が自主的に取り組むことが前提となりますが、自主的な取り組みを習慣づけるために、企業がさまざまな支援をすることもできます。企業が社員の自己啓発を支援する方法には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。代表的な4つの方法を紹介しましょう。
書籍・教材・セミナー受講料の補助
自己啓発を学ぶための書籍や教材を購入する際の費用や、セミナーや外部研修へ参加する際の受講料を補助する方法です。
費用の全額を補助するケースもあれば、一部または上限額を決めて補助するケースなどもあり、企業によって運用ルールが異なります。
書籍やセミナー受講などにかかる費用を企業が補助することによって、社員の金銭的負担が軽減され、自己啓発に取り組みやすくなります。
勤務時間を利用したセミナー・研修参加を許可
勤務時間内に、社外のセミナーや研修への参加を許可する方法です。
社外で実施されるセミナーや研修の多くは、業務終了後や休日に開催されていますが、なかには平日の日中の時間帯に行われているものもあります。このような場合、通常であれば勤務時間中のため参加は難しいところですが、事前の申請や上長の許可を得ることで勤務時間にセミナーや研修に参加できるというものです。
時間的な制約がなくなることで、社員は受講したいセミナーや研修に参加するハードルが下がり、自己啓発に取り組む意欲が向上すると期待できます。
社内研修・セミナーの実施
社内で自己啓発の研修やセミナーを実施する方法です。全社員が共通の内容を学べ、自己啓発に取り組んだことのない社員にとっては自己啓発を始めるきっかけになることもあります。
実施する際には、事前に社員へアンケートをとり、関心のある自己啓発テーマをヒアリングしておくのもひとつの方法といえるでしょう。
書籍・DVDなどの配布・貸し出し
自己啓発に役立つ書籍やDVDといった教材を企業として購入し、社員へ配布したり貸し出したりする方法です。
全社員に対して社内研修やセミナーを実施する時間が確保できない場合や、比較的低コストで支援を始めたい場合などに有効といえます。
企業が社員の自己啓発を支援する際の注意点

企業が社員の自己啓発を支援するときに、注意すべきポイントを3つ解説しましょう。
有益なセミナーかどうかを確認する
自己啓発セミナーはさまざまな企業や団体が実施しており、受講者が学びたい内容かどうかをしっかりと確認することが重要です。
外部から講師を招き、社内で自己啓発セミナーを実施する際には、費用やセミナー内容などを事前に確認しましょう。また、社員に対してセミナー・研修の受講費用を補助する場合にも、参加するセミナー・研修をあらかじめ申告してもらい、実態を確認するなどの対策を講じておくことが重要です。
自己啓発支援の規程を定める
社員が自己啓発のために負担する費用を企業が補助する場合、補助の対象などを社内規程で定めておかないと、業務との関わりが薄いものや、目的がわからない自己啓発に対して、支援を行うかどうかの判断基準が曖昧になってしまいます。
社内規程に定めておくべき具体的な項目は、以下の例も参考にしてください。
- 対象者正社員のみ、または契約社員やパート・アルバイトなども含めるかどうか
- 支援の対象「業務に関連する知識やスキル、または一般教養に関する資質向上」を目的としている自己啓発における、書籍・教材の購入費、セミナー・研修への参加費 などが対象。かつ事前に申請し、認められたもの など
- 補助率全額または2分の1 など
- 限度額1人あたり年間◯万円 など
- 申請方法・支払日申請書フォーマットの準備、締め日・支払日の規定 など
ひとつの価値観ではなく視野を広げる支援
自己啓発の書籍やセミナーの内容によっては、これまで学んできた内容と異なる意見が出てくることも少なくありません。その際、ひとつの価値観にとらわれて他の意見を否定するのではなく、視野を広くもち、さまざまな意見を取り入れることも自己啓発においては重要です。
社員の視野を広げるために企業としてできる取り組みの一例としては、切り口の異なる複数の書籍やセミナー、研修などを紹介することが挙げられます。
自己啓発の進め方

自己啓発は社員が自主的に取り組むことが前提となります。ただし、目標もなく自己啓発の書籍を読むだけでは効果は得にくいでしょう。個人で自己啓発を進めるためには、どのような手順を踏むべきなのかも知っておきましょう。
目標を明確化する
はじめに、社員自身が「自己啓発によってどのような自分になりたいか」を目標として定めることからスタートします。このとき、できるだけ具体的な目標を定めることで、実現への道順が明確になり、モチベーションを維持しやすくなります。
たとえば、「営業成績が伸び悩んでいる」という課題がある場合、「コミュニケーションによって顧客から信頼される自分」といった「なりたいイメージ」を目標として設定します。
学習方法を選択する
次に、目標を実現するためにはどのような学習方法があるのかを調べます。インターネットなどで情報を集めると、書籍やセミナーなどさまざまな学習方法が見えてくるはずです。
学習方法を選ぶ際には、知りたい情報が含まれているか、専門的な情報があるかなども考慮しますが、何よりも継続できる学習方法を選ぶことが大切です。本を読む習慣がなければ、動画を活用するなど、自分に合った方法で学習することで、モチベーションを維持しやすくなります。学習を継続できれば成長実感を得られ、自己啓発の効果が高まります。
実践する
学習で身につけたことを実践するときに重要なのは、できることから着実に取り組んでいくことです。
たとえば、上記で例に挙げた「コミュニケーションによって顧客から信頼される自分」を実践するためには、まずは積極的な挨拶を心がけたり、傾聴の姿勢や笑顔を意識したりするなど、比較的ハードルが低く、日頃から実践できるものに取り組みましょう。継続的に成長するために、行動変容のハードルを下げてスタートすることが大切です。
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自己啓発の主な手段4つ

自己啓発を学ぶ手段はさまざまですが、今回はそのなかでも代表的なものを4つ紹介しましょう。
書籍を読む
自己啓発の目的に合ったテーマの本を読むだけで学べるため、書籍は手軽な自己啓発の手段であり、知識や情報をインプットするために最適な手段といえます。
電子書籍だけでなく、書店では自己啓発をテーマとした書籍が多く並んでおり、さまざまなタイトルから自分に合った書籍や著者を選べる楽しさもあるのでおすすめです。
実践的で役立つ内容を身につけるためには、たとえば「心理学」や「コミュニケーション」など、専門的な内容の書籍を選ぶことが重要です。
動画の視聴
セミナーや研修へ参加する時間や費用がない場合には、DVDなどの動画コンテンツを利用する方法もあります。
また、YouTubeなどで配信されている自己啓発のコンテンツもあり、無料で学べるものも数多く存在します。通勤中や食事中など、隙間時間を活用しながら効率的に学べるのも動画のメリットといえるでしょう。
セミナー・研修への参加
自己啓発を目的としたセミナーや研修は、さまざまな企業、団体が実施しています。
専門家である講師から直接学べるため、書籍を読むよりもわかりやすく効率的に知識を身につけられる場合も多いです。また、セミナーや研修の参加者同士で交流が生まれることで、モチベーションを維持しやすくなるという強みもあります。
個人向けコンサルティングサービスの活用
専門的な知識やノウハウをもった講師に、マンツーマンで指導を受けられる個人向けコンサルティングサービスも存在します。
たとえば、仕事で思うような成果が出せずに悩んでいるものの、何が悪いのか課題や問題点が見いだせない方も多いのではないでしょうか。そのような場合に、個人向けコンサルティングサービスを利用することで、客観的な視点からアドバイスを得られ、初めて課題が見えてくることもあります。
当事者に対して気づきを与え、どのように解決すればよいかをサポートしてくれるのが個人向けコンサルティングサービスの大きな強みといえます。
自己啓発を効果的に実践するポイント

自己啓発の効果を高めるためには、どのように実践すればよいのでしょうか。企業が社員の自己啓発を支援するうえで、社員に対してあらかじめ共有しておきたいポイントを3つ紹介します。
ひとつの学習方法にとらわれない
自己啓発に役立つ知識や内容はさまざまで、人によっては思うような効果が得られないものもあります。そこで、ひとつの学習方法にとらわれるのではなく、たとえば書籍とセミナーなど複数の方法を取り入れることを社員にアドバイスしましょう。
学んだら行動に移す
書籍やセミナーなどで知識をインプットするだけでなく、実践することが何よりも重要です。インプットしてからアウトプットをすることで、初めて成長につながるといえます。まずは日々の業務のなかで、できることから少しずつ実践していくことを社員へ意識付けしましょう。
諦めずに継続する
自己啓発で学んだことを実践しても、数日、数カ月だけでは思うように結果が得られないこともあります。習慣化することで少しずつ結果が伴っていくことも多いため、諦めずに継続していくことの重要性を社員へ伝えましょう。
自己啓発を推奨している企業事例

実際に自己啓発の支援に取り組んでいる企業では、どのような内容を実践しているのでしょうか。今回は企業の事例を2社紹介します。
企業事例1:株式会社三越伊勢丹ホールディングス
株式会社三越伊勢丹ホールディングスでは、自己啓発のために一時的に休職できる制度「自己研修休職制度」を実施しています。
「自己研修休職制度」の取得目的は主に大学院進学となり、2015年から計10名の制度の利用実績があります。
以前は、150種類におよぶ研修から各社員が自由にカリキュラムを選択し、受講できるプログラムも実施しました。
企業事例2:株式会社三菱UFJ銀行
株式会社三菱UFJ銀行(旧三菱東京UFJ銀行) では、人事部およびキャリア相談室が主軸となり、行員一人一人に合わせたキャリア形成を目的として、人事制度や研修制度、そして自己啓発制度を運用しています。
業務を補完する知識を身につける講座や、ロジカルシンキング、英語、ビジネススキルを高める講座など年間で400以上の講座を実施し、年間延べ2万人以上の行員が受講。その他、実務に役立つ資格取得の支援や、自宅学習ができるeラーニングなども充実しています。
※2015年時点での情報です
自己啓発を人材育成に役立てよう

自己啓発は社員が主体的に取り組むものですが、企業として社員の自己啓発を支援することも有効です。
多くの社員が積極的に自己啓発に取り組むようになると、業績・生産性が向上したり、問題解決力が高まったりするなどのメリットを得られます。人材育成の手段のひとつとして、今回紹介してきた自己啓発の支援に取り組んではいかがでしょうか。
従業員のキャリアを描ける企業が人材獲得競争に勝つ時代へ

従業員一人一人の成長の総和が、組織ひいては企業の成長につながります。
本資料では、キャリアアップ計画を立てるときに活用いただきたい「GRPI(グリッピー)モデル」や「氷山モデル」などのフレームワークを紹介します。