組織や社員の生産性を向上させるためには、社員同士のコミュニケーションの効率化・質の向上が大切となります。しかし、価値観や考え方が異なる社員同士では、コミュニケーションがうまくとれないこともあります。
そのような場合、アサーションと呼ばれるコミュニケーション方法を取り入れることで、相手との良好な関係性を構築し、生産性の向上やハラスメントの防止にもつながる効果が期待できます。
今回の記事では、アサーションとは何かを紹介するとともに、企業がアサーションを取り入れるメリット、社員にアサーションスキルを身につけてもらうためのトレーニング方法も紹介します。
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アサーションとは

ビジネスにおいて、相手とのコミュニケーションを円滑にし、人間関係を良好にすることは不可欠といえます。そこで有効なのがアサーションです。まずは、言葉の意味や歴史、注目されている背景から解説します。
アサーションの意味
アサーション(assertion)とは、「主張」「自己主張」という意味を持つ言葉です。相手を尊重しつつ自分の考えを表現するコミュニケーションスキルのひとつで、「人は誰でも自分の意思や要求を表明する権利がある」という立場に基づいた自己表現のことを指します。
自分の主張を適切に伝えるだけでなく、相手の意見に耳をかたむけ、双方が納得したうえで話を進めていく状態が、アサーションにおけるベストな対人関係です。従業員にアサーションスキルが身についていれば、建設的なコミュニケーションが期待できます。その結果、生産性の向上や離職防止など、さまざまな効果が実感できるでしょう。
なお、「アサーション」と「アサーティブ(形容詞)」は同じ意味を表しますが、本記事では心理学において用いられる「アサーション」と表記します。
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アサーションの歴史
アサーションの考え方が登場したのは1950年代の米国で、心理療法のひとつとして生まれました。主に対人関係に悩む人の不安を取り除くために「主張訓練法」が開発され、これがアサーションの始まりとされています。
その後、1950年代後半から60年代にかけて、米国では人種・性別・民族などに対する差別撤廃の運動が高まったこともあり、正当な自己主張を実現するための考え方としてアサーションが広く注目されるようになりました。
1980年代には日本にもアサーションが伝わり、90年代に入るとアサーション関連の書籍も数多く翻訳されました。現在では、アサーションを身につけるための「アサーショントレーニング」が、教育・看護・企業研修などの現場を中心に取り入れられています。
アサーションが注目される理由
アサーションが注目されている背景のひとつとして、社会において多様性を尊重する姿勢が求められていることが挙げられます。企業が製品やサービスを開発するにあたっては、さまざまな価値観や考え方を持った消費者の意見を反映することが必要です。そのためにも、他者を排除するのではなく、受け入れることが求められているのです。
また、2022年4月から労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」がすべての企業に義務化され、ハラスメント防止への取り組みが強化されています。ほかにも、テレワークの普及によりオンライン上で相手と接触する機会が増え、 感情や意図が伝わりづらいなどコミュニケーションの難度も上がっています。
そのようななか、社員同士が対等にコミュニケーションを図り、相手を尊重しあえる環境を構築するため、アサーションスキルを身に着けることが重要になっています。
アサーションにおける自己表現のタイプ

アサーションを理解するうえで重要なのが、コミュニケーションにおける自己表現のタイプの違いです。大きく「アグレッシブ」「ノン・アサーティブ」「アサーティブ」の3つに分けられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
アグレッシブ
■アグレッシブの特徴
- 自分の意見を押し通す
- 高圧的な態度を示す
- 相手を無視する
アグレッシブとは、攻撃的で自分中心のコミュニケーションタイプです。
他者の意見や言い分を聞こうとせず、一方的に自分の意見を押し通すのが典型的な例です。相手に対して高圧的な態度で接することはもちろん、嫌味をいったり相手のことを無視したりといったこともアグレッシブタイプに含まれます。
また、一見穏やかに見える自己表現であっても、自分の意見を押し通すために相手を操作するようなコミュニケーションをとる場合もアグレッシブと見なされます。
自己表現を大切にし、明確に意思表示できるため、他者を引っ張っていくリーダーシップが強みといえますが、相手の表現を大切にしないため、周囲の人との間に軋轢が生じることも多いといえます。
ノン・アサーティブ
■ノン・アサーティブの特徴
- 自分の感情を押し殺す
- 自己表現が苦手
- 言い訳が多い
- 本心を見せない
アグレッシブとは対照的なコミュニケーションタイプがノン・アサーティブです。
自分自身の感情を表現できず押し殺してしまったり、十分に自己表現できなかったりするのがノン・アサーティブタイプの特徴です。あいまいな言葉を用い、言い訳を繰り返す傾向もあります。
ノン・アサーティブタイプに該当するのは、必ずしも内気で寡黙な人とは限りません。表面上は明るくコミュニケーションが得意そうに見えても、本心を決して見せない人もおり、このようなタイプもノン・アサーティブに該当します。
つねに自分を押し殺している状況から、職場における対人関係に悩みストレスを感じてしまうことも多いです。業務においては、「仕事で困っているときに相談できる相手がいない」といった悩みを一人で抱え込んでしまう場合があります。
アサーティブ
■アサーティブの特徴
- 自分の意見を伝えつつ相手の気持ちを尊重できる
- 対話を重ねて結論を導き出す
- 場の空気を読んだ行動ができる
アグレッシブとノン・アサーティブの特性をバランス良く持ち合わせているのがアサーティブです。
自分自身の意見を表現しつつも、相手の表現も尊重できるのがアサーティブタイプの特徴です。自分とは異なる意見を持つ人がいた場合でも、自分の意見を押し通さず、かといって、相手に合わせることなく、対話を重ねてお互いが納得できる結論に導けます。
ここからは。上記3つのタイプの違いを見ていきましょう。たとえば、上司から急に仕事を依頼された場合。定時まであと30分、頼まれた仕事を終えるには少なく見積もっても2時間はかかります。この日は家族の誕生日で、1カ月ほど前からお祝いの計画を立てていました…。
- アグレッシブの返答
申し訳ございません。きょうは用事があるので、無理です。
- ノン・アサーティブの返答
今からですか?定時までに終わりそうではないですし…。とりあえず、やってみます。
- アサーティブの返答
誠に申し訳ないのですが、この後どうしても外せない用事があるため、定時で帰らせていただけると助かります。本日中に終わらせる必要はありますか?この後業務を進め、あすの○時までに終わらせますので、期限を延ばしていただくことは可能でしょうか?
アサーティブは、仮に自身の考えや希望が通らなかったとしても結論に責任を持ち、納得した姿勢を示せるほか、その場の空気や雰囲気を考慮し、行動に移すことができます。バランスがとれた理想的な自己主張といえます。
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アサーションの効果・メリット

社員がアサーションスキルを身につけることによって、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのポイントに分けて紹介します。
生産性の向上につながる
アサーションスキルが身についていない社員の場合、「上司や同僚に対して助けを求められない」、「謝るタイミングを逃してしまい、人間関係が気まずくなってしまった」など、業務におけるコミュニケーションが円滑に進まず、生産性に影響を及ぼす可能性もあります。
社員にアサーションスキルが身についていれば、他者と異なる意見を述べるときや、批判や誤解に対して適切な自己表現ができます。その結果、立場や考え方、価値観が異なる人に対しても、量も質も維持したコミュニケーションが可能となります。
また、自己表現と相手を尊重するバランスのとれた関係性を通じて、社内コミュニケーションが活性化され、業務効率化や生産性の向上も期待できるでしょう。
従業員満足度の向上・離職防止
社内に相談できる人がいない、職場に馴染めないといった「人間関係」は深刻な問題です。
厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、転職入職者が前職を辞めた理由で「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げたのは、男性で8.1%。労働条件や収入よりも高い数値を記録しました。
社員がアサーションの考え方を身につけることにより、適切なコミュニケーションをとることができ、対人関係におけるストレスを抱える社員が減ると考えられます。メンタルヘルス不調への対策や、社員にとって働きやすい職場環境の構築につながることから、社員の会社に対する満足度(従業員エンゲージメント)の向上や離職防止も期待できるでしょう。
取引先や顧客との対等な立場を維持できる
取引先や顧客と直接かかわる立場の場合、納期や価格などに関して厳しい条件を求められた際に、「NO」といえないケースもあるかもしれません。いえたとしても、相手への伝え方次第では今後の取引や関係性に悪影響を及ぼす可能性も考えられます。
社員がアサーションスキルを身につけることで、取引先や顧客と対等な立場でコミュニケーションができ、要望を適切に断ったり、お互いの条件を譲歩したりすることが期待できます。自社の都合だけでなく、相手の状況に理解を示したうえで対案を提示できるため、取引先や顧客との良好な関係を維持することにつながります。
ハラスメント防止に役立つ
上司から部下へ、または先輩社員から後輩社員に対して業務上の指導を行う場合、伝え方を誤るとパワーハラスメントととらえられることもあります。また相手を尊重する姿勢がなければ、指導を受ける立場の社員が不快に感じる可能性が高いでしょう。
指導を行う立場である上司や先輩社員にアサーションスキルを身につけてもらい、相手を尊重しながらコミュニケーションを図ることで、ハラスメントを未然に防止できます。
指導を受ける立場の社員にとっても、アサーションスキルを身につけることは有効です。上司や先輩社員からの指導内容に納得できなかったり、疑問を抱いたりした場合でも、感情的にならずに落ち着いて意見を伝えられるためです。
多くの社員にアサーションスキルが身についていれば、お互いを尊重しあえるため信頼関係が生まれ、ハラスメントのない職場の実現につながります。
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アサーショントレーニングの実践方法

社員にアサーションスキルを身につけてもらうためには、どのようなトレーニングを推奨すればよいのでしょうか。今回は効果的な4つのトレーニング方法を解説します。
- 「I(アイ)メッセージ」による表現
- 「DESC法」によるコミュニケーション
- 非言語的アサーション
- 頼み方・断り方のロールプレイ
「I(アイ)メッセージ」による表現
「I(アイ)メッセージ」とは、自分自身を主語とした表現方法です。
たとえば、相手の意見が間違っていると感じた場合、相手に対して「私は○○と考えます」と伝えるのが「I(アイ)メッセージ」です。一方で「(あなたの考えは)間違っています」と伝えるのは、主語を「あなた(You)」とする「You(ユー)メッセージ」と呼ばれます。
「あなたは間違っている」「一般的にはこうだよね」という表現で相手を否定するのではなく、「自分はこう考える」と伝えることで、お互いに意見は違っていても同じ立場として、建設的な合意形成を行うことにつながります。
「DESC法」によるコミュニケーション
「DESC(ディーイーエスシー)法」とは、他者に依頼するときや、いいにくいことを伝えるときに、率直かつポジティブに自分の気持ちを伝えるために活用できるコミュニケーション方法です。自身の意見を以下の4つの要素に分けて考えるのが特徴です。
- Describe:客観的な状況の説明
- Explain:自分の気持ちの説明
- Specify:具体的な提案
- Choose:代案の提示・選択
たとえば「業務効率化のために、上司や部署内のメンバーに業務フロー改善を提案したい」場合、DESC法を用いると以下のようなコミュニケーションが考えられます。
項目 | コミュニケーションの例 |
---|---|
D:客観的な状況の説明 | 「連日残業が続いていて、自分も含め多くのメンバーが長時間労働に陥っています」 |
E:自分の気持ちの説明 | 「会社としてもすぐに人員の増強をすることは難しいと思うので、業務フローを見直す必要があると感じています」 |
S:具体的な提案 | 「そこで、○○の業務を○○のツールで自動化できないでしょうか」 |
C:代案の提示・選択 | 「自動化のためのツールについては私も調べてみましたので、導入から運用までのプロセスはぜひ協力したいと思います」 |
このように話を進めることで、論理的に自分の意見を主張しつつ、建設的なコミュニケーションが可能になります。
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非言語的アサーション
身ぶりや手ぶり、表情など、非言語的なアプローチもアサーションにおいて重要です。
米国の心理学者、アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」によると、会話によるコミュニケーションでは言語によって得る情報は7%にしか過ぎず、表情やしぐさといった視覚からの情報が55%、声のトーンなど聴覚からの情報が38%にものぼります。
不機嫌そうな態度や無表情での会話は、相手にネガティブな感情を抱かせてしまいます。いつもより少し大きめのリアクションをとってみる、ボディランゲージを用いて会話をしてみるなど、相手にとって気持ちの良い非言語的アサーションを日頃から意識することによって、円滑な人間関係を築きやすくなります。
頼み方・断り方のロールプレイ
上司や同僚、または取引先などから、対応が難しい依頼を相談されたとき、うまく断ったり、お互いが納得できるポイントを検討したりするためにロールプレイを行う方法です。
「依頼する人」「依頼される人」「観察する人」の3人1組でグループを構成し、依頼される人は「無理です」と断るのではなく、対案を出しながら合意点を探っていきます。終了した後は、観察者も含めてロールプレイ中に感じたことを話し合います。
お互いが歩み寄ったり譲歩したりすることで、納得できる結論を導き出す方法やパターンを発見できます。それによって、頼んだり断ったりすることに対して気後れしない、コミュニケーションの活性化につながります。
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アサーションを実践するポイント

相手を尊重しつつ、自分の意見を適切に伝えるためには、「誠実」「対等」「率直」「自己責任」という4つの柱を理解したうえでコミュニケーションをとることがポイントです。
1.誠実:自分に対しても相手に対しても嘘をつかず誠実であること
2.対等:どちらかが優位に立つことがない対等な関係性
3.率直:遠回しな表現でなく簡潔に相手に伝わる率直な表現
4.自己責任:コミュニケーションの結果を相手のせいにせず自己責任と考える
以上の心構えを持って相手と接することで、アサーションスキルの向上が期待でき、バランスのとれたアサーティブな状態に近づけるでしょう。
アサーションを活用する場面

アサーションは、人事業務にも活用できます。採用面接と人事評価、それぞれの場面で用いる際のポイントや効果を解説します。
採用面接
採用面接は企業が候補者を選定するプロセスととらえられがちですが、企業も候補者から選ばれる立場であることを意識する必要があります。
少子高齢化による人手不足などを理由に、企業間の採用競争が激しさを増し、優秀な人材を採用することが難しくなっています。そのようななか、面接官が「私が候補者を選ぶ立場」という考えから威圧的な態度をとってしまうと、内定辞退につながるほか、企業イメージが低下する可能性もあるでしょう。
そのため、候補者と対等な関係でコミュニケーションをとり、優秀な人材に自社を選んでもらえるよう、人事をはじめとした採用面接の担当者はアサーションスキルを身に着けておくことが大切です。面接の段階で良好な関係を築くことができれば、候補者も安心して入社でき、早期離職の防止に期待できます。
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人事評価
人事評価は、評価される従業員が納得できるかという点が重要ですが、上司から部下の評価は一方的になりやすいという特徴があります。双方が上下関係にとらわれることなく評価に関して対等な意見を交わすためには、アサーションの考え方を活用するのが有効です。
上司と部下という関係を気にするあまり、評価について思っていることを率直に伝えられないこともあるでしょう。アサーションが浸透している組織では、従業員が納得していない評価に対して適切な自己表現を持って意見できます。一方、評価する側もその意見を尊重することで、建設的なコミュニケーションにつなげることが可能です。
対等な信頼関係を築くことができれば、公平で適正な人事評価につながります。
なぜ、桃太郎はきびだんご1つでお供を増やせたのか?

人々が出会い、関わり合う社会のなかで「どのように仲間を集めるか」を、桃太郎が本資料で解説。
いつもと視点を変えて、昔話「桃太郎」から、採用力強化につながる「仲間集めの極意」を学んでみましょう。