ビジネス業界ではグローバル化という言葉をよく耳にするようになり、事業規模の拡大を目指して海外へ進出する企業も珍しくありません。このようなグローバル企業にとって、不可欠なのがグローバル人材です。
しかし、グローバル人材という言葉を聞いても、具体的にどういった人材を指すのかよくわからないという方も多いでしょう。
そこで本記事では、グローバル人材の定義や求められるスキル・能力を紹介するとともに、企業がグローバル人材を社内育成するための方法や手順、注意点なども詳しく解説します。
あなたの面接にあてはまる「ダメ習慣」はありませんか?
ダメ面接官から卒業するための解説資料をダウンロード⇒こちらから
グローバル人材とは

グローバル人材とは、日本のみならず海外においても活躍できる人材のことを指します。
企業が海外市場に向けたビジネスを展開することをグローバル化と呼びますが、企業の成長戦略を実現するうえで、グローバル人材は重要な役割を果たします。
なお、従来、日本ではグローバル化のことを「国際化」と呼んでいましたが、近年ではグローバル化という呼び方が多く使われるようになりました。
グローバル人材の定義
一口にグローバル人材といっても、各省庁によってさまざまな定義がなされています。
文部科学省および総務省におけるグローバル人材の定義は以下の通りです。
■文部科学省の定義
要素Ⅰ: 語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ: 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ: 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
このほか、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークと(異質な者の集団をまとめる)リーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等。
引用元:グローバル人材の育成について 文部科学省
■総務省の定義
「グローバル人材」とは、第2期計画において、日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、 ⅰ)豊かな語学力・コミュニケーション能力、 ⅱ)主体性・積極性、 ⅲ)異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍でき る人材とされている。
引用元:グローバル人材育成の推進に関する政策評価書(要旨)|総務省
グローバル人材と聞くと、英語が堪能であることや、コミュニケーション力や主体性、協調性に優れた人材をイメージすることも多いものです。しかし、実際はそれだけではなく、日本人としてのアイデンティティーを確立していることを前提として、異文化に対する深い理解をもつことも定義のひとつに数えられます。
◎ダメ面接官から卒業するための解説資料をダウンロード⇒こちらから
企業がグローバル人材を必要とする理由と背景

グローバル人材はさまざまな企業に求められるようになりましたが、それはなぜなのでしょうか。社会的な背景や理由を解説します。
経済のグローバル化が進んだため
かつての日本は、製造業を中心として高度経済成長を実現し、先進国の仲間入りを果たしました。高度経済成長期は家電製品や自動車などの需要が急速に拡大していたこともあり、品質の高いものをつくれば売り上げが伸びていった時代でもあったのです。
しかし、かつてのように品質が良いものをつくれば売れるという時代は過ぎ、現在、日本の経済成長率は鈍化しています。
一定期間に国内で生産されたモノやサービスの付加価値の合計額であるGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)は中国に追い抜かれ、日本は米国、中国に次ぐ世界3位となっていることもそれを証明しています。
日本では、もはや国内向けのビジネスだけを展開していては企業の高い成長率は見込めない可能性が高いため、新たなビジネスチャンスを得ようと、国内だけでなく海外にも目を向ける企業が増えました。
外国人の起業家やビジネスパートナーとともに事業を展開していくケースも増加したことから、グローバル事業の中核を担うグローバル人材が注目されるようになったのです。
労働力人口が減少しているため
日本では少子高齢化が進み労働力人口が減少傾向にあります。総務省が公表している「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の概要」によると、2021年の労働力人口は6,860万人で、前年に比べて8万人もの減少となりました。
労働力人口が減少していくと、企業の労働生産性は低下し、国全体の経済成長もさらに鈍化していくことが予想されるでしょう。
そこで、日本が今後、持続的に経済成長を遂げるためには、労働者一人一人の能力を伸ばしていくことが重要となります。
具体的には、グローバル化が進み変化の激しい現代社会において新たな価値を創造し、イノベーションを起こすことのできるグローバル人材を育成することが企業に求められています。
参考:労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の概要 総務省
企業のダイバーシティ化が進んでいるため
現代は将来の予測が難しいVUCA(ブーカ)時代とも呼ばれています。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字を取った言葉で、VUCA時代は消費者が求めるニーズも多様化しています。この背景には、ライフスタイルや価値観が多様化していることが考えられるでしょう。
ニーズが多様化するということは、優れた品質の製品やサービスを開発しても、必ずしも売り上げに直結するとは限らないことも意味します。
VUCA時代において企業に重要なのは、多くの顧客ニーズにマッチできる製品やサービスを生み出すことです。そのために、企業にはさまざまな国籍や性別、年齢の人材に活躍してもらうダイバーシティに沿った人材戦略が求められ、グローバル人材が必要とされているのです。
また、企業がダイバーシティ化を進めることで、それまで自社にはなかった新たな価値観や斬新なアイデアが生まれやすくなり、VUCA時代を生き残っていくための原動力にもなると考えられます。
グローバル人材に求められるスキル

社内でグローバル人材を育成するにあたって、社員に対してどのようなスキルを身につけてもらう必要があるのでしょうか。また、グローバル人材を採用する場合においても、これまでの採用基準とは違った視点からスキルや能力を評価しなければなりません。
そこで、グローバル人材に求められる8つのスキルを解説します。
- 語学力
- コミュニケーション力
- 主体性
- 協調性
- 責任感
- チャレンジ精神
- 異文化に対する理解
- 日本の文化に対する理解・アイデンティティー
語学力
企業がグローバル経営に取り組む場合、海外に現地法人を設立したり、海外から必要な人材を日本に招き入れたりするケースもあります。
ビジネスパートナーや上司、部下、同僚などが日本人とは限らないことも多いため、グローバル人材に語学力は必須のスキルといえるでしょう。
コミュニケーション力
グローバル経営におけるビジネスではさまざまな立場の人とコミュニケーションをとる場面が多いことから、コミュニケーション力は必須のスキルといえます。
自分の伝えたいことを相手へ正確に伝えられることはもちろんですが、相手が何を伝えようとしているのかを汲み取れる力も不可欠です。そのため、語学力を身につけたうえで、コミュニケーション力も磨くことがグローバル人材には求められます。
主体性
誰かに指示されるのを待つのではなく、自分自身で考えて行動する主体性も大切です。
ただし、業務内容や役職によっては、自分自身だけでは判断ができない、または判断が難しいこともあるでしょう。そのような場合には、自ら上司や関係者へ確認し、指示を仰げることも主体性といえます。
グローバル化が進みビジネス環境が変化しやすい社会のなかで、状況に応じた判断や対応をするには主体性が求められます。
また、状況に応じた判断能力や対応力は、チームで仕事をする際にチームを引っ張っていくリーダーシップを発揮するために欠かせない能力でもあります。
協調性
グローバル化が進むと、さまざまな国の人とともにビジネスを行う場面が増えていきます。立場が異なるさまざまな人に対し、お互いを受け入れながら仕事を進める協調性が重要です。
一人一人の出身や育った環境が異なると、ものの考え方や価値観も異なるのは当然のことですが、考え方や価値観の異なる相手と対立するのではなく、協調性をもって接しましょう。
責任感
グローバル経営によって新たな事業に取り組む際、思わぬトラブルや問題、壁にぶつかることもあるでしょう。そのようななかでも事業を成功に導くためには、社員一人一人が責任感をもって最後までやり遂げる力が求められます。
自分自身が求められていることを認識し、仕事を成し遂げようとする責任感もグローバル人材にとって重要です。
チャレンジ精神
グローバル経営では、さまざまなプロジェクトにおいて想定外の事態や困難にぶつかることも多いものです。そのようななかで事業を成功に導くためには、諦めるのではなく、挑戦する気持ちをもつチャレンジ精神が求められます。
「自分には無理だ」と諦めるのではなく、自分自身が成長するチャンスと捉えてチャレンジする姿勢がグローバル人材に求められます。
異文化に対する理解
協調性とも重なる部分ではありますが、さまざまな国籍の人とともに仕事をするうえでは、他国の文化に対して敬意をもち、理解していく姿勢が不可欠です。
国によって異なる価値観や考え方、文化に対して、関心をもち、理解を深めていくことで友好な関係を築くことも大切なポイントです。
日本の文化に対する理解・アイデンティティー
グローバル経営のなかでは、私たち日本人が他国の文化に理解を示すと同時に、海外の人も日本に対して敬意をもち理解を示そうとします。
現地のビジネスパートナーや上司、同僚などから日本の文化について聞かれることもあるため、日本人としての誇り・アイデンティティーをもち、自国の文化のことも学んでおく必要があります。
ダメな面接官に共通する特徴をピックアップし、面接の質を向上させませんか?
◎ダメ面接官から卒業するための解説資料をダウンロード⇒こちらから
グローバル人材を企業に迎え入れるには?

グローバル人材に自社で活躍してもうためには、外部から採用する方法と、社内で育成する方法の2つがあります。それぞれのメリットと注意点について解説しましょう。
外部から即戦力人材を採用
1つ目は、高度なスキルや経験を有した即戦力となる人材を外部から招き入れ、グローバル人材として活躍してもらう方法です。
転職活動中の求職者はもちろんですが、すでに他社で活躍しているグローバル人材をスカウトしたりヘッドハンティングしたりして採用する方法もあります。
即戦力人材を招き入れることで、自社の教育コストを抑えられるというメリットがあります。
しかし、教育コストが削減できる一方で、即戦力人材を採用するにはヘッドハンターや人材紹介会社などを利用するケースも多く、その分採用コストがかかることも珍しくありません。
社内で自社ニーズに合う人材を育成
2つ目は、自社に在籍している社員をグローバル人材として育成する方法です。
社員は自社の経営方針やビジョンを理解していることから、自社にマッチしたグローバル人材を育成できることがメリットといえるでしょう。また、外部からの採用とは対照的に、採用コストはかからない点や、グローバル人材を育てていくノウハウが社内に蓄積されることもメリットのひとつです。一方で、企業はグローバル人材として社員を育成していかなくてはならず、研修などの実施に多教育コストを要するほか、社員がグローバル人材として成長するまでに時間もかかり、即戦力としての活躍は望めない場合が少なくありません。
企業の持続的な成長を実現するためには、中長期的な視点で社内での育成に着手することが重要といえるでしょう。
グローバル人材の社内育成方法

では、実際に社内でグローバル人材を育成する場合、具体的にどのような方法があるのでしょうか。今回は2つの方法例を紹介します。
研修の実施
語学力やコミュニケーション力といったスキルを学ぶためには、研修を実施するのもひとつの方法です。
会議室やホールなどの会場に受講者を集めて実施する集合研修、外部の企業や団体が実施している社外研修、通信教育の受講など、方法はさまざまです。
集合研修では社内の人材を講師として立てて実施する方法もありますが、講師としてのスキルや経験が不足している場合には、外部から講師を派遣してもらう方法もあります。
OJTの実施
主体性や協調性、責任感、チャレンジ精神といったスキルを身につけるためには、職場での実践を通じて業務知識を身につけるOJT(On the Job Training)による研修も効果的です。
主体性や協調性はコミュニケーション研修などを通して学ぶこともできますが、実務を経験することでより体系的に学べるメリットがあります。
グローバル人材を社内で育成するためのステップ

グローバル人材を社内で育成するためには、どのような手順で進めればよいのでしょうか。5つのステップに分けて解説します。
はじめに、自社におけるグローバル人材とはどのような人材か、要件を定義します。
企業によっても求められるグローバル人材の要件は異なるため、先に挙げた8つのスキルのなかでも特に重視すべきものを見極め、自社にマッチした要件を定義しましょう。
次に、グローバル人材として育成したい社員をリストアップします。
先に挙げた8つのスキルをもとに、それぞれの社員が保有しているスキルや能力と照らし合わせ、グローバル人材としてふさわしいか、成長が期待できるかを分析し、社員をリストアップしてみましょう。
また、同時に、グローバル人材として活躍したいという社員を募り、意欲のある社員を対象人材として加えることも有効です。
3つ目のステップとして、リストアップしたグローバル人材の育成対象社員が重点的に取り組む課題を把握します。対象となる社員がもっているスキル、自社が定義したグローバル人材の要件を考慮しながら課題を見つけましょう。
これを行うことで、各社員の目標が明確化され、グローバル人材の育成を効率的に進められるようになります。
社員ごとに重点的に取り組むべき課題がわかったら、どのように育成していくのか計画を立て、そのプランを実行します。
先に取り上げた研修やOJTなど、それぞれの課題にマッチした方法を選定しましょう。
また、育成プランを実行したことでどのような結果が得られたのかを分析し、改善すべき点があれば育成プランの変更も視野に入れて検討します。なお、育成プランの実行にあたっては、PDCAを回しながら試行錯誤を繰り返し、改善していくことが重要です。
グローバル人材が求められる部署やプロジェクト、ポジションなどに対して、育成プランを経た人材をアサインします。
人材のアサインにあたっては、担当する部署やプロジェクト、ポジションに求められる適性と、候補者の強みなども考慮して抜擢しましょう。
◎ダメ面接官から卒業するための解説資料をダウンロード⇒こちらから
グローバル人材の社内育成にあたって注意すべきポイント

上記のステップをもとにグローバル人材を社内で育成する場合、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。押さえておくべき3つのポイントを紹介します。
グローバル人材を育成する目的を明確化する
まずは、なぜ自社でグローバル人材を育成しなければならないのか、目的を明確化することが重要です。
昨今ではグローバル人材の採用や育成に力を入れる企業が多いことから、自社も取り残されないように人材育成をスタートしようと考える経営者もいるでしょう。
しかし、「他社で取り組んでいるから」といったあいまいな目的だと、最終的にどのような人材を育成すればよいのかゴールが見えなくなることもあります。
他社が目指すグローバル人材の要件と、自社が求めるグローバル人材の要件は必ずしも同じではありません。そこで、「海外進出し◯◯の事業を成功させるため」や「競合のA社が展開している◯◯事業のシェアを奪還するため」など、できるだけ具体的な目的を立てておきましょう。
最終的なゴールや目的を明確化しておくことにより、それに向けてグローバル人材を育成する方針やプランが立てやすくなります。
スモールスタートを心がける
企業にとっては、一部の社員だけでなく多くの社員がグローバル人材として成長することが理想的といえます。
しかし、はじめから大人数でグローバル人材の育成プランを実行しようとすると、講師の数が足りなかったり、研修などへの参加者が増えすぎてしまい、通常業務に支障をきたしたりすることも考えられるでしょう。
そこで、まずはグローバル人材の社内育成を一部の部署に限定するなどして、スモールスタートを心がけることが大切です。
小規模でスタートすることによって、サンプルとしてグローバル人材育成の効果を検証でき、全社向けに展開する前の段階でさまざまな改善を図れるようになります。
その結果、ブラッシュアップしたグローバル人材育成のプランを全社で展開でき、研修やOJTなどの効率化が図れるでしょう。
スキルアップしやすい環境をつくる
グローバル人材として育成する社員のスキルを伸ばしていくためにも、スキルアップが見込める環境を整備することが大切です。
具体的には、ミーティングなどの際に全員に対して発言の機会を設けることや、業務改善や新規プロジェクトの立ち上げにあたって多くの社員から提案を受け入れる体制をつくるなど、社員がアウトプットをしやすい環境を意識するのもひとつの方法です。
また、日々の業務を通してグローバル人材を育成していく際には、上司から社員に対してフィードバックしやすい環境をつくるのも重要です。業務のなかで上司が気になった部分があれば、社員と1on1でミーティングを行い、具体的なフィードバックをしましょう。
また、フィードバックにおいては改善点だけでなく、良い部分も一緒に伝えることを意識しましょう。ポジティブなフィードバックには「上司から認められた」「信頼されている」と感じられるようになり、モチベーションの維持につながります。
グローバル人材を育成し、企業の持続的な成長を実現しよう

社会全体がグローバル化している現在、企業の持続的な成長を実現するためには、グローバル人材の採用と社内での育成が求められています。
国内向けのビジネスを運営している企業も、国内市場規模の縮小などにともない、将来的には海外進出を視野に入れざるを得なくなる可能性もあるでしょう。
グローバル人材を迎え入れるにあたっては、社外から新たに採用する方法もありますが、今後継続的にグローバル人材を増やしていくためにも社内育成に取り組み、育成プランに関する知見を蓄積することが重要といえます。
社内におけるグローバル人材の育成には研修やOJTなどさまざまな方法がありますが、いずれにしても今回紹介した5つのステップを参考にしながら、中長期的に取り組んでみましょう。