【イベントレポート】ラーニングカルチャーを土台にしたベネッセの組織づくり

2023年1月19日、株式会社ビズリーチは「ラーニングカルチャーを土台にしたベネッセの組織づくり」と題したWebセミナーを開催しました。株式会社ベネッセコーポレーションの後藤礼子様にご登壇いただき、全社的なラーニングカルチャー醸成に向けたポイントや、DX組織能力の向上のための施策について、具体的なメソッド含めてお話しいただきました。

後藤 礼子氏

登壇者プロフィール後藤 礼子氏

株式会社ベネッセコーポレーション 人財本部 本部長 兼 DX人財開発部 部長

福武書店(現:ベネッセコーポレーション)入社後、進研ゼミ・こどもちゃれんじ・保育事業に従事。退職・再入社後、部門人事を経て2014年から全社人事を担当。人事制度改定、採用、人財開発、教育体系の刷新等に取り組む。現在は、全社人事とDX人財開発を兼務し、両者を連携しながら組織能力強化を主導。
茂野 明彦氏

モデレータープロフィール茂野 明彦氏

株式会社ビズリーチ ビジネスマーケティング部 プロデューサー

2012年、株式会社セールスフォース・ドットコムに入社。グルーバルで初のインサイドセールス企画トレーニング部門を立ち上げると同時に、アジア太平洋地域のトレーニング体制構築支援を実施。2016年、株式会社ビズリーチ入社後、インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在は各種イベントなどをプロデュースしている。著書に「インサイドセールス-訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド-」(翔泳社)がある。

ベネッセ=「よく生きる」は、福武書店時代から貫かれてきたフィロソフィー

ベネッセグループの概要

介護と教育を柱とするベネッセグループにおいて、ベネッセコーポレーションは主に教育領域を担っています。1955年に福武書店として創業し、現在、従業員は約2,500人、平均年齢40.5歳となっています。特徴的なのは、新卒と中途採用比率がほぼ1:1であること。そして、長い間女性活躍の歴史を重ねた結果、男女比率がどの世代においても1:1だということです。また、1990年代から人事制度で自律的なキャリア開発に注力しており、意欲ある人にチャンスを与える風土が根付いています。

もう一つ特徴的なのは、非常に強い理念を持っている会社だということです。「Benesse(ベネッセ)」はラテン語のbene「よく」・esse「生きる」からの造語で「よく生きる」、つまりウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)を意味します。実は福武書店時代からこのベネッセというフィロソフィー活動を行っており、当社の変わらぬカルチャーとなっています。

ベネッセの価値のあゆみ

ベネッセグループは、お客様がよく生きることへの支援を通じて、事業を成長させてきました。成長領域を創っていくときに、このベネッセという理念を核としているのも、当社の特徴です。

人生のあらゆるステージを支援するサービスを

そうした取り組みを通して、乳幼児からシニアまでを顧客対象としています。なかでも18歳までのメインターゲットでは、昨今の1学年の出生数が80万弱という環境下でも、「進研模試」などの受験者数928万人、「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」の国内会員数249万人、「こどもちゃれんじ」の海外会員数105万人など、日常の生活や学習を通して多くの方に利用していただいています。

人財と組織の目指す姿と、そのアプローチ方法

GIGAスクール構想(※1)や入試・教育改革、学習DX(※2)が進み、たとえば現代の子どもたちの65%は現在存在しない職業に就くと言われています。そんななか、当社は、「明日のテストの点数につながる」という現実的なニーズに応えながらも、未来を見越した教育について、顧客の半歩先を考えています。また、学びの風景だけではなく、生活者の行動も急激に変わっており、IT職に限らず誰もが変化に向かっています。社会や教育環境の変化をどうプロダクトやサービスに変えていけるかに取り組んでいます。

※1 「GIGAスクール構想」

全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み

※2 「学習DX」

最新のデジタルテクノロジーを活用し、教育の手法、教職員の業務などを変革させること

組織の“駆動輪”は、「志」と「ラーニングカルチャー」

新規事業などでお客様に新たな価値提供を行おうとすると、社員は今の自分の知見だけでは足りないことに気づきます。そこで個人が意識して学び、別の強みを持つ仲間とチームとなって、さらに成長していくことを意識します。それが、社会価値の拡大につながる。この成長サイクルを支えているのが「志」と「ラーニングカルチャー」だといえます。

また、「ベネッセ」という理念とともに当社が信じているのが「誰もが一生、成長できる」というスローガンです。「Lifelong learning(生涯学習)」という言葉の通り、一生涯の学びを通じ、社会と人生を豊かにしていこうとしています。

この言葉もまた、まずは自分たちが実践者として学ぶことで、社会を変えていきたいと考えて生まれたものです。

学びを支える人事制度

社内の制度としては、一人一人の自律的な学びを支えるしくみがベースにあります。たとえば、1990年代から「能力開発ポイント」として年10万円の能力開発支援を行っています。自身で学びを計画・実行することに対して会社が支援するというスタンスです。また、当社サービスである「Udemy」は全社員が使い放題の環境を整備しています。「DXスキル育成プログラム」では、社内で必要なDXの学びを内製でプログラム化しています。

そして、このように座学で学ぶのに加え、自ら手を挙げて新しい仕事にチャレンジする機会として「公募」や、希望に応じてキャリアアドバイスを受けられる制度もあります。さらに「リスキル休暇」として、年次休暇とは別に年3日間の学習を目的とした有給休暇を整備しています。

DX組織能力の向上のための、具体的な取り組み

顧客価値創造のための「DX」

ベネッセではDXの目的を「顧客価値を高めるため」と置き、そのために事業やものの作り方、仕事の仕方を変えていくべきだと考えています。そのような変化のなかで発生する問題はITデジタル人材の獲得と、組織能力の転換をどうしていくかということです。その問題に向け、「採用」と「育成」の両輪で取り組んでいます。時間はかかっても「あなたが変わっていくことを期待して支援」することにこだわっているのが特徴です。

DX推進は試行錯誤の最中ですが、現在光明を見いだしているのが「DIP(Digital Innovation Partners)」という、DXを全社でリードする組織を設立し、事業フェーズに合わせたDX推進と組織能力開発をスパイラルアップして取り組むという方法です。

「DX要員数の充足が追い付かない」という課題

ここからは、組織能力開発について紹介します。DX人材の即戦力採用が追いつかないと、現場に余力がなくなり、余力がないから計画的な人材育成ができません。このような「陥りがちな負のスパイラルにおける本音の真因に対して丁寧にアプローチする」という、極めて地道な取り組みです。

DX人材育成に向けたマネジメント支援

具体的なアプローチとしては、「部門のDX人材育成のレベル差」という課題に対して、DX人材育成のマネジメントを支援します。育成を肩代わりするのではなく、現状の可視化から着手して、育成計画化のための要員の量と質を細かい点まで把握し、DX職種の定義とスキルマップ(人材の業務遂行能力をまとめたもの)を理解、浸透させていきます。

カンパニーのリスキル計画化

ほかにも、「DX職以外の人財の扱いが不明確」という課題に対しては、DX職以外の人財に対して何を求めるのか、カンパニー別のリスキル計画を具体化させ、中期事業計画の実現に向けた要員計画に落とし込みます。足りない人材の育成を部門に任せてしまうのではなく、現場の育成プロセスに伴走するのが特徴です。

アセスメント/研修プログラムの深化 内製の研修

また、「能力開発の動機付けの弱さ」という課題に対しては、リテラシーをはかるアセスメントを受け、その結果をふまえて研修プログラムを全社員に開放しています。アセスメントは強制でないにもかかわらず、全社員の95%が受けており、研修プログラムの受講者も、のべ5,000人以上となっています。

また、研修プログラムは業務との関連など、リアリティーのある学びを重視して、できるだけ内製に努めています。さらに専門性の高い分野については、資格取得制度で対応し、現在31資格をカバーしています。

アセスメント/研修プログラムの深化 打席に立つ機会

このように座学でインプットの機会を設けるのに加え、それを発揮できる機会作りにも注力しています。社内公募の「DX CHALLENGE公募」では、その分野が未経験でもOKな枠をあえて作り、チャレンジできる機会としています。また、「データインターン」はいわゆる兼務ですが、職場に育成を任せず座学・実践・実務のサポートという枠組みを作り、実践的に学んでいける機会をつくっています。

全社的なラーニングカルチャー醸成に向けたポイント

カルチャーは、社員の意識や行動により時間をかけてつくられるものですが、ラーニングカルチャーの醸成に向けて取り組んでいるところです。

「進研模試」&「進研ゼミ」的アプローチ

1つ目が、自社サービスの学びの哲学を社員の学びにも生かす、いうなれば「進研模試&進研ゼミ的アプローチ」です。模試的アプローチでは、目指すポジションなどのゴールに向け、アセスメントで現在位置を知り、次にやるべき必要なことをガイドしたり、具体的な研修プログラムを示したりしています。自学で進められる設計になっている進研ゼミ的アプローチでは、モチベーションを保ちながら学べる工夫をしたり、何を学ぶか迷わせない提示や、褒めてくれる赤ペン先生や自分の等身大のしまじろうの存在、学ぶ仲間のコミュニティーがあったり、ロールモデルとなる先輩談を示したり、上司と学習の進捗を共有したりしています。

「はたらく」と「まなぶ」をつなぐプラットフォーム

2つ目が、「『はたらく』と『まなぶ』をつなぐプラットフォーム」です。まず、DX学習の基盤となる「DXポータル」で、DX職種別の詳細やアセスメントチェック、DX研修プログラムやDXエキスパートの紹介などの情報提供を行っています。

また、目標設定、評価、学習、キャリアを一元化する「Linc(リンク)」では、学習目標のトラッキングや学び方の体験談紹介などがあり、Udemyによる推奨プログラムの受講などの促進につながります。

しかし、これだけ用意しても、大事なのは本人がその気になることです。そこで動機付けとして行っているのが、3つ目の施策である「さまざまな目的に応じた、社員へのコミュニケーション」です。オープンキャンパスのような「Benesse Job Focus」では、仕事のなかで学びつつスキルを高めている事例を示しています。また保護者通信のような「チャレンジ通信」という社員向けメルマガでは、週1回の配信で、仕事のなかで学ぶことを意識化・習慣化させるよう促しています。

これからのチャレンジ

今後のチャレンジとしては、「忙しいなかで学ぶ時間がない」というホンネの声に対して、「べき論」だけではなく取り組んでいくこと。会社として学ぶ時間を作ることを支援する意味での「リスキル休暇」の推進もそのひとつです。人的資本開示において各社の教育投資額は注目されていくと思いますが、教育費用だけでなく、どれだけ学習に時間を投資しているかもKPIになると考えています。わずか年3日のリスキル休暇でも20時間。集中学習や半期に1回の学習の節目を意識する等、コミュニケーションを行って、学習を推進してもらおうとしています。

そのほか、「その学びが自分に必要」だと「自分ごと」として感じてもらうべく、アセスメントのさらなる徹底や学び方ガイドなど機会作りに努めています。また、打席を経験できる場を広げるために、たとえばパートナー会社への出向など、越境的体験もこれからは必要だと考えています。

いずれも、単独で決定打になるわけではないですが、これからも手を替え品を替え、取り組みを推進することでLifelong learningの実践者として、一生涯かけて学んでいくことの重要性を社内はもちろん、世の中にも広めていきたいと考えています。

Q&Aセッション

セミナー後半には、視聴者から寄せられた質問にお答えしました。

Q
ベネッセにとっての「DX」「DX人材」は何かを教えてください。
A

顧客価値の最大化がDXの目的であり、DX人材についても、自社の事業で必要とする要件から逆算して職種単位で具体的に整理・再定義しています。企画・開発管理・エンジニア・データ・デジタルマーケティングという大分類のなかで、求められる仕事の中身やスキルを具体的に示しています。

Q
組織で重要なのは「志」と「ラーニングカルチャー」とありましたが、この2つは昔からあった考え方ですか。
A

「志」はもともと強くあり、採用でも最終的にベネッセに入社を決めていただける理由として、社会課題に教育面から取り組めることが多く見られます。「ラーニングカルチャー」は、人生100年時代という社会の変化をふまえ学び続けることをより重視しています。

Q
DX人材育成では社員のモチベーション向上が難題だと感じています。ラーニングカルチャー醸成で苦労した点を教えてください。
A

DX人材育成では人事や上司に加え、刺激し合える社員同士の横のつながりが鍵になります。ラーニングカルチャー醸成も同様で、学ぶことがリスペクトされるよう、ロールモデルを示し、「自分ごと」として考えられるようにするという積み重ねだと考えています。

Q
DX人材の、育成と採用のバランスはどのように考えていますか。
A

時間がかかる育成に対し、採用は時間を買うものという考え方を持っています。DX人材充足のための採用に注力して、ここ数年は新卒より中途の採用数が上回っています。とはいえ、3~5年後を見据えた育成も必要なので、組織のアセスメントをふまえ、中途採用で補うべき職務や採用数を見極めています。

Q
内製によるDXスキル研修企画のステップを教えてください。
A

現場の習熟者が人事とともにコンテンツ作成に当たったり、実例をケースに仕立ててコンテンツ化したりしています。内製の良さは、現場の企画や実装に伴走できること。単なるOJTにならないよう、経験学習のスキーム化に努めています。

Q
打席に立つ機会を作るうえで、平等にチャンスを与えるにはどのようにすればよいでしょうか。
A

やはり平等にはしきれません。やる気がある人が手を挙げられる機会を作る、と考えるべきだと思っています。意欲はあっても未経験だと打席に立つこと自体が難しいものなので、最初の一歩を人事が介入して推進に努めています。兼務でもよいので、まず少しでも経験することで広げていけると考えています。

Q
学ぶ時間は、業務時間内で設計していますか。
A

仕事に必要な学びの時間は、業務内としています。一方で、今の業務に必要なことだけではなく将来のキャリアのための学びも重要なので、リスキル休暇などで会社の支援を行っています。また、上司による学習進捗管理は、どういうキャリアを目指したいのか、本人の目指す方向性に沿って仕事の機会をつくっていくための確認です。さらにDX人材育成においては、その進捗が組織能力に直結するので、上司任せにせず組織的に取り組んでいます。

Q
人事施策の推進に当たり、部門を越えてコミュニケーションするうえで留意していることはありますか。
A

本当に困っている事業課題を組織課題に落とし込み、部門と話し合っていく過程でコミュニケーションを深め、やるべきことの優先順位をつけています。本当に重要なことは何か、課題に対する目線合わせが重要でしょう。ボトムアップは大事ですがボトムアップだけではなく、まず部門を越えてトップ同士がベクトルを合わせ、会議体や仕組みを整えておくべきです。横だけでなく縦の巻き込みも重視することで、ボトムアップの動きも円滑にできます。

Q
資格取得制度で、会社から費用負担や報奨金はありますか。
A

費用補助のみで、報奨金はありません。原資が限られるなかで、できるだけ多くの人に補助を行えるように、まずは資格取得数増に注力しています。

Q
伴走者に求められる素養や能力は何でしょうか。
A

伴走者とは比喩的表現であり「伴走者」という役割の人がいるわけではありません。主体は本人だと考えています。自律的キャリア開発ですので、本人がその気になるような仕組みや存在を「伴走者」といっています。DX人材育成においては、エキスパートの存在が大きいでしょう。高い専門性を発揮して、憧れられる存在であり、その要件を問うよりは、その人の思考や学ぶプロセスに多くの人がフォローし合えればよいと考えています。

Q
上の世代への学びのアプローチで重点的に取り組んでいることはありますか。
A

ミドルシニアのリスキリングは大きなテーマですが、いつからでも学べるし、変われるものです。成功事例を見せ、そのプロセスを開示し、万全なセーフティーネットを備えていれば、チャレンジしやすくなると考えています。

最後に視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

後藤 礼子氏

当社でもまだまだ取り組みは道半ばだと感じています。DX人材育成は時間がかかるもので、すぐに果実が得られるわけではないでしょう。ぜひ一緒に、諦めずに取り組んでいきましょう。

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著者プロフィール久保田かおる(くぼた・かおる)

横浜市生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。株式会社リクルートで12年、旅行・学び領域での編集/クライアントワーク経験を積み、当時の社是である「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」を実践。現在はフリーランスで、経営者やVC/CVC、コンサルタント、エンジニア、HR担当者、医師に対する取材・執筆を中心に活動。6年間のインタビュー実績はのべ1,618名。