人材採用や育成の分野では「モチベーション」という言葉がよく用いられます。社員が組織に愛着を持ったり、モチベーションの高い状態で仕事に取り組んだりすることが、企業の成長につながることが多いからです。
この記事では、人のモチベーションはいかにして上がるのか、モチベーション管理に必要な仕組み、実際に企業で行われたモチベーションアップの事例など、「モチベーション」を組織づくりに活用する方法をお伝えします。
モチベーションとは
人が何らかのアクションを起こす際の要因となるものを、モチベーションといいます。
日本語での意味
モチベーション(motivation)とは、日本語で「動機」を意味します。動機は「やる気」や「意欲」といった言葉と同じような意味で使われ、仕事など何らかの対象への意欲を引き出すことを「動機付け」といいます。
モチベーションは、人材育成や人材マネジメント、消費者マーケティング、スポーツ選手の意欲向上などの文脈で用いられることが多い言葉です。
ビジネスシーンでの意味
ビジネスシーンでモチベーションという言葉を使う場合は、「仕事への意欲」を指すことが多いでしょう。仕事・組織への意欲や、業務への意欲を引き出すこと(=動機付け)をモチベーションアップともいいます。
モチベーションには2種類ある
モチベーションには、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2つがあります。それぞれモチベーションの元となる源泉に違いがあります。それぞれ解説していきましょう。
外発的動機付け
外発的動機付けとは、その人の外側からの働きかけによって、意欲や行動を発生させること。具体的には「インセンティブのために仕事を頑張る」「上司に怒られたくないから仕事をする」など、報酬や罰によってモチベーションが発生するパターンです。
このような外発的動機付けは、一時的な効果はありますが、社員の自発性を育ちにくくし、個人の成長にもつながりにくいといわれています。
内発的動機付け
内発的動機付けとは、ものごとに対する興味や探究心など、その人の内側から意欲が生じること。例えば「自分自身が楽しいからスポーツや趣味をやっている」などが内発的動機付けです。
仕事においては、仕事そのものに対する興味や関心があったうえで「やりがいがあるから仕事をする」「達成感を得たいから仕事をする」など自分自身の内側からモチベーションが発生するパターンです。
自分自身の興味や関心を元にした内発的動機付けは、効果が持続しやすく、個人の成長にもつながりやすいといわれています。
社内人事制度との関連
社内の人事制度には終身雇用や年功序列といったものから、成果主義で報酬を分配するなど、さまざまあるでしょう。
従来、年功序列の人事制度を適用していた企業が、成果主義に切り替わると、制度への不満からモチベーション低下が起こりやすくなると考えられます。
成果主義の報酬形態は一見、モチベーションを上げるようにも見えます。実際に、常時成果を上げられる人にはモチベーションアップになるでしょう。
しかし、組織のなかには売り上げに直結しない部署があったり、景気の波に社員の収入が左右されてしまったりという問題も起きます。成果主義も一筋縄ではいかないのが実情なのです。
モチベーションアップ施策は、給与や昇進、成果主義などの外的動機付けだけでなく、社員のやりがいや働く意義を考えたうえで検討する必要があります。
評価制度との関連
モチベーションが下がる要因は、評価制度にもあると考えられます。
社員がモチベーションを保ちながら仕事するためには、実態に沿った評価制度への見直しや、成果だけでなくプロセスも評価するなど、努力が適正に評価される仕組みが必要です。
モチベーションの測定方法
モチベーションは、モチベーションサーベイ(社員満足度調査)を実施することで測ることができます。
サーベイ(満足度調査)
モチベーションサーベイとは、社員が働く環境の改善や人事制度の見直しなどのために実施される調査で、ES(Employee Satisfaction)調査とも呼ばれます。
モチベーションサーベイでは、組織の状態や仕事における問題点などについての質問に回答していきます。回答を、部門・社員区分・職種などで比較し、モチベーションに関係の深い項目を抽出するといったことも可能です。
モチベーションサーベイは、社員のモチベーション向上への効果はもちろん、企業の価値創造や顧客満足度の向上のためにも重要です。
モチベーションについての代表的な理論
モチベーションには、1950年ごろから研究されている「モチベーション理論」と呼ばれるものや研究結果があります。
ここではモチベーションに関する代表的な理論や研究結果を3つご紹介します。
マズローの欲求5段階説
心理学者であるアブラハム・マズローが理論化した「マズローの欲求5段階説」では、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階のピラミッドで表します。
低次欲求として「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」、そのうえで高次欲求として「承認欲求」「自己実現欲求」があるとされています。
生きるための基本的な欲求である「生理的欲求」や、危険を回避したい、安全・安心な暮らしをしたいという「安全欲求」が満たされると、第3階層の「社会的欲求(帰属欲求)」が生まれます。これは集団に属したり、仲間が欲しくなったりする欲求です。
社会的欲求が満たされると、他者から認められることをしたいという「承認欲求(尊厳欲求)」が生まれ、さらに第5階層として、自身の能力を最大化してあるべき自分になりたいと願う「自己実現欲求」が生まれます。
ハーズバーグの二要因理論
続いてご紹介するのは、臨床心理学者ハーズバーグが提唱した「ハーズバーグの二要因理論」。これは、ハーズバーグ氏が実施した実験に基づいた理論です。
この理論では、人が仕事に対して「満足」と感じる要因と「不満足」と感じる要因は分けて考えるべきとされています。人間の仕事における満足度は「特定の要因」が満たされると上がり、不足すると下がるわけではなく、それぞれ別の要因があるということです。
仕事の満足に関わる要因(動機付け要因)は、「達成すること」や「承認されること」「仕事そのもの」など。一方、不満足に関わる要因(衛生要因)は、「会社の方針と管理」や「監督」「労働条件」などとされています。
衛生要因は、ある意味人間として当たり前に満たされるべきもの。そのため衛生要因が満たされても、モチベーションアップにはつながらないと考えられています。
一方で仕事における達成や承認は、人がモチベーションをアップするための重要な要因であるとされています。社員のモチベーションを向上させるためには、この動機付け要因に着目することが大切だという考え方です。
期待理論
3つ目にご紹介する「期待理論」は、ビクター・ブルームが最初に提唱したモチベーション理論の一つ。この理論は、人のモチベーションは「努力」「成果」「魅力」の3つの掛け算から成り立つというものです。
成果につながる「努力」の度合いが明確であること、どの程度の働きをすると自身が望む「成果」が得られるか・実現の可能性があるか、そこに向かって努力できるような魅力的な報酬であるかどうか。
この3要素の掛け算によってモチベーションが形成され、3つのなかのどれかが0に近いとモチベーションも0に近くなると考える理論です。

社員のモチベーションアップが企業の成長につながる理由
企業や組織が成長していくためには、経営上の施策実行だけでなく、社員のエンゲージメント(会社への愛着心、思い入れ)を高めていくことが重要です。
エンゲージメントを高めるにあたって大切なのが、モチベーションの向上と維持。ここからはモチベーションを高めることによって生まれる効果について、具体的に紹介していきます。
労働生産性の向上
社員一人一人が高いモチベーションのもと仕事に取り組むことで、集中力が上がったり、高いパフォーマンスの発揮につながったりします。
高いパフォーマンスによって生産性が上がると、サービスの向上、新しいアイデアの創出などにつながり、組織の成長における良い循環ができると考えられます。
チームワークが良くなる
モチベーションの高い社員は、周りに良い影響を与えると考えられます。例えばその人を起点にチーム内のコミュニケーションが増えたり、チームワークが良くなったりするでしょう。
円滑なコミュニケーションによって職場の雰囲気が明るくなったり、チーム一丸となって業務に取り組んだりすることが、組織の成長につながります。
離職率の低下
仕事の満足度が高く、モチベーションの高い組織は、離職をする人が少なくなる傾向にあります。離職率が低下することで、人員不足のために採用する必要がなくなり、採用コスト低減の期待もできるでしょう。
社員の成長スピードが上がる
モチベーションの高い社員は、自発的にスキルアップに取り組んだり、仕事の質の向上に取り組んだりします。そうすることで、人材の成長スピードが上がります。自発的な学びや仕事の質の向上が人材育成コストの低減にもつながるでしょう。
社員のモチベーションを上げる方法
では実際に社員のモチベーションアップを図るにあたって、人事担当や管理職はどのようなことができるでしょうか。ここからは具体的にモチベーションを上げる方法をご紹介していきます。
面談や1on1を定期的に行う
まず挙げられるのは、面談や1on1の定期的な実施。人事担当や部署のマネージャーからの問いかけやフィードバックによって、モチベーション喚起ができると考えられます。
1on1は定期的に、高い頻度で実施するのがコツです。1on1を始めたばかりの頃は、まずは「信頼構築」を意識しましょう。そのうえで、こまめなフィードバックや問いかけをすることで、モチベーションが上がっていくと考えられます。
1on1を続けていくうちに相手への理解が深まり、的確なサポートができるようになるため、継続することがポイントです。
キャリアビジョンの構築をサポート
社員の中長期的なキャリアビジョンの構築をサポートするのも、モチベーションアップのためにできること。
社員自身の将来的なキャリアが明確になることで、仕事へのやる気・モチベーションが高まると考えられます。
人材配置の工夫
合わないポジションに配置された人材は、スキルや能力が高くても、モチベーションが下がってしまう可能性が高いでしょう。組織のなかで個人が最大限に能力を発揮するには、個々人の希望や成長ステップに合わせた配置が重要です。
個人と環境(部署やポジション)のマッチングだけでなく、部署やチーム内でのバランスも考慮するとモチベーションを高めることができると考えられます。
モチベーションを維持するには?
モチベーションは一時的に上がったとしても、維持するのが難しいものです。モチベーションを維持するためにどのようなことができるか、具体的なポイントを紹介していきます。
小さな目標の設定とクリアを積み重ねる
モチベーションを高めるために目標を設定しても、大きな目標のみではなかなか達成できず、モチベーションの維持が難しくなります。
そのため、最終的に到達したい大きな目標だけでなく、簡単にできるものや、少し頑張れば達成できるような小さな目標も立て、少しずつ目標に向かって努力できるようにすることが重要です。
小さな目標を達成したり、大きな目標までの達成進捗を可視化したりすることが、モチベーションの維持になるでしょう。
業務量や働き方を見直す
モチベーションが下がってきている社員がいた場合は、労働時間や業務量に問題があるかもしれません。
モチベーションの復活や維持において大切なことは、不要な仕事や負荷の高すぎる仕事を減らし、その社員が今向き合うべき仕事に集中できる環境をつくること。高いモチベーションで仕事に邁進している社員でも、過剰な労働でキャパシティーがオーバーすると次第にモチベーションが下がってしまうと考えられます。
その人が優先的に向き合うべき業務や課題を精査したり、業務量や業務時間をチェックしたりすることも大切です。
心身の休息とオンオフの切り替えを意識する
モチベーションを維持するためには、心身の健康の維持も大切です。
仕事だけでなく、社員がしっかりと自分の時間を持ったりリフレッシュできたりしているかどうか、確認するとよいでしょう。特に在宅勤務などでは、オンオフの切り替えがしづらくなっていることもあるため、より意識を向ける必要があります。
個人でなくチームで認め合い、協力し合える体制をつくる
モチベーションは、仲間がいることによって維持しやすいと考えられます。チームでそれぞれに協力し合える体制をつくることで、打開策を見いだせたり、成長の鍵が見つかったりします。
マズローの欲求5段階説やハーズバーグの二要因理論にもあったように、モチベーションは「承認」が一つの鍵。認め合ったり、協力し合ったりすることがモチベーションの維持につながると考えられます。
モチベーションアップ施策の事例
モチベーションをアップさせるためには、組織の状況に合わせてさまざまな施策を取ることができます。最後に、モチベーションアップの具体的な施策事例をご紹介します。
株式会社カヤック
まずご紹介するのは、ゲーム・広告・Webサービスなどを手掛ける株式会社カヤックの事例。承認欲求を高めるための取り組みです。
同社には、社員同士が褒め合うことをルール化した「スマイル給」制度があります。
毎月褒める対象の社員がそれぞれの社員に割り当てられ、1カ月の間で褒めるべきところを探します。そして、月末に褒めたい部分を「〇〇給」としてキャッチコピーにして、それが給与明細に反映されるというもの。
自分の強みや貢献を、普段関わらない人から認識してもらうことで、モチベーションアップやコミュニケーションの活性化につなげている事例です。
参考:サイコロ給とスマイル給
京セラ株式会社
最後にご紹介するのは、京セラ株式会社の組織構造によるモチベーションアップの事例。同社は「全員参加経営」を掲げ、社員全員のモチベーションをいかに上げるかという意識が根底にあります。
組織は細分化されており、市場の変化に合わせて臨機応変にその形を変えます。多くても20~30人単位の組織(=アメーバ)が消えたり生まれたり、くっついたり離れたりすることから、アメーバ経営と呼ばれています。
この仕組みによって多くの人がリーダーを経験。そうすることで、自らが経営に参画しているという意識が醸成され、モチベーション向上につながるのです。
また、「アメーバのリーダー」になったからといって、必ずしも給与が上がるわけではない点もポイント。リーダーになって、そのうえで職能資格が上がれば、処遇が後からついてくる仕組みになっているといいます。給与水準の高いミドル以上の人材に限ると、給与など外発的動機付けによるモチベーションアップは期待できません。個人の業績追求という圧力を働かせず、全員の幸せを追求していくことで、モチベーション維持や向上を図ります。
達成の喜びを全員で分かち合う組織文化で、モチベーションアップにつなげている事例といえるでしょう。
参考:Works 101「特集 モチベーションマネジメントの限界に挑む」
モチベーションの向上・維持を意識して、組織の成長を
組織の成長には、社員一人一人のモチベーション向上・維持が欠かせません。
またモチベーションは、採用段階における動機付けや、採用後のオンボーディングにおいても大切な観点です。特に昨今、コロナ禍の状況下で普及している「オンラインにおける採用やオンボーディング」においては、オフラインのそれと比べて、異なる点があったり、より意識すべき点があったりします。
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