適材適所の人事とは何か? 人材配置で押さえておくべきポイントも解説

適材適所の人事とは何か? 人材配置で押さえておくべきポイントも解説

企業や組織の人材配置では、社員の適性・能力に合う職務や業務を割り当てることが求められます。このような方針や考え方を適材適所とよび、一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。しかし実際には、さまざまな理由によって適材適所の人材配置が実現できていない企業も存在します。

そこで今回の記事では、適材適所の人材配置を実現するためにはどのような方法があるのかを紹介するとともに、押さえておくべきポイントも解説します。

適材適所とは

適材適所とは

一般的に、適材適所とは「その人の適性や能力に応じて、それにふさわしい地位・仕事に就かせること」と定義されています。

適材適所という言葉は人材の割り当てという意味で使われることが多いのですが、もともとは建築分野にて、木材の特性の違いを生かし、日本家屋などを建築する際に柱や梁(はり)などの部位に応じて、木材を使い分けるという意味で使われた言葉です。

ビジネスの場面における適材適所は「自社への適性を見極めて人材を採用・育成し、社員が能力を発揮できる仕事や部署へ配置すること」といえるでしょう。

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日本と欧米における適材適所の違い

日本と欧米における適材適所の違い

日本と欧米では人材採用や雇用形態の違いなどもあり、人材育成の考え方が根本的に異なります。適材適所の人事を検討する際に、日本と欧米ではどのような違いがあるのでしょうか。

業務とスキルをマッチングさせる欧米

欧米では「ジョブ型」とよばれる雇用形態が一般的です。

たとえば、人事部門のポストが空いている場合、他社で人事業務の実務経験を積んできた人材や、大学などでビジネス学部やHR(Human Resource)関連の学部を修了した人材を雇用します。

業務内容とその人がもっているスキルや経験をマッチングさせることが、欧米での適材適所の根本的な考え方といえるでしょう。

人材のポテンシャルを重視する日本

一方、従来の日本における適材適所の考え方は、欧米とは少し異なります。

日本では長らく新卒一括採用が定着しており、必ずしも十分なスキルが備わっていなくても、人材のポテンシャルを見極めて採用し、社内の部署に配属させてきた歴史があります。

この背景には、戦後から終身雇用制度が定着し、長期雇用を前提とした働き方により人材教育が可能であったことが大きな要因として挙げられるでしょう。長期雇用を前提とした働き方であれば、主な業務に関連する知識を幅広く習得し、さまざまな問題に臨機応変に対処できる人材が育成されます。

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適材適所の人事が重要である理由

適材適所の人事が重要である理由

適材適所という考え方は以前から存在していましたが、近年、あらためてその重要性に注目が集まっています。なぜ企業は適材適所に注目するようになったのか、時代背景も含めて詳しく解説します。

人材の流動化

これまでは、適材となる人材を育成し、適所に配属させる「組織主導型」の適材適所が一般的でした。しかし、組織主導による適材適所の人事が社員の満足度向上につながるのか、また社員のキャリア形成につながるのかが疑問視されています。

人材の流動化が進んだ現在、組織が能力開発の投資をしてまで社員を適材として育成することが必ずしも合理的とはいえない状況になっているため、組織主導型の適材適所よりも、社員の自律性を尊重し、社員のキャリア観も加味した適材適所の人事が企業に求められていくでしょう。

多様な人材の活躍が求められている

人手不足が深刻化するなかで、企業は業務効率化や生産性の向上はもちろん、競争力を強化していかなければなりません。

そのためには、社員の適性を見極め、能力を生かせる人材の配置や労働環境の整備が必要です。また、社員の働き方や適性に合った配属先を検討する必要があります。

たとえば、子育てや介護と仕事を両立できる柔軟な勤務形態が実現できれば、子育てや介護を理由とした離職を防止でき、人手不足の解消や優秀な人材の確保にもつながるでしょう。また、自身のキャリア形成のために本業以外にも副業を考えている社員がいれば、副業で得たノウハウや知識を本業へ生かし、新たなビジネスを展開するうえで貴重な戦力になる可能性もあります。

このように、社員それぞれの働き方を考慮しながら、企業として多様な人材を受け入れられる環境を用意したうえで適材適所の人材配置を実現することは、企業の競争力強化につながっていきます。

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社員は適材適所をどうとらえているのか

社員は適材適所をどうとらえているのか

ビジネスにおける適材適所は、企業や組織側が主導権を握っているといえます。では、社員側は自身の仕事と適性についてどのように考えているのでしょうか。

2017年12月、一般社員と管理職492名を対象に職場における適材適所の実態を明らかにするために行った調査結果を元に考察します。

引用元:リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所 藤村直子 「従業員自身が認識する「適材適所」とは何か――一般社員、管理職492人に聞く、適材適所と異動の実態――」RMS Message vol.49 (2018年2月)p21│株式会社リクルートマネジメントソリューションズ

適材適所の現状

「現在の会社・職場・仕事・上司は、自分にどれくらい合っていると思いますか」という設問において、「とても合っている」「合っている」「どちらかといえば合っている」と回答した割合は、会社・職場・仕事・上司のいずれの項目も60%以上にのぼりました。

ただし、会社・職場・仕事の項目は70%を超えていたものの、上司の項目については60%台にとどまっています。

以上の結果から、およそ3人に1人は現在の上司と合っていないと思っているものの、大半の社員は現在の会社および仕事内容について適材適所の配置であると認識していることが分かります。

不本意な人事異動が適材適所の障害と考える社員

ジョブ型雇用ではなく、終身雇用や新卒一括採用などが前提とされたメンバーシップ型雇用が定着している日本では、定期異動やローテーション異動などにより社員をさまざまな部署に配属させ、多様な経験を積ませるのが一般的です。

しかし、考え方によっては「せっかく今の仕事で成果が上げられるようになったのに、また新しい部署で業務を覚えなくてはならない」と不満に感じる社員もいます。

また、先ほどの調査のなかで「自分に合った仕事で働く上で、障害になっていることはありますか」という質問に対しては「社内の人事異動は、会社側の要請で決まる」「個人の意志を反映できる、会社の制度がない」などの意見が上位を占めました。

自分自身の意志や希望に反する不本意な人事異動が適材適所の障害になっていると考える社員も多いことが分かります。

「今となっては良かった」と思える人事異動も

人事異動に対して上記のような不満を抱えたり、適材適所の障害になっていると考えたりする社員がいる一方で、後になって振り返ると「良かった」と考える社員がいることも事実です。

実際に、同調査のなかで「不本意な異動だが今となっては良かった経験」を自由に記述した回答では、ものの見方が変化した・視野が広がった、成長や仕事のやりがいにつながった、経験や仕事の幅が広がったなど、ポジティブな意見も見られました。

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適材適所の人材配置を実現するための方法

適材適所の人材配置を実現するための方法

適材適所の人材配置を行うためには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。今回は6つのポイントを紹介します。

ジョブディスクリプションを作成する

適材適所の人材配置を検討するうえでは、部署ごとにどのような職務があり、それぞれのポジションでどのようなスキルや資格が求められているのかを把握しておかなければなりません。

そこで役立つのがジョブディスクリプションです。ジョブディスクリプションとは、職務記述書ともよばれ、職務の詳細を記した文書のことを指します。職務における責任や目的、業務内容はもちろん、その職務を遂行するために求められるスキルや資格なども記載します。

これにより、社内の職務および業務内容を棚卸しできるので「どのようなスキルをもった社員がどの部署に何名必要なのか」を可視化できます。

社員情報の集約・可視化

次に、全社員のスキルや実務経験、保有資格などの情報を集約し、可視化します。自社へ入社後の配属先や実務経験はもちろんですが、前職も含めてどのような実務を経験してきたのかを社員情報管理システムなどに網羅的に登録しておきましょう。

たとえば、新規事業を立ち上げる場合、これまでの社内業務とは異なるスキルや能力、資格が求められることもあります。社員情報が集約・可視化できていれば、業務内容に応じて最適な社員を素早く見つけ出せるでしょう。

適性検査を行う

職務や業務内容にマッチする社員を割り当てるためには、実務経験やスキルといった情報以外にも、社員の性格や気質、社員同士の相性なども重要な要素といえます。

また、社員の適性によっても、向いている職種と不向きな職種は存在しますが、適性は本人よりも周囲の人のほうが見えていることが少なくありません。好きな仕事と得意な仕事は異なることもあるため、個人の適性は本人が短絡的に判断できるものとはかぎらないのです。

客観的に職務や業務への向き・不向きを調べる方法として、適性検査があります。一口に適性検査といってもさまざまな種類があり、たとえばストレス耐性を調べるテストや、性格的な特徴を把握する性格テスト、知的能力を測る能力テストなどもあります。

実務経験やスキルなどの情報に加えて、適性検査の結果も参考にすることによって、社員の性格や気質といった内面的な特徴を加味し適材適所の人事に活用できるでしょう。

ジョブローテーションや社内留学制度の導入

多様な職務や業務を経験させることにより、初めて社員の適性が見えてくる場合もあります。そこで、ジョブローテーションや社内留学制度などを導入することも検討しましょう。

ジョブローテーションとは、定期的に業務内容や役割を変え、社員に対してさまざまな業務経験をさせることにより人材育成を図る方法で、戦略的人事異動や計画的人事異動ともよばれます。通常の人事異動は、ある事業の強化や欠員補充など、経営戦略に基づき行われます。しかし、ジョブローテーションは上記の目的以外にも、人材育成を目的としていることが明確な違いといえるでしょう。

また、社内留学制度とは、短期的に他部署の業務を経験させた後、もとの部署へ戻す人事制度です。数日間、または数カ月といった単位で他部署の業務を経験することで、視野の広い人材を育成することにつながります。

ジョブローテーションや社内留学制度は、長期的な視点に立って専門性を磨くことが難しいため、適材適所とは矛盾した制度ととらえられがちです。しかし、たとえば幹部候補の社員に対して現場の業務を経験させることは不可欠であり、職務に応じた適性を判断するためにも有効な方法といえます。

社員の希望や理想とする働き方のヒアリング

組織主導型の適材適所ではなく、社員の自律性も加味した適材適所の人材配置を実現するためには、社員が希望する働き方を個別にヒアリングすることも重要です。

社員のスキルや経験、適性検査の結果など、客観性のあるデータから人材配置を行ったとしても、必ずしも適材適所につながるとはかぎりません。社員自身が「この仕事や働き方が自分に合っている」と感じられれば、仕事に対するモチベーションは上がり良好なパフォーマンスにもつながる可能性があります。

たとえば、家庭の事情により子育てや介護と仕事を両立しなければならない社員が、時短勤務や在宅ワークが可能な部署への配属を希望するケースもあるでしょう。社員の事情を考慮し、人材配置を考えることも適材適所の一環といえます。

副業や兼業の解禁

新規事業などを立ち上げる際、これまで自社が展開してきた事業とは異なるスキルをもった人材が求められることもあるでしょう。

副業や兼業の解禁により、社員が本業とは異なる多様なスキルや経験を習得でき、得たスキルの一部を自社の新規事業に生かせる場合があります。また、本業と異なる経験をすることで社員自身の強みや弱みを自己認識できる機会にもなるでしょう。

会社として、本業以外にもさまざまな経験・スキルを積むことを推進することで、多様なスキルをもった社員の適材適所につながると期待できます。

適材適所につながる人事施策を実践している企業の事例

適材適所につながる人事施策を実践している企業の事例

適材適所の人材配置を実現するためにはさまざまな方法があり、企業によっても最適な人事施策や制度は異なるものです。そこで、適材適所につながる人事施策を実践している企業の事例を2社紹介します。

ソニー株式会社

ソニーでは「自分のキャリアは自分で築く」という文化が根付き、「社内募集制度」が導入されています。社員は上司の許可を得ることなく社内求人に応募でき、これまで社内募集制度によって異動した社員の数は7000名以上にのぼります。

2015年からは、社内募集制度に加えて「社内FA(フリーエージェント)制度」や社内兼業を可能とする「キャリアプラス制度」、上司との相談のうえキャリアプランの希望を登録できる「Sony CAREER LINK」をスタートしました。社内募集制度は社内求人がなければ異動できませんでしたがFA制度やキャリアプラス、Sony CAREER LINKの導入によって、社内求人の有無にかかわらず社員が主体的にキャリア構築できるようになりました。

このような人事施策は部門間での人材流出の懸念が生じがちですが、それ以上に「よい人材と巡り合える」という前向きなとらえ方をする社員が増え、適材適所の人事につながっています。また、社員本人のキャリア形成に関する意識向上にもよい影響を与えています。

社員自身の希望や意思を尊重し、組織主導型ではなく社員の自律性を加味した適材適所を実現する取り組みがソニーの大きな特徴といえます。

参考:RMS Message vol.49 (2018年2月)p17.18│株式会社リクルートマネジメントソリューションズ

富士フイルム株式会社

富士フイルムでは社員のキャリアに応じた人材育成の取り組みを実施しています。

なかでも、適材適所を実現するための取り組みとしては、国籍や性別に関係なくワールドワイドに活躍できるグローバル人材の育成に注力していることが大きな特徴として挙げられます。

北米や欧州、アジアの各地域における人事担当者が定期的に会議を実施し、情報を共有しています。これにより、日本のみならず海外においても優秀な人材を即座に登用できるような体制を構築することに成功しています。

参考:【重点課題2】多様な人材の育成と活用:2015年度の活動「人材育成」|富士フイルムホールディングス


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適材適所の状態を知るためのチェック項目例

適材適所の状態を知るためのチェック項目例

自社が適材適所に対応した人材配置を実現できているかを判断するためには、どのような方法があるのでしょうか。今回は、社員へのアンケートを通じて、自社の状態を判断する際のチェック項目例を紹介します。

社員を対象にアンケートを行う際は、以下の項目を「1:思わない」「2:あまり思わない」「3:どちらともいえない」「4:どちらかといえば思う」「5:思う」の5段階で評価させるとよいでしょう。合計値が高いほど適材適所の人材配置ができている可能性が高いことを示します。

社員向けのチェック項目

  • 仕事内容が自分の経験や能力に合っていると感じる
  • 仕事内容が自分のやりたいことに合っていると感じる
  • 仕事内容が自分の成長につながっていると感じる
  • 現在の働き方(勤務時間・勤務場所)が合っていると感じる
  • 同僚や上司、部下との人間関係は良好である
  • 信頼できる上司のもとで働けている
  • 社内の各部署の業務内容を把握している

適材適所の人材配置のために重要なポイント

適材適所の人材配置のために重要なポイント

適材適所の人材配置を実現するためには「適応期間が必要であること」を社員に理解してもらうことが重要です。

新たな配属先に就いた直後、早いタイミングで「自分はこの仕事に合わない」と感じ、配置転換を申し出てくる社員も存在します。しかし一般的には、何年かは続けてみなければ、本当にその仕事への適性があるかどうかが分からない場合も多いでしょう。そのため、数日、数週間程度で社員本人が「この仕事に合わない」と感じたとしても、それは単に仕事に慣れていないだけの可能性があるのです。

適応期間があることを理解しないまま、短期間で自分に適性がないと諦めてしまうことは、社員自らがキャリアの芽を摘んでしまうことになりかねません。

一見やりたくないと思う仕事や、自分には合わないと感じる仕事であっても、適応期間を経たあとに「意外と自分に合っていた」と感じられるケースもある、という点を社員本人に理解してもらうことが適材適所の人材配置を実現するうえでは重要です。

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時代に合わせて適材適所の戦略は変化させなければならない

時代に合わせて適材適所の戦略は変化させなければならない

社員のスキルや適性に合った役割や業務を割り当てる「適材適所」という考え方は、人事における基本でもあります。適材適所の人材配置が実現できれば、社員は本来の力を発揮でき、企業の生産性や業績アップはもちろん、企業の競争力強化にもつながると期待できます。

日本における多くの企業はこれまで、組織主導型による適材適所の人材配置が一般的でしたが、今後は社員の自律性を高められるような適材適所の考え方に切り替え、人材戦略を変化させていくことを心がけましょう。

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