DX企業へフルモデルチェンジの変革に挑む、富士通の人事戦略/富士通株式会社|FUTURE of WORK

DX企業へフルモデルチェンジの変革に挑む、富士通の人事戦略/富士通株式会社|FUTURE of WORK

 平松 浩樹氏

取材対象者プロフィール 平松 浩樹氏

富士通株式会社 理事 総務・人事本部長

2019年9月に行われた経営方針説明会で、「IT企業からデジタルトランスフォーメーション(以下、DX ※1)企業への転身を目指す」と表明した富士通株式会社(以下、富士通)。同年6月に代表取締役社長に就任した時田隆仁氏自らCDXO(Chief Digital Transformation Officer:最高デジタルトランスフォーメーション責任者)となり、全社一丸となって変革に取り組んでいます。変革は事業方針だけにとどまらず、信頼されるDXパートナーとなるべく、社内プロセス、カルチャー、人事制度などの全面的な改革も進めています。現在社内で起きている変革、そして目指す未来について、同社の理事であり、総務・人事本部長の平松浩樹様に、株式会社ビズリーチ取締役HR Techカンパニーカンパニー長の多田洋祐が伺いました。

※1:デジタルトランスフォーメーション(DX):デジタル技術を駆使し、企業のビジネスモデルや経営、業務プロセスを変革すること、ひいては産業や社会のあり方にも変革をもたらすこと。

※本記事は、株式会社ビズリーチの創業10年を記念して運営していたWebメディア「FUTURE of WORK」(2019年5月~2020年3月)に掲載された記事を転載したものです。所属・役職等は取材時点のものとなります。

※株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 多田 洋祐は、2022年7月2日に逝去し、同日をもって代表取締役社長を退任いたしました。生前のご厚誼に深く感謝いたしますとともに、謹んでお知らせいたします。

変化の原動力となる「キャリア人材」のオンボーディングを強化

変化の原動力となる「キャリア人材」のオンボーディングを強化(富士通)

多田:IT業界は急速な技術革新により、この10年の間にビジネスモデル、そしてプレーヤー(事業者)も大きく変化してきました。国内ITサービス市場において1位である(※2)御社が「DX企業への転身」を表明するに至った背景についてお聞かせいただけませんか。

※2:国内ITサービス市場売上ランキング 2018年(IDC Japan)

平松様(以下、平松):一番の大きな変化は、クラウドの急速な普及です。これにより、企業のITシステムを「守る」役割がメインともいえる従来型のIT市場は年々縮小し、デジタルがビジネスを生み出す「攻め」のDX時代を迎えました。

当社はこれまで、お客様が思い描くビジネスの実現を支援し、システムの要件定義や構築をしながらより良いものを作り上げていく、いわば請負型のソリューション提供が主流でした。しかし、DX時代においては、ビジネスをさらに推進させるキードライバーとして「デジタル領域での成長」が欠かせません。これまで培ってきた豊富な知見をベースに、多様なパートナーと共創し、今はまだ想像もできないようなイノベーション・価値を、デジタル領域で生み出せると確信しています。そしてこのビジネスモデルへシフトするためには、「社員の意識改革」が不可欠です。

多田:御社のように歴史があり、3万人以上の社員がいる大企業において「社員の意識改革」は、簡単ではないと思います。改革にあたって、どのように優先順位をつけて取り組まれているのでしょうか。

平松:「社員の意識を変えるには、人事制度の影響が非常に大きい」という経営トップの判断のもと、まずは人事制度の大改革に取り組んでいます。人事制度に関しては、これまでもさまざまな取り組みをしてきたのですが、今回の改革は「フルモデルチェンジ」といえるでしょう。そして多様なバックグラウンドを持った人材が組織に加わることが、変化を起こすきっかけになりますので、これまで以上にキャリア採用を強化しているところです。

多田:これまでキャリア採用を積極的に行っていなかった企業では、キャリア人材を迎え入れることに慣れておらず、その結果、入社したキャリア人材がそれまでの経験やスキルを発揮できないケースも少なくありません。キャリア採用で入社した人材に活躍・定着してもらうために、御社ではどのような工夫をされているのでしょうか。

平松:もともと当社のビジネスは非常に規模の大きなプロジェクトが多く、チームで取り組むものばかりです。お互いをリスペクトしながら取り組み、チームで成果を出していくという進め方に慣れており、多様性を受け入れる素地があると思います。

人事としては、キャリア人材が活躍・定着するまでの期間を短縮し、より早期にパフォーマンスを最大化できるよう、2019年9月から、入社後90日間のフォロー体制を構築しました。一人一人に専任のアドバイザーがつき、入社時のオリエンテーションだけでなく、現場配属後も個々に合わせたサポートをしています。

職種を超えてコラボレーションし、イノベーション創出のきっかけになることを期待

多田:「即戦力」と期待をされて入社したキャリア人材が、会社や組織になかなかなじめず、期待していたパフォーマンスを上げるまでに時間がかかる、また、最悪のケースでは早期離職してしまう。そのような事態を回避するため、新卒、キャリア採用問わず新たに入社された方が会社になじむための、いわゆる「オンボーディング」に力を入れる企業は増えつつあります。しかしながら、御社のように一人一人に専任アドバイザーがつくほど、手厚い体制で受け入れる企業はまだ多くありません。なぜそこまでオンボーディングに注力されるのでしょうか。

平松:当社ではキャリア採用で入社した社員を対象にアンケートを実施し、仕事のやりがいやチームの雰囲気、お客様との関係性などをヒアリングしているのですが、「入社当初、組織にスムーズになじめなかった」という意見が複数ありました。この結果を経営層にも展開し、キャリア採用のオンボーディング強化の必要性を伝えたところ、社長の強い意志のもと、施策がスタートしたのです。

キャリア採用の目的は、これまでなかった風を社内に吹かせ、組織を活性化させ、「異文化」を受け入れることの価値を再認識し、より創造的な組織へ変化させることです。人事としては、1日も早くキャリア採用で入社した社員が変化の「原動力」になるよう、現場だけに任せることなく、不安や疑問などを解消していくサポートをしています。

また、個別のサポート体制だけではありません。キャリア人材同士の交流はもちろん、社長など経営層との交流を通して思いや期待などを直接伝える場を作っています。これにより、多様なバックグラウンドのキャリア人材が、職種を超えてコラボレーションし、イノベーション創出のきっかけになることを期待しています。

多田:キャリア採用を強化したことによって、既存の社員にも変化や気付きなどはありましたか。

平松:私たちがこれまで「当たり前」だと思っていたことに対して、新たな視点で指摘してくれるので、非常に刺激を受けています。改善すべき点は新たな意見を取り入れ、よりよくしていく。また、当社が長期にわたり培ってきた信頼があるからこそいただけるビジネス機会に対しては、より一層の感謝の気持ちと責任を持って取り組むなど、意識が高まっているようです。

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変化を恐れず、覚悟を持って、カルチャー変革を進める

変化を恐れず、覚悟を持って、カルチャー変革を進める

多田:話は戻りますが、「フルモデルチェンジ」で取り組まれている「人事制度改革」の具体的な内容について、お聞かせください。

平松:今回の人事制度改革では、グローバル視点で人材活用が可能な体制に変更します。大きくは「ジョブ型人事制度」「高度人材処遇制度」「新卒・既卒を問わず通年採用」の3つです。

年齢を問わず職務と役割に伴う市場価値で給与を設定する「ジョブ型人事制度」については、本年度中に本部長級以上に先行で導入し、来年度以降、順次対象を拡大する予定です。DX企業になるということは、これまで以上に人材が顧客価値の源泉となるため、人材流出は防ぎたいところです。しかしながら、世の中の人材流動化の流れを止めることはできません。それならば、まず「自社内の人材の流動化」を高め、社員が自分の成長のために、自発的に挑戦する機会を増やす必要があるのではないでしょうか。まずは国内におけるジョブ・ポスティング(社内公募)の機会を拡充し、今後は海外も含めて考えたいと思っています。

また、人工知能(AI)やセキュリティといった分野で高い能力を持つデジタル人材に対しては「高度人材処遇制度」を導入し、場合によっては役員レベルでの処遇もする予定です。社長自ら「覚悟を持って、カルチャー変革を進める」と発信していますが、その言葉の通りです。

多田:人事制度が変われば、求める人材も変わり、そうなると採用したい人材を集める戦略やチャネルも変える必要があると思います。採用活動面での変化はいかがですか。

平松:これまでは自社サイトの採用ページからの応募がメインでしたが、できるだけ採用チャネルを増やし、さまざまな方とお会いしたいと考えています。また、これまでは主に新卒社員で構成されていた組織のため、「キャリア人材が本当に活躍できるのか」と疑問を持たれる方もいるかと思います。その疑念を払拭すべく、キャリア採用で入社した社員が、当社で活躍していることをもっと発信する必要性も感じています。

多田:御社の知名度は高いものの、人事制度変革に対する本気度やそもそもキャリア人材を積極的に募集していることをまだご存じではない方もいるかもしれません。人事制度の変革とともに、採用広報への取り組みを強化していただき、より多くの方に知っていただきたいですね。

平松:はい。人事制度変革の3つ目である「新卒・既卒を問わず通年採用」も開始し、採用機会は大幅に増えたといえます。人事・採用に関する情報発信はさらに強化し、採用成功につなげていきたいですね。

多田:これだけ大改革が起きている人事制度に対し、新卒入社時から今までの長い期間「これまでの人事制度」のもとで働いてきた社員の方はどういった反応をされていますか。

平松:今までのやり方にこだわっていては、時代に取り残されてしまいます。大切なことは、悩んでいるのは自分一人ではないと気付き、前向きに変化を受け入れることです。

昨年度からは360度評価のようなフィードバック制度を取り入れ、メンバーが上司のマネジメントスキルなどを評価するアンケートを導入しました。アンケートの結果は、その上司へ共有される仕組みとなっています。アンケート後にはワークショップも実施しています。マネージャー同士が結果や気づきについて話し合うことで、「変化に戸惑っているのは自分一人ではない」ということを知ってもらい共感するとともに、協力して解決策を生み出す機会にしています。

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個人がオーナーシップを持って、自分の市場価値を高める時代へ

個人がオーナーシップを持って、自分の市場価値を高める時代へ

多田:最後に、人生100年時代において、個人がこれからの働き方を考えるうえでどのようなことがポイントになるか、平松さんご自身のお考えをお聞かせください。

平松:フレックスタイム制、テレワーク、副業・兼業など、働き方は多様化しています。当社でもテレワークを取り入れていますが、業務内容によっては全く出社せずに在宅で仕事をすることも可能になるでしょう。また、今社員が行っている業務も、クラウドソーシングやビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)、AIやロボットなどで外部の力を活用し、業務を合理化・効率化させていくことになると思います。

そこで大切になるのは、社員一人一人が「自分の専門性」を自覚し、それを磨き続ける意識ではないでしょうか。また、AIやロボットに代替できないスキルが「発想力」と「コミュニケーション力」だと思います。ICTを最大限活用し、さまざまな方々とのコミュニケーションやディスカッションを通じて、「自分ならでは」のスキルを伸ばし続けてほしいですね。

多田:終身雇用制度や年功序列が崩壊しつつあるなか、一人一人が「いかにして、自分の市場価値を高めていくか」を能動的に考え続けなくてはならない時代になったと感じます。この変化の背景には「事業・企業の寿命の短命化」「労働力人口の減少」「価値観の変化」などが挙げられますが、私は加えて「情報の可視化」もあると思います。

インターネットビジネスの進化やSNSの普及により、この十数年であらゆる情報がインターネット上で検索できるようになりました。転職市場においても、さまざまな転職サービスによって求人情報が可視化され、転職意欲にかかわらず、自身で簡単に求人を見つけられます。また、企業の口コミサイトやブログなどにより、企業のカルチャー・風土に関してもより詳細に知ることができる機会が増えました。

一度就職したら、その会社での自分のキャリアプランだけ考えればよかった時代は去り、さまざまな求人情報・ニュースが飛び交うなか「自分がこの会社で働く意味」を考えさせられる機会が増加しているように思います。その結果が、現在の「人材の流動化」につながっているのではないでしょうか。

企業にとっては人材の流出が進むこの流れにおいて、重要になるのは、自社で働く社員に対して、どのような価値を提供できているか、またそのことに満足してもらえているかどうかです。従業員体験を向上させることが社員の定着率向上につながりますし、それを社外にもアピールすることで、さらに自社に興味を持ってくれる方を増やす、という良いサイクルにつながるでしょう。

平松:個人がオーナーシップを持ち、社内外の多くの選択肢によって自分の市場価値を高める時代になったと感じます。企業は、これを「人材流出」というリスクとして恐れるのではなく、個々の市場価値に合った適切な給与や挑戦の機会を提供したうえで、ともに成長し合える関係を構築していくべきなのだと思います。

富士通平松様×ビズリーチ多田

平松 浩樹 様 略歴

1989年、富士通株式会社に入社。主に営業部門の人事担当として、目標管理制度の運用、ローテーション制度、組合対応等を担当。2009年より、役員人事の担当部長として、指名報酬委員会の立ち上げに参画。2015年より営業部門の人事部長として、営業部門の働き方改革を推進。2018年より人事本部人事部長、2019年より現職。

取材・文:高橋 秀典
カメラマン:棚橋 亮
記事掲載:2020/1/23 

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