【イベントレポート】激変する事業環境への挑戦 変革を起こし続ける丸紅の人財戦略

【イベントレポート】激変する事業環境への挑戦 変革を起こし続ける丸紅の人財戦略

2021年10月21日、株式会社ビズリーチは「激変する事業環境への挑戦 変革を起こし続ける丸紅の人財戦略」と題したWebセミナーを開催しました。

丸紅株式会社執行役員人事部長の鹿島浩二様にご登壇いただき、人財戦略におけるさまざまな取り組みについてお話しいただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチ取締役副社長で、ビズリーチ事業部事業部長の酒井哲也が務めました。

鹿島 浩二氏

登壇者プロフィール鹿島 浩二氏

丸紅株式会社 執行役員 人事部長

1989年、慶應義塾大学理工学部卒業後、丸紅株式会社に入社。入社時配属から現在に至るまで一貫して人事業務に従事。2001年から米国・ニューヨーク駐在。2007年に帰国後、人事部企画課長として、人事戦略策定、人事制度改定、ダイバーシティ推進などを担当。2013年に中国・北京駐在、2015年からは営業のグループ企画部副部長としてHRBP的役割を担った後、2017年4月 人事部長、2020年4月 執行役員人事部長に就任、現在に至る。現在、人財戦略として「マーケットバリューが高い人財が育ち、活き、繋がる丸紅人財エコシステムの形成」を掲げ、処遇制度、タレントマネジメント、働く環境の3つの視点から人事制度改革に取り組んでいる。
酒井 哲也氏

モデレータープロフィール酒井 哲也氏

株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 ビズリーチ事業部 事業部長

2003年、慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社日本スポーツビジョンに入社。その後、株式会社リクルートキャリアで営業、事業開発を経て、中途採用領域の営業部門長などを務める。2015年11月、株式会社ビズリーチに入社し、ビズリーチ事業本部長、リクルーティングプラットフォーム統括本部長などを歴任。2020年2月、現職に就任。

※所属・役職等は制作時点のものとなります

変革の必要性への危機感から、丸紅の在り姿を制定

丸紅グループは国内外に133拠点を有し、豊富な海外ネットワークを持ち、ライフスタイルから食料、エネルギーなどさまざまなBtoB事業を手掛けています。

数字で見る丸紅グループ

時代のニーズに応じてビジネスの形を変えてきた丸紅にとって、「変革」は大事なキーワードでした。そのさらなる変化を求められたのが、2017~2018年でした。両年度では史上最高益を更新し、事業は非常に好調でした。しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)に代表される事業環境の激変に、経営陣には強い危機感がありました。

2017年4月に人事部長になった際、「人事が変わらないと会社も変わらない」と社長から言われたのが印象に残っています。

また2018年4月の社内会議では次のような発言も出ました。「現状と同じやり方で、今やっていることをそのまま続けていると、当社は10年後おそらく生き延びられない。変化はチャンスというが、もはやそういった次元の話ではなく、今の変化に対応できるかどうか、(中略)できなければ存続できなくなる可能性があるという危機感を持っていただきたい」

そこで生まれた変革のキーワードが「既存の枠組みを超える」というものです。

そのためには

  • 従来の縦割りを超えて事業を掛け合わせて創造していく発想
  • 同質性の高い集団思考を脱して多様な見方や価値観を取り込んでいく姿勢
  • 従業員一人一人が挑戦に積極的になるためのマインドセットの切り替え

が重要であり、その社内浸透のためにセッションも幾度となく行われました。

具体的には、部長職の計80人が10人ずつ研修センターで半日のディスカッションを実施。社長と膝詰めで状況や意見を共有し、社長には現場の課題が伝わり、部長陣には社長の危機感が伝わるいい機会になりました。

2018年には丸紅グループの在り姿として「Global crossvalue platform」を制定し、今後10年を見据えた目標を明文化しました。こちらは「パーパス」に近いものだと理解しています。

丸紅グループの在り姿(2018年~)

丸紅グループの中には、さまざまなビジネスがあります。何をどう掛け合わせるかというアイデアを大切にしながら、社内外のあらゆる強みや知をクロスさせて価値を創造することを目指しています。

既存の枠組みを超える施策とは

在り姿の実現には、人事制度にとどまらない幅広い施策が必要だと考え、経営企画部や広報部などさまざまな部署と議論を重ねました。

そこで、2018年度にはCDIO(Chief Digital Innovation Officer)という新しい役割を作り、2019年度には、CDIO傘下でイノベーションを創り出す「次世代事業開発本部」を新設しました。デジタル・イノベーション機能の発揮に加え、全社最適の観点から、新たなビジネスモデル創出を追求することが大切だと考えました。

CDIOと次世代事業開発本部

もう一つの施策が、「人財」「仕掛け」「時間」の3つのカテゴリーでの新しい取り組みです。

「人財」カテゴリーの施策

人財領域においては、異なる価値観に触れ合う環境を創ることで「人財」の発想力を広げることが重要だと考え、次のような施策を進めています。

【丸紅アカデミア】

国内外の丸紅グループ全社員から約25名が参加する、イノベーションを体験させるセッションです。選抜メンバーのほかに、やる気がある社員の参加を促進しています。約10カ国から、さまざまな商品分野のバックグラウンドを持ったメンバーが集まり、1年間、年4回のセッションを通じて、新たなソリューション創出の発想力、リーダーシップを学びます。

参加メンバーには、イノベーションを伝達していくエバンジェリストとして、現場に戻って学びを還元することを期待しています。

【社外人財交流プログラム】

社外との人財交流を強化すべく、提携先企業での業務を経験したいメンバー(20~30代前半)を社内公募しました。手が挙がらないのではと懸念していましたが、想像以上に多くの応募があり、「今までと違う経験をしたい」「新しい環境で学びたい」というニーズの多さを実感しました。他社のいいところを学び、丸紅にも生かしたいと考える若手が増えており、社内活性化につながっています。

【トライアングルメンター】

新たなメンター制度では、組織も年代も違う3人の掛け合わせを意図的に作りました。異なる価値観に触れ、ほかの部署で何が起こっているかを意識できるようにしています。

【Self-Biz】

社員一人一人の価値観を尊重し、最適と思う服装を自由に選択できるようにしました。

人財

「仕掛け」カテゴリーの施策

多様な人財のアイデアを喚起し、具現化する「仕掛け」として、次のような施策に取り組んでいます。

【ビジネスモデルキャンバス(BMC)】

丸紅グループには多様なビジネスモデルがあるため、社内にどんなビジネスがあるかを理解していない社員が多くいます。そこで、約300のビジネスモデルを同じフォーマットに落とし込み、各事業の資産、取引、人脈などを誰でも閲覧・アクセスできる仕組みを構築。事業理解を深めることで、ビジネスの新たな掛け合わせによるイノベーション創出を促したいと考えています。

【ビジネスプランコンテスト】

国内外の丸紅グループ全社員を対象とする、新事業企画を競い合うオープンコンテストを実施しています。社外から審査員に参加してもらい、優れたアイデアには資金や人財などのリソースを提供、スタートアップに挑戦できる権利を付与し、起業家としてのキャリアパスの機会を提供します。

2018年度は全世界から160件の応募があり、審査を経て4件が事業化への挑戦チケットを獲得。1件が実際の事業化につながっています。コンテストは2019年度以降も毎年継続しています。

仕掛け

「時間」カテゴリーの施策

新たな価値創造に取り組むためには「時間」の確保が必要です。そこで、次のような施策に取り組んでいます。

【15%ルール】

就業時間の15%をさまざまな事業創出に向けた活動のために充てられるというものです。

【どこでもワーク】

2018年度より在宅勤務、サテライトオフィス勤務を導入しています。2021年5月には新オフィスに移転しましたが、座席数は全社員数の7割ほど。100%オフィスには戻らない前提で、引き続き、リモートワークやサテライトオフィス活用も進めています。

時間

経営戦略に基づいた人事制度改革

中期経営戦略「GC2021」では、2030年に向けた既存事業基盤の強化による持続的成長と、新たなビジネスモデル創出による爆発的成長を目指しています。

これまでは部分最適を見たパッチワーク的な人事制度の改定だったという反省から、2019年度には人事制度の抜本改革に着手しました。人財戦略という議題で行った経営会議は10回以上です。抜本的な人事制度の見直しには、迷ったときに立ち戻るコア概念が必要と考え、まずは人事制度改革のコアとなる概念を定めました。

”GC2021”グループ人財戦略(2019年~)

「実力本位」、「チャレンジ」、全社一律から現場の個性重視へ、人事部ではなく現場が組織・人財マネジメントの最適化を主導するという「現場」、組織と人財は互いに選び合う関係であり、機会は自らつくり、つかみ取るものであるとする「オーナーシップ」、さらに、社内外の多様な人財が行き交い、組織を越えて連携・協力する「オープンコミュニティ」という5つの概念です。

具体的な人事制度改革は、「処遇」「タレントマネジメント」「働く環境」の3カテゴリーで進め、2021年7月にすべて導入しています。

”GC2021”人事制度改革(2020年~)

ほかにも、この分野では誰にも負けないという強みを持った学生の強みを応募資格とする「No. 1採用」や、新卒と20代の既卒者を対象に、入社後の配属部署と仕事内容を明示して採用する「Career Vision(キャリアビジョン)採用」を導入しています。

また、新卒採用の女性総合職比率を3年以内に40~50%程度に引き上げるという目標も掲げています。キャリア採用は毎年30~50人の採用を継続しています。

多くの制度改定を同時に進めており、現時点で完璧にできているとは思っていません。人事制度に100%はないので、導入し、走らせながら直していくことが大切です。社内外からの反応をモニターしながら、経営戦略に応じてより良いものに変えていき、「経営戦略実行のための人事制度である」という視点を常に大切にしています。

Q&A

セミナーの後半には、視聴者から多数いただいた質問の中から抜粋してお答えいただきました。

セミナー参加者からの質問

Q1. 人事戦略の策定プロセスは、取締役会等のトップダウンでしょうか。それとも社員の意見を聴く場もあったのでしょうか。

A. 人事戦略を変えること自体はトップダウンで動きましたが、どう変えていくのかは、現場の声をかなり反映させていきました。

日頃から、社員の声は常にモニターしていなければ次の手を打てないと考え、従業員サーベイの実施や、組合の意見のヒアリング、現場の本部長の声を聴くことはいつも心がけています。

セミナー参加者からの質問

Q2. DXや新型コロナウイルス感染症拡大の影響でビジネスモデルの変革が商社では特に求められたかと思います。そのなかで優先度が最も高かった人事施策とは何でしょうか。

A. 優先度はすべて高いので一つを選ぶことは難しいのですが、人事制度改革では「ミッションレーティング」が力を入れた施策の一つです。部下と上司で、毎年のミッションやチャレンジを確認・合意して業務を進めていく等級制度の在り方で、これまでの実績や成果の積み重ねでジャッジしないところがポイントです。

人事制度改革においては「事業がうまくいっているのになぜ変えるのか」という意見もありました。部長に対して意識を変えてもらうような社長とのセッションを行い、制度導入とともに新しいマインドセットを現場に浸透させていけたことがよかったと思っています。

セミナー参加者からの質問

Q3. 人事施策の変革には他部門での調整も必要かと思います。関係部署との関わり方、利害の一致はどのように行われたのでしょうか。

A. 利害の一致において、あまり苦労はしませんでした。人事施策については、経営会議で10回以上議論していたので、経営でコンセンサスはとれている状態でした。各経営会議メンバーに、現場へ浸透させる手助けをしてもらったので、経営レベルでディスカッションできたのがよかったと感じています。

セミナー参加者からの質問

Q4. 人事施策運用の浸透度合いを図る指標(何かKPIやKGIなど)はありますか。

A. エンゲージメントサーベイを毎年実施しており、丸紅グループ独自の質問項目に対する回答や数字は見ています。ただ、KPIというほど明確化された指標がないので、これからの課題です。

セミナー参加者からの質問

Q5. マーケットバリューが高い人財の育成・輩出を行うことで、雇用の流動化は起きているのでしょうか。また起きている場合はどのように捉えていらっしゃいますか。

A. 流動化は起きています。理想はマーケットバリューが高い人財を採用し、成長してもらい、それでもなお丸紅グループで働きたいと思ってもらうことです。実際は、流動化は加速しています。個人的には、より活躍できる環境に動いていくのは世の中の流れとして健全なのかなと思っています。出戻りの社員もいますし、いろいろなキャリアの形があっていいとポジティブに捉えています。

ただ、当社を退職していく社員について、当社に原因があるならばきちんと追究、改善していく必要があるのでフォローはしていますし、選ばれる会社であるために緊張感を持ってマネジメントしようということは、経営陣、現場とも話しています。

セミナー参加者からの質問

Q6. 今回ご紹介いただいた取り組みはすべて一般職も対象でしょうか。

A. できるだけ全社員を対象にしたいと設定していますが、一部、総合職だけの制度もあります。

制度改革の一つとして、一般職が総合職と同等の業務内容にチャレンジできるよう「エリア限定コース」も作りました。総合職は海外勤務が欠かせませんが、勤務地が変わることがハードルとなる方もいらっしゃいます。実力もやる気もあるけれど、海外勤務は難しく総合職にチャレンジできなかったという方に、新しいキャリアの選択肢になればいいと考えています。

セミナー参加者からの質問

Q7. 「仕掛け」カテゴリーの施策について、300のビジネスモデルキャンバス共有で生まれた新事業、イノベーションなど代表事例を教えてください。

A. 具体的な内容はお伝えできないのですが、ビジネスプランコンテストで事業化挑戦権の獲得に至らなかったものの「現場でやってみたらいいのでは」と審査員からフィードバックをもらい、実現したケースはあります。

セミナー参加者からの質問

Q8. 15%ルールによる業務の評価はどのようにされているのでしょうか。

A. あくまでも自主的にやることとして、業務の評価には組み込んでいません。

15%ルールの時間を使えば、他組織の仕事に関与することができます。他組織に貢献した際に、貢献先の組織長からコイン(報酬加算)が受けられる、クロスバリューコインの仕組みを取り入れています。「やりたい人がやれるような環境を作っていく」というコンセプトでルールを設けているのですが、「評価してほしい」という声があるのは事実です。

セミナー参加者からの質問

Q9. 自宅以外での勤務も可能とありましたが、それを可能にするにあたって苦労されたことがあれば教えてください。

A. 苦労は特になく、セキュリティ面などではサテライトオフィス活用を広げているので問題はありません。

セミナー参加者からの質問

Q10. 社内公募では、異動先とのミスマッチで受け入れ部署からクレーム等トラブルはありましたか。

A. 公募成立前に公募部署との面談があるので、ミスマッチはそんなに起こっていません。選考プロセスに人事は一切関与しておらず、応募者の上司には拒否権はありません。

正直、異動されてしまう上司からのクレームはあります。しかし「(異動を止めてしまうと)会社自体を辞めてしまうかもしれないですよ」と説明して納得してもらっています。社内公募制度が一般的になっているので、「仕方がないな…」という雰囲気はできていますね。

セミナー参加者からの質問

Q11. 施策を浸透させるため、リーダーの存在が重要かと思いますが、丸紅様ではどのような人をリーダーとして選出・育成しているのでしょうか。

A. 研修はまだできていません。現在、誰がリーダーになるかの選出は現場が主導していますが、会社としてどこまで関与していくかをディスカッションしているところです。

事業内容があまりにも多岐にわたるので、その部署で評価しなければ分からないところもあり、ほかで活躍できるかはまた別の視点になります。会社を引っ張っていくリーダーとして、「共通のリーダーシップとは何か」の答えを模索しています。

セミナー参加者からの質問

Q12. 在り姿を制定したことで、評価される人・採用する人も変わりましたか。

A. 採用では、これまで、現在いる社員のイメージが再現される人財を採用していました。しかし、今は、新しい事業の掛け合わせを創造できる人が必要だという感覚が広がっています。

マーケットバリューが高い人財とは「社内評価だけが高い人財」ではない、市場からの評価が重要なのだという意識に変わっていけばいいなと思って使っている表現です。

セミナー参加者からの質問

Q13. 海外拠点にはどのくらい同一施策を講じていらっしゃいますか。

A. 同一施策は取っていません。ただ、在り姿などの大きなコンセプトは共有しており、各拠点で動いてもらっています。

◆   ◆   ◆

最後に視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。