企業が高い成果・業績を上げるためには、強力なリーダーシップが不可欠です。一方でリーダーのもとで働くフォロワーに求められる「フォロワーシップ」も重要な要素として、注目を集めています。
この記事では、そもそもフォロワーシップとは何か、なぜ企業にとってフォロワーシップが重要なのかを紹介するとともに、フォロワーシップが高い社員の行動例やフォロワーシップを育成するためのポイントもあわせて紹介します。
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フォロワーシップとは

フォロワーシップという言葉に、聞きなじみがないという方も多いかもしれません。まずは、フォロワーシップが持つ意味のほか、混同されやすい言葉との違いを解説します。
フォロワーシップの意味
フォロワーシップとは、フォロワー(組織やチームを率いるリーダーのもとで業務を遂行する社員)が組織やチーム、リーダーのために主体的に考えて行動することを意味します。
具体的には、リーダーと異なる意見を持った際に正確に伝えて議論を促す、仕事を積極的に引き受けるなど、自身のポジションでできる積極的な行動です。組織の成長や成果の向上が目的となります。
フォロワーシップという言葉は、1992年、米国のカーネギーメロン大学教授であったロバート・ケリーの著書「The Power of Followership」で紹介されました。
組織全体から見た場合、フォロワーシップはリーダーを含む全社員に求められるものでもあります。ビジネス環境の変化などを理由に近年、その考え方が注目されています。
メンバーシップ・リーダーシップとの違い
フォロワーシップと混同されやすい言葉に、メンバーシップがあります。
メンバーシップとは、リーダー・フォロワーといった立場に関係なく、それぞれの役割を果たすことで組織の成長や成果の向上を支援することを意味します。そのため、フォロワーが果たすべきフォロワーシップも、メンバーシップの一部といえます。
フォロワーシップの対義語として用いられるのがリーダーシップです。
リーダーシップとは、組織の成長や成果の向上のために、社員個人が組織全体にポジティブな影響力を与えることを意味します。組織やチームのリーダーが発揮する影響力のことをリーダーシップと考えがちですが、組織やチームの一員であれば誰でもリーダーシップを発揮することは可能です。
それぞれの用語の意味をまとめると、下図のとおりになります。
用語 | 意味 |
---|---|
フォロワーシップ | 組織の成長や成果の向上を目的として、フォロワーが組織やチーム、リーダーのために主体的に考えて行動すること |
メンバーシップ | リーダー・フォロワーといった立場に関係なく、それぞれの役割を果たすことで組織の成長や成果の向上を支援すること |
リーダーシップ | 組織の成長や成果の向上のために、社員個人が組織全体にポジティブな影響力を与えること |
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リーダーシップとの相乗効果
リーダーシップとフォロワーシップは相互に発揮することで、さまざまな効果が得られます。
たとえば、リーダーが示した方針や戦略が必ずしも正しいとは限らず、ときには疑問を感じることもあるでしょう。そのような場合、フォロワーが提言を行う(健全な批判をする)ことで相乗効果が生まれ、組織として成果の向上が見込めるようになります。
リーダーが組織に及ぼす影響力は1~2割、対するフォロワーが及ぼす影響力は8~9割にものぼるとされています。強力なリーダーシップを発揮する社員がいたとしても、リーダーが示した方針や戦略、プランに沿って実行できる社員がいなければ具現化されません。
すなわち、組織やチームが目指す方向性を決めるためにはリーダーシップが重要であり、決定した方向性を具現化し実行力を高めるためにはフォロワーシップを発揮できる社員が必要ということです。組織のなかでは、双方ともに重要な要素といえるでしょう。
企業にとってフォロワーシップが重要な理由

これまでの企業や組織では、リーダーシップが求められることが多い傾向にありました。
現在でもリーダーシップが求められる場面は多いですが、それと同時にフォロワーシップに着目する企業も少なくありません。それはなぜか、2つの理由を解説しましょう。
人手不足による管理職の負担増
求人の募集をかけても候補者が集まらず、深刻な人手不足に陥っている企業も多いでしょう。厚生労働省が2022年9月に公表した「令和4年版 労働経済の分析」によると、「おおむね全ての産業で人手不足感が強まる動きとなっている」との動向が示されています。
人手不足を理由に現場の業務を担う管理職が増加しており、そのようなプレイングマネジャーは、必然的にマネジメントにかけられる時間が少なくなることも珍しくありません。
負担が増えている管理職を支え、フォローしていくためにもフォロワーシップを発揮できる社員は重要といえます。
ビジネス環境の変化
近年では、顧客ニーズの多様化やライフスタイルの変化によって、ビジネス環境が大きく変化しています。社会やビジネスシーンの変化が激しく、先行きが見えにくい「VUCA(ブーカ)時代」(Volatility・変動性、Uncertainty・不確実性、Complexity・複雑性、Ambiguity・曖昧性の頭文字をとった言葉)ともいわれています。
新型コロナ感染症の拡大に伴い広まったリモートワークにおいて、リーダーがメンバーに直接的なマネジメントを行う時間が減少しました。そのような状況でも、フォロワーシップが強化されているチームの場合、メンバーが自発的にリーダーとコミュニケーションをとって課題解決につなげていくことが期待できます。
また、リーダーの決めた方針や戦略が必ずしも正解とは限らず、トップダウンによる意思決定だけでは変化を伴う自社のビジネス環境にとって誤った方向に進んでしまうこともあるでしょう。そこで、リーダーの意思決定に疑問を感じたとき、建設的な意見や代替案を提示できるフォロワーは重要な存在となります。
フォロワーシップが発揮されることで期待できる効果

フォロワーシップが発揮されることで、企業にとってどのような効果が期待できるのでしょうか。企業にとって考えられる3つのメリットを解説します。
上司と部下との信頼関係構築
リーダーシップとフォロワーシップは、ともに組織の成長や成果の向上を目的としており、目的が共通しています。
上司と部下で立場や役割の違いはあっても、共通の目的が根底にあることで、お互いに建設的な意見を出し合いながら議論できます。
リーダーシップとフォロワーシップがどちらも重要であることを理解できていれば、上司と部下はお互いに尊重しあい、信頼関係を構築できるでしょう。
柔軟な対応ができる
フォロワーシップを発揮する社員は、それぞれが組織の成果の向上を目的として主体的に行動します。そのため、リーダーが不在の場合でも自分が何をすべきかが明確となっているケースが多く、仕事を円滑に進められるでしょう。
また、思いがけないトラブルが発生した場合、リーダーの指示を待つのではなく、自ら改善策を提案することも期待できます。日頃から自身のポジションでできる積極的な行動を意識しているため、アクシデントが起こっても柔軟な対応をとれます。
組織やチームの活性化
リーダーシップを発揮する社員だけでは、戦略やプランを具現化できずに終わってしまいます。そこで、フォロワーシップを発揮する社員がいれば、戦略やプランを正しく理解し、行動に移せます。
その行動が組織に貢献していると感じることは、モチベーションアップにつながります。また、具体的な行動に移す社員がいれば、ほかの社員もどのような動きをすればよいのかが分かり、組織全体が活性化することが期待できます。
活性化した組織では、メンバー一人一人がいきいきと仕事に取り組むようになるでしょう。結果として、生産性の向上や業績アップも期待できます。
▼新たなメンバーが組織やチームに加入することも組織の活性化につながります。その際は、受入れ体制を整えることが重要です。入社者が早期活躍するためにできる施策については、こちらの資料でも詳しく解説しております▼
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フォロワーシップの2つの軸と5つのタイプ

先述したロバート・ケリー教授の理論によると、フォロワーシップには大きく分けて2つの軸が存在し、それぞれの軸に応じてさらに5つのフォロワーに分類できるとしています。
フォロワーシップの軸とは、「批判的思考」と「積極的関与」の2つです。
■批判的思考
リーダーが示した方針や戦略、指示内容などを主体的に考え、建設的な批判や提言を行うこと
■積極的関与
批判的思考とは対照的に、リーダーが示した方針や戦略、指示内容をポジティブにとらえ、協力的な姿勢で関与すること
さらに、批判的思考と積極的関与の2軸で考えた場合、フォロワーは大きく分けて以下の5つのタイプに分類できます。

5つのフォロワーのタイプはそれぞれどのような特徴をもつのか、次で解説します。
模範的フォロワー
批判的思考、積極的関与の傾向がともに高いのが模範的フォロワーです。
上司やリーダーの意見に対して主体的に考え、正しいと感じた場合には積極的、協力的に取り組みます。また、批判や提言を行う際もその理由が明確かつ建設的です。
リーダーにとっては「右腕」ともいえる存在で、その名のとおり、もっとも理想的なフォロワーといえるのが模範的フォロワーです。
孤立型フォロワー
批判的思考の傾向が高く、積極的関与の傾向が低いのが孤立型フォロワーです。
批判や提言の内容は明確かつ建設的ではあるものの、積極的に関与しようとする姿勢が少なく、「チームプレーには向かない」と評されることもあります。評論家のようなフォロワーといえるでしょう。
順応型フォロワー
批判的思考の傾向は低く、積極的関与の傾向が高いのが順応型フォロワーです。
リーダーが決定した方針や指示内容は絶対ととらえ、忠実に従うという特徴があり、自分の考えがない「イエスマン」と映るケースもあります。リーダーにとっては扱いやすいフォロワーと考えられがちですが、具体的な指示がなければ動かないことも多いです。
消極的フォロワー
批判的思考、積極的関与ともに低い傾向にあるのが消極的フォロワーです。
建設的な批判や提言をすることが少なく、協力的に関与する姿勢も見られないことから、主体性がなくおとなしいといった印象を持たることが多いでしょう。模範的フォロワーとは対照的な存在であり、組織への貢献度はもっとも低いフォロワーといえます。
実務型フォロワー
批判的思考または積極的関与へ傾向が偏らず、中立的な立場を貫くのが実務型フォロワーです。
自分自身の役割や仕事に徹し、与えられた業務に対して一定の成果は出せるものの、自分自身に与えられた仕事以外には関わることがない傾向があるフォロワーでもあります。「挑戦的な思考が欠けている」といわれるケースもあります。
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フォロワーシップの行動例

フォロワーシップを発揮している社員には具体的にどのような特徴があるのでしょうか。批判的思考、積極的関与が高い社員に見られる行動例をそれぞれ紹介します。
批判的思考が高い社員の行動
リーダーが示した方針や戦略に対して、建設的な批判や提言を行うのが、批判的思考を持った社員です。以下のような行動が特徴といえます。
- 自分自身の考えや意見を正確に伝えられる
- 高い倫理観を持っている
- 自分の行動を客観的に検証できる
- ポジティブに物事を考えられる
リーダーの方針に対して疑問を抱いた場合、なぜ反対しているのかを明確かつ建設的に表現できる能力は、批判的思考が高い社員の特徴といえます。リーダーに提言を行い、議論を交わすことで、組織をよりよい方向へ導ける可能性があるでしょう。
このタイプの社員はコンプライアンス違反を疑われる内容があった場合、リーダーであっても気後れすることなく見逃さずに申立てができます。そのためには、フォロワー自身に高い倫理観が身についており、適切な判断ができることも重要といえます。
また、自分自身の行動が組織に対してプラスになっているのか、客観的に検証できることも求められます。他者に対してだけでなく、自分自身の行動も振り返りながら批判的に見つめ直せます。
ただ、注意しておきたいのは、批判的思考は単にリーダーのやり方や組織としての方針を否定するといったネガティブなものではありません。単に否定するだけでなく、「こうすればもっと良くなる」「この方法に変えたほうが効率的」など、物事をポジティブに考えられることが前提といえます。
積極的関与が高い社員の行動
リーダーが示した方針や戦略に対して、協力的な姿勢で関与するのが、積極的関与が高い社員です。そのようなフォロワーには、以下のような行動が見られます。
- 業務や仕事を積極的に引き受ける
- 他者の気持ちを考えられる
- アイデアを積極的に提案する
- 費用対効果を分析する
自分自身ができる業務や仕事を判断し、積極的に引き受ける姿勢があります。組織やリーダーのために何ができるのか、成果を高めるために自分ができる仕事を積極的に見つけ、取り組む社員は積極的関与の傾向が高いといえるでしょう。
他者の気持ちを客観的に考えられ、協調性が高いことも重要なポイントです。さまざまな社員がいる組織で、それぞれの立場や役職の違いを理解し、敬意を持ってコミュニケーションを図ることで相手を不快にさせることがありません。
また、組織として成果を上げるために、日頃から新たなアイデアを模索し、業務に必要だと感じたら積極的に提案する姿勢も見られます。自分自身がよいアイデアだと感じていても、全ての人が理解してくれるとは限らないため、より多くの人に納得してもらうために費用対効果を分析して説得性をもたせ、客観的な提案ができます。
これらの行動は、フォロワーシップを高めるために必要な能力と言い換えられるでしょう。意識して業務にあたることで、組織の活性化や成長が期待できます。
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フォロワーシップ育成のポイント

組織・チームのメンバーがフォロワーシップを育成していくためには、どのようなポイントが重要なのでしょうか。4つの項目に分けて紹介します。
自分なりの意見をもってもらう
リーダーが示した方針や指示内容に対し、自分がリーダーと同じ立場であったらどのように考えるか想定してもらいます。ここで重要なのは、リーダーからの指示が絶対に正しいととらえるのではなく、自分なりの考えや意見を持ってもらうことです。
このように、批判的に考えることを「クリティカルシンキング(批判的思考)」とよび、物事を客観的にとらえ適切な判断を行うためにも重要な思考法といえます。自分自身の意見や考え方に対しても客観的な視点を持ち、批判的にとらえることも求められます。
クリティカルシンキングでは単に否定するのではなく、なぜ反対なのかを明確にしたうえで、代替案や解決策を提案してもらうことも重要です。
クリティカルシンキングを身につけるためには、書籍を読んだり動画で学んだりする方法もありますが、ビジネススクールなどで専門の講座を受講し、体系的に身につける方法もおすすめです。
積極的にコミュニケーションをとる
上司やリーダーに対して批判的な意見を述べることは、ハードルが高いと感じる人が多いでしょう。しかし、組織全体の成長に向けて、立場に関係なく意見を出し合うためには、本音で意見を出し合える環境を構築しておくことが欠かせません。
このような環境を醸成するためには、日頃から社員同士が積極的にコミュニケーションをとることが求められます。
上司は部下に対して指示を出すだけでなく、意見を求め、出された意見は真摯に受け止める姿勢を持ちましょう。このような姿勢を意識することで、部下は上司と意見が異なる場合でも自分の考えを伝えやすくなります。
他者への積極的なフォローを意識する
社員が業務に専念し、完遂を目指して専念できる環境を構築しましょう。そのうえで、他者をフォローしたり、支援できたりすることはないかを考えるよう意識づけてもらうことが重要です。
他者へのフォローを行うためには、まず自分自身に余裕があることが前提といえます。一人一人に与えられた業務量が膨大だと、社員は自分の業務で手一杯になってしまいフォローに回る余裕ができません。そのため、上司は業務量を適切に調整し、特定の社員にばかり業務が集中しないよう配慮する必要があります。
また、フォローをする相手はフォロワー同士ばかりとは限らず、リーダーへのフォローも重要です。優秀なリーダーは多くの仕事をこなせると考えがちですが、リーダー1人の能力には限界があることも事実です。そのようなことを念頭に置き、フォロワーはリーダーに対して必要なサポートを行うことが求められます。
研修の実施
フォロワーが他者のフォローに回りたくても、具体的に何をすればよいのか分からないというケースも少なくありません。特に、リーダーの業務内容が分からず、どのようなサポートを求めているのか理解できないこともあります。
そこで、フォロワーがリーダーの仕事をシミュレーションできる研修を実施するのもおすすめです。実際にリーダーの仕事を経験することで、「自分がフォロワーとして行うべき行動」も見えてくるはずです。
組織の成長に欠かせないフォロワーシップ

組織として成果を上げ、成長させていくには強力なリーダーシップが必要であると考えられがちですが、フォロワーシップを発揮できる社員がいなければ組織の成長にはつながりません。
社員それぞれの立場や役割に応じて、リーダーシップとフォロワーシップの両方がバランスよく発揮されている組織が理想的といえるでしょう。フォロワーシップを発揮するためには批判的思考と積極的関与という2つの軸が重要であり、両者を高めていくことで模範的フォロワーに近づけます。
今回紹介した、フォロワーシップの高い社員の行動例や、フォロワーシップを育成するポイントを参考にしながら、高い成果を出せる組織づくりにいかしてください。
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