AppleのiPodやiPhoneなどの爆発的なヒット以降、多くのビジネスパーソンが注目しはじめた言葉に「デザイン思考」があります。一見、デザイナーなどの職種に向けた単語に思われるデザイン思考が、なぜ多くのビジネスパーソンに注目されているのでしょう?
本記事では、デザイン思考とはどのような思考方法なのか、その方法を取り入れるメリットや、デザイン思考を深めるための5段階のプロセス、成功事例を含めて紹介します。
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デザイン思考とは

「デザイン」という言葉に、「見た目を整える」といったイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。そのため、デザイナーではない職業のビジネスパーソンからは「自分には関係がないもの」「クリエイティブな職種向け」と誤解を受けがちです。
しかしデザイン思考とは、デザイナーがプロダクト制作における思考方法を、ビジネスや経営といった領域に生かしていくアプローチのことで、デザイナーなど、クリエイティブな職種だけでなく、全てのビジネスパーソンに有効な思考方法として、多くの領域で取り入れられています。
デザイン思考はユーザーの潜在的なニーズを発見し、それをもとにイノベーションを起こすための手段です。
デザイン思考とアート思考との違い
「デザイン思考」と混同されやすい言葉に「アート思考」があります。どちらもアイデアの創出に有効なアプローチですが、この2つには明確な違いがあります。
それは、アート思考の起点が自分の独創的な発想であるのに対して、デザイン思考の起点は常に「ユーザーのニーズ」である点です。アート思考はゼロからオリジナリティーあふれるアイデアを生みだすものですが、デザイン思考はゼロから発想するのではなく、ユーザーのニーズを膨らませたり、飛躍させたりしてアイデアを生み出します。
2つのアプローチの、どちらか一方が優れているということはありません。それぞれ目的が異なるので、利用シーンにあわせて、使い分けることが重要です。たとえば、これまでになかった全く新しいプロダクトを生み出したいときには、アート思考が向いています。ユーザーのニーズにとらわれない自由な発想から、斬新な商品が生まれるからです。
一方で、既存プロダクトの売り上げを伸ばしたい、改良を加えてアップデートしたいといったケースに有効なのがデザイン思考です。既存プロダクトを利用しているユーザーのニーズをもとに、よりニーズにマッチするようなアイデアを膨らませていくことができます。
発想の起点 | 向いているシーン | |
---|---|---|
デザイン思考 | ユーザーニーズからアイデアを膨らませる | 既存プロダクトの改良 |
アート思考 | ゼロから独創的なアイデアを生み出す | 新しいプロダクトの開発 |
デザイン思考が注目される背景
デザイン思考が注目されるようになった背景には、さまざまな社会の変化が関係しています。
第一に、かつてよりも生活が便利になったことが挙げられます。以前は、新しい機能を備えた商品が発売されれば、ものが売れる時代でした。しかし、生活するための必需品を多くの消費者がすでに持っている現代では、単に新しいというだけではものは売れにくくなっています。
次に、人々の価値観が多様化した点が挙げられます。かつては、社会の大部分の人々が共通する価値観を持ち、それとマッチしたものを発売すれば商品がヒットしていました。しかし、現在のように価値観が多様化すると、市場を分析しても商品をヒットさせることが難しくなりました。
さらに、未来の予測が難しい社会に変化したことが挙げられます。人口の減少や、グローバル化、終身雇用が不安定になったり、AIによって産業構造が大きく変化したりするなど、複合的な要因が絡み合い、社会の見通しが難しくなっています。
そんな現在の状況は、「不確定な社会」や、下記の4つの単語の頭文字をとって「VUCA時代」とも呼ばれています。コロナ禍を経て、経済状況は混迷を極め、今後の予測はますます厳しくなっているといえるでしょう。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
このように社会が複雑化した結果、これまでの市場中心の考え方ではなく、ユーザー中心のアイデアを生み出すデザイン思考が重要視されるようになったのです。
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デザイン思考のメリット

「デザイン思考」を実践することで、次のようなメリットが期待できます。
- 提案が習慣化される
- 多様な意見を受け入れる土壌が育つ
- イノベーティブなアイデアの創出
- チーム力が強化される
それぞれのメリットについて解説していきます。
提案が習慣化される
「自分の提案したアイデアがうまくいかなかったらどうしよう」。そう考えると、アイデアのハードルが高くなり、提案に二の足を踏むようになります。
デザイン思考では、実現可能性にかかわらず、アイデアを大量に出すことが大切とされています。また、たとえアイデアが失敗しても、その失敗も課題を発見するための重要なプロセスとしてとらえられます。そのため、「失敗してもいいから、とりあえずやってみよう」という楽観的な姿勢が生まれ、アイデアの提案が習慣化されます。
個人としても、自分のアイデアが提案しやすい土壌が生まれることで仕事へのモチベーションにつながります。また企業やチームでは、メンバーから積極的に提案が生まれやすい雰囲気をつくれます。
多様な意見を受け入れる土壌が育つ
上記のように、デザイン思考ではアイデアを大量に提案することをポジティブなものとしてとらえています。そのため、自分がアイデアを提案するだけでなく、他のメンバーの意見を受け入れる姿勢も大切とされています。
自分一人でアイデアを練っているだけでは、バラエティーに富んだ発想はなかなか生まれません。自分と異なる視点で生まれた意見を否定せず、さまざまな角度からの意見に耳を傾けることが、画期的なアイデアの創出につながります。
イノベーティブなアイデアの創出
これまで、多くのビジネスパーソンは市場の動向を中心にしてアイデアを練ってきました。しかしデザイン思考は、ユーザーの潜在的なニーズを中心にしています。
デザイン思考を活用することで、これまでの市場中心の思考方法からは生まれなかった、革新的なアイデアが生まれる可能性があります。
チーム力が強化される
後述する「デザイン思考の5つのプロセス」で示すように、デザイン思考はメンバー同士のコミュニケーションによってアイデアを深めていきます。また、アイデアを深めるために役職や立場の上下に関係なく、自由に意見を発言でき、かつ、その意見を他のメンバーが否定しないで受け入れます。
「自分のアイデアが何かの役立つかもしれない」という可能性や、「自分の意見を他のメンバーが否定せずに受け入れてくれる」という雰囲気は、各メンバーのチームへの貢献意識を高めるでしょう。
その結果、メンバーはアイデアをもっと出そうとモチベーションが高まります。また、誰もが意見を述べることのできる風通しのよい雰囲気を実現できるため、会社やチーム全体の力の底上げにも寄与します。
デザイン思考の注意点

個人が意見や提案を出しやすい雰囲気をつくり、チーム力を強化するデザイン思考。一方、アプローチするうえで注意すべき点もあります。
ゼロベースでの創出には不向き
革新的なアイデアは、「ゼロから1を生み出すもの」と、「1から10を生み出すもの」の2種類に分類されます。エジソンによる電球の発明が「ゼロから1を生み出すアイデア」で、音楽プレーヤーという既存製品をよりユーザーのニーズに沿ったプロダクトにしたAppleのiPodなどは「1から10を生み出したアイデア」といえるかもしれません。
ユーザーのニーズを起点にするデザイン思考は、あくまで「1から10を生み出す」アイデアの創出にマッチしています。「0から1を生み出す」アイデアの創出には、アート思考が有効でしょう。
結果重視になりがち
ビジネスシーンでは、目新しいアウトプットが評価される傾向にあります。しかし、デザイン思考はあくまでユーザーのニーズを起点とするため、ありきたりなアウトプットになる可能性があります。ただし、それがユーザーのニーズを満足させるものであれば、問題ありません。
もしリリースしたアウトプットが目新しさも兼ね備えたものでヒットしたとしても、ユーザーのニーズをもとにさらなるアップデートを検討したり、新しいニーズを見つけたりすることを続けることも重要です。それらを怠ってしまうと、一時的なヒットで終わってしまうでしょう。
デザイン思考では、ユーザーの価値観やライフスタイルの変化にあわせて商品やサービスをアップデートし続けるプロセスこそが大切なのです。
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デザイン思考の5段階のプロセス

実際にデザイン思考を深めるために、どのようなプロセスをたどるとよいでしょうか?
ここからは、ハーバード大学の研究機関「ハッソ・プラットナー・デザイン研究所」のハッソ・プラットナー教授が掲げた「デザイン思考の5段階」をヒントにして、思考を深めていきましょう。
共感
デザイン思考の出発点が「ユーザーのニーズ」であることを忘れてはなりません。ユーザーはどんな商品やサービスを欲しているのか、なぜそうした商品やサービスを欲しているのか、ユーザーの思考やニーズを探りましょう。
そのための手段として、インタビューやアンケート、観察などが有効です。その際に重要なポイントは、ユーザーの回答や意見をうのみにしないこと。なぜなら、ユーザーも自分自身の潜在的なニーズに気づいていないことが多いからです。ユーザーを注意深く観察し、その立場になって考え、深く共感することが重要です。
定義
ユーザーの潜在的なニーズを発見したら、それを定義するようにしましょう。ユーザーが自身でニーズを表明できることはかなりまれです。まだ言語化されていないニーズを、彼らに代わって明確にすることが重要になります。
概念化
ニーズを定義できたら、その課題を解決するためのアプローチ方法を考えましょう。そのときにポイントになるのは、質よりも量に比重を置くことです。ささいなことも含めて、思いつく限りのアイデアを出すように心がけましょう。
アイデアを出す方法の1つとしておすすめなのが、与えられたテーマに複数のメンバーが意見を持ち寄る「ブレインストーミング」です。ブレインストーミングには、「アイデアの数をたくさん出す」「出てきたアイデアに対し、批判、議論をしない」「アイデアを記録する」といった基本的なルールがあります。
チームでブレインストーミングを行い、できる限りのアイデアを出していきましょう。
試作
アイデアが出そろったら、それをもとに試作品をつくりましょう。
できるだけ時間やコストをかけずにつくることがポイントです。試作の段階では、完璧なものを目指す必要はありません。試作品が失敗していたとしても、現時点でアイデアが抱える課題を把握することが重要です。
テスト
試作品ができたら、ユーザーテストを繰り返し行います。ユーザーからフィードバックされた意見や感想を参考にして、アイデアをアップデートしていきましょう。試作品の検証を何度も重ねることで、より精度の高いアウトプットを生み出せます。
この5つのプロセスは必ずしも順番通りに行う必要はありません。行ったり来たりを何度も繰り返し、包括的に実施して、より精度の高いアイデアを目指してください。
参考書籍:ティム・ブラウン (著), 千葉 敏生 (訳)「デザイン思考が世界を変える」早川書房刊P62-67,119-121
デザイン思考に活用できるフレームワーク

デザイン思考のプロセスを進めるうえで、有効なフレームワークがあります。以下に、主要な3つのフレームワークを紹介します。
共感マップ
ユーザーの潜在的なニーズを探るために有効なフレームワークが「共感マップ」です。下記に挙げる視点から、ユーザーが実際に感じていること、考えていることを分析、検討します。
- 言っていること
- していること
- 見ているもの
- 聞いているもの
- リスク・ストレス
- 望んでいること
ビジネスモデルキャンバス
「ビジネスモデルキャンバス」は、ビジネスモデルを9つの要素に分類して分析するフレームワークです。各要素を整理し、会社のビジネスモデルを俯瞰(ふかん)することで、今抱えている課題や、気づきを得ることができます。
- パートナー
- 活動内容
- リソース
- コスト
- 提供価値
- 顧客との関係
- チャネル
- 収益
- 顧客層
事業環境マップ、SWOT分析
「事業環境マップ」は、企業の事業を取り巻く環境を4つの要素にカテゴライズして分析するフレームワークです。4つの要素を把握することで、時代や環境の変化に対応したビジネスモデルを精査できます。
- 市場
- 業界
- トレンド
- マクロ経済
さらに「事業環境マップ」に「SWOT分析」を併せて活用することで、より精度の高い分析ができます。「SWOT分析」は、下記の4つの要素に振り分けて分析します。
- 優位点(Strength)
- 課題(Weakness)
- 機会(Opportunity)
- 外的脅威(Threat)
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デザイン思考を取り入れている企業事例

具体的に、どのような企業がデザイン思考を取り入れているのでしょうか。ここからは、デザイン思考を取り入れた企業の考え方と、そこから生まれたイノベーティブな製品を紹介します。
ユーザーの手間に気づいて生まれたApple社の「iPod」
デザイン思考を取り入れた有名な事例の1つが、Appleの音楽プレイヤー「iPod」です。
Appleは、まずユーザーが普段どのように音楽を聴いているか、また競合他社の音楽プレイヤーについて観察・分析を進めました。その結果、多くのユーザーが一度、自分のコンピューターに音楽を保存し、それをプレイヤーに移す手間に、ちょっとしたストレスを感じていることを発見します。そして、「より手軽に、その場で選んだ曲を聴きたい」という、ユーザーの潜在的なニーズを導き出しました。
そこから生まれたのが「すべての音楽をポケットに入れて持ち運ぶ」というiPodのコンセプトです。そのコンセプトを実現するため、直感的に操作できる回転式のスクロールホイールや、音楽管理ソフトの「iTunes」とiPodを自動で同期するオートシンクといった革新的なアイデアを生みだし、実装されました。
トレーニングする人を観察して生まれたNIKEの「Nike+」
2つ目の事例は、NIKEの製品「Nike+」です。NIKEは、デザインチームを立ち上げ、アスリートの行動を観察しました。その結果、「トレーニングしている人は、その成果を自分で評価する機会を得たい」という、潜在的なニーズを発見しています。
そこでNIKEはAppleとコラボレーションし、ランニングシューズの中に入れておくと走行ペースや走行距離といったデータが、自分のデバイスに自動で送信される専用のセンサーをリリース。単にトレーニング用のシューズを提供するのではなく、トレーニングの喜びそのものを提供し、多くのユーザーから支持を集めました。
参考書籍:ティム・ブラウン (著), 千葉 敏生 (訳)「デザイン思考が世界を変える」早川書房刊P266-267
家庭の絆を生んだゲーム、任天堂株式会社の「Wii」
日本のデザイン思考の代表的な事例として挙げられるのが、任天堂のゲーム機「Wii」です。任天堂はまず、社員の家庭を観察し、テレビゲームが親子の関係を悪化させる要因になっていることを発見します。また、ゲームのある部屋にばかり子どもがいるため、ゲームのある家庭は子どもがリビングにいる時間が少ない点に着目しました。
そうした分析から、「家族で楽しめるゲーム機」というコンセプトを生み出します。その実現のために、開発チームがアイデアを出し、お年寄りから子どもまで直感的に操作できるテレビリモコンのようなコントローラや、リビングに置いても邪魔にならないコンパクトな本体が生み出されました。
コントローラに関しては、1000回以上も試作品のテストを重ねたといいます。その結果、最小限に抑えられた数のボタンと、片手で操作が可能な重さや形状となり、誰でも操作しやすいコントローラになりました。
燃費効率を見える化したトヨタ自動車株式会社の「プリウス」
デザイン思考を世界に広めたティム・ブラウン氏が既存顧客の潜在的なニーズを発見して生まれたアウトプットの事例として挙げているのが、トヨタのプリウスです。
アメリカの競合自動車メーカーが、市場が求める大型のSUV(スポーツタイプ多目的車)に力を入れているあいだ、トヨタはエネルギー効率の高い個人向け自動車に対する新しいニーズを開拓しました。アメリカで燃料価格が高騰する時期でもあり、トヨタはユーザーの潜在的なニーズであった低燃費の自動車を提供しました。
またブラウン氏は、毎分の燃費が表示される、プリウスの情報モニターにも注目しています。人々は、「自分の運転中の燃費効率を目で確かめたい」という潜在的なニーズを抱えており、プリウスは実際に燃費を見える化してニーズに応えていたのです。
参考書籍:ティム・ブラウン (著), 千葉 敏生 (訳)「デザイン思考が世界を変える」早川書房刊P201
デザイン思考の学び方

最後にデザイン思考の学び方を紹介します。おすすめの書籍や学び方のポイントをまとめました。
デザイン思考を学ぶおすすめ教材
ティム・ブラウン (著), 千葉 敏生 (訳)「デザイン思考が世界を変える」早川書房刊
本書は、「デザイン思考」を世界に広めたカリフォルニアのデザインコンサルティング会社IDEOのティム・ブラウン氏が著した1冊。デザイン思考を全社的に浸透させることで、どう組織がイノベーティブに変化するのか、具体的な事例を数多く取り上げながら、その思考方法を解説しています。
本記事でデザイン思考に関心を持った方も、「実際にどうデザイン思考が活用されるのか」をより詳しく知ることができます。
ワークショップ参加
読書や座学だけでは、思考方法の実感を伴えないため、デザイン思考を体験できるワークショップ研修もおすすめです。出題されるテーマに対して、ユーザーのニーズをどう発見するのか、どう概念化するのかなど、デザイン思考のプロセスを体験できます。
しかし、これらの手段でデザイン思考を学ぶだけでは意味がありません。学んだことを社内で実践することが重要です。自身の仕事に生かすために、実際の業務にデザイン思考を取り入れていきましょう。
まとめ

ユーザーの潜在的なニーズをアイデアにむすびつける「デザイン思考」。クリエイティブな職種だけでなく、すべてのビジネスパーソンにとって有効な思考方法です。 また、個人がアイデアを生み出すためだけでなく、チーム力を強化するうえでも役立ちます。デザイン思考のプロセスをチームで実際に体験してはいかがでしょうか。
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