【イベントレポート】多様性が生み出すイノベーションの実現 キリンの人材戦略

【イベントレポート】多様性が生み出すイノベーションの実現 キリンの人材戦略

2021年8月19日、株式会社ビズリーチは「多様性が生み出すイノベーションの実現 キリンの人材戦略」と題したWebセミナーを開催しました。

キリンホールディングス株式会社執行役員人事総務部長の濱利仁様にご登壇いただき、社内の多様性促進をいかに進めてきたのか、さまざまな取り組みについてお話しいただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチ取締役副社長で、ビズリーチ事業部事業部長の酒井哲也が務めました。

濱 利仁氏

登壇者プロフィール濱 利仁氏

キリンホールディングス株式会社 執行役員 人事総務部長

1991年入社、生産・営業部門、人事部門、経営戦略部門を経験した後、2014年人事企画グループリーダー、17年に台灣麒麟啤酒股份有限公司にて、董事長兼総経理を歴任し、19年にキリンホールディングス人事総務部長に就任。21年より執行役員就任。
酒井 哲也氏

モデレータープロフィール酒井 哲也氏

株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 ビズリーチ事業部 事業部長

2003年、慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社日本スポーツビジョンに入社。その後、株式会社リクルートキャリアで営業、事業開発を経て、中途採用領域の営業部門長などを務める。2015年11月、株式会社ビズリーチに入社し、ビズリーチ事業本部長、リクルーティングプラットフォーム統括本部長などを歴任。2020年2月、現職に就任。

※所属・役職等は制作時点のものとなります

KIRINの経営戦略 食から医にわたる領域での新たな価値創造

キリングループは、2019年に長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、CSV(共有価値の創造/Creating Shared Value)を経営の根幹に据え、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことを目指しています。また、経営理念を「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」へと更新、それまでの経営理念に、「こころ豊かな社会の実現に貢献します」という一文を付け加えました。

長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」

キリングループが大切にしている価値観は、「熱意・誠意・多様性」の3つです。「多様性」は2019年から新たに追加したもので、「多様性が成長のドライバーである」という経営判断から、意識的に推進することを決めています。

One KIRIN Values

キリングループの2027年ビジョンは「食から医にわたる領域で価値を創造していくこと」。既存の食(飲料等)と医薬の領域に加え、ヘルスサイエンス領域への新しい挑戦を掲げています。CSVを経営の根幹に据え、お客様の期待に応える価値創造のためにはイノベーションを実現する組織能力が必要になります。多様性を推進し、組織を活性化することで、イノベーション創出力が高まると考えています。

キリングループが目指す姿(2027年のビジョン)

KIRINの人材戦略 イノベーション創出に向けた多様性の推進

キリングループでは、無限の可能性を持ち、自ら成長・発展し続けようとする社員一人一人の努力と個性を尊重する「人間性の尊重」を考え方のベースとし、社員と会社は、「仕事を介したイコールパートナーである」と位置付けた「人事の基本理念」を掲げています。

キリングループの人材に対する考え方

その基本理念をもとに、イノベーションを実現する組織能力として何が必要なのか。キリングループでは、以下の4つの組織能力強化に取り組んでいます。

  • お客様主語のマーケティング力
  • 確かな価値を生む技術力
  • 多様な人材と挑戦する風土
  • 価値創造を加速するICT

更なるイノベーションの実現に必要な組織力

そのなかで、本日は「多様な人材と挑戦する風土」の取り組みについてご紹介します。多様性にはさまざまな切り口がありますが、キリングループでは、従来取り組んできた女性活躍、障害者雇用、性的マイノリティー、シニアなどの属性だけでなく、さまざまなバックグラウンドや価値観、感性、経験を持つ多様な人材の「違い」を受け容れ、生かし掛け合わせることで、イノベーション創出を目指しています。

なかでも、多様な視点を生かした事業展開を加速するため、女性リーダー育成と活躍支援に注力しています。

2010年代前半は、女性社員の離職率の高さが課題でした。その反省から、女性社員を全員集めたキックオフやトップメッセージの発信、女性向けのリーダー研修など、トップがコミットメントすると決め、数々の施策を進めてきました。

今後は、2030年までに女性リーダー比率を30%にする目標を定め、現在の11%から大きくジャンプアップさせていきます。数字を上げることが目的ではなく、女性社員の意思決定層への登用を進め、これまで以上に多様な視点を経営に反映していくことが重要だと考えています。

もちろん、性別にだけフォーカスするのではなく、外国籍社員も含め、さまざまな多様性のある人材を取り入れることが重要です。そのために、キャリア採用も積極的に進め、全採用数の30%をキャリア採用にすることを目標に掲げています。

「多様な人材と挑戦する風土」に関する指標と目指す方向性

もう一つ重要なのが、「挑戦する組織風土」を作ること。人は仕事を通じて成長するとの考えから、「手挙げ」を重視しています。キリンホールディングスへの転籍や海外での越境学習、副業・兼業の解禁など、社員一人一人の主体的な成長意欲を後押しする制度を整備しています。

挑戦する風土の実現に向けて

こうした社内制度改革を進めるなかで、さまざまなイノベーションが生まれています。その事例の一つが、2019年にオープンした「シャトー・メルシャン椀子ワイナリー」です。お客様がワイン作りを体験しながらワインを楽しめる施設ですが、これは女性社員からの、「地域に貢献できるワイナリーを作りたい」という想いからスタートしました。

2015年に店舗をオープンした「SPRING VALLEY BREWERY」ブランドは、需要が減ると予測されるビールに対して新しい楽しみ方を提案するために、女性社員が自ら社長に直訴し、想いをカタチにしてできたものです。

事例)女性社員の活躍によるイノベーションの実現

また、若手社員が非公式に立ち上げた「キリンアカデミア」という企業内大学も、キリングループの挑戦する風土を体現するものです。平日の夜に社内外の多様な人のコミュニケティーを作り、勉強会やトークセッションを実施するなど、「キリンを挑戦志向の風土」に変革すべくリードしています。

多様性推進を加速させる採用戦略

事業のポートフォリオ変革に伴い、ヘルスサイエンス領域やICT・デジタルをはじめとし、求められる人材も変わってきました。イノベーションを実現できる高い組織能力のためには、これまで以上に戦略的な採用計画が必要になります。

従来の新卒一括採用だけではなく、求める人材要件を明確にし、多様な採用チャネルを用いながら採用を進める必要があります。

組織の立て直しという観点では、キリングループとして初となる、マーケティング部長の外部からの採用も実施。P&Gジャパン合同会社出身の方にジョインしていただき、マーケティング力改革などを図っています。

専門性と多様性を強化しながら、人材プールを充実させていくことも、今後の課題だと考えています。

経営戦略と採用戦略のつながり

Q&A

セミナー後半では、視聴者から寄せられた多くの質問にお答えいただきました。

セミナー参加者からの質問

Q1. 会社の目指す多様性推進のために社内コミュニケーションにどう取り組まれているのか、教えてください。

A. 多様性の推進は、これまでは女性中心のものにフォーカスしてきましたが、最近は男性、女性にかかわらず、個の「内なる多様性」を高める取り組みへと変化してきました。

副業・兼業の解禁、他社への出向など、多様な視点や考え方に触れる機会を会社としても支援しており、キリングループの文化にとらわれない外の意見を積極的に取り入れ建設的な議論ができるようになりました。現在は、社内アンケートを継続的に実施しながら、多様性の理解を「自分ゴト」として捉えられているかどうか、把握を進めています。

セミナー参加者からの質問

Q2. 多様性といっても外国籍や障害者、LGBTQの当事者など、たくさんの観点があるかと思いますが、その中でも女性に注力している理由はありますでしょうか。

A. 人事の基本理念である「人には無限の可能性がある」との考えのもと、性別・国籍・障害の有無を問わず、自身の能力を最大限発揮してほしいと考えています。

私たちのお客様のおおよそ半数は女性ですので、女性活躍は事業の推進にとって必要ですが、障害者・LGBTQの方々が感じている課題に向き合うことも同じように大事だと考えて進めています。

セミナー参加者からの質問

Q3. キリングループで求める女性のリーダー像を教えていただけないでしょうか。女性リーダーをサポートするために取り組まれていることはありますか。

A. 「管理職になりたい」と思う女性社員がまだまだ少ない現状です。そこで、管理職のやりがいを伝えるべく、管理職登用手前の女性社員に向けて、経営リテラシーや戦略構築力・リーダーシップを養成する「キリンウィメンズカレッジ」などの研修を実施しています。

リモートを活用し、子育てをしながら研修に参加できる制度にしたり、動画でキャッチアップできるようにしたりと、参加することへの障壁を取り除いて女性活躍を推進しているのが現状の取り組みです。なお、キリングループでは、組合員から会社側に移った職位を「管理職」ではなく、「リーダー・経営職」と呼んでいます。

セミナー参加者からの質問

Q4. 管理職の比率について女性リーダー層を11%から30%へという目標ですが、男性と女性とでリーダーに登用する条件は変えているのでしょうか。

A. 変えていません。

30%という目標は、決して楽な数字ではないと思っています。今は、「経営職にチャレンジできる女性のプールができてきた」というのが現実的な認識です。背中を押すための研修を実施し、まずはチャレンジしてもらうというのが現在のフェーズです。

登用条件を変えずに進めるうえでのハードルには、現在の管理職者のバイアスがあります。例えば、「これは女性だと難しいのではないか?」「子育て中の女性には難しいのではないか?」と男性側が無意識に決めてしまっていることがある。当人以上に周囲の意識変革を進めることが課題で、アンコンシャスバイアスの研修も行っています。

セミナー参加者からの質問

Q5. 中途社員の登用が増すと新卒時から在籍する社員のやる気を削いでしまうとも考えられますが、どう対処されていますか。

A. 中途社員でも新卒社員でも「成果を出して処遇が上がっていく」のが大前提としてあります。

採用入口にかかわらず、マネージャーが評価するポイントはフェアであり、新卒社員もいい意味で刺激をもらい、いい競争環境になっていると思います。

セミナー参加者からの質問

Q6. 22年新卒採用に関して「キリングループの面接を通じて志望度が上がった」という話をいろいろな方から伺いました。「面接」に関して、新たな取り組み等を実施されたのでしょうか。

A. そのようなお声があることをうれしく思います。ありがとうございます。大きく変えてきたところは特にないのですが、「学生の話を聞く時間が他社と比較して長い」と、学生の皆さんからも言われます。

学生の皆さんのやりたいことを十分聞き出すのはもちろん、CSVへの取り組みや仕事のあり方を伝える時間をしっかり取ります。学生の皆さんの社会課題への興味の高まりを感じており、それにきちんとお応えすることで、会社への理解が上がっているのではないでしょうか。

セミナー参加者からの質問

Q7. 副業を解禁した理由、制度として奨励されるまでに障害をどう乗り越えたか、教えてください。

A. 副業・兼業解禁に向けては、制度設計から時間をかけて準備してきました。社外の経験やつながりを通じて、新しい視点や考え方を身につけることや、専門性を高めることができる点で、副業・兼業には価値があります。

長時間労働や本業がおろそかになるリスクはありますが、できる限り環境を整え、個の「内なる多様性」を高めることが大事だと考えています。副業目的が、個の成長や多様性推進ではなく金銭目的のみの場合は、会社として許可しないなど、きちんとチェック体制も整えています。

セミナー参加者からの質問

Q8. 経営人材育成の「社長塾」ではどのようなことをしているのでしょうか。

A. CxO候補者を集め、20名弱の選抜メンバーで研修を実施しています。

キャリアの早い段階から社長と対話することで、会社の現状や将来についての理解を深めたり、外部経営者との対話を通じ、経営リテラシーを高めたりしたうえで、グループで経営課題に向き合い、社長へのプレゼンテーションなどを行っています。

セミナー参加者からの質問

Q9. 新卒採用の場合の女性採用比率はどれくらいですか。女性の定着率は男性とどれくらい差があるのですか。男女の能力特質差は実際にあるとお考えですか。

A. 女性の採用は全体の4割を超えています。目指しているのは、どのポジションでも男女半々となることです。

定着率については、まだまだ女性のほうが低いのが現実です。女性はどうしてもライフイベントにより仕事から離れる時間が生じやすいため、男性と同じスピードで仕事をしていると男性よりもキャリアが遅れてしまう傾向があります。そこで、男性より早いタイミングでチャレンジングな仕事をアサインし、仕事復帰したときに遅れないように、キャリアの早回しプランを設計しています。配偶者の転勤時の対応、選抜研修への参加の在り方などを含め、キャリアへの障害をできるだけ取り除いていきたいと考えています。

◆   ◆   ◆

セミナーの最後に、視聴者の皆様に向けてメッセージをいただきました。

濱 利仁氏

大変多くの方に関心を持ってセミナーをご視聴いただき、とても驚いています。キリングループとしても、多大な時間をかけて、ようやくこのレベルに来られた…というのが現状。まだまだ加速させていかなければいけません。

新しい施策や制度設計などを「始める」ことには、必ず抵抗があり、いろいろな意見に阻まれることもあると思います。でも、社会変化のスピードは速くすぐに時間がたってしまう。少しでも前に進めようという気概で動かすことが大切です。

今日の話が、少しでも参考になったのであれば、また事例を共有させていただければと思います。ありがとうございました。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。