企業は、さまざまな考え方や価値観を持つ人材が集まり、組織として運営をしています。組織においては、個人が持つ能力やスキルも重要ですが、組織力の強化に効果的な概念として近年、注目されているのが「マインドセット」という言葉です。社員の考え方や行動特性を変革させるために、マインドセット教育を行う企業も増えています。
今回の記事では、マインドセットの意味や活用方法、企業や組織の成長に欠かせない「成長マインドセット」の伸ばし方について解説します。また、面接の際にマインドセットを見極める質問例もあわせて紹介します。
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マインドセットとは

人材育成やコーチングの場面において、マインドセットという言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。まずは、マインドセットの基礎知識として、意味や種類、企業にとって重要な理由を解説します。
マインドセットの意味
マインドセット(mindset)とは、 “物事を判断したり行動したりする際の基準となる考え方”という意味を持つ言葉です。これまでの経験、持っている価値観・先入観などから作られる思考・行動パターンを指し、「思考のクセ」「無意識の習慣」などと言い換えられます。
ビジネス用語としては、「考え方の基本的な枠組み」という意味で使われるのが一般的です。人間的成長や仕事のパフォーマンスはマインドセット状態によって左右されるため、企業の成長を促進させるには、社員がどのようなマインドセットを持っているかを把握することが重要です。
マインドセットの種類
マインドセット研究の第一人者であるスタンフォード大学心理学教授のキャロル・S・ドゥエック教授によると、マインドセットは「成長マインドセット」「硬直マインドセット」のいずれかに分類されます。
同じ状況下にあっても、どちらの思考タイプを持つかによって、その後の人生や成果に大きな違いが出てくるといわれています。それぞれの特徴は以下のとおりです。
- 成長マインドセット
「グロースマインドセット」ともよばれ、根本には「能力は努力次第で伸ばすことができる」という考えがあります。このタイプは、困難な状況にあったとしてもそれを乗り越えた先にさらなる成長が待っていると考えるのが特徴です。
- 硬直マインドセット
「フィックストマインドセット」ともよばれ、「能力はもともと決められており努力をしても変わらない」という考えが根本にあります。現状維持に徹することがベストと考えるため、それ以上の成長が見込めないでしょう。
2つのタイプは対照的です。たとえば、「営業活動で成約に至らず、失注をしてしまった」という場合、成長マインドセットを持つ人は何が原因で失注に至ったのかを分析し、その後の改善に役立てようとします。
一方、硬直マインドセットが根本にあると、結果だけをもとに失敗と判断してしまいます。なぜ失注に至ったのか、原因の分析ができないため、失敗を教訓として成長することができません。
また、マインドセットには「個人のマインドセット」と「組織のマインドセット」が存在します。
個人の心理状態や考え方を表す個人のマインドセットは、性格や価値観などから形成されます。人生における経験や世の中の流れによって変化し、自己認識によって改善することも可能です。周囲に伝播していくという特徴があるため、社員一人一人が成長マインドセットを持つことで、組織に浸透した硬直マインドセットから脱却できると考えられます。
組織のマインドセットは、経営理念やビジョン、事業の特性や経営スタイル、歴史、成功体験などにより形成される企業独自の価値観のこと。社風や企業文化によってあらわれるケースが多いのが特徴です。
企業にとってマインドセットが重要な理由
企業が成長していくためには、成長マインドセットが重要となります。主な理由は以下の2つです。
- 事業の継続的な成長を促進する
- 新しいことに挑戦できる企業風土が醸成される
成長マインドセットが浸透していると、事業が不調なときは困難な状況を乗り越えるためにあらゆる社員が改善に向けて解決策を考え、実行できます。思うような結果が出なくても諦めずに、失敗を教訓に改善を繰り返していくことで、成功する確率を高めていけるため、事業の持続的な成長につなげられます。
そのような組織には、現状に満足することなくつねに挑戦するという文化が根付いています。社員に対して積極的に新規事業のアイデアを求めたり、業務プロセスの改善を求めたりする組織風土が醸成されているのが特徴です。
一方、組織全体に硬直マインドセットが浸透していると、失敗を教訓にできず「困難を乗り越えることは難しい」と、挑戦することを諦めるような雰囲気が蔓延します。失敗は「環境や他人が原因」と考え、従来のやり方に固執し続けることで企業の業績が悪化し、社員のモチベーションが低下、それによって、さらに業績も悪化していくという負のスパイラルに陥る可能性があります。
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マインドセットの活用方法

ビジネスシーンでマインドセットを活用する場面は、主に3つです。「人材育成」「人材採用」「目標設定」での活用方法をそれぞれ、解説します。
人材育成
人材育成においての活用目的は、成長マインドセットの獲得です。コーチングや研修を用いて社員に成長マインドセットを身に着けさせることで、企業の持続的な成長を目指します。
社員のマインドセットを良い方向に変化させることに加え、それぞれが持つスキルや能力もあわせて強化する「戦略思考」を持ったマインドセット教育が大切です。そのほか、これまでの経験を紙に書き出すなど整理してもらい、結果ではなくプロセスを褒めることで、思考パターンをポジティブに変化させられるでしょう。
目標設定
マインドセットは社員の目標設定を行う際にも有効です。
「努力すれば能力は伸ばすことができる」という成長のマインドセットを形成していれば、前向きな目標を掲げられ、達成するために何をすべきかを主体的に判断できるでしょう。社員本人の成長に加えて、自律性を発揮できる組織風土の形成にもつながり、結果として業績や企業力の向上にも期待できます。
反対に、「努力しても能力は変わらない」という硬直マインドセットの考え方だと、設定する目標も消極的になってしまい、仕事へのモチベーションを維持できなくなる可能性も。適切な目標を設定するためには、成長マインドセットの考え方を活用するのが大切です。
人材採用
人材を採用する際にマインドセットを確認するという活用方法もあります。「どのようなマインドセットを持っているのか」という点や、「成長マインドセットが形成されているかどうか」を選考段階で見極めます。
成長マインドセットは周囲に伝播し、良い影響が広がっていくのが特徴です。人材を採用し、受け入れ、活用するという戦略的な人員配置を行うことが前提となりますが、成長マインドセットを持つ人材の採用は既存社員にとっても刺激となり、組織全体にその考えが浸透していくきっかけになる可能性があります。
また、新たな人材が組織のマインドセットに合致しているかどうかを判断することで、社風とのミスマッチを避けられ、早期離職の防止につながるでしょう。採用時に候補者のマインドセットを確認する方法については、後述する「マインドセットを見極める質問例」の項目で詳しく解説します。
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成長マインドセットの伸ばし方

組織に成長マインドセットを浸透させるためには、社員のマインドセットを変えていく必要があります。成長マインドセットを伸ばしていくために有効な4つのポイントを紹介します。
失敗を分析し、改善につなげる
組織を成長させるためには、失敗した際に、それが「人」に起因するものなのか、「プロセス」に起因するものなのかを分析して改善しようとする姿勢が必要です。分析しないまま「人」を責めるような組織風土があると、課題が曖昧なままになってしまいます。
失敗に至った原因を把握させ、今後どう改善するのか、そのための行動も含めて評価することで、社員はもちろん組織の成長にもつながっていきます。
「ポジティブフィードバック」を取り入れたマネジメント
成長マインドセットの浸透においては、マネジメント層の役割が重要です。
たとえば、業務でミスをした社員がいた場合、失敗の事実を責めるだけでは、社員は萎縮し、自分の行動に対して自信をなくしてしまうでしょう。
ミスがあったとしても、取り組んだ一連のプロセスのなかにも、正しい判断を行った部分や褒めるべき行動があるかもしれません。そのような部分を前向きな言葉で評価する「ポジティブフィードバック」を取り入れつつ、ミスをした部分に関しては適切に指導することで、社員のモチベーションを維持しながら、成長マインドセットを伸ばすマネジメントが可能になります。

マインドセット研修の実施
社員に対してマインドセットそのものを体系的に理解してもらうためには、マインドセットに関する研修の実施も有効な方法です。
研修では、成長マインドセットと硬直マインドセットの違いを社員に理解してもらったうえで、社員自身や部署全体の考え方のクセを認識・自覚してもらうとよいでしょう。社員の環境が変わる前にマインドセット研修を行うのも効果的とされ、具体的には以下のような研修で実施されます。
- 新入社員研修
入社した段階で成長マインドセットを身に着けさせます。新卒社員は社会人経験がないため吸収力が高く、企業のビジョンなどを定着させるのに効力を発揮するでしょう。
- レンタル移籍型研修
主に大企業の社員がベンチャー企業に移籍する際に行われ、創造に必要なスキルやマインドセットを身に着けさせます。
- 海外赴任前研修
海外赴任前の社員に対して実施する研修です。現地でも成果を上げようとする前向きな気持ちや、行動力を発揮できるマインドを根付かせることが目的です。
研修を通じて成長マインドセットの重要性を理解してもらい、社員自身や部署としてできる取り組みの考案、実践につなげていきましょう。
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社員の能力や資質を伸ばす施策の実施
成長マインドセットを伸ばしていくためには、社員自身に「能力や資質を向上させたい」という意識が芽生えたとき、企業としてそれをサポートできる体制を整えておくことが重要です。具体的には、スキルアップを目的とした社内研修の実施や、資格手当の導入などを検討しましょう。
ただし、そのような施策の実施を検討するにあたっては、経営戦略や人事戦略などと連動させ、PDCA(計画・実行・評価・改善のサイクル)を回すための効果測定を含めて設計する必要があります。
マインドセットを定着させるためのポイント

マインドセットは、これまでの経験や価値観などから形成されるため、考え方が直ちに変化する可能性は低いといえます。そのため、以下の3点を意識し、徐々に定着を図ることが重要となります。
- 小さな成功体験を積み重ねる
- 中長期的なビジョンを意識する
- ポジティブな言葉を使用する
高い目標を掲げ、それを達成することで成功マインドセットを得るという方法もありますが、時間を要するほか、途中で挫折してしまう恐れもあります。そこで、「きょうのタスクを確実にこなす」「今週中に企画書を仕上げる」など、再現性の高い目標から達成し、「挑戦すればできる」という意識を根付かせていきます。
同時に、中長期的なビジョンを明らかにさせることも大切です。将来成し遂げたいことや理想とする未来を描き、それらを意識して行動します。明確なビジョンは行動指針となり、達成に向けて主体的に動けるほか、途中で起きた失敗も糧にできるでしょう。
また、普段からポジティブな言葉を使用することで、マインドセットを成功型に変容させていくのも有効です。たとえば、お礼を述べるときに「すいません」といってしまうクセがある場合、「ありがとうございます」と言い換える、「○○しなきゃ」と感じた際には「○○しよう!」と口にしてみるなどの例が挙げられます。
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マインドセットを見極める質問例

ここからは、採用において「候補者が成長マインドセットを持っているかどうか」を見極める方法について紹介します。
たとえば、マネジメントコンサルティング会社の株式会社識学では、自社の採用基準として以下8つの要素をベースにマインドセットを評価し、採否を決定しています。
- 自己評価:自身の価値を自身が決めると考えている度合い
- 組織内位置認識:自社に位置している意識(所属)、上司を上司と思っている度合い(上下関係)。これらの意識の度合い
- 結果明確:自身のミッションをどの程度明確に捉えられているかの度合い
- 成果視点:やる前に熟慮する度合い やる前のプランニングに時間をかける意識の強さ
- 免責意識:他責思考の強さ
- 変化意識:成長したいという指向性の強さ
- 行動優先意識:速やかに取り掛かる、繰り返し取り組む、といった意識の強さ
- 時感覚:スピード感 時間短縮に価値があるという感覚の強さ
引用:オンライン面接で「絶対に採ってはいけない人材」を見抜ける質問2つ|PRESIDENT WOMAN Online
これら8つの要素に対する考え方を見分けるには、「難しい課題や状況」など、ネガティブな事柄に直面した際の反応や考え方を聞き出すことが有効と考えられます。2つの例をピックアップして解説します。
「思考プロセス」を引き出す質問|インシデントプロセス面接
「インシデントプロセス面接」とは、面接官がインシデント(問題のある事例)を提示し、候補者が質問を重ねることによってインシデントのもととなる課題や原因を突き止めるという面接手法です。一連の工程をもとに、候補者の思考プロセスを引き出す目的で行われます。
たとえば、以下のような事例の提示をもとに進めていきます。
「製造部門にある5つのチームのなかで、自身が所属するAチームだけが生産性目標を大幅に下回りました。これについて自由に質問し、課題とその解決策を考えてください」
生産性目標を達成できなかったチームの問題点を探り、その問題が起きている原因および課題を突き止め、どのような対策を講じれば生産性目標を達成できるのか、解決策を候補者に考えてもらいます。
インシデントの原因・課題を見分けるためには、たとえば「Aチームにのみ経験の浅い作業員が多く配属されていないか」「Aチームの作業だけが工程が複雑で、多くの工数を要していないか」など、さまざまな質問が考えられるでしょう。
課題に対する解決策を導き出すうえで、思考プロセスがいかにロジカルであったかを評価します。そして、成長マインドセットを持ち合わせている人材であるかを判断するためには、事実を客観的に受け止め、成長につながる前向きな解決策を提示できるかが大きな要素となります。
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「事実・行動」を引き出す質問|コンピテンシー面接
「コンピテンシー面接」とは、候補者が過去に経験したことや取り組みに対して質問を重ね、掘り下げていく面接手法です。
候補者が質問に対して嘘や誇張によって取り繕おうとしたりしても、質問を掘り下げていくことで、先に回答した内容と矛盾していたり、異なる内容の回答が出てきたりしやすいため、候補者の素の実力がわかりやすいという点がメリットです。
コンピテンシー面接は以下のような質問をもとに進めていくのが一般的です。
「仕事でミスをしたときの状況を教えてください。そのとき、どのようにしてミスをカバーしましたか?」
候補者に対する質問の掘り下げ方としては、「Situation(状況)」「Task(課題)」「Action(行動)」「Result(成果)」をもとに進めていくとよいでしょう。
【Situation(状況)】
- そのとき、どのような役割を担っていたのですか?
- チームや部署内で、あなたはどのようなポジションでしたか?
- 自分一人では対処できないほど大きなミスだったのですか?
【Task(課題)】
- ミスに至った原因は何だったのですか?
- ミスが発覚したのはどのタイミングでしたか?
- なぜミスに気づいたのですか?
【Action(行動)】
- ミスが発覚したとき、はじめにどのような行動をとりましたか?
- 上司や先輩社員などにアドバイスは求めましたか?
- ミスをカバーするために、そのような行動をとった理由をお聞かせください。
【Result(成果)】
- 顧客や取引先への影響は出ましたか?
- 再発防止のために、どのような対策を立てましたか?
- ミスから得られた教訓などはありましたか?
このように、具体的に質問を掘り下げていくことで、候補者の「行動動機」や「思考方法」、「実務能力」などが見えてきます。
上記の質問のなかで候補者のマインドセットを見極めるためには、
- ミスの責任を自分以外に転嫁していないか
- 上司や先輩社員に対してアドバイスや助けを求めることができたか
- ミスから得られた教訓をもとに、再発防止につながる具体的な対策を立てられたか
といった点に注目しましょう。
社員の成長マインドセットを伸ばすことは企業の成長にもつながる

マインドセットは社員個人の成長との関連性が高く、社員のマインドセットを変えることは企業全体の成長にもつながります。
研修やマネジメント手法を改善することで成長マインドセットを組織に根付かせる方法もありますが、成長マインドセットを持った人材を新たに採用することも有効な方法のひとつです。
今回紹介した、候補者のマインドセットを見極めるための質問例も参考にしながら、採用活動を通じて組織の成長マインドセットを伸ばしてはいかがでしょうか。
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