人事評価の骨格を形成する「評価基準」。どのような基準で人事評価を行うかによって、従業員が成長する方向性も、会社の業績も大きく変わります。
そこでこの記事では評価基準の作り方や運用のポイントを解説。MBOやOKRなど、活用できる評価制度や手法についても、あわせて紹介します。
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評価基準とは

評価基準とは、評価をするための尺度や比較するための標準のことです。「何を尺度として評価するのか」を定義するのが評価基準です。
詳しくは後述しますが、人事評価の分野では、能力評価、職務評価などの評価基準があります。
また、基準と似た言葉に「規準」がありますが、規準は「手本となる標準、ルール」などの意味があり、評価をするための尺度という意味合いでは使いません。
評価基準の重要性
評価基準が定まっていないと、評価者は非常にざっくりとした感覚的な評価しかできず、従業員もどのような指針で努力すればよいかがわからないため、評価基準を設けることは非常に重要です。評価者が適正な評価を行えるのも、従業員がよい評価を得るための指針を得られるのも、評価基準が定まっているからです。
また、人事評価における不満の要因としてよく挙がるのが「評価基準が不明瞭」なことです。自分が何を尺度として評価されているのかがわからなければ、会社からの評価に納得できるわけもありません。評価基準を定め、従業員に公表して理解を得ておかなければ、人事評価や会社に対する不信感を生んでしまうリスクがあります。
評価基準の種類

それでは、評価基準にはどのような種類があるのかを見ていきましょう。
基本的な3本の柱と呼ばれるのが「成果評価」「能力評価」「情意評価」です。3つの評価の結果を組み合わせ、賞与額、昇給額、昇格、降格などを決めていく方法は多くの企業で採用されています。
そのほかの評価基準として、近年は減少傾向にある「年功評価」についても解説します。
成果評価
成果評価とは、外的要因とは関係なく、従業員本人が生み出した成果をそのまま評価する評価基準です。
成果評価は、業績評価と活動実績評価の2つに分けて行います。
■業績評価
売上高の目標達成度、生産性目標達成度などその人の業績を見る
■活動実績評価
目標として掲げた課題の解決や課題目標の達成度、組織貢献活動実績などを見る
企業経営では常に結果とその結果についての責任を問われるので、成果評価は必要な評価基準であるといえます。
能力評価
能力評価とは、どこまで能力を発揮したかと、どこまで能力を獲得できたかを評価する評価基準です。
能力評価は知識評価と習熟能力評価の2つに分けて行います。
■知識評価
職務上必要とされる専門知識や業務知識、業務の進め方に関する知識を見る
■習熟能力評価
職務上必要とされる職務遂行能力を見る。具体的には、企画力、実行力、問題把握能力、提案力、育成力、リーダーシップなど
成果評価には景気や流行などの外的要因のフィルターがかかっていますが、能力評価と後述する情意評価は外的要因を取り除いた本人要因を評価するものです。これは本人の能力開発にもつながる重要な基準であるといえます。
情意評価
情意評価とは、どのくらい熱心に、真面目に仕事に取り組んだかを評価する評価基準です。
勤務態度や勤怠状況などから規律性、積極性、責任感、協調性、自己啓発性などを見るものですが、成果評価や能力評価と異なり評価があいまいになりがちなので、評価者は注意しなければならない評価基準です。
バリュー行動評価という形で、その会社のコアバリュー(社訓・社是)を実現できているかを評価するというスタイルもあります。
年功評価
上の3本の柱には入っていませんが、年功評価はこれまでの日本で主な評価基準となっていたものです。これはいわゆる年功序列のことで、年齢をベースとして、昇給や昇格などを決定する考え方です。
企業側としては新卒採用から年次で評価する手法は管理しやすく、従業員側としても将来像が描きやすいとして、支持されてきました。しかし近年は働き方が多様化し、人材の流動性が高まっていることなどから、年功評価を廃止する企業や年功評価の割合を下げる企業もあります。
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評価基準の作り方

評価基準は自社に適したものでなければ、従業員を正しく評価できません。評価基準を作る際は、上で紹介した成果評価・能力評価・情意評価という3つの評価基準をベースにして評価項目を作り、項目ごとに評価内容を決め、評価基準を形にしていくこととなります。
評価基準の作り方は以下の図の通りです。ここからは、プロセスごとに解説していきましょう。

1. 経営ビジョンや事業戦略を見直し、テーマを決める
そもそも、人事評価は人をマネジメントするためのものです。人事評価を通し、業績を向上させるための行動を従業員に実践してもらえるように示せると理想的です。
そのためには、自社の経営ビジョンや事業戦略を見直し、業績を向上させるために従業員に実践してもらいたいことを洗い出しましょう。
次に、どのような仕事の進め方で業績を向上させていくかという「テーマ」を決めます。また、経営ビジョンや事業戦略などではなく、社訓・社是からアプローチする方法もあります。
2. 評価基準の3本の柱ごとに、評価項目を設定する
評価項目とは、評価基準で定められた尺度に沿って「何を評価するのか」という部分のことです。
例えば1のプロセスで業績を向上させるために、テーマを「部署間で連携しながら新規商品の開発に力を入れること」と決めた場合は、企画部門のメンバーの評価項目はそれぞれ次の表のように設定できるでしょう。
■例
評価基準 | 評価項目 |
---|---|
成果評価 | 商品開発企画の開発実現数 |
能力評価 | リサーチ力、企画力、提案力、実行力、コミュニケーション力 |
情意評価 | 積極性、協調性 |
3. 評価内容を設定する
最後のプロセスは評価内容を設定することです。評価項目を実際に評価するためのものが評価内容です。ここには具体的な数字や能力、行動などが入ります。
先ほどと同様に、テーマを「部署間で連携しながら新規商品の開発に力を入れること」とした場合、企画部門のメンバーの評価内容は次の表のように設定できるでしょう。

評価基準を形にしていく流れを理解できたでしょうか。上の表はあくまで1つのテーマに沿った、企画部門のメンバー向けの評価基準作りの一例です。実際の人事評価では複数のテーマが存在することが多く、部署や部門によって評価項目や内容も異なってきます。
評価基準を決めて運用していくうえでのポイント

定めた評価基準を実際に運用していく際は、その評価基準がうまく機能するよう以下のポイントに注意する必要があります。
- 評価基準を明確にする
- 評価基準の理解を促す
- 評価基準を順守する
- 評価者は責任を自覚する
- 公正な評価を行う
ここからは、設定した評価基準を円滑に運用していくためのポイントについて解説していきます。
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評価基準を明確にする
まず大切なのは、評価基準を明確にすることです。どのような評価基準で評価を行うか、人事評価を行う前にあらかじめ社内に明示しておきましょう。評価基準を明らかにすることで、従業員の人事評価に対する納得感を高められます。
また、評価基準を明確にすることで、会社にとって何が望ましい行動であるかを従業員に示せます。従業員としても高い評価を得るための行動指針が得られることになるため、「よい評価を得るためにがむしゃらに頑張る」という必要がなくなり、本当にすべきことに力をより注げるようになります。
ただし、評価基準を明確にすると、デメリットがあることも理解しておきましょう。評価基準が明確になることで、現場の評価担当者は今まで自身の裁量で調整できていた「ゆとり」がなくなり、細かい評価まで現場で必要とされるようになってしまうため、業務量が増える傾向にあります。
また、被評価者である従業員にとっては、評価の基準が明確になることで評価項目や評価内容が細分化される傾向にあるため、自己評価の作業量が増えてしまいがちです。
さらに、評価者と被評価者の負担が増すということは、その準備や運用、管理、ケアなどを行う人事担当者の負担も増えるでしょう。
こうした負担を軽減するためにも人事担当者や評価者には、各部署の従業員と日頃からコミュニケーションを取って現場の理解を深めることや、評価基準の項目や手法について浸透させておくことが求められます。
評価基準の理解を促す
評価基準は明示するだけでは不十分です。従業員一人一人に「なぜこの評価基準を採用しているのか」を理解してもらうことが大切です。
そのためには資料を用意し配布したり、人事や管理職は、従業員に評価基準について尋ねられた際に納得感のある説明ができるようにしておいたりするとよいでしょう。
評価基準を順守する
評価基準を定めて運用する際は、評価基準を守って評価しなければ意味がありません。基準を順守するためには、評価項目や評価内容に過不足がないかを設計段階でよく確認しておくとともに、評価者が評価項目や内容をよく理解しているかという点にも気を配る必要があります。
評価者が評価基準・評価項目・評価内容を理解できていなければ、基準を順守して正しく評価することはできません。評価者への研修を行うのも一つの対策方法です。
評価者は責任を自覚する
評価者に対して、「評価を行うということは、評価される側の従業員の成長に責任を負うことだ」という自覚を持たせるようにします。
評価結果がよい・悪いにかかわらず、必ず成長させるという気概を持って評価にあたることが理想的です。従業員の成長は企業の成長にもつながるので、自身の評価は会社全体の成長にも影響するのだという意識を持つことも大切でしょう。
公正な評価を行う
評価は公正であることが大前提です。評価がセクハラやパワハラ等の手段として利用されたり、個人的に気に入らない部下をおとしめるために利用されたりする状況は、あってはならないことです。
通常、誰がどのような評価を受けたかということは公表されないため、公正ではない評価がされていても周囲は気がつきにくいものです。人事部門は、今まで非常に評価が高かったのに急に悪くなった人、反対に急によくなった人に関しては、評価者が「公正ではない評価」を行っていないか、特に注意して確認したほうがよいでしょう。
このような観点から、評価者との面談以外にも人事部門による面談を行うなどして、閉鎖的な状況にならないよう気を配る必要があります。
人事評価に用いられる評価制度とは

「何を尺度に評価するか」を表すのが評価基準で、「どうやって評価するか」という手法を表すのが評価制度です。これは評価手法とも呼ばれます。
人事評価には、どのような評価制度が用いられているのでしょうか。ここでは、MBO、OKR、KPI、360度評価、コンピテンシー評価の5つを紹介します。評価基準とあわせて活用してください。
実際の運用では、1つだけでなく、複数の評価制度を組み合わせる企業も多く見られます。どのような評価制度を用いるかは、評価基準と同様に従業員の働き方や企業全体に大きな影響を及ぼすので、慎重に検討しましょう。
MBO
MBOはManagement By Objectivesの略称で、日本語では目標管理制度といいます。個人やチームであらかじめ目標を設定し、その達成度を評価する評価手法で、能力やスキルの評価など、評価基準でいうと能力評価に適した手法といえます。目標とその達成度を評価するので、成果評価にも使えるでしょう。
MBOは達成すべき目標の内容や期限が明確なので、従業員も努力の方向がわかりやすく、モチベーションアップやスキル向上が期待できます。
また、目標を経営ビジョンや事業戦略と連動させれば、業績向上につなげやすいことも特徴です。ただし、目標設定が難しい場合があることや、従業員が目標達成にばかり集中してしまい目標と関係のない業務をしなくなるといった問題が起こる可能性もあることを知っておきましょう。
MBOは、最初の目標設定をいかに適切なものにするかということと、進捗を確認しながら随時目標を見直すことが大切になってきます。
OKR
OKRはObjectives and Key Resultsの略称で、Googleなどが取り入れていることで注目されている目標管理手法です。O(Objectives)は全社・部門・個人それぞれで達成したい目標、KR(Key Results)はOが達成されているかを測る指標を表しています。目標管理の手法であるため、MBOと同様、能力評価や成果評価に適しています。
OKRを仮に設定すると、例えば、以下のようになります。
- O:アジアでのトップシェアを確保する
- KR:受注率を15%上昇させる
OKRは「会社のあらゆる人や組織が一丸となって共通の方向に全力で取り組むことで組織の生産性を高めること」が目的で、短いスパンで設定・実行・評価・再設定を繰り返すことも特徴です。
短いスパンなので目標の管理が柔軟に行えること、目標の設定スピードが速いこと、社内の一体感を醸成することなどから、生産性の向上や事業への貢献度が高まることが期待できます。一方、仕組みの整備や全従業員を巻き込むために手間がかかる点には留意しましょう。
KPI
KPIはKey Performance Indicatorの略称で、日本語では重要業績評価指評とも呼ばれます。「KPI管理」というように「管理」がつくと、目標管理手法のことをさします。
KPIは例えば営業の受注数、受注単価、マーケティングのPV件数、人事の採用面談数など、具体的な数値で表します。数値で表すことから、成果評価に適しているといえます。
KPIのメリットは、KPI管理で取るべき行動やプロセスが明確になるので、従業員の行動の指針になること、人事や労務など成果が見えづらい間接部門の目標も可視化できること、具体的な数値で表すため公平な評価ができることです。
一方、KPI管理の目的が理解されていないと、数値目標だけを追求してプロセスが軽視されてしまう可能性があるため、事前に研修を行うなどしてよく理解する必要があります。
KPIと類似した概念にKGI(重要目標達成指標)とKSF(重要成功要因)があります。KPIとの違いについて、詳しくはこちらの記事でご覧いただけます。
360度評価
360度評価は、上司、部下、同僚といった複数の立場の人が従業員を多面的に評価する方法です。勤務態度や意欲など、情意評価を行うのに適した手法といえます。
上司だけでなく、部下や同僚といった普段仕事を一緒にしている仲間も評価する点が特徴で、複数人での評価により公平性や客観性が高まる、評価者による評価のブレを抑えられる、本人の認識と周囲の評価のギャップに納得しやすいといったメリットがあります。
一方、周囲からの評価を気にして業務がうまくいかなくなる、人間関係が悪化する、評価に慣れていない評価者の場合にはばらつきが生まれやすいといった問題が起こる可能性もあることを認識しておきましょう。
これらの問題への対策としては、評価結果と処遇を切り離したり、評価者を伏せて匿名性を確保したり、説明会や研修を通して評価を行う従業員全体への理解を促すなどの施策を行います。
コンピテンシー評価
コンピテンシーとは、業務の遂行能力のことです。「能力や業績が高い従業員に共通する行動特性」に基づいて設定された評価項目に従って評価するのが、コンピテンシー評価です。
業績が高い人には「専門知識が豊富である」「積極的に新しい情報を取りにいく」など、ある程度共通した特性があり、これが業績に大きく影響しているとする考え方がコンピテンシー評価の根幹です。社内で業績が高い人の行動特性を分析することで、なぜ高い業績を上げられるのかを分析し、人材育成にも役立てようという手法です。評価基準では能力評価に適しているといえるでしょう。
コンピテンシー評価には従業員が評価に納得しやすい、評価が比較的容易、業績向上につなげやすいなどのメリットがあります。一方で、「能力や業績が高い従業員に共通する行動特性」を設定することが難しい点が問題として考えられます。
さまざまな人材を1つの型に当てはめることに無理が生じる場合もあるでしょう。観察やヒアリングを行い、部門ごとに目指すべき従業員像をよく検討したうえで運用する必要があります。
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まとめ

評価基準は従業員の行動の指針にもなり得る重要な基準です。企業としてどのような経営ビジョンや事業戦略を持ち、どのようなことを達成したいのかを考えたうえで決める必要があります。基準を定めるにはある程度の試行錯誤が必要ですが、上手に活用して従業員のモチベーションも業績も向上させていきましょう。
記事全体の参考文献:
高原 暢恭(著)「人事評価の教科書―悩みを抱えるすべての評価者のために」労務行政(刊)
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