現在、少子高齢化などの影響を受け、人材不足に悩まされている企業が増えています。人材が不足するなかで従業員を採用し、適切に配置していけるかは企業の業績向上にとって重要といえるでしょう。それをサポートしてくれるものとして注目されているのが「人材ポートフォリオ」です。
本記事では、人材ポートフォリオとは何か、注目される背景を紹介し、実際に人材ポートフォリオを作るうえでのポイントや手順も解説します。
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人材ポートフォリオとは?

そもそも「ポートフォリオ(portfolio)」には、「書類入れ」「紙挟み」といった、「目的のある書類の束」の意味があります。それが転じて、株の世界では「有価証券一覧表」の意味で、デザイナーなどクリエイターの世界では「自身の作品をまとめた作品集」の意味で使用されるようになっています。
そして人事の世界では、「人材ポートフォリオ」として、企業内の人的資源の構成内容を指す言葉になりました。具体的には、「社内のどこに」「どんな人材を」「どのくらいの人数」配置すればよいかを分析、設計したデータのことを意味します。さまざまな経験やスキルを持った従業員を適切に配置し、業績向上の最大化を目指す人材マネジメント手法の1つとして考えられています。人的な資源を可視化でき、人材配置をはじめ、採用計画や人材育成、評価など、人事の要を担います。
人材ポートフォリオの作成は、2つの軸を用意してセグメント分けを行う方法が一般的です。軸をどう設定するかが重要で、下記は普遍性の高い「チームー個人」と「新しい価値―既存手法」の軸を用いた人材ポートフォリオのイメージ図です。軸を決めたら、セグメントごとの構成比などを決め、人事にかかわる業務や戦略の効率性・生産性を高めていきます。

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人材ポートフォリオが注目される理由

人材ポートフォリオが注目される理由がいくつかあります。それらを、4つの項目に分けて紹介します。
- 労働力人口の減少
- 雇用形態の多様化
- 労働環境・ビジネス環境の変化
- グローバル化
労働力人口の減少
人材ポートフォリオが注目される背景の1つは、労働力人口の減少です。
少子高齢化の影響などにより、日本は労働力不足が社会問題になっています。総務省によると、労働力人口(15 歳以上人口のうち,就業者と完全失業者を合わせた人口)は、2021 年平均で 6,860 万人と、前年に比べ8万人の減少。また、15~64 歳の生産年齢人口は、2021年平均で5,931万人と、前年に比べ15万人の減少となりました。そこで、少ない従業員の労働力をより効率的に活用するために、人材ポートフォリオが必要とされるようになりました。
人材ポートフォリオを活用すれば、「注力すべきセグメント」「セグメントごとの人数」を明確にして、少ない労働力で最大の効果を発揮できるようになるでしょう。
雇用形態の多様化
雇用形態の多様化も、人材ポートフォリオが注目される背景の1つです。
かつての年功序列制度や、終身雇用が日本企業で限界を迎え、見直されつつあります。また、「正規雇用」「非正規雇用」「業務委託」「副業」など、一人一人のライフスタイルや価値観に応じて働き方が多様化しています。
そのため企業は、従来の雇用形態の枠を超えた人材の活用を実現しなくてはならなくなり、適材適所の配置を実現する人材ポートフォリオを積極的に活用するようになりました。
労働環境・ビジネス環境の変化
女性の社会進出、共働き家庭の増加、高齢者の積極活用、ワークライフバランスの実現など、労働環境が大きく変化しています。企業は現在、それに対応できる人事体制を構築する必要に迫られています。そこで人材それぞれの特徴を見極め、その特徴に応じた適切な配置を行える人材ポートフォリオが注目を集めているのです。
またIT技術の進歩、AIの導入などにより、ビジネス環境が年々、めまぐるしく変化しています。そのスピード感に乗り遅れることなくビジネスを展開するためには、適切な人員配置を行う必要があり、人材ポートフォリオが有効な手段とされています。
グローバル化
経済のグローバル化も、要因の1つです。
経済がグローバル化すると、労働市場のグローバル化も進行します。企業にとっては、国内、国外を問わず優秀な人材を採用できるメリットがある一方、人件費の効率化や削減などを同時に調整する必要があります。その際に有効な手段として、人材ポートフォリオが活用できます。
人材ポートフォリオを作るメリット

さまざまな要因で注目を集める人材ポートフォリオですが、作成することで企業にはどんなメリットがあるのでしょうか? 3項目に分けて、メリットを紹介します。
- 人材配置の最適化
- キャリア形成のサポート
- 人材の過不足の把握
人材配置の最適化
人材ポートフォリオを作成するメリットの1つは、部署やプロジェクトに沿って最適な人員配置が可能になることです。
従業員一人一人の強みや弱点、思い描くキャリアなどを、人材ポートフォリオによって可視化することで、部署やプロジェクトの特徴、目標に合わせて人材が配置できるようになります。
効率的に目標を達成できるだけでなく、中長期的な視点に立った人材育成にもつながるでしょう。自身の特性をいかして業務にかかわることも可能になり、従業員のモチベーションアップにつながる点もメリットといえます。
キャリア形成のサポート
人材ポートフォリオの作成は、従業員のキャリアサポートにも役立ちます。
現在、働き方が多様になっており、キャリアプランも従業員それぞれで異なっています。人材ポートフォリオを作成すると、各従業員の得意なことや苦手なこと、業務の適性や志向するキャリアプランなどを把握できるようになり、将来的にそれぞれに適したポジションを提案しやすくなります。
キャリアサポートの実現は従業員のモチベーション向上にも期待でき、それによって業務の生産性が上がる可能性もあります。
人材の過不足の把握
3つ目の人材ポートフォリオを作成するメリットは、人材の過不足をマネジメントできることです。
人材ポートフォリオを作成すると、自社内の人材の余剰具体や、不足する人材の特徴を把握できます。そうすると、プロジェクトや部署ごとの過不足を把握でき、採用や配置、教育の面で適切な対応を取れるようになります。
また、原則として無期雇用の従業員と雇用期間が限られている派遣スタッフの役割を明確にすると、人材を無駄なく配置でき、人件費の削減にもつながります。
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人材ポートフォリオの作り方

人材ポートフォリオを作成する際に踏むべきステップを、以下に紹介します。
まずは「人材ポートフォリオを作成・活用して何をしたいのか」という目的を明確にしましょう。多くの企業では、経営目標を達成し成果をあげるうえで必要な人的資源を、客観的に可視化するために人材ポートフォリオを作ります。従業員を適材適所に配置することを作成の目的とするなら、企業の経営戦略を踏まえて「軸」や「必要人数」を把握することが重要です。経営戦略を反映することで、経営目標の達成に向けた一貫性が生まれます。
軸を設定する際は、自社の強み・弱みを分析し、どのように企業を運営していくかを検討します。経営戦略・目標を整理したら、人材ポートフォリオを作成する目的に反映しましょう。
自社の事業内容や経営計画に必要な人材は、どのようなタイプなのかを決めます。横軸(X)と縦軸(Y)の2軸を設定するとわかりやすいでしょう。
たとえば「専門職―総合職」の軸に、「個人でする仕事が得意―チームでする仕事が得意」「創造―運用」など、企業の事業内容や企業目標に合わせた軸を組み合わせる方法は汎用性が高いとされています。
ポイントは、「今、自社で用意できる人材タイプ」だけではなく、「将来的に必要になる人材タイプ」も含めることです。X軸とY軸で分けられた4つの領域の人材が、ポートフォリオ設計の基準となります。
次に、2つの軸で定めた4つの領域に自社の人材をあてはめていきます。
その際のポイントは、評価者の主観が入らないよう客観的で信頼できるデータに基づいて分類することです。科学的な根拠がある適性検査の結果や、従業員のスキルや知識・経験をデータ化したスキルシートなど、従業員が納得できるようなデータを用意しておくとよいでしょう。
どの領域にどれだけの人材が属するかを分類できたら、「多すぎる」「少なすぎる」人材タイプを見極め、理想の配置人数と比較する必要があります。
たとえば、「オペレーションを担う人材に対してマネジメント人材が多すぎる」場合や、「総合職に対して専門職が少なすぎる」場合など、自社の人材における偏りが人材ポートフォリオによって確認できるようになります。すなわち、理想の人材配置と、人材の過不足の現状の把握です。そのギャップをチェックするために、人材ポートフォリオを活用します。
現在抱えている課題のほか、将来的な課題や成長目標も視野に入れておくと、今後、採用すべき人材の領域と、適正な人数も明確になるでしょう。
多すぎたり、不足していたりする人材のタイプが明らかになったら、「理想的な人材ポートフォリオ」に近づけるための手段を検討します。
必要に応じて、採用、育成、配置転換、人員削減などの施策を実施します。ポイントは、従業員の特性を検討しミスマッチを減らしていくことです。「適材適所がなされていない人材を減らす」ことを意識し、安易な人材削減は避けます。従業員の適性やポテンシャルをいかせる方向を目指すことが重要といえます。
人材ポートフォリオを作成・運用するうえでの注意点

人材ポートフォリオを作成、運用するうえで注意したいポイントがいくつかあります。それらを5項目に分けて紹介します。
- 労力がかかる
- 経営戦略を踏まえる
- 人材タイプに優劣をつけない
- 全従業員を対象にする
- 従業員の意向を尊重する
労力がかかる
人材ポートフォリオの作成は、自社における人事マネジメントのあり方、方向性を左右するほど、重要なものです。そのため企業の経営層や管理職と、話し合いを重ねる必要があります。
人材それぞれのデータ収集、人材配置の現状など、人的資源にかかわる情報を集めたうえで、タイプの振り分けや現状の分析をするため、労力が必要です。人事採用担当者は人材ポートフォリオを実際に運用したい時期から逆算して、早めに作成を開始するとよいでしょう。あらかじめ作成には時間と手間がかかることを理解しておけば、段取りや他業務との調整もスムーズに進みます。
経営戦略を踏まえる
人材ポートフォリオの軸を決める場合、自社の経営戦略を踏まえて検討することが必要です。経営戦略を反映すれば、人材ポートフォリオの最終的な目的ともいえる「企業目標の達成」に向けて一貫性が生まれるからです。
たとえば経営戦略として従業員の若返りを図っている場合、軸の1つを「ベテラン―若手」と設定すれば若返りの実現がスムーズに進むことが期待できます。経営戦略を無視した人材ポートフォリオでは、企業の方向性が明確でなくなります。自社の経営戦略を整理したうえで、それを盛り込んだ人材ポートフォリオを作成しましょう。
人材タイプに優劣をつけない
分類するタイプに優劣をつけないことも重要です。
人材ポートフォリオは、自社の人材状況を客観的な視点で把握することが重要です。そのため作成者の個人的な感情が反映されると、企業が誤った方向に進む可能性もあります。
人材に優劣をつけていることが組織内で広まった場合、従業員が不満を抱く可能性もあります。結果として、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇を招く懸念があるので、あくまでフラットな目線で作成・運用する必要があります。
全従業員を対象にする
人材ポートフォリオを作る際は、雇用形態にかかわらず、全従業員を対象とすることも忘れないようにします。すべての従業員が経営目標達成にかかわっているため、雇用形態を限定すると人材の活用が不十分となるからです。
たとえば、正社員だけで人材ポートフォリオを作成した場合に、不足する分野が出てきます。その分野を多くの派遣従業員やパート従業員によって占めている場合、企業全体として不足しているとはいえません。
特定の従業員に絞ってしまうと、対象外の従業員は不満を抱えるだけではなく、人材の全体像を捉えられず、不完全な人材ポートフォリオができてしまいます。雇用形態にかかわらず、すべての従業員が企業にとって貴重な人材であることを意識するようにしましょう。
従業員の意向を尊重する
従業員それぞれに、思い描いているキャリアや挑戦したい分野があるはずです。企業側の一方的な分類だけでは、現状が正確に反映されないため、従業員側の意向を尊重することは不可欠です。
従業員側が特定のスキルを向上させ、専門的なキャリア設計を望んでいるのに、企業側がマネジメント人材として分類すると、ミスマッチが生じます。また一方的に分類されることで、モチベーション低下や企業に対して不満を抱く従業員が増加する可能性もあります。
もちろんすべての意向に対応するのは難しいですが、従業員の意向を把握し、尊重していくことは人事マネジメントにおいて重要です。
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人材ポートフォリオの事例

人材ポートフォリオを作成する際に重要な視点となるのは「2つの軸をどう定めるか」です。自社にとって重要となる要素を見極め、2軸を設定しましょう。軸の設定をどう行うか、2つの事例を紹介します。
「創造―運用」「組織―個人」

1つ目の軸として、業務内容を「創造的な業務」と「運用的な業務」に分類します。次に、その2つをそれぞれ「個人での業務」と「組織での業務」に分類します。その2つの軸を設定し、以下の4つに人材タイプをあてはめます。
- クリエイティブ人材(個人での仕事―創造的な業務)
- マネジメント人材(組織での仕事―創造的な業務)
- エキスパート人材(個人での仕事―運用的な業務)
- オペレーション人材(組織での仕事―運用的な業務)
この事例は、ポジションごとの人材の過不足に関する判断材料にもなります。
「ベテラン―若手」「創造―運用」

まず、従業員の年代を「ベテラン―若手」に分類して1つ目の軸を設定します。続いて、それぞれの業務を2つ目の軸「創造―運用」で分類します。その2つの軸を設定し、人材タイプを以下の4つにあてはめます。
- ベテランマネジメント人材(ベテラン-創造)
- 若年マネジメント人材(若手-創造)
- ベテランオペレーション人材(ベテラン-運用)
- 若年オペレーション人材(若手-運用)
マネジメント人材の人数・平均年齢が可視化され、将来的にマネジメント人材が不足しそうかもしれない、などという状況がみえてきます。また、どのような雇用形態の人材を採用するかの判断材料にもなり、代わりの人材を採用する難度も明確になる事例です。
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まとめ

自社の人材を把握し、どう業績向上に活用していけるか。これは、多くの企業が抱える課題です。人材ポートフォリオは、人材配置の最適化や人材の過不足の把握に活用でき、課題解決をサポートしてくれる力強い味方になってくれます。
本記事で紹介した人材ポートフォリオの作成・運用方法を参考にして、人材マネジメントに取り組んでいきましょう。
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