人事評価の新たな指標や採用面接において注目される「コンピテンシー」。しかし、導入したものの思うように活用できていない企業も少なくないようです。
この記事では、コンピテンシーの意味、メリット・デメリットなどの基本を理解し、人事評価や採用に役立てるために覚えておきたいポイントを解説します。
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コンピテンシーとは

コンピテンシーとはどのような意味をもち、なぜ注目を集めているのでしょうか。初めてコンピテンシーという言葉を耳にした方にも分かるように基本的な知識を解説していきます。
コンピテンシーの意味
コンピテンシー(competency)とは、直訳すると「適性」「能力」といった意味を持つ言葉で、人事領域では「成果を出す行動特性や思考」のことを指します。
例えば同時期に入社した社員に、同じ研修を実施し、全く同じ業務をやらせてみたとしても、社員によって成果が異なることはないでしょうか。そこで、基礎能力や専門的なスキル、ノウハウなどを分析し「何がその差を生み出しているのか」を明確にします。
このように「成果を出している人に共通する行動や思考」を分析し、その特徴を一般化して活用するのがコンピテンシーの基本であるといえます。
コンピテンシーは、「成果が出ない社員の指導」としてだけでなく、社員全体のパフォーマンスを向上させるために有効な人事施策として注目されており、コンピテンシーを活用した評価手法や採用方法を導入する企業も増えています。
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類語・関連用語との違い
コンピテンシーと混合されがちな類語・関連語には、「コアコンピタンス」「スキル」「アビリティ」の3つが挙げられます。
コアコンピタンスは「核となる能力・得意分野」を指し、ビジネスにおいては「競合他社と比較して優位性のある中核事業」や「独自の技術や開発力」のこと。コンピテンシーは「個人」の行動特性を示す一方、コアコンピタンスは「組織」が提供できる強みをあらわします。
スキルとは、社員が持つ専門的な能力や技能のことです。コミュニケーションスキルやITスキルなど、「能力・技術そのもの」を指しますが、コンピテンシーは「能力や技能を発揮する力」をいう意味合いを持つ点で異なります。
アビリティは、能力・技能・力量といった意味で使用されます。スキルが「高度な技能」に重きを置いているのに対して、アビリティは「総合的な能力」を指すケースが多いです。コンピテンシーとの違いはスキルと同様、「能力や技能を発揮する力」なのか、「能力・技能そのもの」なのかという点です。
注目を集める理由
コンピテンシーが注目されるようになった背景には、現在多くの企業が抱えている雇用制度の問題と、慢性的な人手不足の問題があります。
これまでの日本企業では、若い人材を長い期間をかけて教育していく「終身雇用制度」や「年功序列の賃金体系」が一般的でしたが、近年は社員の仕事の成果や成績などで報酬を決める「成果主義」を採用する企業が増加しました。
企業で働く社員には即戦力が求められるようになり、高い成果を上げる社員は、より待遇の良い企業へ転職していき、企業の業績に大きな影響を与えます。このようなリスクに備えて、すべての社員が一定の成果を出せるようにコンピテンシーが注目されるようになりました。
加えて、少子高齢化による労働力人口の減少などを理由に、深刻な人出不足が顕著になっています。帝国データバンクが発表した最新のデータによると、 正社員が「不足している」と回答した企業の割合は51.4%。半数以上の企業が人手不足を感じているということになります。
限られた人材でこれまでと同じ成果を出し続けるためには、生産性の向上が急務です。そこで、高い成果を上げている人材のノウハウや働き方を共有することが、有効な対策の一つとして考えられるようになりました。コンピテンシーによって、ハイパフォーマー社員の行動や考え方を可視化し、他の社員も取り組めるようプロセス化することが求められています。
参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」
コンピテンシーの使い方

人事領域でコンピテンシーを活用する場面は、主に3つあります。それぞれのシーンでの使い方を詳しく見ていきましょう。
人事評価
人事評価においては主に、「コンピテンシー評価」という方法でコンピテンシーが活用されます。優れた業績を残すハイパフォーマー社員の行動や思考傾向を分析して評価基準を決め、それをもとに社員を評価します。
目に見える成果だけを評価対象とするのではなく、「成果を出すためにどのようなプロセスがあったのか」、「成果を上げる行動特性に当てはまっているか」などを評価基準とすることが特徴です。
コンピテンシー評価では、これまで明確な基準を示すことが少なかった業務のプロセスを評価するため、評価を受ける側の社員にとっては公平性および納得感が高くなります。もし低い評価を獲得したとしても、評価対象となる行動特性を意識して行動することで、高い評価を目指すことができます。
加えて、コンピテンシー評価の導入により社員の目標が明確になるため、一人一人の仕事のパフォーマンスの向上にも期待できるでしょう。
採用面接
コンピテンシーは、採用基準を設定する際の指標として用いられます。自社のハイパフォーマー社員が持つコンピテンシーをもとに採用基準を設けることで、自社にマッチし、入社後の活躍が期待できる人材を判断しやすくなります。
コンピテンシーを活用した面接が、「コンピテンシー面接」です。候補者のこれまでの経験のなかで、成果に結びついたエピソードを聞き出し、それに対してどのような行動や意思決定を行ってきたのかをヒアリングしていきます。質問する話題をピンポイントで絞り込み、掘り下げていくことで、成果を生み出す行動特性があるかどうかを評価します。
一般的な面接との違いは下図のとおりです。

コンピテンシー面接実施の際は、5段階の「コンピテンシーレベル」を設けて1~5の数字で評価するケースが多い傾向にあります。これにより、誰が面接官を務めても同じ手順で実施でき評価もブレないため、ミスマッチを防ぐ効果もあります。
また、質問に対する回答の矛盾を分析することで、嘘や誇張を見抜くことにもつながります。
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人材育成
コンピテンシーは人材育成においても活用されます。
ハイパフォーマーの行動特性を「コンピテンシー研修」を通して伝え、どのような思考で行動すれば高い成果を出せるのかを浸透させれば、社員それぞれのパフォーマンス向上につながります。
また、部門や職責ごとに必要なコンピテンシーを示すことにより「求められている行動」が明確になるため、社員の主体的な行動を促せるでしょう。
コンピテンシーのメリット・デメリット

コンピテンシーを自社に導入した場合、どのような効果があるのでしょうか。メリット・デメリットについて解説します。
メリット
コンピテンシーの主なメリットは以下の3つです。
- 生産性の向上につながる
- 公正な人事評価を実現できる
- 自社にマッチした人材を採用できる
高い成果を上げている人材の働き方を共有するほか、明確なコンピテンシー項目を設定することで、社員一人一人がそれらを意識した行動がとれるようになります。結果として組織全体のレベルが底上げされ、生産性の向上につながります。
また、コンピテンシーを人事評価に活用すれば、評価のブレが少なくなり公正な評価が実現できます。社員も評価に納得できるため、仕事へのモチベーションアップも期待できます。
採用においても、自社のハイパフォーマーを採用基準にして選考することから、見込み違いを防ぐことができます。自社にマッチした人材を採用できる可能性が高まるほか、ミスマッチによる早期離職も低減するでしょう。
デメリット
一方、コンピテンシーのデメリットは以下のとおりです。
- 導入に時間を要する
- モデルとなる人材がいない・聞き取りが難しいケースがある
コンピテンシーを活用するには、ハイパフォーマー社員を職種別に選定、ヒアリングして行動特性を分析、コンピテンシー項目を定めるなど、多くの準備が必要です。そのため、導入に至るまでに時間を要するという点は、大きなデメリットといえます。
また、コンピテンシーモデルとなるようなハイパフォーマー社員がいないケースもあります。理想とする人材を定義し、ゼロベースでモデルを作り上げることできますが、主観が入ってしまい、正確なモデルを作成できない可能性も。理想を追求しすぎないよう注意を払うことが重要です。
さらに、ハイパフォーマー自身が「なぜ自分が仕事で高い成果を上げられているのか」を言語化できないことも考えられます。その場合、ヒアリングを行ってもコンピテンシーを明確にできないケースがあるでしょう。
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コンピテンシーをモデル化するには

「成果を出すための行動特性や思考」は正確に表現することが難しいものです。ここからは、コンピテンシーをモデル化するための具体的な方法について解説します。
ベースとなる3種類のモデル
コンピテンシーをモデル化するには、ベースとなる以下の3つのタイプを把握することが重要です。
- 理想型モデル
- 実在型モデル
- ハイブリッド型モデル
理想型モデルとは、企業が理想とする人材像を検討し、それに基づいて評価項目や採用基準を設けるスタイルです。社内に理想とするハイパフォーマーが見当たらない際に用いられます。先述のとおり、正確なモデルを作成するためには、理想を求めすぎず現実と乖離しないよう注意する必要があります。
実際に在籍する「高い成果を上げる社員」を参考にコンピテンシーモデルを設計するのが実在型モデルです。多くの企業で採用されている方法となります。模範となる人材が身近にいるので、理想型よりもコンピテンシーの設計が容易となります。ハイパフォーマーの行動特性が、実現性の高いものであるかという点を念頭に、評価項目などを設定しましょう。
ハイブリッド型モデルは、理想型モデルと実在型モデルを組み合わせた折衷案です。実在型モデルだとコンピテンシーモデルをうまく設計しきれないことがあるため、理想の要素も取り入れます。身に着けるべき行動特性を含めたうえで、設計もしやすいというのがメリットです。
コンピテンシー・ディクショナリーの活用
コンピテンシー・ディクショナリーとは、職種や役職に関係なく、コンピテンシーをモデル化するうえでの基本的な考え方を指します。
1993年にライルM.スペンサーとシグネM.スペンサーが開発したものです。6つの領域を大枠にして、それぞれの領域における20項目を分類していきます(下図参照)。

コンピテンシー・ディクショナリーではコンピテンシーを包括的に示して、どのような業種や職務にも転用できるように作成されていることが重要です。そのため、導入する際は、企業理念や事業戦略などから、必要な項目を適切に取捨選択しなければいけません。
使い方は、高い成果を上げている複数の社員に対し、どのような行動をとっていたかをヒアリングするところからスタートします。 次に、ヒアリングした社員の職種や役職ごとにコンピテンシー・ディクショナリーに照らし合わせ、行動様式などをモデル化します。この際、モデル化の単位が小さいほど具体性が増し、他の社員にとっては理解しやすくなるでしょう。
そして、他の社員にもコンピテンシー・ディクショナリーをもとにヒアリングをし、高い成果を上げている社員との行動の違いを洗い出します。一連のプロセスによって望ましい行動が具体化されていくため、どの部分を改善しどういった行動をすれば成果につながっていくのかが、把握しやすくなります。
コンピテンシーの注意点とポイント

コンピテンシーを自社に導入する場合、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか。成果を出すために押さえておきたいことを紹介します。
成果は見えやすいが心理は見えにくい
成功している人と同じような行動をとったとしても、すべての社員が必ずしも成功するとは限りません。なぜなら、成功している人がそのような行動をとっている裏には、必ず原動力となる動機やマインドがあるためです。
成果や行動は見えやすいですが、その人がどのような心境、動機をもって行動しているのかは見えにくいもの。心理的な要因までを正確に理解しない限り、表面上の行動を真似しただけでは結果がついてこないケースがあることを留意しておきましょう。
行動特性を理解するために
成果を出す行動特性を理解するためには、「具体化」することが重要です。例えば営業職の場合、成果を出すためには「お客様が困っていることを先回りして考え、提案する」ことが求められます。しかし、これだけでは漠然としていて、何をすればよいのか分からない人も少なくありません。
コンピテンシー・ディクショナリーでは「対人理解」「顧客支援志向」「柔軟性」「自信」といったやや抽象的な言葉が並んでいますが、これをそれぞれの職種や業務に置き換えてしっかり具体化し、現状を客観視することが行動特性を理解するうえで重要なことです。
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まとめ

コンピテンシーは人事評価や採用手法、人事育成に有効として多くの企業に採用されるようになりましたが、うまく運用できていない企業もあります。
成果を上げている社員は明らかに他の社員とは異なる行動特性をもっていますが、単に行動を真似ただけで同じような成果に結びつくとは限りません。モデルとなる社員の行動だけではなく、心理や動機までも深く細かくヒアリングし分析することが、コンピテンシーを運用するうえで重要なポイントといえるでしょう。
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