標準報酬月額は健康保険・厚生年金保険において、納付保険料額や保険給付額を計算する際の基準となり、傷病手当金や年金受給額の算出にも利用されます。そのため人事・採用や労務の担当者にとって標準報酬月額の管理は重要な業務のひとつです。
この記事では、標準報酬月額の算定方法や範囲など、仕組みを改めて確認していくとともに、標準報酬月額の決定・改定のタイミングについても解説します。
標準報酬月額とは

多くの会社員は勤務先の健康保険・厚生年金といった社会保険に加入しますが、社会保険において納付保険料額や保険給付額を計算する際の基準となるのが「標準報酬月額」です。社会保険の納付保険料は給与計算の際に算出しますが、納付保険料を決定する際に標準報酬月額の金額が使用されます。
また、病気で休職する場合の傷病手当金の給付額は、支給開始日より以前の12カ月間の各標準報酬月額を平均した額によって決まり、将来受給する年金給付額を算出する際にも利用されます。
給与計算に関わる経理担当者はもちろんのこと、人事・採用担当者も社会保険について問われる場面は多いでしょう。企業のバックオフィス部門に関わる人材は、標準報酬月額についてよく知っておく必要があるといえます。
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標準報酬月額の基本

ここからは標準報酬月額の基本的な仕組みを紹介します。
標準報酬月額の算定方法
標準報酬月額は会社員本人の毎月の報酬(給与等)によって決まります。なお、賞与は「標準賞与額」として別に算出します。
具体的には、被保険者の給与等を一定の幅(等級)に区分し、等級に応じた標準報酬月額を決定します。等級は健康保険と厚生年金で下記のように異なります。
- 健康保険:第1級の5万8千円から第50級の139万円までの全50等級に区分
- 厚生年金:1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に区分
事例として、健康保険料額の等級に対して算定の基準となる給与等が「23万円」と「29万円」であるケースを紹介します。

参考:令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(PDF)│全国健康保険協会
上記の表に当てはめると、それぞれの標準報酬月額は以下となります。
- 等級19
- 標準報酬月額:24万円
- 等級22
- 標準報酬月額:30万円
標準報酬月額の対象となる報酬の範囲
標準報酬月額の対象となる範囲を紹介します。算定時の「報酬」にあたるものは以下のとおりです。
- 基本給(月給・週給・日給など)
- 奨励給
- 各種手当、役付手当
- 継続支給する見舞金
- 年4回以上の賞与(年3回以下支給されるものは標準賞与額の対象外)など
金銭だけが対象ではなく「通勤定期券」「食事」「社宅・寮」など現物で支給されるものも報酬に含まれます。なお、対象となるかどうかは実質的な内容で判断します。仮に勤務先では上記と違った名称を用いていたとしても、労働者が労働の対償として受け取るものは全て対象です。
ただし、臨時に受け取るものや年3 回以下支給の賞与などは、報酬に含みません。具体的には以下のようなものが対象外となります。
- 見舞金
- 解雇予告手当、退職手当
- 出張旅費、交際費
- 慶弔費
- 傷病手当金、労災保険の休業補償給付など
現物で支給される制服、作業着などは対象外です。なお、先述で「食事」は現物支給として対象となるとありましたが、本人の負担額が、厚生労働大臣が定める価額により算定した額の 2/3 以上である場合、報酬の対象外となります。
参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック令和3年度(PDF)|日本年金機構
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標準報酬月額が決定されるタイミング

次に、標準報酬月額が決定されるタイミングを紹介します。
資格取得時の決定
事業主が新たに被保険者を雇用したタイミングでの決定を「資格取得時の決定」といいます。被保険者の雇用に伴い、事業主は被保険者資格取得の届け出を行います。その際には以下のように月の報酬(報酬月額)を算定し、それに基づいて標準報酬月額を決定します。
- 月給・週給など一定の期間によって定められている報酬については、その報酬の額を月額に換算した額
- 日給・時間給・出来高給・請負給などの報酬については、その事業所で前月に同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の平均額
- 上記2つの方法で計算できない場合は、資格取得の月前1カ月間に同じ地方で同じような業務に従事し、同じような報酬を受けた人の報酬の額とすることができる
- 上記3つのうち複数に該当する報酬を受ける場合、上記それぞれから算定した額の合算額
これによって決定された標準報酬月額はその年の8月まで使用します。ただし、6月1日から12月31日までの間に被保険者資格を取得した人は、翌年の8月まで使用します。
定時決定
被保険者の実際の給与等と標準報酬月額との間に大きな差が生じないよう、毎年1回、事業主が日本年金機構(年金事務所)に届け出を行うのが「定時決定」です。提出された届け出に基づき厚生労働大臣が標準報酬月額を決定します。
計算方法は以下のとおりです。
- 7月1日現在で使用している被保険者の3カ月(4月、5月、6月)に支払った報酬月額を合計
- 合計額をその期間の月数(3)で割る
- 2の金額を標準報酬月額の区分に当てはめて決定
この標準報酬月額はその年の9月から翌年の8月まで使用します。
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標準報酬月額が改定されるタイミング

先述のとおり、定時決定による標準報酬月額はその年の8月、あるいは翌年8月まで使用しますが、途中で給与等の額が大きく変わったときは改定の申請が可能です。改定のタイミングは次の2つです。
随時改定
昇給や降給などにより報酬が大きく変動した場合は、標準報酬月額が給与実態とかけ離れた状態になってしまいます。それを是正するのが随時改定です。これは事業主が、「被保険者報酬月額変更届」を日本年金機構へ提出して申請します。
条件は以下の3つです。
- 昇給または降給等による固定的賃金の変動
- 変動月からの3カ月間に支給された給与等の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に生じた差が「2等級以上」
- 3カ月とも支払い基礎日数が17日以上であること
条件「1」の「固定的賃金」とは「基本給(月給、週給、日給)」「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」「役付手当」「勤務地手当」などをいいます。一方で、残業手当や休日手当などは「非固定的賃金」となり対象外です。
なお、条件「2」で「3カ月間に支給された給与等の平均月額」を算出する際の「給与等」には、残業手当等の非固定的賃金が含まれます。さらに条件「3」において、特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は、支払基礎日数の条件が「11日以上」となります。

参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック令和3年度(PDF)│日本年金機構
育児休業等を終了した際の改定
育児休業等の終了により給料等が変動する場合は、随時改定よりも変動の幅が小さくとも改定を申請することが可能です。
これは、育児休業が終わっても時短勤務や残業を避けるといった働き方によって給与等が低下するケースがあることが背景にあります。育児休業の影響により、給与実態と標準報酬月額の差が生じるのは好ましくないとする趣旨だと推測できます。
給与実態と標準報酬月額の乖離(かいり)については、先に述べたとおり随時改定によって是正する方法もあります。しかし、随時改定が実施される基準は「2等級以上の差」となっており、育児休業終了後にこの基準を満たさない人に向けて、より緩やかな基準が設定されているのでしょう。対象者や条件は以下のとおりです。
育児休業等終了日に3歳未満の子を養育している被保険者
【条件】
1:これまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額との差が「1等級以上」
2:育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月のうち、少なくとも1カ月における支払基礎日数が17日以上であること。ただし、特定適用事業所に勤務する短時間労働者は「11日」以上
【申請方法】
事業主は「育児休業等終了時報酬月額変更届」を日本年金機構へ提出して申請する
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標準報酬月額の特例改定

2020年から2021年については、新型コロナウイルス感染症の影響により休業を余儀なくされたケースも多いでしょう。休業の影響により報酬が著しく下がった人に対する特例改定が創設されました。
通常の随時改定では給与が変動しても3カ月は改定できませんが、本特例では所定の条件を満たせば翌月から改定することが可能です。
特例改定の対象となる3つの条件
特例改定の条件は以下のとおりです。
- 事業主の新型コロナウイルス感染症の影響による休業により報酬が著しく低下した月が生じた
- 著しく報酬が下がった月に支払われた報酬の総額(1カ月分)が、もとの標準報酬月額に比べて2等級以上下がった
- 本特例改定による改定内容に本人が書面により同意している
「1」の休業対象の期間は「2020年6月から2021年5月」や「2021年8月から12月まで」のように定められています(2021年8月10日現在)。ただし、対象となる休業期間は変更の可能性があるため、申請時には最新情報を確認しましょう。
また2020年6月から2021年5月までの間に、本特例改定を受けている人は、2021年8月の報酬の総額を基礎として算定した標準報酬月額で定時決定を行うことが可能です。
特例改定の申請方法
申請する場合は、事業主が「特例改定用」の月額変更届を所轄の年金事務所に届け出ます。特例改定を受けたのちに休業状態が終了した場合は固定的賃金の変動の有無にかかわりなく、月額変更届が必要です。
また、休業が終了した月に受けた報酬の総額をもとにした標準報酬月額が、特例改定により決定した標準報酬月額と比較して「2等級以上」上がった場合は、その翌月から「標準報酬月額」を改定することになります。
社員のために標準報酬月額を適切に管理しよう

標準報酬月額は天引きされる保険料や年金受給額など、さまざまな場面で使用します。担当部署では、被保険者である社員の標準報酬月額を算定できるようにしておきましょう。仮に現状給与等と標準報酬月額の区分に差が生じてしまっている場合は速やかに改定を行い、適切な管理を心がけましょう。
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