人材育成にはさまざまな方法があり、目的や状況に応じて使い分けることが重要です。人材育成手法のひとつであり、課題や問題解決スキルを向上させるために有効な「コーチング」という方法をご存じでしょうか。
この記事では、人材育成にコーチングを取り入れるメリットを紹介するとともに、コーチングが効果的なシーンや実施手順のポイント、コーチングスキルを身につける方法なども詳しく解説します。
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コーチングとは

コーチングとは、「相手に質問しながら、その人の潜在能力や問題の解決策を自主的に引き出し、人材開発を進める技術(日本大百科全書より)」とされます。
コーチングという言葉は、「馬車の人を乗せる部分」を表す「coach(コーチ)」が語源となっており、「目的地まで送り届ける」という意味が派生したものです。
コーチングの歴史・背景
コーチングはもともと、スポーツの分野における指導方法のひとつでした。スポーツは自らの目標をクリアするために、気づきや動機づけによって能力を高め、体を動かしながらスキルを習得していく必要があることから、コーチングという指導方法が誕生しました。
1990年代に入るとスポーツの分野だけでなく、ビジネスにおいて人材育成を目的としてコーチングが取り入れられるようになりました。
コーチングと類似する言葉との違い

課題解決や人材育成には、コーチング以外にもさまざまな手法が存在します。ここでは、類似する言葉とコーチングを比較して紹介していきます。
相手から解決策を引き出す | 相手に対し解決策を提示する | |
---|---|---|
マイナスの状況から回復する | カウンセリング | ティーチング コンサルティング |
目標(プラスの状況)を達成する | コーチング |
コーチングとティーチングの違い
ティーチングとは、学校の授業のように指導者が知識やスキルを与える手法です。ティーチングでは指導者から相手に対しての一方的なコミュニケーションが中心といえます。
これに対し、コーチングでは相手に気づきを与えるために、指導者(コーチ)が質問を投げかけたり意見を求めたりします。双方向のコミュニケーションの有無が、コーチングとティーチングの大きな違いといえるでしょう。
コーチングとカウンセリングの違い
カウンセリングとは、相手の悩みや課題をヒアリングし、マイナスの状況から回復するための解決策を提示する手法です。
相手の悩みや課題にアプローチすることはコーチングとも共通していますが、コーチングは「目標を達成する(プラスの状況を生み出す)こと」を目的としているという違いがあります。
コーチングとコンサルティングの違い
コンサルティングは、現在の状況を改善し、成果を高めるための方法を提示する手法です。相手から解決策を引き出すのではなく、具体的な解決策やアドバイスを提示することがコンサルティングの特徴といえます。
これに対し、コーチングは本人に気づきを与え、本人の意志や考えによって答えを出すことに主眼を置いています。
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コーチングを職場に取り入れる目的

企業がコーチングを取り入れる目的には、「社員の能力を伸ばす」「チームワークの強化」が挙げられます。この2つの観点から、コーチングを職場に取り入れる目的について紹介します。
社員の能力を伸ばす
コーチングを行うことで、社員自身の考える力を伸ばせます。社員自身に課題解決に向けた考え方が身についていれば、仕事を進めるうえで壁にぶつかったときにも自ら解決策を見いだせるでしょう。
上司や先輩社員に答えを教えてもらうのではなく、自分自身で考え成長していく能力が身につきます。
チームワークの強化
コーチングは、主に上司や先輩社員がコーチとなって部下・後輩社員に対して実施するケースが多いです。
これにより、社員同士のコミュニケーションが活性化されると同時に、上司と部下の信頼関係も構築され、チームワークの強化につながります。
また、コーチングを受ける側はもちろん、コーチ自身の能力も伸ばせるため、組織全体のスキルが底上げされ、業績アップも期待できるでしょう。
コーチングを行うメリット

コーチングを行うことによって、企業は以下のようなメリットを得られます。
- 社員の主体性を育める
- 社員の適性が把握できる
- 生産性の向上が期待できる
ここでは3つのポイントに絞って詳しく解説します。
社員の主体性を育める
コーチングによって、自ら課題を発見し、それを解決していこうとする社員の姿勢が生まれます。
上司や先輩から指示されてから動くのではなく、主体的に動く社員が育っていけば、たとえば管理職が気づかない小さな問題や課題を現場の社員が発見し、重大なトラブルが起こる前に迅速に対処できるようになるでしょう。
社員の適性が把握できる
コーチングによって上司と部下のコミュニケーションが活発になることで、部下の考え方や意見を把握しやすくなります。
上司は部下の仕事の適性を把握できるため、部下に適した仕事を割り当てられるようになるでしょう。その結果、社員一人一人が能力を発揮できる環境が構築され、成果を出しやすくなります。
生産性の向上が期待できる
コーチングを行うことで、社員が抱えている問題について把握しやすくなります。
小さな問題であっても、コーチングによる密接なコミュニケーションをとっていれば、必要に応じて業務を分担したり、ほかの社員にサポートを求めたりするといった対処ができるようになります。迅速に課題を解決することで、組織全体の生産性向上が期待できます。
コーチングを行うデメリット

コーチングを行うことは企業にとってさまざまなメリットがある一方で、以下のようなデメリットも考えられます。
- 社員の育成に時間を要する
- 多数の社員を一度に育成できない
- コーチのスキルに結果が左右される
コーチングを行うデメリットについて、解説していきます。
社員の育成に時間を要する
ティーチングやコンサルティングの場合は、相手に対して答えや解決策を提示することに主眼を置いていますが、コーチングは社員に課題解決の方法を身につけてもらうことを主な目的としており、より長期的な視点で取り組む必要があります。
解決すべき課題や問題のパターンもさまざまですが、継続的に取り組むことで社員の成長につながっていきます。
多数の社員を一度に育成できない
たとえば、ティーチングであれば集合研修のような形で一度に大勢の社員に対して教えられますが、コーチングはマンツーマンでの指導が基本となります。
そのため、ティーチングに比べると人的リソースが必要となり、コーチとなる社員にも負担がかかります。人材育成の状況や目的に合わせてコーチング以外の手法も併用していくことが重要といえるでしょう。
コーチのスキルに結果が左右される
コーチングは対話を繰り返しながら課題を解決していくことから、高度なコミュニケーションスキルが必要となります。
コーチのスキルが不足していると十分な成果を得られない可能性もあるほか、コーチとコーチングを受ける社員との相性によっても結果が左右されることがあります。
コーチングを実施する際には、コーチ向けのトレーニングや研修を重ねてスキルを習得してもらうことが重要といえるでしょう。
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コーチングが効果的なシーンとは?

コーチングはどのような場面で実施すると高い効果を得られるのでしょうか。
たとえば、
- 知識やスキルがあるにもかかわらず、業務が回っていないとき
- 社員が受け身の姿勢で自発性が見られないとき
- 社員が自信をなくし次の行動に移せないとき
などに効果的とされます。
ここでは、コーチングが効果的とされる、3つのシーンの例を紹介します。
知識やスキルがあるにもかかわらず、業務が回っていないとき
研修などによって社員が知識やスキルを習得したにもかかわらず、業務がスムーズに進んでいない場合、モチベーション低下など何らかの問題を抱えている可能性があります。
このようなとき、コーチングを通して課題を認識し、解決に向けたフォローを行うことで業務への影響を抑え、知識やスキルを発揮できます。
社員が受け身の姿勢で自発性が見られないとき
指示されたこと以外に取り組む姿勢が見られない場合など、受け身の姿勢の社員にもコーチングが適しています。
配属されたばかりで業務を覚えるのに手いっぱいなケースや、正当な評価を得られていないと感じているケースもあるため、コーチングによって本人の状況を理解することが重要です。
社員が自信をなくし次の行動に移せないとき
社員に十分な能力があるにもかかわらず、過去の失敗などによって自信をなくしているケースもあります。
コーチングによって第三者から認められることで、徐々に社員本人の自信が回復し、次の行動に踏み出せるきっかけをつくれるでしょう。
コーチングに適さないケース

たとえば、
- コーチのスキルが十分でないとき
- コーチングに適さない業務に応用する
といった場合、コーチングが効果的とはいえません。
ここでは、コーチングの導入が適さないシーンを2つ紹介します。
コーチのスキルが十分でないとき
コーチに向けた研修やトレーニングが不十分で、コーチングに必要なスキルが身についていない場合は成果を得られない可能性が高く、コーチングの導入は難しいかもしれません。
まずはコーチが十分なトレーニングを積み重ね、コーチングに必要なコミュニケーションスキルを身につけてからコーチングを導入することが重要です。
コーチングに適さない業務に応用する
コーチングは直接答えを教えるのではなく、相手に気づきを与え成長を促すものです。
新入社員研修や新たな部署へ配属された直後といった段階では、まずは業務に必要なスキルを身につけてもらうことを優先すべきであるため、コーチングよりもティーチングなどの方法が適しています。
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コーチングに必要なスキル

コーチを対象とした研修やトレーニングでは、「傾聴」「質問」「承認」のスキルを身につけてもらう必要があります。ここからは、コーチングに必要な3つのスキルについて解説します。
傾聴
傾聴とは、相手の話に耳を傾け、じっくりと聞くことです。
相手が話しているとき、コーチ自身はしっかり話を聞いているつもりでも、表情があまり変わらず相づちも少ないと、相手は「自分の話をきちんと聞いてくれているのだろうか」と不安になるものです。
相手の話に共感しながら受け入れることで、コミュニケーションがスムーズになり、話しやすい雰囲気がつくれます。
質問
相手の気づきを促すためには、質問の仕方が重要です。
たとえば、過去の失敗が原因で自信をなくしている社員に対し、「なぜ失敗したのか?」といった原因を掘り下げるだけの質問をすると、相手は責められているように感じ、さらに自信をなくしてしまうこともあるでしょう。
そのようなときは、「次に失敗しないために、今からできることは何だろう?」といった未来に向けた質問に変換することで、相手が前向きに捉えることができます。
承認
承認とは、相手を認めることを意味します。
コーチングを通して成果につながったこと、成長につながったことがあれば、明確な言葉として伝えるようにしましょう。
また、相手を褒めることだけが承認ではありません。たとえ成果につながらなかったとしても、相手が努力したことや、取り組んだこと自体を認めることで、相手の自己肯定感を高められます。
コーチングを実施する際の注意点

コーチングの導入にあたって、企業が注意しておくべきポイントは以下の2つです。
- 目的を明確化する
- 信頼関係を構築する
それぞれ詳しく紹介していきます。
目的を明確化する
コーチングでは、コーチに対して社員からさまざまな悩みを相談されることもあります。たとえば、「今の部署になじめない」「新しい仕事を覚えられない」など、一度に複数の悩みを打ち明けられるケースも少なくありません。このような場合、まずはどの問題から解決していくべきかを相談し、優先順位をつけながら目的を明確化しましょう。
目的があいまいな状態だと、取り組むべき内容が定まらないこともあるため、解決したい課題と目的を明確化することが重要です。
信頼関係を構築する
コーチングは双方向でのコミュニケーションが必要なため、コーチと対象者の信頼関係が重要となります。信頼関係が構築されていないと、対象者は本当に相談したいことを打ち明けられずコーチングの効果が得られません。
コーチはコーチングに欠かせない「傾聴」「質問」「承認」の3つのスキルを中心に、コミュニケーションの質を高め、対象者との信頼関係を構築しましょう。
コーチングを行う手順とポイント

コーチングを実施する際にはどのような手順で進めていけばよいのでしょうか。手順を以下の5つのプロセスに分け、押さえておきたいポイントもあわせて紹介します。
- 現状の把握
- 目標の明確化
- 現状と目標のギャップを把握
- 行動すべき内容の明確化
- 振り返り・フィードバック
現状の把握
はじめに、対象者がどのような悩み・課題を抱えているのかをヒアリングし、現状を把握しましょう。
対象者の本音を引き出すために、コーチは「傾聴」の姿勢を意識して話しやすい雰囲気をつくることが重要です。適度な相づちをうったり、相手の声のトーンや話すテンポと合わせたりしながら、質問をはさみつつヒアリングしましょう。
目標の明確化
現在抱えている問題を解決したと仮定し、最終的に何を目標とし、どのような姿を理想とするのかを明確化します。
たとえば、「新しい仕事を覚えられない」という課題があった場合には、「○カ月後までに一人で任せてもらえるように業務フローを覚える」など、対象者本人に具体的な目標を立ててもらうようにしましょう。
現状と目標のギャップを把握
対象者が抱えている悩みや課題を解決するために足りないものは何か、現状を踏まえたうえで目標とのギャップをピックアップします。
このとき、コーチから答えを提示するのではなく、質問することで対象者自身に答えを導き出してもらうことが重要です。
行動すべき内容の明確化
次に、どのような行動をとれば目標と現状のギャップが埋められるのかを検討し、とるべき行動を具体化します。その際は、「何を、いつまでに、誰と、どこで、どのように行うのか」を明確にしておきましょう。
また、ギャップを把握するときと同様に、あくまでも対象者自身に答えを導き出してもらうことが重要です。
振り返り・フィードバック
最後に、ギャップを埋めるためにとった行動の結果、目標にどの程度近づいたのかを振り返ります。
また、行動のなかでよい結果に結びつけるためのアドバイスや助言があればフィードバックしましょう。フィードバックをすることで相手は自身の成果や変化に気が付き、次の目標へとつなげていくことができます。
コーチングを学ぶ方法

コーチングスキルを身につけるためには、次のような学習方法があります。
- 社内研修
- 社外研修・セミナー
- スクール
- 書籍
ここでは4つの代表的な方法について紹介します。
社内研修
すでにコーチングのスキルを備えた社員が社内にいる場合、その社員を講師として研修を実施する方法です。社内での研修実施となるため、講師とコーチとの関係性が強まり、研修後も質問やフォローなどがしやすいことも利点です。
社外研修・セミナー
社内にコーチングのノウハウをもった社員がいない場合、外部の研修やセミナーを受講する方法もあります。社内研修に比べてコストはかかるものの、専門的な知見を短期間で体系的に学べるのがメリットです。
ちなみに、特定の管理職やリーダーに社外研修に参加してもらい、参加した社員を社内研修の講師とし、知見を共有してもらう方法もあります。
スクール
短期間の研修やセミナーよりもさらに専門的なノウハウを身につけるためには、コーチングスクールに通う方法があります。コースによって数カ月から1年程度の期間を選択でき、対面だけでなくオンラインで受講できる場合もあります。
社内研修やセミナーだけでは十分なコーチングスキルを身につけられなかった場合などは、スクールが有効な選択肢となるでしょう。
書籍
コーチングに関する知識を手軽に身につけるためには、書籍で学習する方法があります。研修やセミナー、スクールなどのように、まとまった時間を確保する必要がなく、通勤時間や就寝前などの隙間時間を使って効果的に知識を身につけられます。
代表的なコーチングの書籍としては、「コーチング・バイブル(第4版)」や「新 コーチングが人を活かす」などがあります。
コーチングの資格

より専門的な知見を身につけるには資格の取得もおすすめです。コーチングに関連する資格を3種類紹介します。
アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)
国際コーチング連盟が認定する資格で、60時間以上のトレーニングと100時間以上のコーチングを経て、コーチングの基礎的な知識をテストする「コーチ・ナレッジ・アセスメント(CKA)」に合格することで認定されます。
なお、上位資格となる「プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ」や「マスター認定コーチ」もあります。
参考:ACCアソシエイト・サーティファイド・コーチ│ ICF Japan Chapter
NLPコーチング(R)資格認定コース
米国NLP協会が認定する資格で、NLP(Neuro Linguistic Programing:神経言語プログラミング)とコーチングを融合した技術を習得できます。
大きな特徴は、深層心理に働きかけながら対象者の自己変革を促すためのスキルを学べる点です。心理学とも関連の深いカウンセリングやマインドフルネスなどの分野も学べ、コンサルタントやカウンセラーにも人気があります。
科学的な観点からコーチングを学びたい場合におすすめの資格といえるでしょう。
参考:NLP資格認定コース | 一般社団法人 日本NLP能力開発協会
生涯学習開発財団認定コーチ資格
一般財団法人生涯学習開発財団が認定する資格で、コーチングに関する知識と経験を有していることを証明できます。
「コーチ・エィ アカデミア」が運営するコースを受講することで受験資格が得られ、中級者向けには「認定プロフェッショナルコーチ」、上級者向けには「認定マスターコーチ」といった資格もあります。
参考:(一財)生涯学習開発財団認定コーチ資格 | コーチ・エィ アカデミア
人材育成にコーチングを取り入れよう

人材育成にコーチングを取り入れることで、社員の能力を伸ばし、生産性向上に役立ちます。
ただし、コーチングには高度なコミュニケーション能力が求められると同時に、「傾聴」「質問」「承認」のスキルを身につけることが必須といえます。社内研修はもちろん、社外研修やセミナー、資格取得などを通してコーチングを学ぶこともおすすめです。
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