企業を支える最も重要な要素は「人材」です。商品をつくるにも、販売するにも、そしてサービスを提供するにも、それを担当する人がいなくては成り立ちません。しかし現在、多くの日本企業が人手不足に悩まされています。
本記事では、人手不足の現状・原因、企業に及ぼす影響などを最新のデータを交えて紹介するとともに、人手不足を解消するための6つの対策を解説します。
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人手不足とは

「人手不足」とは、業務を行ううえで必要な人材が集まらず、企業が思うように業務を行えなくなる状態のことを指します。
人手不足が進むと、従業員にかかる負担が増えて労働環境が悪化したり、製品やサービスの需要に対して、供給が追いつかなくなったりといった弊害が発生します。
日本では人手不足が慢性化しており、社会問題になりつつあります。人手が足りないことによる倒産も増えているため、企業としては現状や対策方法をしっかり理解することが大切です。
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人材不足との違い
人手不足と似た言葉に「人材不足」があります。人手は「働く人」「働き手」のことを指す一方、人材は「才知ある人物、役に立つ人物」という意味を持ちます。
つまり、人手不足は単に「労働者の数が足りていない」状態であることに対して、人材不足は「企業のなかでスキルや技術を有した労働者が足りていない」ということです。
そのため、人材不足の場合、労働者の人数は足りているというケースも考えられます。企業活動に貢献する労働者がいないときに「人材不足」という言葉を用いることができるでしょう。
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人手不足の現状

ここからは、日本の人手不足の現状を3つの項目に分けて解説します。
人手不足を感じている企業の割合
正社員が不足と感じている企業の割合は「51.4%」。これは、帝国データバンクが2023年4月に行った「人手不足に対する企業の動向調査」の数値です。実に半分以上の企業が人手不足を実感しているということになります。
4月は新卒新入社員が入社することもあり、月次ではやや低下する傾向があるものの、4月としては前年同月と比べて5.5ポイントの増加。4月としては過去最高を記録しました。非正社員が「不足」と感じている企業は30.7%となっており、4月としては4年ぶりに3割超の水準に達しています。
加えて、厚生労働省が2022年9月に公表した「令和4年版 労働経済の分析」でも、人手不足が指摘されています。雇用情勢が徐々に持ち直しているとしたうえで、「感染拡大前から続く人手不足の状況を背景に、多くの産業では再び人手不足の状況に転じており、新規求人も緩やかな回復傾向にある」と説明しており、多くの企業が人手不足に悩まされている現状が分かります。
参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」、参考・引用:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」
地方・中小企業ではより深刻
人手不足は全国で問題になっていますが、特に深刻なのは地方・中小企業です。

上図は厚生労働省がまとめた資料です。地方圏の人手不足感は、三大都市圏の水準を上回って推移しており、ギャップ値は事業規模が小さくなるにつれて、高くなっている傾向にあります。特に、正社員に対する人手不足感は地方圏で相対的に高まっているという現状が見て取れます。
また、日本商工会議所が中小企業に実施した調査によると、「人手が不足している」と回答した企業の割合は64.9%(調査期間=2022年7~8月)でした。前年の調査と比べて15.0ポイント増加しており、中小企業の人手不足は深刻化しているといえます。
地方圏が人手不足に陥る理由としては、都市圏への人口集中出に伴う労働力人口の減少が挙げられます。一方、中小企業は、大手企業に比べて知名度や条件面で優位性がないこと、予算をはじめとした採用のリソースが限られていることなどが理由です。
参考:日本商工会議所「人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況に関する調査」
人手不足倒産の増加
従業員の離職や採用難で人手を確保できず、業績が悪化したことで倒産してしまうのが、「人手不足倒産」です。
関連する最新のデータをみていきましょう。帝国データバンクの発表によると、2023年4月の「人手不足」関連倒産は30件。集計を開始した2013年以降、初となる30件超えで過去最多を記録しました。業種別にみると、「建設業」「サービス業」がそれぞれ11件で最も多くなっています。
従業員や経営幹部などの退職・離職に起因した「従業員退職型」の人手不足倒産も、2023年1~4月で23件判明しました。
アフターコロナへの動きが本格化し、物価高に伴う賃上げ気運が高まっています。同社は、「人材不足と人件費の高騰が、コロナ禍でダメージを受けた中小・零細企業にとって大きなリスクとなることが懸念される。こうしたコロナ禍では表面化しなかったリスクの高まりにより、人手不足に起因した倒産がさらに増える可能性が高い」との見解を示しています。
参考・引用:PR TIMES「人手不足倒産が急増、4月は過去最多」|帝国データバンク
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人手不足の原因

なぜ日本の企業は人手不足に陥っているのでしょうか? その背景には、以下のような2つの理由が考えられます。
- 少子高齢化
- 人材のミスマッチ
それぞれの原因について、次で詳しくみていきましょう。
少子高齢化
日本は、急速に少子高齢化が進行している国の一つです。
日本の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年の8716万人をピークに、減少に転じています。一方で65歳以上の人口は年々増加しており、人口の割合がここ50年で大きく変化しました。
生産年齢人口の減少と、65歳以上の増加傾向は今後も続いていく見通しです。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によれば、65歳以上の人口は年々増加し、2065年には4529万人に達し、高齢化率(65歳以上人口の割合)が38.4%にまで上ることが予想されています。

生産年齢人口が減少し、労働力の減少が見込まれるため、日本企業の人手不足はますます深刻化する可能性があります。
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人材のミスマッチ
人手不足が起きる要因は、従業員数の不足だけではありません。
「求人を出しても応募が来ない」と困る企業がある一方で、「探しているのに職が見つからない」と悩む求職者もいます。企業と求職者のあいだで、求める能力や資格、労働条件などにミスマッチが生じているのも、人手不足の原因です。
事務的な職種や、運搬、清掃、放送などの職業では、有効求職者数が有効求人数を大きく上回っているのに対して、販売、サービス、介護関係の職種では全く反対の状況が続いています。

人材を求めていない業種の企業に人材が集中し、人材を求めている企業には人が集まっていないという、需要と供給のミスマッチが発生しています。そのため、人手不足が深刻化する業種が生まれていると考えられます。
人手不足が深刻な業界・業種

人手不足は、さまざまな業界に共通する課題ではあるものの、業種によってその深刻度合いに差があります。
企業や人の動きがストップしたコロナ禍によって、人材不足は一時、落ち着きましたが、アフターコロナへの動きが本格化するなか、徐々に人手不足の状態に戻ってしまう企業の割合が増加しています。
ここからは、特に人手不足が深刻となっている業種について、正社員/非正社員の雇用形態ごとに紹介していきます。
【正社員】人手不足の業界・業種ランキング

2023年4月に帝国データバンクが実施した調査のデータによれば、以下3業種が、特に人手不足の深刻な業界になります。
- 旅館・ホテル
- 情報サービス
- メンテナンス・警備・検査
そのなかでも、最も高かったのは「旅館・ホテル」で75.5%です。コロナ禍において、旅館やホテルで働く人たちの多くは休業を余儀なくされました。水際対策が緩和されて以降、観光客の動きも活発化していますが急に雇用を増やすことは難しく、人手不足が大きな課題となっています。
また、国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は 「443万円」に対して、ホテル・旅館業界が含まれる「宿泊業、飲食サービス業」の平均給与は「259万6千円」。業界全体を通して賃金が低いことも、人手不足の要因の一つでしょう。
2位の「情報サービス」は、74.2%。IT業界の成長度合いに対して、エンジニアなどの供給が追いついておらず、人手不足が発生しています。Webサービスはもちろん、アプリなど、新しいサービスが次々と生まれる業界では技術のアップデートも早く、そのたびに新しいスキルを持った人材が必要となるため、人手不足が深刻化しています。
3位は「メンテナンス・警備・検査」で、67.6%と6割を上回っています。背景には、これらの業界に対する「肉体労働はきつい」「待遇が悪い」「長時間労働」といった、世間のネガティブなイメージが関連していると考えられます。
【非正社員】人手不足の業界・業種ランキング

非正規雇用においても、深刻な人手不足に陥っている業種があります。特に、以下に挙げる3業種が深刻な人手不足になります。
- 飲食店
- 旅館・ホテル
- 飲食料品小売
「飲食店」は、全業種中で唯一の8割を超える85.2%で、深刻な人手不足に陥っていることが理解できます。新型コロナウイルスの流行に最も大きく影響を受けた業種の一つで、コロナ禍に休業を迫られた飲食店の多くは、非正規雇用の従業員を解雇したり、シフトを減らしたりして対応しました。
その後、コロナの影響が弱まるも、いきなりアルバイトやシフトを増やすことは困難であるほか、新しい人材を採用しようとしても感染リスクを懸念して応募を避けられている可能性もあります。
78.0%を記録した「旅館・ホテル」もパートなどの非正規雇用が多い業界です。先述のとおり給与額の低さに加え、長時間労働が慢性化しやすいといった特徴もあり、離職率も高い傾向にあります。
青果店や食品スーパー、コンビニエンスストアなどが含まれる飲食料品小売は、58.7%。帝国データバンクが行った調査によると、「小売」の業界で人手が不足している要因のトップは「賃金や賞与などに満足が得られない」、次いで「福利厚生などの環境に満足が得られない」でした。
参考:PR TIMES「企業における人材確保・人手不足の要因に関するアンケート」|帝国データバンク
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人手不足が企業に及ぼす影響

労働力人口が今後も減少していくと、企業の人手不足はさらに進行し、以下のような影響を及ぼす可能性があります。
- 従業員の負担が増加する
- 事業の縮小・倒産を余儀なくされる
ここからは、人手不足が企業に及ぼすネガティブな影響について紹介していきます。
従業員の負担が増加する
人手不足の状況で、それ以前と同じ業務量を遂行しなくてはならない場合、従業員一人一人の業務負担が増える懸念があります。そして、従業員に重い業務負担がのしかかっている状況が慢性的になると、さらに以下のような事態が発生する恐れがあります。
- 労働環境の悪化
- モチベーションの低下
- 能力開発機会の損失
- 離職者の増加
残業時間や休日出勤の増加など、人手不足は労働環境の悪化を招きます。労働環境が過酷になると、従業員の仕事へのモチベーション・パフォーマンスが下がり、業務でのミスを誘発するばかりか、製品やサービスの品質低下も招く可能性があります。
日々の業務に追われ、スキルアップを図る機会が失われ、キャリア形成ができずに離職につながるケースもあるでしょう。さらに、離職者が増加すると、残った従業員の業務負担がさらに増えるといった、悪循環に陥ってしまいます。そうした負のスパイラルに陥らないよう、早期に人手不足を解消する必要があります。
事業の縮小・倒産を余儀なくされる
人手不足によって、事業を縮小したり事業の継続が困難になったりする場合もあります。
2022年度には、人手不足を主な要因とした企業の倒産が140件も発生し、前年の111件を約30件上回りました。「現時点ではそれほど影響がない」と思っていても、事態が深刻化する前に対策をとっておくことが重要です。
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人手不足を解消するための6つの対策

ここまで解説してきたように、人手不足の状況が続くと企業に深刻な影響を及ぼします。では、企業はどのような対策をとればよいのでしょうか。
ここからは、人手不足自体を解消するための対策だけでなく、従業員数が減るなかで現在の水準のまま業務を遂行するための対策として、以下の内容を紹介します。
- 柔軟な働き方の推進
- 採用手法の見直し
- 採用ブランディングに力を入れる
- 従業員のスキル向上の促進
- 業務の効率化
- DX人材の活用
柔軟な働き方の推進
柔軟な働き方の推進は、人材が集まり、定着する職場づくりの土台になります。特に、シニア層や女性が働きやすい環境をつくることは、労働力人口が減少している現在において重要になると考えられています。
たとえば、女性の場合、出産などのライフイベントで離職を余儀なくされるケースが数多くあります。また、シニア層の人材は体力的な問題もあり、短時間での雇用を希望する場合も多いでしょう。そのため、従来の日本企業の多くが採用していた「フルタイム」「週5日の出社」といったワークスタイルは、女性やシニア層には働きにくい環境といえます。
そこで、下記のような働き方を検討するのが効果的です。
- リモートワーク
- 時短勤務制度
- フレックスタイム制
- 週休3日制
- 副業の解禁
- 有給取得の推奨
- 育児休暇、介護休暇の取得推進
- リフレッシュ休暇
働き方を柔軟にすることで、65歳以上のシニアや女性、外国籍の人材などの労働参加を奨励できるでしょう。また、長時間労働を改善していくことで、新たな人材の採用につながる可能性が高まります。
採用手法の見直し
求人を出しても応募が集まらないという理由で、人手不足に陥っている企業もあるでしょう。このような場合、採用手法を見直すことが解決策の一つとなります。
企業間の採用競争が激しくなるなか、従来のように、求職者からの応募を待っているだけでは人材は確保できません。企業側が「欲しい」人材を採用するために、企業自身がとれる手段を主体的に考え、能動的に実行する採用手法「ダイレクトリクルーティング」を活用し、積極的に採用活動を行うことが大切です。
SNSを活用したソーシャルリクルーティングや、社員の知人などを紹介してもらうリファーラル(リファラル)採用、自社を退職した人材を再び雇用するアルムナイ採用など、さまざまな採用手法を検討し、それらを組み合わせることも有効です。
ほかにも、求める人物像を具体的に示した「採用ペルソナ」を設計したり、求人情報を掲載する際に自社のよい面ばかりではなく悪い面も伝えたりすると、採用のミスマッチを防ぐことができ、人材の流出防止につながります。
採用ブランディングに力を入れる
採用活動において、自社を「ブランド化」して魅力を高めていく戦略が「採用ブランディング」です。求職者に「この企業で働きたい」と思ってもらえるよう、自社の情報を戦略的に発信していきます。
ブランド力を高めるためには、「企業が従業員に提供する価値」を指す「EVP」を設定すると効果的です。給与や福利厚生、キャリア・働き方の多様性といった項目のなかから、自社ならではの価値を探し出し、アピールすることで競合との差別化が図れます。
公式サイトはもちろん、採用を目的としたコンテンツを掲載する「採用オウンドメディア」、SNSなど複数のチャネルを用いて、企業の認知度の向上やブランドイメージを浸透させることが重要です。
採用ブランディングが強化されると、自社を選んでもらえる可能性が高まり、エントリー数の増加や優秀な人材を確保できる期待が高まります。結果として、人手不足解消につながるでしょう。
従業員のスキル向上の促進
労働力人口が減少している現代では、少人数で業務の生産性を確保する必要があります。そうした場合に重要になるのが、従業員一人一人のスキルや能力を向上できる環境です。そこで注目したいのが、「学び直し(リカレント)制度」や「副業」といった制度です。
学び直し制度とは、従業員が周期的に教育を受け続けられる仕組みです。定期的に研修を受講して、時代に即した知識や技術を身につけ、常に最新の知識をアップデートできるよう後押しします。今までのキャリアとは異なる、新しい能力を獲得できる研修にも積極的に参加してもらい、別の業務にも生かしてもらうとよいでしょう。
副業もまた、従業員のスキル向上に寄与します。終身雇用が当たり前だった時代には禁止にしていた企業も多くありましたが、現在では副業を奨励する企業も増加しています。副業で他社との関わりが増えた従業員は、自社に対して第三者の視点で意見をいえるようになり、社内の文化や仕事の進め方の改善につながるでしょう。
ダメな面接官に共通する特徴をピックアップし、面接の質を向上させませんか?
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業務の効率化
従業員一人一人がスキルを向上しても、対応できる業務量には限界があります。少ない人手でも業務に支障をきたさないようにするためには、従業員のスキル向上とともに、業務を効率化する必要があります。
- 採算の合わない業務を廃止する
- 他の業務と統合できるものは一本化する
- 属人性の高い業務を平準化する
- 少人数でもクオリティーを維持するためにアウトソーシングやIT化を検討する
従業員が「無駄」と感じてしまう業務があると、モチベーションの低下につながる恐れがあります。現状の業務内容を見直し、上記のような施策を取り入れられないか検討しましょう。
DX人材の活用
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、ITやデジタル技術を用いてビジネスモデルや組織などを変革することです。このDXの実現に向けて、明確なビジョンを描き、具体的な取り組みを実行できる人材を「DX人材」といえいます。
DX人材を活用すれば、深刻化する人手不足のなかでも、業務の効率化、生産性の向上に取り組めるでしょう。DX人材を企業で採用、育成するほか、アウトソーシングによって実現することも可能です。
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