企業の持続的な成長には、優秀な人材の採用と定着が欠かせません。そのため「人材流出」ともいえるような相次ぐ人材の退職は、会社の発展と存続に深刻な影響を与えてしまいます。大企業のみならず、中小企業でも人材流出への対策が必要でしょう。
人材流出を防ぐには、何が社員の不満につながっているのかを理解し、対策に努めることで退職の「芽」を摘むことが必要です。そこで今回は、人材流出の原因と7つの防止策を詳しく解説するほか、人材流出によって引き起こされるリスクも紹介します。
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人材流出とは

人材流出とは、自社の人材が退職し他社に流れてしまう状況のことを意味します。「流出」という言葉が示す通り、企業側にとってネガティブなニュアンスを含んでいます。
従来の日本では、新卒で入社した企業で定年まで働くという終身雇用制度が一般的でした。そのため、人材が流出するというリスクも低い傾向にありましたが、近年では終身雇用制度が見直されつつあり、2020年には日本経済団体連合会(経団連)が職務を定義して採用する「ジョブ型採用」の比率を高めていく方針を示しました。
2022年に経済産業省が取りまとめた「未来人材戦略」でも「終身雇用に象徴される日本型の雇用体系との決別」が宣言され、新たな働き方への転換を提言しています。
加えて、生産年齢人口(15~64歳)の減少に伴う労働力の不足も深刻です。内閣府の発表では、生産年齢人口は2065年に約4,500万人となる見通し(2020年に比べて約2,900万人の減少)。人手不足の背景もあり、企業はこれまで以上に人材流出のリスクに備える必要があるといえるでしょう。
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人材流出の原因

人材流出を防ぐには、まず退職の「芽」を摘むところから始まります。ここでは、人材流出につながる主な原因を5つ解説します。
労働条件
まず考えられるのは、給料や労働時間、休日数など労働条件の問題です。特に仕事量や業績に見合わない労働環境の場合、社員が不満を抱きやすいと考えられます。
政府の打ち出した「働き方改革」に呼応するように、労働条件の改革を進める企業も少なくありません。社員の能力や生活環境、価値観などに即した待遇改善の取り組みが必要でしょう。特に採用の時点で、労働条件を明示することが重要です。
職務内容
職務自体への不満が出ることもあります。具体的には自分の仕事にやりがいを見いだせない、裁量権がない、あるいは就職(転職)前に説明を受けていた仕事内容と異なるなどの不満が挙げられます。
これを防ぐには、当然ながら社員がやりたいと思う仕事に挑戦できる環境を整えることが大切です。経営者が明確な事業戦略を描き、管理職がそれを事業や職務に落とし込み、そうした職務を希望する社員を採用できれば、職務内容への不満は出にくいでしょう。
ただし、現実にはどうしても社員の希望と異なる仕事が発生することは避けられません。そうしたなかで社員の思いを反映させるためにも、面談を定期的に実施して、現場社員の仕事に対する思いなどについてヒアリングすることが必要でしょう。
また、タスクを割り振る際の説明、個人目標の設定とフィードバックなど、社員と会社(上司)との密なコミュニケーションが求められます。
人間関係
社内の人間関係の問題から、退職を考える人材もいるでしょう。各種のハラスメント、職場の雰囲気とのミスマッチ、さまざまな要因が存在します。こうした問題は、口コミサイトやSNSなどで明るみに出やすく、結果としてその後の採用に悪影響を与えることもあります。
組織である以上、人間関係の問題を完全になくすことは困難ですが、問題を最小限にとどめるための工夫はできます。ハラスメントの相談窓口を社内に設ける、上司や人事担当との1対1のミーティングを定期的に実施するなど、問題の深刻化を防ぐ施策が求められるでしょう。
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人事評価
人事評価への不満は、人材流出の原因の一つです。
公正な評価を行うための人事評価制度が整っていない企業では、上司などによる主観的な評価が行われていることもあるでしょう。能力や仕事の成果に対して「正しく評価されていない」と感じてしまえば、社員のモチベーションが下がってしまい、退職につながる恐れがあります。
また、勤続年数や年齢を重視する年功序列制度から、業績や成果によって報酬や昇進・昇格を決める成果主義の時代に移行しており、評価の透明性は転職者が重視する項目の一つです。自社が適切に社員を評価しているかを含めて、評価制度を見直すことが求められます。
キャリアパス
キャリアパスとは、目標とする職位や職務に向かって必要なステップを踏んでいくための順序のことを指します。
自分が将来なりたい姿を描けない、やりたい仕事を実現できない、自分の能力を発揮できる環境にないなど、企業で働き続けるイメージを持てないケースは、社員が退職を考える理由になります。企業がキャリアパスを示すことで、社員が目指すゴールに向けて必要なスキルや道筋が明らかになり、仕事へのモチベーション向上が期待できるでしょう。
漠然と仕事をしていると、社員も将来に不安を覚えてしまいます。そのような状況を防ぐため、企業側が社員のキャリアに向き合うことが大切です。
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人材流出を防ぐための7つの対策方法

人材流出対策のことを、近年では「リテンションマネジメント」と呼ぶことが増えてきており、取り組む企業も増加しています。ここからは具体的な対策方法を7つ解説します。以下のなかから自社の状況に応じて取り入れられるものはないか、検討してください。
- 評価制度を改善する
- 労働環境を見直す
- 働きやすい環境を整備する
- 福利厚生を充実させる
- キャリア・スキルアップをサポートする
- 社内コミュニケーションの促進
- 採用基準・採用手法を見直す
評価制度を改善する
全従業員の納得しやすいフェアな評価制度づくりは、人材流出を防ぐために考えられる対策の一つです。
成果を上げた社員を高く評価する一方、その他の社員にも評価に対する理由・課題・解決策をしっかり説明できれば、社員のモチベーションアップが期待できます。
もちろん、評価制度を賃金体系と結びつけることも重要です。評価基準や昇進・昇給の基準を明確化し、評価の透明性を高めるとともに、働きぶりやパフォーマンスが昇給などに反映する仕組みを構築すれば、社員の仕事への意欲が高まります。
成果を上げた社員を表彰する制度や、上司だけでなく同僚や部下など複数人が評価する360度評価などの導入も検討し、納得性の高い評価を心がけましょう。
また、評価を標準化し、公平性の高い評価を実現するためには、評価者の「スキル」が必要です。管理職が部下を評価する過程で、部下との相性によって主観的な評価をくだすケースがあります。
人事担当者だけでこうしたスキルを指導することが難しいのであれば、社外の研修会社やコンサルティング会社、人材サービス会社などの専門家に相談することをおすすめします。
労働環境や社内環境を見直す
長時間労働が常態化している、サービス残業や休日出勤が多い、ハラスメント行為がみられるといった労働環境では、人材流出を防ぐことは難しいでしょう。
口コミなどを通じて「ブラック企業」という印象が広まってしまうと、採用にも影響が出てしまいます。労働基準法に反するような問題がある場合は、早急に見直す必要があります。
負担の大きい社員へのサポート体制を構築し、仕事の悩みを相談できる仕組みをつくるなど、環境を整えることができれば、社員のモチベーションアップが上がり、労働生産性の向上も期待できます。
また、外部からの騒音が原因で仕事に集中できない、社内設備が古いといった社内環境が業務に悪影響を及ぼしているのであれば、設備やルールを見直すことで社員の働きやすさが向上します。
働きやすい環境を整備する
近年は働き方の多様化が進んでいます。仕事と生活の調和を意味する「ワークライフバランス」が重視され、多様な働き方を選択できる社会の実現に向け、2019年から働き方改革に関連する法律が順次施行されています。
それに伴い、リモートワークやフレキシブルな勤務体系を希望する人材が増えてきました。柔軟な働き方を提供することも、人材流出を防ぐうえで重要なポイントとなっているのです。
たとえば、時短勤務やフレックスタイム制度を導入するほか、有休を取りやすい環境をつくったり、育児と仕事の両立を支援したりするなどの施策が考えられます。週休3日制度を設ける企業も増え、2023年4月には人事院の有識者研究会が国家公務員の週休3日制を提言し、話題を集めました。
企業は以下のような施策を検討し、社員のエンゲージメントを高め、定着率を向上させていく姿勢が重要です。
■働きやすい環境を整備するための施策
- リモートワーク
- 時短勤務制度
- フレックスタイム制
- 週休3日制
- 副業・兼業の解禁
- 有給取得の推奨育児休暇、介護休暇の取得推進
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福利厚生を充実させる
福利厚生とは、給与および賞与といった労働対価以外に、社員やその家族に提供する報酬のことを指します。待遇が悪いと、人材流出の傾向が高まるため、福利厚生を充実させて社員の満足度を向上させることが大切です。
健康保険や雇用保険、労災保険などが代表的な福利厚生として挙げられますが、これらは加入義務が定められているもの。法律で義務付けられておらず、独自に運用する「法定外福利厚生」に注力して、他社との差別化を図る企業もあります。企業が社員に提供する価値「EVP」を意識することが、リテンションのカギになるでしょう。
具体的には家族手当や住宅手当を充実させたり、食事代を補助したり、自転車通勤の社員に手当を支給する企業もあります。
■代表的な福利厚生
- 住宅手当・住宅ローン補助
- 家族手当
- 通勤手当
- 健康診断・人間ドック
- 食事補助
- 図書購入費補助
- 慶弔金
- ヘルスケアサポート
キャリア・スキルアップをサポートする
自らが思い描くキャリアが実現できるかどうかも、社員が働くうえで重視するポイントです。
現在の部署で活躍できない、業務内容が希望と異なるという場合、本人の経験や要望を踏まえて、異動の機会をつくるのがよいでしょう。社員のキャリア形成をサポートする制度には、以下のようなものがあります。
- 自己申告制度:社員が異動や将来のキャリア志向などを企業側に申告する制度
- 社内FA制度:社員自らが実績やスキルをアピールし、希望の部署への異動を実現させる制度
- 社内公募制度:人材を求める部署が社内募集を出し、異動を希望する社員が応募する制度
- ジョブリターン制度:結婚や出産、介護などを理由に退職した社員を、もとの企業で再雇用する制度
これらの制度のほか、社員のキャリア形成について話し合う「キャリア面談」を通じて本人の気持ちをヒアリングすることは欠かせません。
大企業の場合は、部署によって全く風土が異なるケースもあります。異動後、スムーズに新しい仕事に取り組んでもらうよう、人事担当者や異動先の部署の上司・先輩などのサポートが必要です。
また、自社での成長が望めない、身に着けたいスキルが伸ばせないといった向上心の強い社員は、スキルアップの機会を求めて転職する傾向にあります。勉強会やセミナーに参加する機会を設けたり、資格取得支援を行ったりして学べる環境を整えることも大切です。
社内コミュニケーションを促進させる
社内の風通しが悪く人間関係が良好ではない場合、社員のモチベーションが下がる恐れがあります。一方、社内コミュニケーションが活発であれば、意見交換がしやすい、チームワークを構築しやすいといった環境が生まれ、企業に対する帰属意識が高まります。
社内コミュニケーションを促進させるためには、社員同士が交流しやすい仕組みをつくることが重要です。社内チャットで社員同士が自由にやりとりできるスレッドをつくる、コミュニケーションスペースを設置する、自分の好きな席で仕事をする「フリーアドレス制」にするなどの施策が有効でしょう。
■社内コミュニケーションの促進につながる施策
- 社内チャットの活用
- コミュニケーションスペースの設置
- フリーアドレス制
- 社内イベント
- サークル活動
ほかにも、社員の先輩の社員が後輩に対して個別支援する「メンター制度」の導入や、上司が部下と定期的に面談を行う1on1ミーティングの実施など、悩みを相談できるような環境を整えることも、離職防止につながります。
採用基準・採用手法を見直す
人材流出を防ぐためには、採用時にも注意を払う必要があります。
自社から人材が離れて人手不足に陥ると、採用基準が甘くなる傾向が高まります。その結果、採用した人材にスキルや能力が十分備わっていないといったミスマッチが発生するでしょう。
企業と求職者のズレを指す採用のミスマッチは早期離職につながり、再度新たな人材を採用しなければいけないという悪循環が生まれます。そのような事態が発生しないよう、採用したい人材の要件を見直し、明確に設定することが大切です。
また、自社にマッチした人材を採用するため、採用手法の見直しも検討しておきましょう。自社の社員から人材を紹介してもらうリファーラル採用(リファラル採用)や、企業から候補者にアプローチするスカウト型採用などを活用して要件に合致した人材を見極め、早期離職の芽を摘むことが重要となります。
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人材流出によって起こる経営のリスク

人材流出によって、具体的にどのような経営リスクが発生するのでしょうか。ここでは「成長鈍化」「コスト増」「ノウハウ・顧客の流出」の3点からご説明します。
企業の成長が鈍化する
最大の問題は、企業の成長に多大な悪影響を及ぼすことです。
最近では「人財」と称する企業もあるように、企業を支える重要なリソースの一つが「社員」です。人材を安定的に確保するのは、事業を継続・拡大させるために欠かせません。したがって、離職率が高まれば経営状態の悪化につながる可能性が出てきます。
厚生労働省の発表によると、「転職者数」はリーマン・ショック後の2011年頃から年々増加し、2019年には過去最高の353万人に。その後、感染症拡大の影響で減少しましたが以前よりも転職は一般的になりました。
労働者の流動性が高まると、優秀な社員を中途採用できるチャンスが広がる一方で、時間をかけて経験と実績を積んだ優秀な若手社員が退職してしまうリスクが高まっていることも意味しています。
事業の根幹を支えてきた社員が多く退職してしまえば、経営難に陥る危険性もあります。特に社員数の少ない中小企業では、数人単位の退職だけでも致命的なリスクにつながるかもしれません。
コストが増加する
人材流出が起きると、新規採用のために求人広告を出したり、人材紹介会社へ紹介を依頼したりと、採用コストを多くかけざるを得なくなります。
また、採用した社員に一から企業理念を伝えたり、仕事のやり方を教えたりしなければならないほか、パソコンなどの情報システム機器を用意しなければいけません。研修などを通じた育成コストも発生します。
コストには、工数(人的リソース)も含まれます。既存社員が採用活動や研修に大幅な時間を費やすとなると、事業に費やせる工数は減ってしまい、労働生産性の低下につながる可能性もあります。
ノウハウや顧客の流出
社員の退職は、その社員が自社で培ったノウハウや積み重ねてきた経験の流出を意味します。そうすると、その社員が退職後の事業運営が滞る場合もあるでしょう。
たとえば、VBAで「Excel」や「Access」などでの作業の自動化を唯一担当していたエンジニアが転職してしまい、その管理が困難になるような事例も考えられます。優秀な営業担当が自社を離れた場合、人脈の毀損や顧客の離脱につながる恐れもあります。
つまり、一人の社員の退職は、個人に付随するノウハウや経験などの流出を意味する可能性があるということです。

人材流出を個人の問題ではなく企業の経営課題として捉える
退職と聞くと、個人のキャリアパスやビジョン、性格、あるいは上司・同僚や会社の風土との相性など、個人の問題として捉えてしまうかもしれません。しかし、「人材流出」は個人レベルではなく、全社的に影響を及ぼしかねない経営課題です。
社員の退職を個人レベルで解決しようとせず、全社的に人事制度を見直し、不満の出にくい体制を構築することが必要でしょう。本記事で紹介した7つの対策方法などを参考にして、社員にとって居心地のよい環境をつくっていくことが大切です。
人材採用戦略の中心に据えている「EVP」の設計方法を解説

創業以来「新しい食文化の創造と拡大」をビジョンに、日本の食文化にさまざまな変化をもたらしてきたマクドナルド。 同社が考える「従業員がマクドナルドで働く価値」の内容や設計方法を、具体的に解説します。