ストックオプションとは、自社株をあらかじめ決められた価格で購入できる権利のことです。取締役や従業員へのインセンティブとなり、経営や採用力の強化が期待できるため、取り入れる企業が増えています。
この記事では、ストックオプションの仕組みや得られるメリットを解説するとともに、上手に運用するポイントについて紹介します。
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ストックオプションとは

ストックオプション(stock option)は「自社株購入権」とも呼ばれており、会社側があらかじめ決めた価格の「権利行使価格」で一定の期間内に一定数の株式を購入できる権利のことです。
購入した株式は、株価が上昇した時点で売却すれば、その差額を得ることができ、売買によって得られる収益は「キャピタルゲイン」と呼ばれています。ストックオプションは、権利行使価格よりも株価が下がった場合は購入しなくてもよいため、利益を得られることはあっても、損をすることはないのが一般的です。
ストックオプションの仕組み

ここからは、さらに詳しく、ストックオプションの仕組みについて説明していきます。ストックオプションを発行する際、各条件を設定する必要があり、いずれも会社側で決めることができます。
■ストックオプションにかかわる条件の一例
- 権利付与対象者ストックオプションの権利の対象者。従業員や取締役以外に、後述するように社外にも付与が可能。
- 権利行使価格株を購入できる価格のこと。その時点の株価に関係なく、決まった価格で株を購入できる。
- 権利行使期間株を購入できる期間のこと。数年間のスパンであることが一般的。
次に、ストックオプションで利益を得られる仕組みについてグラフを用いて解説します。
例えば、あなたが勤めている企業でストックオプションが導入されたとします。仮に、権利行使価格が1,000円だったとしましょう。企業は順調に成長し、3年後に株価が3,000円になったとします。あなたは1,000円で株を購入でき、購入してすぐに売却すると、1株あたり2,000円の利益を得られます(※)。
株は必ずしもすぐに売却する必要はなく、「もっと成長するはず」と持ち続け、さらに株価が上昇してから売却することもできます。
※ここでは、手数料などについては考えないものとします
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ストックオプションの種類

ストックオプションには複数の種類があり、それぞれ特徴が異なります。ここでは、代表的なものを紹介します。
通常型ストックオプション
最も一般的なストックオプションです。会社の業績が向上したときのインセンティブの意味合いが大きいもので、権利行使価格は権利付与したときの株価以上に設定します。
株式報酬型ストックオプション
権利行使価格を低い価格に設定するものです。1円という極端に低い価格で設定することもあり、「1円ストックオプション」とも呼ばれています。権利を行使することで利益を得られるため、退職金として従業員に付与される場合もあります。
有償ストックオプション
一般的なストックオプションとは異なり、「権利付与したときの株価で新株を必ず購入しなければならない」という条件がつきます。前述したストックオプションは主にインセンティブを目的としていますが、有償ストックオプションは投資の意味合いが大きいといえます。
ストックオプションと持株会の違い
ストックオプションと混同されがちな制度に、持株会(従業員持株会)があります。持株会は、従業員が毎月給与の一部を持株会に預け、集まった資金で自社株を購入する制度です。一方、ストックオプションは権利なので必ずしも株を買う必要はありません。
持株会は、勤務先の企業から奨励金が出ることも多く、また自分で投資するタイミングを考えなくてよいため、忙しくても気軽に投資を続けられるのがメリットです。一方で、「株価が安いときに買おう」という自己判断ができなかったり、売却する際には通常よりも手続きなどに時間がかかったりするなどのデメリットもあります。
企業にとっては、自社株を保有することで経営への参加意識の強化につながることや、安定株主を得られるというメリットがあります。
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ストックオプションを導入するメリット

次に、ストックオプションを導入することで期待できるメリットを紹介します。
従業員のモチベーションがアップする
ここまで解説してきたように、自社の株価が上がったタイミングで権利を行使すれば、大きな収入が得られるため、インセンティブとして機能します。会社の価値を上げるという目標に向かって、従業員のモチベーションアップが期待できます。
また、従業員のモチベーションがアップすることでさらに仕事に打ち込めるようになり、業績アップも見込めるでしょう。
採用力の強化につながる
従業員が生き生きと働き、業績が上向くことで新卒、中途を問わず優秀な人材を採用しやすくなります。またそのまま成長が続けば、ストックオプションで収益が得られることで入社の動機づけや人材流出の防止につながるでしょう。
社外関係者と良好な付き合いができる
ストックオプションは、顧問や関連企業など、その企業で働いていない社外関係者にも発行できます。また、「設立10年未満」などの要件を満たす株式会社であれば、「社外高度人材活用新事業分野開拓計画(※)」を策定して主務大臣による認定を受けることで、税制優遇措置が適用されます。
社外関係者へのストックオプション付与により、権利行使まで長期的な付き合いができるうえ、当事者意識が高まることによるモチベーション向上も見込めます。
※「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」とは
新規中小企業者等が社外高度人材の支援を受けて新事業分野を開拓する計画であり、認定された事業者は、税制や金融の支援を受けることができる制度
参考:社外高度人材に対するストックオプション税制の適用拡大│経済産業省
税制優遇措置がある
一定の条件を満たして「税制適格ストックオプション」と認められると、権利行使時点から株式の売却時点までの課税が免除されるという税制優遇措置を受けられます。詳しくは次項で説明します。
ストックオプションの税制優遇措置とは

では、ストックオプションの税制優遇措置について詳しくみていきます。まず、税制優遇措置を受けるためには発行形態や権利行使期間を下記のように設定する必要があります。
■税制適格要件(一部抜粋)
発行形態 | 無償発行(会社法238条2項の決議に基づいた無償発行であること) |
対象者の範囲 | ・発行会社の取締役(執行役を含み、監査役・会計参与・会計監査人を含まない)または使用人等などの個人 ・新株予約権の決議時において大口株主(未上場会社の場合は発行済み株式総数の3分の1超を有する者)に該当しないこと |
権利行使期間 | 権利付与決議日から2年経過後で付与日から10年以内 |
譲渡制限 | 譲渡禁止規定が付されていること |
年間行使限度額 | 権利行使者の権利行使価額の合計額が年間1,200万円以下 |
権利行使価額 | 権利行使価額が付与契約時の株式時価以上 |
保管 | 証券会社等との間で一定の管理等信託契約を締結し、一定の保管の委託等がなされていること(権利行使前に証券会社等とストックオプション管理契約の締結が必要) |
税制面では、ストックオプションは、税制優遇措置のある「税制適格ストックオプション」と、税制優遇措置のない「税制非適格ストックオプション」に分類できます。
税制非適格ストックオプションは税制優遇措置がないため、権利を行使して株を購入するときと、株式を売却するときの双方で課税されます。一方で税制適格ストックオプションの場合、株を購入する際は課税免除となり、課税は売却するときのみとなるため負担が軽くなります。
税制適格ストックオプション | ・税制優遇措置がある ・株式売却時に「譲渡所得」として課税される |
税制非適格ストックオプション | ・税制優遇措置がない ・権利行使時に「給与所得」、株式売却時に「譲渡所得」として課税される |
ストックオプションの注意点

冒頭で「ストックオプションは、権利行使価格よりも株価が下がってしまった場合は購入しなくてもよい制度であり、利益を得られることはあっても、損をすることはないのが一般的です」と解説しましたが、必ずしも利益のみを得られるとは限りません。留意しておいた方がいい点もあるので、紹介します。
株価が上がらないと利益にならず、効果を見込めない
ストックオプションがインセンティブになるためには、株価が権利行使価格を上回らなければなりません。ただし株価は、自社の業績だけではなく、感染症の流行や海外の紛争などさまざまな外部要因によって下がる場合もあります。
ただし、外部要因による株価低下は一定期間がたつと回復することが多く、企業として株価が上昇するような経営戦略を立てることが求められます。
ストックオプションが大量に行使されると、株価が下がる可能性も
大量にストックオプションが行使された場合、供給が需要を上回って株価が下がる可能性もあります。またそれにより、既存株主が保有している株式の価値が下がって売りが増え、さらに株価が下落する恐れもあります。
退職後は権利行使できないことが多い
ストックオプションは主に、インセンティブやモチベーションアップを目的として付与するケースが多いため、権利行使の条件は在職中に限られ、退職すると権利が失効してしまうことが一般的です。とはいえ、会社に多大な貢献をした従業員などの場合、例外的に退職後も行使を認められる場合もあります。
権利行使後に人材が流出する可能性がある
ストックオプション制度があることを理由に入社した従業員などは、権利を行使して収益を得たら、離職してしまう可能性も考えられます。それを防ぐための方法は次項で紹介します。
権利行使後の離職を防ぐには

ストックオプションの権利行使後の離職を防ぐためには、環境整備が欠かせません。防止策の一つとなりうる仕組みに、「ベスティング条項」があります。「ベスティング条項」とは、一定期間が経過するまで権利を行使できないようにすることです。
これには2パターンあり、「権利付与後に権利を行使できない一定期間を設けるケース」と、「権利付与後、一定期間ごとに権利行使が認められる株式の割合が増えていくケース」があります。
制度の充実も大切ですが、会社の雰囲気も大切でしょう。居心地がよく、やりがいを持って働ける職場であれば、ストックオプションの権利行使後も「この会社で働きたい」と思ってもらえ、人材流出を防げるでしょう。会社側はそのために努力することも欠かせません。
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ストックオプション制度導入の流れ

ここからは、ストックオプション制度を導入する際の一般的な流れを紹介します。数種類あるストックオプションはそれぞれ得られるメリットも異なり複雑なため、専門家や経験者に制度設計を依頼すると安心です。
ストックオプション導入の目的を明確化する
これまで述べてきたように、ストックオプションはインセンティブとして導入されることが一般的ですが、従業員の経営意識を高めたり、人材の流出を食い止めたりといったことを狙う場合もあるでしょう。まずは自社がなぜストックオプションを導入するのか、目的を明確にすることが大事です。
ストックオプションの募集事項を設定する
次に、募集要項を会社法にのっとって設定します。ストックオプションの種類や発行する量、権利行使価格や権利行使期間、割当日や払込期日などを決めましょう。
取締役会と株主総会にはかる
ストックオプションの募集は、取締役会にはかる必要があります。取締役会での決議を経て、決定となります。決議された募集要項は株主にも通知しなければならず、株主総会にはかる必要があります。
申込者へ通知する
ストックオプションの申込者に、「株式会社の称号」「募集事項」「権利行使時の払い込みがある場合の、取り扱い場所」といった情報を通知します。
また、申込者は「氏名」「住所」「ストックオプションの申し込み予定数」を書面にまとめて、会社に提出する必要があることも周知しましょう。
割当数を決定し、発行する
次に、ストックオプションの申込者に対し、それぞれ割当数を決めます。ストックオプションの発行日以後、会社は遅滞なくストックオプションを作成する必要があり、上場企業の場合は適時開示制度(※)に従って会社情報を提供します。
(※)適時開示制度は、金融商品取引所の規則により、重要な会社情報を上場会社から投資者に提供するために設けられているものであり、投資者に対して、報道機関等を通じてあるいは直接に、広く、かつ、タイムリーに伝達するという特徴があります。
引用:適時開示制度の概要 | 日本取引所グループ
法務局に登記する
ストックオプションの割当・発行の当日から2週間以内に、法務局に登記する必要があります。登記の際に必要な提出書類は、日本取引所グループのホームページに掲載されているフォーマットを参考にしてください。
参考:
変更の登記(会社法第915条)│e-Gov法令検索
提出書類フォーマット | 日本取引所グループ
ストックオプション運用のポイント

最後に、ストックオプションを運用する際のポイントを紹介します。
未上場のうちに発行する方が効果的
ストックオプションは、今後の株価上昇が見込める場合にメリットが大きくなります。そのため、すでに上場していて株価が上昇・安定している企業より、今後の株式公開を目指す段階の方が効果を見込めます。とはいえ近年は、上場企業においてもインセンティブや退職金として活用されている例も増えています。
制度設計は専門家のアドバイスを受けた方がよい
ストックオプションの価格や数量、割当日や払込期日は、自社を取り巻く状況や外部の経済状況などを考慮する必要があります。同時に、株価が上がるような戦略も求められます。そのため、制度設計にあたっては、弁護士や公認会計士など外部の専門家のアドバイスを受ける方が望ましいでしょう。
ストックオプションは企業の成長のきっかけになる

ストックオプション制度の導入により、従業員が企業価値向上に向かって一丸となって取り組むことが期待できるため、企業の成長のきっかけになります。
インセンティブ制度のなかでも特殊な制度のため、仕組みやメリットを理解したうえでストックオプション制度を取り入れ、従業員にとって魅力的な各種制度の充実を検討してはいかがでしょう。
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