人事業界では「従業員のエンゲージメントを高めるべき」という考え方が広まってきています。しかし実は「エンゲージメント」という言葉にはさまざまな意味が含まれていて、使われる場面によって意味が変わってしまうことも。言葉の意味から、注目される背景、エンゲージメントの高め方、エンゲージメントサーベイの例などを紹介します。
エンゲージメントとは何か?
エンゲージメントは、英語で「engagement」です。婚約・雇用・従事・誓約などと訳され、「愛着心、思い入れ、一体感」などの意味を含みます。ただ、エンゲージメントという言葉は、用いられるシチュエーションで意味が変わるので注意が必要です。
マーケティング分野での使われ方
マーケティング分野では「企業(商品・ブランド)と顧客の強い結びつき」という意味で用いられます。「既存顧客のエンゲージメントを向上させるSNS施策を考えよう」などと使われます。
人事分野での使われ方
人事用語としてのエンゲージメントは、大きく「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」の2つの概念に分けられます。この2つは別のものですが、混同しているケースも散見されます。
従業員エンゲージメントとは
頻繁に見かける言葉ですが、学術的に合意のとれた定義はありません。帰属意識、愛社精神、絆、一体感なども含まれ、「従業員と会社とのつながりに関わる、いろいろなよいこと」というニュアンスで使われています。
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントの方は学術的な定義があります。
- 仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)
- 仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)
- 仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)
の3つが揃った状態で、仕事に熱意を持っていきいきと働いている状態を「ワークエンゲージメントが高い」と言います。
従業員満足度との違い
従業員満足度は「職務満足」とも呼ばれ、給料、仕事、評価などさまざまな要素を含めて総合的に満足しているかを数値化して見るもの。「従業員満足度は高いが、従業員エンゲージメントは低い」、つまり「給料や仕事には満足しているが、会社への愛着心はない」というケースもあり得ます。
エンゲージメントが注目される背景
エンゲージメントの概念は、1970年代の米国の「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の研究から派生して生まれました。日本でエンゲージメントが知られるようになったのは2000年代に入ってから。「エンゲージメントが高いと業績が上がる」という触れ込みで紹介されたため、企業から注目を浴びたのです。
さらに近年では、企業側が従業員の「意識」を気にするようになっています。今、従業員エンゲージメントやワークエンゲージメントが注目されている背景は、主に以下の3つです。
働く人の意識の変化
近年、終身雇用の崩壊や人材の流動化が進んでいます。「ひとつの会社に定年まで勤めるのが当たり前」だった時代は終わり、働く人は「よりよい環境を求めて転職するのが当たり前」になっています。特に優秀な人ほどキャリアアップや収入アップへの意欲が高いので、企業にとって人材流出を食い止めることは大きな課題です。
メンタルヘルスの問題
仕事や職場のストレスによるメンタルヘルスの問題(うつ病など)の対策を考える際、エンゲージメントの観点は無視できません。さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響でテレワークが続き、従業員のメンタル面の不調を懸念している企業も多いでしょう。
生産性への影響
ワークエンゲージメントについては「ワークエンゲージメントが高い人は、組織への愛着や一体感が強く、個人のパフォーマンスが高い」という研究報告があります。また、厚生労働省の分析(※)でも、「ワーク・エンゲイジメントを向上させることは、企業の労働生産性の向上につながる可能性が示唆される」とされ、さらに組織コミットメント(帰属意識)、新入社員の定着率、従業員の離職率の低下との相関も示唆されています。
※令和元年版 労働経済の分析
「エンゲージメントが高いと業績が上がる」は本当?
一般的に「エンゲージメントが高いと業績が上がる」という言い方がありますが、これは誤解を招く表現です。従業員エンゲージメントはそもそも定義されていない言葉であり、学術的には「従業員エンゲージメントと業績との因果関係は、なんとも言えない」というのが現状です。ただしこれから言葉が定義されて、きちんと研究されていく可能性はあります。
ワークエンゲージメントについては、前述したように生産性や定着率に影響するという研究報告があります。「ワークエンゲージメントが高まると、業績が上がる可能性も高まる」ということは言えるでしょう。
ワークエンゲージメントを高めることのメリットは下記の記事でも詳しく解説しております。
エンゲージメントを高めるためのステップ
エンゲージメントを高めたいと考えたら、現時点のエンゲージメントレベルを知るためのアンケート調査からスタートします。従業員エンゲージメントもワークエンゲージメントも「従業員の意識」なので、数値化して可視化することが大切です。そして調査結果から、具体的な施策を検討・実行し、PDCAを回していきましょう。
【ステップ1】「自社にとってのエンゲージメント」を定義する
自社の課題は従業員エンゲージメントなのか、ワークエンゲージメントなのか。従業員エンゲージメントならば、自社にとっての定義は何か。最初に言葉の定義を明確にしないと、適切な調査項目が設定できなかったり、調査結果を施策に結びつけられなかったりします。言葉の定義は重要なプロセスです。
【ステップ2】調査項目を作成する
ステップ1で定めた定義を、具体的な調査項目にしていきます。設問数が膨大になると、回答する従業員が調査自体にウンザリしてしまうこともあるので注意しましょう。
【ステップ3】調査し、ビジョンをすり合わせる
従業員に調査をして現状を把握します。その結果を基に、会社をどの方向に進めていくべきか、経営側と共にビジョンをすり合わせましょう。
【ステップ4】施策を検討、実施する
ステップ3で定めたビジョンに基づいて具体的な施策を検討、実施します。(施策の例は後述します)
【ステップ5】モニタリングする
定期的にアンケート調査を行い、必要に応じて施策を見直すなど、PDCAを回していきます。

エンゲージメントを高める施策の例
調査結果を基にして、具体的な施策を検討しましょう。例えば以下のような施策が考えられます。
ビジョンのすり合わせ
経営層からのメッセージ発信は大切です。企業の目標と自己実現がうまくつながるように、研修や面談などを通じて企業と従業員が共に実現するべきビジョンをすり合わせましょう。
人事評価制度の見直し
「自分は正当に評価されていないと思う」など、多くの人が人事評価に不満を感じている場合には制度の見直しを。評価と処遇の紐づけやフィードバックの方法など不満の原因を探り、不公平感があれば是正します。
部下への権限移譲
部下に一定の権限を委譲しましょう。責任感や主体性が高まり、エンゲージメントが高まることにつながります。マネジメント層が仕事を抱え込んでいるようであれば意識改革も必要です。
ワークライフバランスの推進
仕事への意欲や充実感を得るには、心身の健康が不可欠。そして心身の健康のためには、プライベートの時間も大切です。持続的にエンゲージメントを高めていくために、ワークライフバランスを推進しましょう。
社内コミュニケーションの活性化
社員同士で気軽に相談したり、コミュニケーションしたりできる場や環境を整えましょう。居心地がよく、気持ちよく働ける職場には愛着が生まれます。
スキルアップ・キャリアアップ支援
「この会社で働いていると自分は成長できる」と実感を持てるよう、研修をしたり、少しレベルの高い仕事を任せたりして成長を支援しましょう。
エンゲージメントサーベイの例
エンゲージメントサーベイは、エンゲージメントを測定することで、組織の状態を可視化する診断ツールのことです。
エンゲージメント向上のためには、組織内の現状を客観的に把握することが必要であり、現状の客観的な把握には適切なサーベイの活用が有効的だと考えられます。また一般に、サーベイ会社の質問項目は公開されないものです。自社で調査したい場合の参考として2つ紹介します。
UWES
ワークエンゲージメントを調査したい場合には、UWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度)が有益。ワークエンゲージメントの調査方法として高い安定性があり、最も広く使われているものです。「活力」「熱意」「 没頭」といった因子を17項目の質問で測定。短縮版の9項目も活用されています。商用目的でなければ無料で使えます。
Q12
ギャラップ社のQ12(キュー・トゥエルブ)は、エンゲージメントが注目されるきっかけになったエンゲージメントサーベイ。質問に多様な要素が含まれているため「結果が何を表すのか不明瞭」という批判もありますが、会社の課題を探る手がかりにはなるでしょう。質問数が12問で負担が少なく、回答しやすい点もメリットです。
具体的な設問と選択肢を見てみましょう。
- Q1.職場で自分が何を期待されているのかを知っている
- Q2.仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
- Q3.職場で最も得意なことをする機会が毎日与えられている
- Q4.この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
- Q5.上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれているようだ
- Q6.職場の誰かが自分の成長を促してくれる
- Q7.職場で自分の意見が尊重されるようだ
- Q8.会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
- Q9.職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
- Q10.職場に親友がいる
- Q11.この6ヵ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
- Q12.この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった
選択肢は5つで、配点は次のようになっています。
- 完全に当てはまる(5点)
- やや当てはまる(4点)
- どちらともいえない(3点)
- やや当てはまらない(2点)
- 完全に当てはまらない(1点)
回答を得たら点数を合計し、平均スコアを出してみましょう。平均点は3.6で、3.8を超えるとエンゲージメントが高め、3.2を下回ると要注意です。
質問とその点数によって以下を確認できます。
- Q1・Q2…仕事の基本事項が足りているか
- Q3~Q6…自分の貢献度や周囲からの評価、自負
- Q7~Q10…職場への帰属や同僚への信頼感
- Q11・Q12…職場全体での成長・発展への意識
また、定着率を左右するポイントはQ1、Q2、Q3、Q5、Q7の5つとされています。
離職予防のためにエンゲージメントを高めることは重要な観点です。そして早期離職の対策を考えたい場合には「採用」の観点でもエンゲージメントが重要となります。こちらも併せてご覧ください。
参考資料:曽和利光・伊達洋駆著「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」
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