EVP(Employee Value Proposition)という言葉をご存じでしょうか。直訳すると「従業員価値提案」という意味を持ち、近年、その考え方が注目を集めています。
本記事では、EVPの意味や策定方法、項目の具体例のほか、企業事例についても解説いたします。
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EVP(Employee Value Proposition)とは

人手不足が深刻化するなか、求める人材の採用・定着を実現させるためEVPを導入する企業が増えています。
まずは、言葉の持つ意味を深掘りするとともに、EVPが注目を集める背景を解説します。
EVPの意味
EVPとは、英語の「Employee Value Proposition」の頭文字を取った言葉で、「企業が従業員に提供する価値」のことを指します。「Employee」は従業員や社員、「Value」は価値、「Proposition」は提案、計画のこと。直訳すると「従業員価値提案」という意味です。
従来の採用活動では「これから採用する従業員(求職者)が企業にどのような利益をもたらすか」という視点で捉えていたところを、立場を逆転させ「企業が従業員(求職者)に何を提供できるか」という視点に立っていることが特徴です。
異なる能力、経歴を持つ求職者に対して企業側はどのような価値を示せるのか。「自社らしさ」を言語的、視覚的にも明確にして、企業カルチャーとして浸透させていくことが、「選ぶ」採用から「選ばれる」採用にシフトするためのカギといえます。
EVPが求められる背景
EVPが注目を集める理由は、働き方の変化と人材の流動性の高まりにあります。
少子高齢化、労働者人口不足が深刻化する「2030年問題」。15~64歳の生産年齢人口が減少するなか、 2030年を待たずに多くの企業が採用難に直面しています。求職者に有利な「売り手市場」が続く採用の現場において、これまでとは異なった価値観で「自分らしい働き方」を模索する人が増えています。
終身雇用制度は崩壊しつつあり、転職が一般的な時代に。総務省によると、転職者数はリーマン・ショック後の2011年頃から年々増加し、2019年の転職者数は353万人と比較可能な2002年以降で過去最多となり、人材の流動性が高まっています。

企業が求職者を選ぶ時代から、「求職者に企業が選ばれる時代」になっている今、「欲しい人材がなかなか集まらない」という悩みを抱える企業が増えているのが現状です。
一方で、この潮流をいち早く捉え、自社が提供できる価値=EVPをうまく求職者にアピールすることによって「採用強社」となっている企業も現れ始めているのです。
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EVPを策定する3つのメリット

では、EVPを策定することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。3つのポイントに分けて見ていきましょう。
求める人材の採用につながる
1つ目のメリットは、求める人材の採用につながるという点です。
策定したEVPを公式サイトやSNSなどを用いて発信することで、求職者に対して自社の魅力を効果的にアピールできます。「自社らしさ」に共感してくれる求職者からのエントリーが増え、採用のミスマッチを減らすことができます。
また、「自社らしさ」の発信は競合他社との差別化につながります。採用条件やスペックとは異なるところで他社との差別化が図れ、採用競争力が向上、求める人材の採用につながる可能性が上がるでしょう。
従業員満足度・定着率が向上する
EVPを活用し、企業が「どのような価値を従業員に提供しているか」を言語化・視覚化してわかりやすく伝えることによって、従業員が自社らしさに対して共感や誇りを持てます。
従業員が自社を「高い価値を提供している企業」と認識し、満足度の向上や仕事へのモチベーションも高まるでしょう。その結果、「この会社で長く働きたい」と考える従業員が増え、定着率の向上、離職率の改善が期待できます。
企業ブランドが高まる
自社らしさを明確にし、社内に浸透させることで、EVPが表層的な形式知から、自社の文化となります。採用活動などを通して、その独自の文化を社外に発信すると、他社との違いを理解してもらえ企業ブランドが高まります。
また、EVPによって自社が提供できる価値を明らかにすると、「従業員を大切にしている企業」との印象を与えられ、企業全体のイメージアップにもつながります。
EVPを策定し、このサイクルを継続することが、企業の成長にもつながることがわかると思います。
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EVPの項目例

EVPを将来にわたって継続的に実現するためには、ベースとなる「1. 契約上の価値」/中間にあたる「2. 経験的価値」/最も重要な「3. 感情的価値」の3段階で検討することが有効です。
段階別で訴求すべき項目例・施策例を以下に紹介します
契約上の価値
1つ目となる契約上の価値には、給与と福利厚生が挙げられます。それぞれについて、EVPとして具体的に検討すべき項目は下記のとおりです。
- 給与:従業員が満足できる給与や賞与、昇給制度、インセンティブ
- 福利厚生:住宅手当、家族手当、資格取得支援、各種保険
金銭的なメリットは、社員や従業員が働くうえで最も重視する項目のひとつで、EVPのなかでも即効性があるものです。業務内容に応じた給与、昇給制度を設定するとともにインセンティブを用意すると、従業員のモチベーションが高められます。
福利厚生の充実は、人材採用にあたって大きな武器となるだけではなく、企業に対する満足度を高め、従業員の定着率を向上させるためにも重要な役割を果たします。
契約上の価値に関する施策は比較的取り組みやすいほか、他社と競合しやすいのが特徴です。他社事例を分析したうえで、自社の強みとして発信できそうな項目を選定しましょう。
経験的価値
他社と差別化された「経験」ができるという点にスポットを当てているのが、経験的価値です。従業員のキャリア支援や働き方に関する価値が含まれ、それぞれにおいては、以下のような施策があります。
- キャリア:キャリアデザイン研修、キャリア面談、目標管理制度、社内FA制度
- 働き方:フレックス勤務、テレワーク、サテライトオフィス、時短勤務
従業員のキャリアアップやキャリアチェンジに関する支援は、中長期的な目線に立った人材育成につながるため、生産性の向上にも期待できます。
近年は仕事と生活の調和を意味するワークライフバランスが重視され、企業も柔軟な働き方に対応する必要性が増しています。画一的な労働環境ではなく、フレックス勤務やテレワークなどもとり入れ、一人一人の価値観に合わせた働き方を提供することも必要です。
感情的価値
企業で働くことへの「目的」「喜び」を持ってもらうために提供する価値が、感情的価値です。やりがい・達成感がある仕事に従事できている、企業への帰属意識が持てるなど、感情面に訴求する価値となります。
会社の目指す戦略・ミッションや存在意義を明示したり、社会貢献に関するポリシーを発信・実践したりするアプローチ方法があります。「自社独自の価値」として位置づけることができ、3つの価値のうちで最も重要といえるでしょう。
これらのEVPは単に策定して終わりにするのではなく、今後どのようにビジネスや風土として実現させるかもあわせて検討しておくことが大切です。

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EVPの策定方法と各プロセスのポイント
EVPの策定にあたってどのような手順を踏めばよいのかを、4つのプロセスに分けて解説します。

自社の分析
最初のステップは自社の分析です。従業員や求職者に提供している価値は何かということを、多角的に分析するプロセスとなります。
EVPの策定にあたっては、自社内で「既にできていること」、「今後実現したいこと」を明確にする必要があります。自社の強みや共感できる点、誇れることなどについて、従業員アンケートやヒアリングを用いて意見を集めるほか、自社に足りないことも同時に聞いておくと今後の施策に反映できます。
また、この段階で企業の経営方針や今後のビジョンもこの明らかにしておくと、その実現に向けてどのような人材が必要になるのか定義しやすいでしょう。
他社事例の調査
自社の分析の後は、他社が従業員に対して導入しているEVPの事例を調査します。
競合他社だけでなく、他業界を含めた幅広い事例をチェックするのがポイント。企業の公式サイトを用いて、人事制度、テレワークなどの就業形態や、ワークライフバランスなどの調査を行うとよいでしょう。
また、求人広告を掲載している企業があれば、求職者に対するメッセージを確認し、訴求している内容を確認するのも効果的です。
自社でとり入れられそうなEVPを把握するほか、他社との差別化を図るうえでも他社事例のチェックは重要となります。
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EVPの絞り込み・決定
自社、他社の分析をもとにして、EVPを絞り込んでいきます。人事部の担当者だけでなく、現場や経営層などとディスカッションしアイデアを検討すると、実現性の高いEVPを策定できます。
「キャリア」をEVPの項目として設定した場合、キャリア支援制度をさらに充実させられないかなど、具体的な施策もあわせて考えておきましょう。
運用
EVPを策定した後は、その内容を社内外に広く周知して実際に運用を開始します。自社公式サイトや採用サイト、SNSなどに内容を反映させ、新たな取り組みとして知ってもらいましょう。
運用後は、定期的に従業員満足度調査などを行いて効果を測定することが重要です。その過程で明らかになった問題や課題を整理して、改善策を検討します。時代に即した内容に改善するよう意識することも、ポイントのひとつです。
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EVPの導入事例

最後に、EVPを導入して施策を実施している企業事例を3つ紹介します。
日本マクドナルド株式会社
マクドナルドは、「従業員がマクドナルドで働く価値」を提案し、雇用者としての評価を上げていくことを目指すため、人材採用戦略の中心にEVPを据えています。
EVPは、柔軟な働き方などを指す「Flexibility」、チームの一員としてポジティブな雰囲気のなかで働けることを表す「Family & Friends」、一生かけて成長できる環境ということを意味する「Future」という「3つのF」から構成されています。
EVPは概念的な定義だけでなく、「毎週希望シフトを提出できる」や「週2時間から勤務できる」など、具体的な価値として整理しています。
また、学生層・主婦層など属性ごとに訴求するEVPを変えたり、ダイバーシティを大切にする職場であることを訴求したり、店舗に掲載する求人ポスターなどでEVPを伝える工夫も行っています。
株式会社サイバーエージェント
IT大手のサイバーエージェントでは、「挑戦と安心はセット」という考えのもと、従業員が長く働き続ける人事制度や福利厚生に力を入れています。
女性活躍を支援する9つの制度をパッケージ化した「macalonパッケージ」を設け、オフィスの最寄り駅から2駅圏内に住んでいる正社員に対して家賃補助を支給。ほかにも、テレワーク環境を整備し、無料で月4回まで専属マッサージ師による施術が受けられるマッサージルームを各オフィスに完備しています。
また、ダイバーシティ推進プロジェクト「CAlorful」や「macalonパッケージ」などを通じて、多様なバックグラウンドを持つ従業員が互いに理解しながら中長期的にキャリアを築いていけるようサポート。自社で働く価値を提供するため、さまざまな取り組みを行っています。
株式会社ユナイテッドアローズ
アパレル大手のユナイテッドアローズは、従業員価値の創造に向け、「ヒトが育つ環境の提供」「いきいきと働ける健全な職場の構築」「平等な機会の提供と公正・公平な評価・処遇」という3つの柱を掲げています。
全従業員を対象にした教育プログラム「束矢大學」でさまざまな研修を行い、スキルを磨く機会を提供しているほか、販売員のキャリアパスとして4階層からなる「セールスマスター制度」を導入。従業員がステップアップできる環境を整えています。
「いきいきと活躍できる風土づくり」を目指して、人事制度を整備しており、人事考課のベースとなる「目標管理制度」、評価・異動歴などを一元管理する「タレントマネジメントシステム」、一定以上の役職者の言動に対して複数の関係者が多角的に評価する「360度評価多面観察」で、適切なキャリアパスの設計や人員配置を実施しています。
そのほか、毎年「従業員意識調査」を実施し、従業員の声を経営に活かしています。
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