「従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)」とは、仕事や報酬、評価など職場や業務に対する総合的な満足度を示す指標です。従業員満足度が高いほど、従業員が意欲的であるといわれ、労働力人口の減少するなかで注目を集めています。この従業員満足度は、どのように調査を行い、役立てていけばよいのでしょうか。
今回は、従業員満足度について、企業に与える効果を解説するとともに、従業員満足度の調査方法と役立て方を紹介します。
従業員満足度とは
従業員満足度の意味や注目される背景を紹介します。また、類似する用語の「エンゲージメント」「帰属意識」についても解説します。
従業員満足度の意味
従業員満足度とは、従業員個人が業務を行ううえで抱く、総合的な満足感のことです。「職場の人間関係やコミュニケーションのしやすさ」「業務のしやすさ」「給与・待遇」「評価や評価方法」「組織風土や経営理念」「会社のビジョンへの共感」など、影響する要素は多岐にわたります。
従業員に対してアンケートやインタビューを行うことで満足度を調査し、分析・活用していきます。従業員側の気持ちを知ることで、意欲向上に役立てたり、人材の定着につなげたりすることができます。
従業員満足度が注目される背景
厚生労働省の「雇用を取り巻く環境と諸課題について(2018年)」によると、2013年以降、女性や65歳以上の高齢者の就業者数が増加しているため労働力人口は増加しています。しかし15~64歳の、いわゆる「生産年齢人口」は今後も減少する見込みです。さらに、全人口に占める生産年齢人口の割合は2016年時点では60.3%でしたが、2065年には51.4%まで下がる見通しで、長期的にみると労働力人口の減少が懸念されます。
また、年収アップやより満足できる仕事をするために転職する人も多く、人材の流動化も進んでいます。
このように今後は企業の人材確保がより難しくなると予測されます。企業としては、人材の定着や採用に力を入れ、従業員一人一人の生産性を向上させることがより重要になってくるでしょう。
実際に、厚生労働省の2015年の「今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業」によると、「従業員満足度と顧客満足度の両方を重視する」企業は、「顧客満足度のみを重視する」企業よりも「業績がよい」「人材確保の状態がよい」と答えた割合が高いという結果が出ました。このように、従業員満足度の向上に取り組むことは、企業課題を解決する手段の一つになるといえます。
参考:雇用を取り巻く環境と諸課題について(2018年)p2.3│厚生労働省
参考:「取り組みませんか? 「魅力ある職場づくり」で生産性向上と人材確保 」p2│厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
エンゲージメントと帰属意識
従業員満足度と類似する2つの用語について解説します。
エンゲージメント
エンゲージメントは、ビジネスシーンにおいて「企業と従業員が互いの成長に貢献しあう関係」を指し、エンゲージメントが高いと、従業員の仕事への意欲も高まるとされます。
企業側の人事評価や人材育成といった取り組みも含まれるのが特徴です。従業員と企業が対等な目線で、互いによい信頼関係を築くために活用される考え方です。
帰属意識
帰属意識は「組織コミットメント」とも呼ばれ、組織の理念や目標を共有した従業員が、組織への一体感や愛着を感じるものです。
帰属意識には「この会社なら自分のやりたい仕事に取り組める」といった積極的なものもあれば「給料を得るためにこの会社で働く」といった消極的なものもあります。帰属意識がより高いほうが仕事への意欲も高いと考えられます。
このように、従業員満足度、エンゲージメント、帰属意識はそれぞれ異なるものですが、この3つは互いに関連すると考えられます。なぜなら「仕事に思い入れはないけれども会社への愛着はある」といったことは考えにくいからです。むしろ「仕事が楽しく、いつの間にか会社にも愛着がわき、会社の理念にも強く共感するようになった」というほうが自然でしょう。

従業員満足度の向上が企業に与える効果
従業員満足度が企業に与える効果を紹介します。
従業員の意欲向上
従業員満足度に関する複数の研究から、従業員満足度は仕事への意欲向上につながったり、仕事への満足感を深めたりすることがわかっています。
給料や待遇がよいことも大切ですが「仕事を任せてもらえること」「仕事の進め方を自由に決定できること」「能力の適正な評価が受けられること」なども従業員満足度を向上させる重要な要素です。従業員満足度が向上することで、労働意欲の向上も期待できます。
人材の定着
満足できる職場であれば「退職したい」と考える従業員は少なくなります。人材が定着することで経験値の高い従業員が多くなるほか、人材確保のコストを抑えることにもつながります。
顧客満足度の向上
従業員満足度が高いと、個々の従業員が意欲的に働くため、対応や接客の質が高まり、結果的に顧客満足度も上がると考えられます。
日本管理会計学会誌に掲載の論文「従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係―ホスピタリティ産業における検証―」では、「顧客は従業員と接触している間に,その従業員と同じような感情に至るという現象が生じる」としており、生き生きと働く従業員と接していると顧客も気持ちよくサービスを購入すると解釈できます。特に従業員と顧客が直接的に接する職場では、顧客満足度に与える効果が大きいと考えられます。
参考:鈴木研一、松岡孝介「従業員満足度,顧客満足度,財務業績の関係―ホスピタリティ産業における検証―」│日本管理会計学会誌、2014年、第22巻 第1号

従業員満足度を高めるなら、現状把握から
ここからは、アンケートによって従業員満足度を調査する場合の準備と実施ポイント、分析方法まで紹介します。
目的や対象の決定
まずは調査を実施する目的を明確にします。「従業員の意欲を高めるため」「離職率が高い原因を知りたい」といった目的が考えられます。
また全従業員を対象として行うのか、特定の対象者に絞るのかを決定します。対象を絞る場合は「現場に出る従業員」「人事部」「企画担当」などの業務や部署などで対象者を決める方法や、在籍年数で決める方法があります。
「マネジメント層の能力を底上げしたい」「人材がなかなか定着しない部署の定着率を高めたい」など特定の課題解決にフォーカスする場合は、対象者を絞るほうがいいでしょう。
目的に沿った設問を設定
調査項目としては「業務を行う過程」「手続き・結果」「組織環境」「モチベーション」「給与」「育成・評価」「職場の対人関係」などがあります。ただし、同じ項目でも立場や役職によって設問に差が生じる場合があります。例えば「上司と部下の関係」を表す項目において、若手なら設問は「上司のリーダーシップ」となり管理層なら「部下のマネジメント」となるでしょう。
- 意欲について調査したい
- 人間関係を調査したい
「仕事にやりがいはある」「仕事によって成長している」など
「納得いかない意見に対しては話し合いをしている」「従業員同士が互いに協力しあっている」など
上記のように、課題は何なのか仮説を立てたうえで、課題に関する設問を設けるようにします。
設問は回答しやすい選択式がよいとされています。5段階評価の場合は「そう思う/ややそう思う/どちらとも言えない/あまりそう思わない/そう思わない」の選択肢を使います。
4段階、6段階評価とすると「どちらとも言えない」のような中間選択肢がなくなり、より結果が明確になることが期待できます。
しかし、従業員に必ずしもはっきりとした回答があるとはかぎりません。そのため「どちらとも言えない」という選択肢を残すことも、回答者側の視点に立つと重要です。回答方式については慎重に決める必要があります。
また、職場の状況を理解し職場改善に役立てるために、一部自由記載欄を設ける方法もあります。
調査の実施
実施の際には「なぜ、従業員満足度調査を実施するのか」をしっかりと掲げます。調査の最終的な目的は、調査結果を生かして職場改善を行うことです。調査に協力することで職場が従業員にとってよりよい環境になることを、企業側が表明して理解を得ます。経営者自らが目的を掲げたり、運営担当者が現場に足を運んで説明を行ったりすることも有効です。
実施のポイントとしては次の3つです。
- 匿名で回答できるものにする
- 率直な意見が聞けるよう、調査結果を評価に利用しない旨を周知する
- 分析結果を従業員にフィードバック(公開)する
特に「分析結果のフィードバック」は重要です。従業員の協力のもと調査を実施しているため、フィードバックは企業側の義務ともいえるでしょう。そして、結果を従業員満足度の向上に役立てることで、調査に協力した時間を意義あるものにしなければなりません。

調査結果の分析
調査結果の分析方法を2つ紹介します。
クロス集計分析
調査結果を年齢・性別や勤続年数別、部署などの属性でかけ合わせ(クロス)をして集計します。例えば「人間関係について、全体では6割の従業員が満足していたが、勤続年数によって差があり、勤続年数が長いほど満足度が上がる」のように、同じ設問も細分化することでより精度の高い分析が可能です。さまざまな分析軸でみることにより、性別や年代ごとでの違い、ある部署と部署での共通点など、属性に応じた特徴を見つけられるでしょう。
経年変化分析
年度ごとなど調査を実施する際に同じ項目を聴取し、それ以前の調査結果と比較することで、経年変化を分析します。経年変化分析を行う際には、質問文や選択肢が同一でないと、正確な比較ができないため、最初の調査票設計が非常に重要です。
このような分析によって従業員満足度で企業課題を見つけたら、改善案を立案し実施します。改善案の施策例については後述します。
従業員満足度調査を実施する際の注意点
従業員満足度調査を意味のあるものにするためには、次のような点に留意します。
回答者(従業員)の負荷を考えた調査票設計をすること
設問数が多すぎる、似たような設問が続く、答えにくい設問が頻繁にある、といった調査票では回答しづらいので、従業員側の「調査への協力のしやすさ」「回答のしやすさ」も考えて設問を設定します。
また、調査は業務の一環なので業務時間に行うのが望ましいです。紙とWebのどちらでも回答できるようにすることや、従業員が回答の時間を確保できるよう繁忙期を避けるといった配慮もします。従業員の負荷をなるべく軽減しましょう。
調査後のフォロー
従業員が調査に対する意義を見いだすためにも、調査実施後はできるだけ早い時期に結果をフィードバックしましょう。
同時に、次のように従業員満足度調査を役立てていきます。
- 想定していた仮説と、調査結果の差分を検証する
- 得られた結果から再度仮説を立てる。その仮説を検証するための期限・実行案を立案する
- 検証結果を確認する時期の明確化
上記は今後の改善施策の立案・実行の基礎となる部分です。また、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルの起点になる重要な検証でもあります。

従業員満足度向上の施策例
従業員満足度を向上させるためには仕事への動機付けが重要です。具体的には、従業員の能力に応じた研修を受けさせることや、希望する仕事に携わるチャンスを与えることなどが考えられます。例えば、次のような施策を実施するのも有効です。
- 特定の従業員のみが受講できる選抜研修の機会を与え、かつ、条件をクリアした従業員に対して昇進のキャリアパスを与える
- 従業員自らに問題点・課題を発見させたうえで、経営会議などの場に参加させる。経営における意思決定のプロセスを体験させることにより、経営感覚を持つ従業員の育成を促進する
- 意欲ある従業員に対して経営層から経営やマーケティングなどに関するテーマを与え、それに取り組ませる。従業員ごとに課題を設定し、高度な研修を実施する
その他、健康の維持・促進につながる福利厚生を充実させることで従業員が健康面に関して安心して働けるようにすることや、時短勤務や休暇制度の創設でワークライフバランスを充実させるなどの施策もあります。
仮説を踏まえて調査結果を検証し、再度仮説を立案したうえで施策を決定していくことが従業員満足度を高めるポイントです。
従業員満足度を高めて「ともに戦える組織」をつくる
企業をつくるのは人である以上、そこで働く従業員の満足度は重要です。そして、従業員満足度を向上させるためには、従業員満足度調査を実施して現状を正しく分析し、従業員目線での改善を行う必要があります。
ただし、同時に企業が目指すべき組織文化を構築し、それに沿った組織戦略・人材戦略を描くことも必要です。それらは従業員満足度において目的や仮説を設定する際や、施策を実行してPDCAサイクルを回していく際の土台になるからです。
「単なる居心地がよいだけの組織」ではなく、PDCAサイクルを回して従業員満足度が向上する好循環をつくり上げることで「ともに戦える組織」を目指しましょう。
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