株式会社東京商工リサーチの「人手不足」関連倒産の調査結果によると、2019年上半期(1~6月)の「人手不足」関連倒産は、191件(前年同期比3.2%増)で、集計を開始した2013年以降、上半期では2018年(185件)の最多記録を塗り替えました。
要因として最も多いのは「後継者難」型で、全体の6割弱を占めています。また、人手確保が難しく経営難に陥った「求人難」型は47件(同147.3%増)、「従業員退職」型は20件(同100.0%増)と、いずれも2倍増となっており、人材確保は企業の存続を揺るがしかねない深刻な経営課題といえます。
そこで今回は、人材確保の基礎知識と対策について紹介していきます。
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人材確保が重要な理由とは

人材確保が重要とされる背景
●人手不足が社会的な問題になっている
厚生労働省が2017年に調査を行ったところ、企業の45%が常用労働者の不足を感じているという結果になりました。また、日本銀行の調査によれば、中小企業の人出不足感はバブル期並みの水準となっています。
ただし、全ての企業が一律で人手不足であるというわけではありません。調査結果では、運輸・郵便業、その他のサービス業、医療・福祉、宿泊・飲食サービス業、建設業などの非製造業で、約半数の企業が人手不足を感じているとされていますが、業界によってばらつきがあります。また、大企業より中小企業で、より不足感が顕著な傾向となっています。
●生産年齢人口が減少している
15~64歳の「生産年齢人口」が徐々に減少していることも、人手不足の原因の一つです。総務省によると、2018年1月には生産年齢人口が日本の総人口の60%を下回っています。この傾向は今後も、少子高齢化が進むことなどから、継続していくと予測されています。
参考:住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント(総務省)
▼人材確保については、こちらの資料もご覧ください▼
人材確保に失敗するとどうなるか
事業の継続や拡大のためには、優秀な人材の確保が必要不可欠です。人手不足のため事業を拡大できない、新商品の研究・開発に着手できないといった悩みを抱える企業は少なくありません。
さらには、後継者の不在が企業の存続を危うくするケースもあります。家族や従業員に会社を引き継ぐことができず、企業承継問題の解決を求めて行政書士やコンサルタントなどに頼る経営者も珍しくありません。
企業が人材確保に失敗する2つの理由
企業が人手不足に陥る社会的な背景を説明しました。ここからは、企業が人材を確保できない理由について、複数の原因を解説していきます。
●採用活動を設計・実行する力が不足している
募集を出しても、候補者を集めることができず、面接すら実施できないと悩んでいる企業も少なくないようです。その原因は、自社の魅力を求職者に適切に発信できていない、競合他社との差別化ができていない、求人情報(業務内容や条件など)がわかりにくいといった問題など、さまざまです。
しかしながら、いずれにしても「候補者が集まらない」ことには、「採用活動のスタートラインにすら、立つことができていない状態である」ということを、認識しましょう。
そして、候補者を集めたとしても、その後の選考過程において、自社が求めている人材であるか、十分に見極められない、候補者に自社やポジションの魅力を伝えられないといったケースもあるようです。また、どのような人材を採用したいのか、基準が明確になっていない、面接官の面接スキルが不十分である、といった課題のある企業も少なくありません。
●求職者にとって労働条件が魅力的ではない
労働条件が競合他社と比べて魅力的ではないというケースもあります。労働時間、待遇、職場環境、福利厚生、教育制度など、求職者が魅力を感じるような条件を提示し、アピールすることを検討してもよいでしょう。
人材確保に向けた採用力強化の取り組み例

求人情報をわかりやすくする
コストをかけずに実践できる取り組み例として、まず挙げられるのは求人情報に掲載される文章のブラッシュアップです。どのような人物を求めているのか、求める業界経験や所有資格の詳細や、それらが「必須条件」なのか、あればなお良い程度の「歓迎条件」なのかなどを明確にします。
また、求職者が入社後をイメージしやすいように、担当業務の内容についてはできる限り具体的に記載します。たとえばシステムエンジニアの募集であれば、使用する言語や取引先企業の業界、開発するシステムの内容や規模などを記載するとよいでしょう。
業務内容に応じた給与額についても記載しなくてはなりません。「入社前後の面談や職務内容の調整次第で変わるため、確定的な情報は記載できない」といったケースでも、下限金額は記載すべきでしょう。
求人の掲載媒体を見直す
求人を掲載する媒体、掲載数を見直した方がよい場合があります。応募が殺到する可能性がある求人は、自社の対応人員数や予算に応じて、媒体を適切に絞り込むことが重要です。
なお、求人広告や人材紹介サービス、公共職業安定所だけが求人媒体以外にも、自社のWebサイト、屋外の看板や張り紙、大学や専門学校など教育機関のキャリアセンターや就職課などの就職窓口はもちろんのこと、近年ではSNSを活用し採用活動を行う「ソーシャルリクルーティング」や、企業側が主体的に候補者にアプローチする「スカウト型採用サービス」も広まっています。
柔軟な働き方に対応した求人内容に変更する
多様な働き方の増加に伴い、企業の求人内容も勤務日数や時間、勤務場所、雇用形態などの多様化が進む傾向にあります。たとえば、子育て中の方が働きやすいように時短勤務や在宅勤務を認めていたり、エンジニアの副業や週3日のダブルワークを承認・推奨したりする企業もあります。
候補者の対象を広げる
候補者の対象を広げることも一つの選択肢です。資格や経験の有無、必要経験年数、担当プロジェクトの規模、使用言語などのさまざまな条件が本当に必要かどうかを検討し、不要な条件を取り除くことで対象者を増やせます。ダイバーシティー(多様性)推進の観点からも、積極的に検討しましょう。
自社の魅力が伝わる面接を実施する
企業の魅力は、職場見学や社員との直接対話でより伝わります。候補者が入社後の働き方やキャリアパスをイメージしやすくなるよう、人事担当者だけではなく、配属される部署のメンバー、同世代の社員、時には経営トップなど、さまざまな社員と話す機会を設けましょう。
内定から勤務開始までフォローする
内定後も人事担当者が候補者とこまめにコミュニケーションをとることで、早く職場に慣れてもらうとともに、組織・企業に対するエンゲージメント(愛着、好感度)の向上を狙います。結果的に、内定辞退や早期退職を防ぐ効果が期待できます。
人材確保に向けた定着率改善の取り組み例

新入社員の受け入れ体制を整える
新入社員が「自分は歓迎されている」と感じられるような雰囲気を作るため、人事が研修などを開催し、配属部署の上司・同僚となる社員に「新入社員の受け入れ方」を教えることも、大切なポイントです。
ただし、教えただけで現場任せにするのではなく、人事でも、新入社員や受け入れを担当する社員をサポートしましょう。また、「横の関係」を構築・維持すべく、同期や同世代の同僚と交流できる機会も設けるのも一つの方法です。同期や同世代だから可能な、気軽なコミュニケーションや相談ができる関係作りを意識します。
現場では、新入社員に担当してもらう業務内容やその量、任せ方などについて十分に検討しましょう。社内のさまざまなルールや、備品の管理場所など、とにかくわからないことだらけの新入社員にとって、社内の「当たり前」がすぐには理解できないことも多いものです。
新入社員のレベルに合わせられるよう、仕事内容などを調整する必要があります。研修やOJTの期間・内容、業務マニュアルの整備によって新入社員の定着・成長を支援しましょう。
適切なタイミングで配置転換や教育を実施する
部署をローテーションさせることによって、職場の活性化や社員のさらなる能力開発などが期待できます。このような配置転換を行う場合は、必ず事前に対象となる社員と面談し、背景や目的を共有することで納得してもらうことが重要です。
また、研修制度の内容は定期的な見直しが必要です。社員の年次や職種別のものだけではなく、組織が抱える課題などに応じて、さまざまなプログラムが考えられます。
その他、社員の自発的な学習を促すべく、社外研修やセミナーの受講費用を補助したり、勤務時間中の参加を認めたりするといった支援を実施してもよいでしょう。
公平に評価をする
最後に、評価制度についても簡単に触れておきます。公平な評価は、人材定着において必要不可欠です。上司による主観的な評価は、部下の不満につながります。公平な評価ができるよう、評価基準を見直すだけでなく、評価者を対象にした研修を実施するなど、評価スキルの向上にも注力しましょう。
また、評価結果のフィードバックも重要です。企業によっては、最終的な総合評価のみをフィードバックするケースもあるようですが、一人一人に対しできるだけ詳細に評価内容を伝えることで、納得性が増すともに、当該社員が次の目標やキャリアパスを意識できるようになります。
人材確保のために明日からできることを
この記事で解説したように人材確保を成功させるためには、まず求める人材像をできるだけ明確に言語化し、自社に合った求人の掲載媒体を選びましょう。
また、多様な働き方に対応することや、候補者の対象を広めることも人材確保に向けた大切な取り組みです。さらに、面接者のスキルも高め、採用成功につなげていきましょう。採用後も社員のエンゲージメントやモチベーションに配慮したさまざまな人事施策を実行することで、社内の活性化や離職率の低下が期待できます。コストをかけずにすぐに始められる施策もありますので、ぜひ実践してみてください。
採用成功のために読みたい12ページ

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