3種類の「フィット」を使い分けて、アトラクトにつながるフィードバックを|人・組織を育てるフィードバック講座 vol.2 採用活動編(後半)

3種類の「フィット」を使い分けて、アトラクトにつながるフィードバックを|人・組織を育てるフィードバック講座 vol.2 採用活動編(後半)

相手とよりよい関係を築けるだけでなく、人や組織の成長を促すカギとなりえる「フィードバック」。株式会社ビズリーチでは、株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役・伊達洋駆さんを講師にお迎えし、「フィードバック」をテーマとしたオンラインセミナーを開催しました。

「フィードバックの効果を高めるカギは、『準備』と『フォロー』にあり|人・組織を育てるフィードバック講座 vol.1」に続き、今回の記事では「採用活動におけるフィードバック」のなかでも、動機付け(アトラクト)につながる候補者へのフィードバックの伝え方や、オンライン採用で心がけたいポイント、さらにセミナーで挙がった参加者からの質問などについて、紹介します。

伊達 洋駆氏

講師プロフィール伊達 洋駆(だて・ようく)氏

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。2013年に神戸大学大学院服部泰宏研究室と共同で採用学研究所を設立し、同研究所の所長を務める。2017年に一般社団法人日本採用力検定協会の理事に就任。

ビジネスリサーチラボでは、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、ピープルアナリティクスやエンゲージメントサーベイのサービスを提供している。近著に『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)。

1.候補者にフィードバックをする際のポイントとは

Vol.2のレポートに入る前に、フィードバックの実施方法について、5つのステップをおさらいします。

フィードバックの進め方 5つのステップ

Vol.1では、5つのステップのうち、情報を通知する前準備にあたる(1)情報の収集、(2)目的の共有、(3)信頼感の醸成について、その重要性と背景にある「候補者(受け手)の心理」とともに、詳しく説明しました。さらに、情報を通知した後に「言いっぱなし」にするのではなく、一緒に「行動計画を立てる」ことが成長を促すカギであることを解説しました。

今回の記事では5つのステップのうち、4番目となる「情報を通知する」について、つまり「どうフィードバックを伝えるか」について解説します。

これを考えるうえで、大切になるポイントは
・目標と現状の差を示すこと
・自分の会社とのフィットを候補者に伝えること

の2点です。

それでは、この2つの具体的な内容について解説していきます。

1-1.目標と現状の差を示す――フィードバックは目標実現のための「道しるべ」

フィードバックの重要な機能の一つが、目指す先と現状の差を伝えることです。

フィードバックは目標実現のための「道しるべ」

人は日々たくさんの情報に囲まれ、さまざまなことに注意を向けながら生きています。しかし、それでは、努力やリソースが分散してしまいます。
そんな情報過多の状態のなかで、カギとなるのが「注意の向きを導いてあげること」です。「ここを目指そうとしているけれど、あなたは今ここにいます。でも、この方向に進んでいけば、目標に近づいていけますよ」という情報提供が重要になるのです。候補者が進むべき方向に対して、努力が分散しないよう、道しるべを示すことが、採用活動におけるフィードバックにおいて重要です。

ただし、候補者のなかには、目標が明確になっていない人もいます。フィードバックを行うためには、1番目の「情報を収集する」でもお伝えしたとおり、相手の目標を知っていることが大前提になります。目標が定まっていない場合は「どんなキャリアを目指したいか」「どういう人材になりたいか」などを一緒に考える時間が必要です。つまり、そういった候補者に対しては、キャリア相談と合わせてフィードバックを行うとより効果が高まるといえるでしょう。

目指す目標の共有

ある研究では、自分の成長目標と違うスキルを褒められてもモチベーションは上がらないが、自ら掲げた成長目標とリンクしたスキルを褒められるとモチベーションが上がるという結果が出ています。目標と関連づけてフィードバックを行わなければ相手に響かず、モチベーション効果がないということです。フィードバックの質を高めるうえで、「目指す目標の共有」は欠くことができません。

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1-2.自社との「フィット」を伝える――相手に合わせて、3種類の「フィット」を使い分ける

自社との「フィット」を伝える

2つ目のポイントの「自社とのフィットを伝える」とは、候補者に対して「あなたは当社に合っています」とフィードバックすることです。これは、入社意欲を高めるうえで重要です。

実際にフィットしているか、していないかの事実は別として、「あなたは当社にフィットしています」と伝えただけで、求人への応募が上がったという研究結果もあります(手当たり次第、フィットを伝えるのはあまりおすすめしませんが)。

では、どのように「フィット」を伝えればいいのでしょう。フィットには3つの種類があり、それぞれにコミュニケーションのポイントがあります。

Supplementary fit(サプリメンタリー・フィット)

候補者と企業の共通点を探しながらコミュニケーションを取り、合致している点をフィードバックします。

例:当社は穏やかな社風ですが、あなたも穏やかな性格なので、当社に合っています

Need-Supply fit(ニーズサプライ・フィット)

候補者のニーズに対して、企業側が提供できる部分があるかをフィードバックします。
候補者が求めている業務やポジション、働き方やキャリアプランなどのニーズをきちんと把握したうえで、「当社であれば、こんなプロジェクトへ参加できます」「こういう制度を利用すれば、そのキャリアパスを実現できる可能性があります」などと伝えます。

例:あなたはこういう働き方を求めていますが、当社ではこんな制度があるため、当社に合っています

Demand-Ability fit(デマンドアビリティー・フィット)

企業側が要求している能力に対して、候補者のこれまでの経験やスキルが重なっている、十分な知識を持っている場合、合致する部分をフィードバックします。これを正確に伝えるためには、自社の人材要件をしっかりと整理しておくことが大切です。

例:当社ではこんな能力が求められますが、あなたはそれを持っているため、当社に合っています

このように「情報を通知する」といってもさまざまな切り口があります。3つのフィットを相手によって組み合わせながら伝えることで、採用活動においてより効果的なフィードバックとなるでしょう。

2.「伝達感」は低いが「伝達度」は高い、オンラインコミュニケーションのポイントとは?

採用のオンライン化は、この1年で加速しました。最後に、オンラインでのフィードバックで何に気をつければよいかについて、ご紹介しましょう。

多くの方が経験して気づいたことだと思いますが、オンラインコミュニケーションの最大の特徴は、身ぶり手ぶり、視線、姿勢などの非言語的手がかり(情報)が減ることです。では、非言語的手がかりが減ると、どのような影響があるのでしょうか。
研究では、自分の話が相手に伝わったという「伝達感(伝わった感覚)」が低くなり、相手の話が理解できたという「感覚」も対面より減るということが明らかになっています。

伝達感への影響度

ただ、実際に伝わったのかどうかという「伝達度(伝わった度合い)」を見ると、実はオンラインのほうが高いという研究結果があります。非言語的手がかりが減り、余計な情報が入らなくなったことで、人は「話している内容」に注目するようになるからと考えられます。結果として、内容がきちんと伝わりやすくなるのです。

伝達感と伝達度は異なる結果に

ここからいえることは、オンラインでのフィードバックは、「伝達度重視」が有効になるということ。つまり、「どのように伝えるか」よりも「何を伝えるか」が重要になり、内容そのもののクオリティーが問われます。言語化の精度を高め、ロジカルに伝える技術がより求められるといえるでしょう。

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3.セミナー参加者からのQ&A

本セミナーでは多くの参加者から質問をいただきました。そのなかからいくつかを抜粋して、紹介します。

Q. フィードバックを行うのは、「担当面接官」と「リクルーター」、どちらのほうが効果的ですか?

A. それぞれのメリット・デメリットを把握し、使い分けることが必要です。

「担当面接官」のほうが、直接候補者と会話をしている分、情報が豊富にあるのでフィードバックの内容は濃くなるでしょう。しかし、評価者であるため、候補者にとって内容がストレートに受け止めにくい、言い方を変えると「このコメントに対し、うまく対応しなくては…」と候補者に思われる可能性があります。
一方、「リクルーター」は間接的な存在のため、「自分の味方」と思ってもらえ、フィードバックの内容を受け入れてもらいやすいでしょう。ただ、実際に候補者と接している回数が少なければ、面接官に比べて情報量は劣ります。
それぞれのメリット・デメリットに加え、候補者の心理状況を踏まえて使い分けましょう。

Q. 採用を見送る対象の候補者に対し、効果的なフィードバックはありますか? できればよい印象を残したいです。

A. 事実を丁寧にフィードバックしたうえで、「当社では見送りとなったが、こんな会社なら、あなたは活躍するかもしれない」と、提案してみてはいかがでしょうか。

見送りにはさまざまな理由があると思いますが、ここでは「会社とフィットしていない」という理由から見送ったという前提でお答えします。

「他の人から見たときに、自分がどのように映っているのか」をフィードバックすることに意義があります。「よいか、悪いか」ではなく、事実をそのまま丁寧に伝えてみてはいかがでしょうか。自社では見送りという結果になったとしても、その人の経験や目指す未来が他の会社では「フィット」することは十分にありえます。

将来的に自社での採用の可能性があるのであれば、「今回はここがフィットしませんでしたが、会社が変化するなかで、あなたの力が必要になることがあるかもしれない」など、目標と現実の差分を明確にし、将来的には差分が埋められるかもしれないと伝えてもいいと思います。

Q. 誰にでもフィードバックはすべきですか?

A. フィードバックはあくまでも手段。伝える内容や頻度は相手によってうまく使い分けるといいでしょう。

ミドルレイヤーなど能力の高い人は自分で考えることができるので、「思考を促す程度」で十分といえます。相手の自律性を脅かすことにもなりかねませんので、具体的なフィードバックは避けましょう。
逆に、経験の浅い候補者の場合は、速報性やわかりやすさが重要です。受け手が理解しやすく、また次に何をすべきか行動に移しやすい内容になっていることが望ましいといえます。

Q. 3つのフィットの効果は、候補者のどのような点に注目して使い分けたらよいのでしょうか?

A. 3つのフィットは、相手のニーズがどれほど明確なのか、によって見極めます。

「こんなふうに働いてみたい」という将来像が明確な候補者であれば、相手のニーズに対して、企業側が提供できる部分があることを伝える「Need-Supply fit(ニーズサプライ・フィット)」が有効です。
そういったニーズや将来像を持たない候補者に関しては、自社と候補者の共通点を伝える「Supplementary fit(サプリメンタリー・フィット)」や、自社が欲している能力に対して、候補者が保有している経験やスキルや知識が合致する部分を伝える「Demand-Ability fit(デマンドアビリティー・フィット)」がいいでしょう。

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4.モチベーションを高めるフィードバックの第一歩は、相手の目標を知ること

今回のレポートでは、採用活動において候補者に対し「どうフィードバックを伝えるか」を考えるうえで、大切なポイントをお伝えしました。

「自分の成長目標と違うスキルを褒められてもモチベーションは上がらないが、自ら掲げた成長目標とリンクしたスキルを褒められるとモチベーションが上がる」――。この研究結果からも、企業側の「候補者理解」が重要であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

次回レポートでは「入社後におけるフィードバック」にフォーカスし、新たな中途社員のオンボーディングや、既存メンバーの活躍・成長を促す際のフィードバックのポイントについて解説。リモートワークのなかで「嫌われないフィードバック」をするための注意点など、明日からのマネジメントに生かしていただきたい実践的な内容をお伝えします。

※掲載情報は記事制作時点のものとなります。

執筆:田中 瑠子、編集:瀬戸 香菜子(HRreview編集部)

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