テクノロジーの急速な進展により、企業にDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められる時代となっています。DXとは、簡単にいうと「デジタル技術を活用して製品やサービス、業務そのものをより良いものへと変革して、競争優位性を高めること」です。これを推進するためには、DX人材の育成が欠かせません。
本記事では、DX人材が求められている背景や育成するメリット、育成方法とポイントを解説します。また、DX人材育成における先進的な企業事例も紹介します。
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DX人材とは

DX人材とは、DXを推進するために必要な人材のことです。DX人材の定義や適性、具体的な職種、必要なスキルなどを解説します。
DX人材の定義と6つの適性
経済産業省は、「DX推進指標とそのガイダンス」のなかで、「DX人材」を以下のように定義しています。
「デジタル技術やデータ活用に精通した人材」
「事業部門等において、顧客や市場、業務内容に精通しつつ、データやデジタル技術を使って何ができるかを理解し、DXの実行を担う人材」
引用元:DX推進指標とそのガイダンス|経済産業省(PDF)
また、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」のなかで、DX人材の適性として以下の6つを挙げています。なお、これらは2019年の調査時点の仮説です。企業風土や文化などの影響による変化を見極める必要があるとしています。
- 不確実な未来への創造力
- 臨機応変/柔軟な対応力
- 社外や異種の巻き込み力
- 失敗したときの姿勢/思考
- モチベーション/意味づけする力
- いざという時の自身の突破力
参考:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査~概要編~|IPA 情報処理推進機構(PDF)
DX人材が担う7つの職種
IPAは、先ほど紹介した資料のなかで、DX人材が担う具体的な職種として、以下の7つを挙げています。
職種 | 定義 |
---|---|
プロダクトマネージャー | DXやデジタルビジネスの実現を主導する人材 |
ビジネスデザイナー | DXやマーケティングを含むデジタルビジネスの企画・立案・推進等をおこなう人材 |
テックリード | システムの設計から実装までをおこなうことができる人材 |
データサイエンティスト | 事業や業務に精通したデータ解析・分析ができる人材 |
先端技術エンジニア | 先進的なデジタル技術を扱うことができる人材 |
UI/UXデザイナー | システムのユーザー向けのデザインを担当する人材 |
エンジニア/プログラマ | システムの実装やインフラの構築・保守などをおこなう人材 |
プロダクトマネージャーやビジネスデザイナーなどビジネス視点でDXを主導するリーダーをはじめ、テックリード等についても中途採用も含め内部で保有しようとする傾向が見られます。
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DX人材に必要なスキルとマインドセット
DX人材に求められるスキルは職種によっても異なりますが、基本的なスキルとしては、以下の7つが挙げられます。
- プロジェクトマネジメントスキル
プロジェクトの推進を適切に管理して、プロジェクトを成功に導くスキル - 企画力・構築力
DX戦略に沿って具体的な企画を立案し、それをもとにビジネスモデル(どうやって利益を生み出すのか)や、ビジネススキーム(ビジネスの全体的な枠組み)を構築するスキル - IT関連の基礎知識
Webやアプリケーションの仕組みに関する知識、先端技術に関する知識、デジタルリテラシー(デジタル技術を正しく安全に活用するスキル)など - デジタル活用能力
最新技術やトレンドを取り入れるだけでなく、優位性を確立するために活用できるスキル - データサイエンススキル
あらゆるデータから価値を引き出し、課題解決に役立てるスキル - UI/UXに関する知識
ユーザー目線でわかりやすく使いやすいデザインを作るための知識 - ファシリテーションスキル
多様な意見をまとめ、話し合いをスムーズに進めていくスキル
また、DX人材には、スキルだけでなくマインドセット(その人の基本的な考え方や行動のパターン)も求められます。以下は、「変革を起こすのに必要な意識」といえるでしょう。
- 巻き込み
プロジェクトなどを成功させるため周囲の多くの人を巻き込もうとする姿勢 - 課題発見
適切な課題を設定し、解決までの筋道を立てる力 - 挑戦
現状を変えたい、新たなことに挑みさらなる飛躍をしたいという欲求
企業にDX人材が求められる背景

経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、2018年時点でのIT人材の需要と供給のギャップは22.0万人です。このギャップが2030年には、多く見積もって78.7万人まで拡大すると予想されています。
DX人材とIT人材はイコールではありませんが、DX人材にIT技術を活用する力は不可欠です。すなわち、IT人材の不足はDX人材の不足に直結するといえます。
「令和3年版 情報通信白書」でも、多くの企業が「DXにおける課題」として「人材不足」を挙げています(53.1%)。この課題を解決するためには、企業は「DX人材の採用と育成」の2つのアクションに取り組む必要があります。
参考:IT人材需給に関する調査|経済産業省、令和3年版 情報通信白書 デジタル・トランスフォーメーションにおける課題 |総務省
DX人材を育成するメリット

なぜ、DX人材の採用だけでなく育成に取り組む必要があるのでしょうか。社内でDX人材を育成するメリットを解説します。
システムの一貫性が保てる
外部のベンダー企業などにDX推進の業務を委託すると、エンジニアの技術力の差やコスト面の事情でシステムの一貫性が保たれず、トラブルが生じる可能性があります。自社のシステムをよく理解したDX人材を社内で育成することで、システムの一貫性を保ちやすくなります。
社内体制が構築しやすくなる
DXでは、これまでの社内体制を大きく変えていく必要があるので、特定の部署や経営層だけでなく全社的に取り組まなければ、DXの実現は難しいでしょう。自社の業務や社風を理解しているDX人材を自社で育成すれば、部署間の調整がスムーズに進むため、新たな社内体制を構築しやすくなります。
自社に適したDXを推進できる
DXの目的は、デジタル技術を活用して既存業務を改善したり、新規事業を立ち上げたりすることによって、競争優位性を確立することです。既存システムの問題点を理解している社内のDX人材が新システムの企画から開発に携わることで、最大の効果を引き出せるでしょう。
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DX人材を育成する4ステップ

DX人材の育成にあたって押さえておきたい言葉として「リスキリング」があります。経済産業省の資料で紹介されているリスキリングの定義は、以下のとおりです。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
引用元:リスキリングとは‐経済産業省(PDF)
DXを推進するためには、社員にデジタルに関するスキル・知識を新たに習得してもらう必要があります。上記資料のなかで、リスキリングは「DX時代の人材戦略」とされています。優位性を確立するためには、一度習得したらそれで終わりではなく、時代の変化に合わせてスキルを磨き続けていくことが大切です。
では、実際にどのようにして社員に新たなスキル・知識を習得してもらえばよいのでしょうか。ここからは、DX人材を育成するための基本の4ステップを紹介します。
DXにも向き・不向きがあります。まずは、既存社員のなかからDXに向いている人材を見極めることが重要です。先ほど紹介したようなDX人材の6つの適性やスキル、マインドセットに加えて、コミュニケーション能力やリーダーシップといった点も重視しましょう。適性の高い人材を選定することで、育成コストも削減できます。
候補者は、エンジニアやプログラマーなどの専門分野だけでなく、社内から幅広く集めることが大切です。異なる経験・知見を持つ人材が集まってDXに取り組むことで、シナジー効果も期待できます。
育成の対象者が決まったら、方法論とマインドセットを学ぶ機会を提供します。DX人材は、デジタルを使いこなす「ハードスキル」とコミュニケーション能力や調整力などの「ソフトスキル」の両方が必要です。
具体的な方法としては、技術スキルの向上ならハンズオン講座(体験学習)、マインドセットの基礎を学ぶなら外部講師による講義などがあります。
OJT(On-the-Job Training)とは、職場で実務経験を通してスキル・知識を身につける人材育成の手法です。座学で学んだことを実践して経験を積むことで、実行力が身につきます。
OJTは、場当たり的に実践してもあまり成果は得られません。OJT担当者が目的を理解し、あらかじめ計画を立てて、継続的におこなうことが大切です。
テクノロジーは日々進化しており、新しい技術やサービスが次々と誕生しています。社内だけでなく社外にもネットワークを広げ、常に最新の知識や技術をキャッチアップすることが重要です。
社外のコミュニティーへ参加したり、SNSを活用したりして、最新情報が得られる環境を整備しましょう。
DX人材を育成するポイント

DX人材の育成には、いくつか押さえておくべきポイントがあります。1つずつ詳しく解説します。
ITスキルだけでなく精神力や柔軟性も重視する
DX人材には、ITスキルだけでなくコミュニケーション能力や調整力などのソフトスキルやマインドセットも重要です。
本記事でもDX人材の6つの適性を紹介しましたが、IPAの調査では、 DXに取り組んでいるIT企業とユーザー企業、デジタルビジネス推進企業が最も重視しているのは、「臨機応変/柔軟な対応力」という結果が出ています。
既存の社内体制や文化を大きく変えるのは容易ではありません。ほかの社員からなかなか同意を得られなかったり、予期せぬトラブルが起きたりすることもあるでしょう。DX人材には、そうした状況にも冷静に対処できる精神力や柔軟性が求められるため、ITスキルと同等、またはそれ以上に重視すべきポイントといえるでしょう。
参考:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査~概要編~|IPA 情報処理推進機構(PDF)
要件を明確にし、長期的に取り組む
自社にはどのようなDX人材が必要なのか、要件を明確にすることも大切です。DXによりどのような変革を起こしたいのか、そのために社員にどのようなスキルや知識を習得してもらう必要があるのかを整理し、計画を立てて育成することが大切です。DX人材に限らず、人材育成は短期間で成果を得ることは難しいものです。長期的な視点で取り組みましょう。
また、本記事では「育成」の必要性に焦点を当てていますが、DX人材は「育成」と「確保」の2アクションが必要です。「確保」には、採用のほかに社外との連携も含まれます。中途採用や外部リソースの活用など、あらゆる手法の組み合わせも検討しながら、長期的な育成計画を立てていきましょう。
DX専任のチームをつくる
DXを実現するためには、これまでの社内体制や文化を大きく変えていかなければなりません。短期で成果を得ることは難しいので、長期的な視点が必要です。通常の業務に加えてDXも兼務することになれば、そのぶん担当者の負担は大きくなり、業務に支障をきたすこともあるかもしれません。
そこで、DX専任のチームをつくり、担当者をDX専任とするのも1つの方法です。専任チームをつくれば、本気でDXを推進していることを社内外にアピールできるでしょう。
アジャイル開発を採用する
アジャイル開発とは、システムやソフトウエアの開発工程を機能単位で区切り、小さいサイクルを繰り返しながらプロジェクトを進めていく開発手法です。
通常の進め方よりもプロジェクト完了までの期間が短く、仕様変更や機能改善、軌道修正に対応しやすいというメリットがあります。経験の浅いDX人材でも成功体験を積み重ねやすい手法です。

育成過程を可視化・共有する
DXはこれまでの社内体制や文化が変わる大きなプロジェクトであるため、DX人材の育成も全社的に取り組むことが大切です。
DX人材を育成する目的やビジョンを全社で共有するのはもちろんのこと、育成過程を可視化・共有することで、「全社的に取り組んでいこう」という空気が生まれ、他部署からの理解やサポートを得やすくなります。
また、成功体験を共有することで、社員のモチベーションの向上も期待できるでしょう。
社員のデジタルリテラシーを向上させる
デジタルリテラシーとは、デジタル技術を安全に活用するスキルのことです。習得レベルに応じて、以下の3つに分けられます。
- デジタルツールの基本操作ができる
- 利活用の知識を持っている
- リスクを回避できる
DXは、全社的なプロジェクトです。社員のなかに一人でもデジタル技術を「使いたくない」「面倒だ」という意識を持った人がいると、DXの実現は難しいでしょう。社員一人一人にDXを「自分ごと」と捉えてもらい、デジタルリテラシーを向上させることが大切です。
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DX人材におすすめの資格・検定

DX人材にスキル・知識を習得してもらうために、資格・検定を受けてもらうのも1つの方法です。DX人材の育成におすすめの資格・検定をいくつか紹介します。
- DX検定
正式名称は「DX検定™(日本イノベーション融合学会*ITBT(R)検定)」。日本イノベーション融合学会が実施している検定です。先端技術とビジネスに関するトレンドの知識が問われます。 - DX推進アドバイザー認定試験
一般財団法人全日本情報学習振興協会が主催する検定です。試験内容には、DXの現状や技術だけでなく、DX人材やDXに関連する制度や政策なども含まれています。 - 情報処理技術者試験
経済産業省が一定の水準以上の知能・技能を有する情報処理技術者であることを認定する国家試験です。試験はIPAが実施しています。
DX人材の育成事例4選

最後に、DX人材の育成に取り組む企業の事例を紹介します。
ヤマトホールディングス株式会社
ヤマトホールディングス株式会社は、2021年度より「Yamato Digital Academy(YDA)」をスタートしました。経営層を含む社員のデジタルリテラシーの向上、およびデジタル人材の早期育成を目的としたデジタル教育プログラムです。階層ごとに、大きく3つのカリキュラムがあります。
- 全社員向けカリキュラム
各事業本部、各機能本部、コーポレート部門、主管支店社員のリーダーを対象としたカリキュラムです。基礎的なDX研修やデジタルデータを活用するための研修などで構成されています。 - 経営層向けカリキュラム
社長を含む経営層、経営幹部候補者を対象としたカリキュラムです。経営資源の分析や、リスクへの見識を高めるプログラムなどで構成されています。 - DX育成カリキュラム
デジタル機能本部所属社員を対象としたカリキュラムです。ITスキルを高めるだけでなく、理念研修や全社オペレーション研修など、複数のプログラムで構成されています。
このプログラムをグループ各社で順次展開し、3年で1,000名規模の受講を予定しています。
参考:デジタル人材の育成へ向け、「Yamato Digital Academy」をスタート | ヤマトホールディングス株式会社
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業株式会社は、AI分野の人材を育成するための社内講座「ダイキン情報技術大学」を設立しました。教育機関や先端研究機関から講師を招き、社員に対して幅広い教育をおこなっています。「ダイキン情報技術大学」の取り組み内容は以下のとおりです。
講座名 | 内容・目的 |
---|---|
新入社員向けデジタル人材育成講座 | AI知識講座やビジネスモデル講義、PBL(プロジェクト型を基にした演習)などを通して、2年かけてデジタル人材を育成する |
AI技術開発講座 | AI知識講座やPBLを通して、AI技術の開発に携われる人材を育成する |
システム開発講座 | システム開発研修を経てAIを既存システムに導入するために必要なシステムの開発、システム開発を外部に委託・発注できる人材を育成 |
管理職向けAI活用講座 | AI業務知識の研修、PBLテーマの企画書作成支援研修などを通してデータ活用戦略の中核を担う管理職・リーダーを育成 |
2023年度末までに1,500人のデジタル人材育成を目標としています。
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほフィナンシャルグループでは、国内社員向け旧ラーニングシステムの利用率低下が課題となっていました。そこで、株式会社日立システムズが提供する「コーナーストーン」を導入し、新たなデジタル・ラーニングプラットフォーム「M-Nexus」を構築しました。このプラットフォームは、「ラーニング」「公募」「スキル資格データベース」「コミュニケーション」という4つの機能を有しています。
- ラーニング
金融知識やビジネススキル、デジタル知識をeラーニングで学べます。自社教育コンテンツだけでなく、外部コンテンツ(「NewsPicks」「ドコモgacco」など)も提供しています。 - 公募
M-Nexus上で社内公募の情報を閲覧・応募できます。 - スキル資格データベース
社員の情報(保有資格、スキル、経験など)が保存されています。 - コミュニケーション
コミュニティの作成やコンテンツへの評価、コメント投稿など、社員同士の学び合いを促進するための機能です。
2021年3月時点で、みずほグループ企業の国内社員約5万8,000人に利用されています。
参考:人材育成|みずほフィナンシャルグループ、コーナーストーン導入事例:株式会社みずほフィナンシャルグループ様|株式会社日立システムズ
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社は、2021年7月、社員のデジタルリテラシーおよびスキル向上のためのプログラム「キリンDX道場」をスタートしました。レベル別に3つのコースが用意されています。
- 白帯(初級)
デジタル活用の必要性、デジタルを活用した解決策を創出するための発想、基礎的なデータ分析を学びます。 - 黒帯(中級)
デジタルテクノロジーを活用して業務を効率化する方法を学びます。 - 師範(上級)
より高いデジタルリテラシーを身につけるために、営業やSCM(サプライチェーンマネジメント)などをテーマ別に学びます。
参考:DX人材育成プログラム「キリンDX道場」を7月から開校 2021年 | キリンホールディングス
ポイントを押さえてDX人材の育成に取り組みましょう

テクノロジーは日々進化し続けています。変化の激しい時代において企業が競争を勝ち抜いていくために、DXの推進は不可欠です。
DX人材には、デジタルを活用するスキルだけでなく、自社のビジネスや業務内容への深い理解が求められます。自社にはどのような変革が必要なのかを明確にし、自社に合ったDX人材の育成が重要です。
DX人材に限らず、人材育成は短期で成果を得られるものではありません。ポイントを押さえ、長期的な視点で取り組んでいきましょう。
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