少子高齢化によって労働力人口が減少している現在、多くの企業が人材戦略を見直しています。働き方改革の推進などによって、バックグラウンドの多様な人材が増えるとともに、働くうえでの価値観が多様になっていることなども影響しています。
社会やビジネスシーンの変化にともない、企業はどのような人材戦略を立てていけばよいのでしょう?
本記事では、人材戦略の具体的な立て方の手順や取り組み方について詳しく解説します。さらに、人材戦略に取り組む企業の成功事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
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人材戦略とは

「人材戦略」とは、企業の経営計画を実現するために必要な、人事面での戦略のことです。
企業は経営目標の達成のために「営業戦略」「組織戦略」「事業戦略」など、さまざまな側面から戦略を掲げます。そうしたなかで、人材戦略は従業員の確保や育成、配置などによって、企業そのものの力を強化することを目標とする戦略になります。
企業は経営戦略を成功させるとともに、企業自体をよりよい状態にする必要があります。人事面においては、従業員それぞれがパフォーマンスを最大限に発揮できるような環境を築くことが目的になります。そうした環境整備も人材戦略の一つです。
戦略人事との違い
人材戦略と類似する言葉に「戦略人事」があります。戦略人事とは、事業ごとの目標達成を目的として、人材業務を担う取り組みのことです。
人材戦略が企業の掲げる経営目標の達成を目的としている点で、戦略人事とは異なります。
人材戦略が重要とされる理由

かつて日本企業で中心になっていた「終身雇用」の制度が近年、限界を迎えつつあります。また、働き方や働くうえでの価値観も多様化しています。そうしたなかで、人材の流動性が激しくなっています。
そこで重要性を増しているのが、人材戦略です。さまざまな経営戦略のなかでも、人材戦略が重要とされている理由には、以下のようなことが挙げられます。
- 人材を定着させるため
- 適材適所の人員配置を実現させるため
- 戦略人事と連動させるため
ここからは、企業が人材戦略に取り組む重要性について理解を深めていきましょう。
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人材を定着させるため
人材戦略が重視される理由の1つには、人材の定着、離職防止が挙げられます。
「人材の定着」は、現在の日本企業が抱える重大な課題になっています。なぜなら、日本社会は高齢化が進み、労働力人口が減少しているからです。人材不足のためにアイデアがあってもプロジェクトを実現できない企業や、人材不足によって倒産を余儀なくされる企業もあります。そのため、人材の離職を防ぎ定着させる環境づくりが企業に求められています。
そこでポイントになるのが、従業員の離職理由です。内閣府が発表した「平成30年版子供・若者白書」によると、初めての就職先を離職した原因として最も多く挙げられたのは「仕事が自分に合わなかったため」でした。
また、「人間関係がよくなかったため」「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」といった、人事労務管理に関する理由も多く挙げられています。
このことから、企業が人材戦略に取り組み、職場の人間関係や就労条件の見直しといった対策を実施することが、従業員の離職防止に有効な手段であると考えられます。

適材適所の人員配置を実現させるため
経営目標の達成には、従業員一人一人のパフォーマンスを向上させて組織力を高めていくことが求められます。そこで注目されているのが「タレントマネジメント」です。
タレントマネジメントとは、従業員の持つスキルや経験を人事担当者が管理し、適切な人員配置や育成を行う取り組みを指します。部署ごとの過不足を調整するような単なる人事施策ではなく、経営計画を軸にした人事施策を設計できる点が特徴です。
タレントマネジメントの導入は、経営者にとっても従業員にとってもメリットがあります。経営者にとっては、従業員の一元管理によって人員の適切な配置を行えることがメリットです。従業員にとっては、自らのスキルや能力に応じた人員配置が行われることで、希望とマッチした業務を担当できることがメリットとなります。
戦略人事と連動させるため
先述した「戦略人事」と連動して効果を上げていく観点からも、人事戦略が重要とされています。
戦略人事は「戦略的人的資源管理」の略語で、1990年代にアメリカの経済学者デイブ・ウルリッチ氏により、提唱されました。企業が取り組む事業ごとに、人材戦略を実施することを指します。
人材戦略は戦略人事と連動することで、企業の抱えるプロジェクト一つ一つにも効果を及ぼすことができ、各プロジェクトを成功に導くサポートができます。
人材戦略の種類

人材戦略は、主に以下の4種類の要素から構成されています。
- 採用
- 育成
- 配置
- 定着
それぞれ、人材戦略においてどのような意味を持つのか、次で詳しく紹介していきます。
採用
人材戦略の最も重要な要素が「採用」です。企業とマッチした人材を採用できれば、最低限の育成や配置調整によって、企業への貢献が期待できるからです。
ただし、やみくもに優れた経歴の人材を採用しても、自社で活躍できるとは限りません。採用において重要なことは「どのような人材が自社とマッチするか」という、企業における理想の人物像を具体的にイメージしておくことです。
たとえば新しい事業を立ち上げる場合、「現時点で企業にいる人材」と「事業の成功に必要な人材」をまず検討します。現状と理想のイメージを比較して、より理想のイメージに近づけられる人材を採用しましょう。また、理想の人材像に合わせて、採用プロセスや、求める人材へのアプローチ方法も検討する必要があります。
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育成
採用がうまくいき、求める人材を採用できたとしても、自社で能力を発揮できるかはわかりません。そこで重要になるのが「育成」です。
すでにスキルを持つ人材でも、さまざまな状況の変化に対応できるよう、能力の開発や、研さんが必要になります。育成には時間やコストがかかりますが、従業員のスキル、能力が伸びなどすれば、数十年にわたって企業に貢献する財産となります。
研修制度だけでなく、資格取得のサポートや、自己啓発制度などを充実させましょう。従業員が能動的に学び、成長できる環境を整えていくことが重要になります。
配置
人材が力を発揮するためには、その資質にマッチした環境で働くことが重要です。そこで必要になるのが、適材適所の「人員配置」です。
単に欠員を埋めるための配置ではなく、経営計画の達成に近づくための有効な人員配置を検討するようにしましょう。能力を最大限に発揮できる配置を実現できれば、それまで高く評価されていなかった従業員も、ポジションが変わっただけで能力を発揮する場合があります。
定着
人材戦略では、採用、育成、配置の連動性を高め、従業員の「定着」を目指します。
コストをかけて採用、育成した従業員には、長く自社に貢献してもらいたいと企業側は考えるでしょう。ただし、育成や配置にミスマッチがあると、従業員に不満を抱かれ、最悪の場合、離職されてしまうケースがあります。
採用、育成、配置の取り組みが分断されていると従業員の理解が得られにくくなり、定着が難しくなるため、連動性を意識して人材戦略に取り組みましょう。
人材戦略の立て方

いざ人材戦略を策定しようとしても、何からはじめていけばいいのかわからない、という人も多いでしょう。人材戦略は、大きく分けて以下の4つのプロセスを経て策定されます。
- 経営戦略を理解する
- 必要な人物像を定義する
- 現状から目標を設定する
- 実現プロセスを設計する
ここからは、人材戦略の立て方について、手順と流れを追いながら説明していきます。
経営戦略を理解する
人材がどれほど優秀な経歴やスキルを持っていても、企業とマッチしていなければ能力を十分に発揮できません。経営戦略と人材のミスマッチが起こると、人材にかかるコストが無駄になる場合があるので、そうした事態はできるだけ避けたいものです。
そこで、企業の経営戦略を改めて確認することが重要です。以下の点を、明確にしましょう。
- 企業が実現したいこと
- 市場における課題、環境
- 現在の経営状況
自社が展開する事業の市場において、自社がどのような状況にあり、何を課題としているか、担当者から説明を聞くだけでなく、客観的な数値をともなったデータや情報収集を行うようにします。
将来、現在の状況からどう改善させていきたいのか、今後のビジョンも洗い出せると、より効果的です。
必要な人物像を定義する
人材戦略の目標を達成するために、必要な人物像をイメージし、定義します。
求めるマインドやスキル、業務経験など、「入社してほしい人材の人物像」をできる限り明確化しておく必要があります。具体的に「どんな役割の」人材が「何人ほど」必要かも明確にするとよいでしょう。
人数を判断するときのポイントは、閑散期や繁忙期を基準にしないことです。閑散期や繁忙期を基準にすると、人手が足りなくなったり、逆に人手が余りすぎたりしてしまい、現場に混乱を招きかねません。長期的な視点に立って、通年の従業員数を基準に検討するようにしましょう。
現状から目標を設定する
「必要な人材」を定義しようとする過程で、企業の現状が自然と把握できます。企業が理想とする目標と、現状とのギャップが明確になるので、それをどうすれば改善できるか、人材戦略の面から検討します。
把握した現状と、必要な人物像を照らし合わせれば「どのような人材を」「どのくらいの人数」「どの部署に配置するか」、そして「どう育成するか」という明確な目標が設定できます。従業員のスキルや、人数の不足している部署、過剰に配置されている部署までを把握し、企業を改善するヒントにしましょう。
実現プロセスを設計する
目標が設定できたら、人材戦略のプロセスを具体的に設計します。たとえば、以下のような項目に分けて、提案や実行の担当者を決めて、設計を進めていきます。
- 採用方法の再考
- 人員配置の方法の見直し
- 研修制度、教育プログラムの変更
注意するポイントは、現時点で実行できる想定の計画にとどめることです。人材戦略は経営戦略の1つと解説してきましたが、経営状況を大幅に改善するといった、大きな目標を見据えたハードルの高い計画では、取り組みの内容が非現実的なものになりがちです。
あくまで現状を踏まえて、経営状況を少しずつよくできるようなプロセスを設計するようにします。
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人材戦略の取り組み方

実際に人材戦略を立てても、十分に効果を発揮できない場合があります。ここからは、人材戦略をより効果的なものにする以下の取り組みについて、ポイントや注意点を交えながら解説していきます。
- 人材データを活用する
- タレントマネジメントを行う
- 多様性を重視する
- プロフェッショナル人材戦略の検討
人材データを活用する
企業の現状を把握するステップでは、活用するデータが正確でなくてはなりません。
また採用、配置、評価のデータをそれぞれ個別で管理していては、人材戦略の効果は薄まってしまいます。各従業員の能力や状況を把握するために従業員のIDにひもづけて、すべてのデータを横断的に活用できる環境を整えるとよいでしょう。
人材データをそろえ、人材戦略を正しく計画、評価できるようにします。
タレントマネジメントを行う
前述したように、従業員の持つスキルや経験を管理できるタレントマネジメントを実施すれば、従業員の能力を最大限に発揮できるような環境整備が可能です。活躍の場や適切な評価が得られるようになれば、従業員のモチベーション向上にも寄与できるでしょう。
企業がどれほど優れた人材戦略を立てても、業務を担う人材が意欲的に働けなければ経営目標の達成は難しいでしょう。従業員の意欲を向上させるタレントマネジメントを活用することで、人材戦略の効果をより高められます。
多様性を重視する
人材戦略を実施するときは、「多様性(ダイバーシティ)」を重視することが必要です。多様性とは、多様なバックグラウンドを持つ人材がともに活躍できる企業や社会を指します。
- 性別
- 国籍、人種、民族
- 宗教
- 年齢
- 価値観
- ライフスタイル
- 障がい者
- 性的指向、性的自認
たとえば、上記のような要素のほか、価値観や働き方、雇用形態の多様さも含まれます。フレックスタイム制や育児・介護休暇、正規、非正規といった雇用形態の違いなど、従業員の事情に柔軟に対応した制度や待遇の整備を行う必要があるでしょう。
また、国籍の多様性を目指すならグローバル人材に目を向けることも重要です。さまざまなバックグラウンドを持つ人材に目を向けることで、これまでより幅広い経験やスキルを持った人材が企業に集まりやすくなります。
プロフェッショナル人材戦略の検討
4つ目のポイントは「プロフェッショナル人材」の戦略に取り組むことです。
プロフェッショナル人材とは、企業の成長戦略を具現化していく人材を指します。プロフェッショナル人材戦略に取り組むことで、商品開発や販路の開拓など、「攻めの経営」アプローチによって、企業の成長につなげられます。
プロフェッショナル人材戦略は、内閣府が推進を支援する戦略です。内閣府では、民間人材ビジネス事業者を通じて、企業とプロフェッショナル人材のマッチングサポートを実施しています。国の支援体制を十分に活用して、理想とする人材戦略に取り組めます。
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人材戦略実施企業の成功事例

日本企業のなかにも、人材戦略を上手に活用している企業があります。ここでは、以下に挙げた企業の成功事例を紹介します。
- 楽天グループ株式会社
- オムロン株式会社
- ソニー株式会社
- 株式会社丸井グループ
楽天グループ株式会社
楽天では、2017年から「Back to Basics Project」として、「採用」「育成」「定着」を柱にしたプロジェクトを実施しています。
採用では、さまざまな国籍、ジェンダー、宗教観のある人材から採用。社内託児所を設けるなど、女性のキャリアもサポートしています。企業のダイバーシティ化を進めることで、世界の各地からさまざまな人材を雇用できるようになりました。
また、ポジションごとの研修制度や1on1ミーティングを実施するほか、従業員のキャリア開発、自己啓発のための学習ツールとしてオンライン図書館「楽天ライブラリー」の提供など、ユニークな試みも行っています。「学び続ける組織」を目指して、育成に力を入れています。
フレックスタイム制、時差勤務制度、在宅勤務制度などを取り入れ、柔軟な働き方を推奨し、さまざまな価値観で働く従業員の定着に力を入れています。
オムロン株式会社
オムロンは人材戦略として「オムロングループの経営と事業をリードする人財」「多種多様な強みを持ち、発揮できる人財」「志を持って自律的に自己変革・自己成長に取り組める人財」の充足や育成を重点テーマとして設定しました。
そして、これらの重点テーマの達成のため、3つのプロセスを実践しています。1つ目は経営層が従業員と対話し、企業理念を浸透させていくプロセス。2つ目は社会的な課題解決につながるチャレンジを従業員同士がたたえ合う「TOGA(The OMRON Global Awards)」。3つ目が従業員の生の声を聞き、経営の改善につなげるサーベイ「VOICE」です。
VOICEの結果をもとに、経営層が企業の改善につとめています。その結果、各部門の求人に手を上げて異動できる「公募制」に加え、従業員自らその部署に売り込みができる「応募制」の導入などにつながりました。
ソニー株式会社
ソニーは、人材を「群」ではなく「個」として捉えています。そして、個の人材とソニーとの関係を「都度、お互いに選び合い、応え合う関係」と定義し、人材戦略を設定しています。
共通のフレームワークとして、人材獲得=「Attract」、人材育成=「Develop」、社員エンゲージメント=「Engage」の3つを重視し、人材戦略を実施しています。Attractでは、完全実力主義の評価や、新しい挑戦や失敗の許容といった、ソニーらしい風土により他社との差異を際立たせています。Developでは、多様なバックグラウンドやスキルを持つ社員同士が刺激し合う場を提供。また、人材戦略で最も力を入れているのがEngageです。長年、社員への意識調査を実施し、その調査をもとに社員エンゲージメントを高めるための組織改善に生かしています。
株式会社丸井グループ
丸井グループでは、事業会社も含むすべての従業員に、共通の人事制度を適用するといったユニークな人材戦略が実施されています。
従業員は丸井グループに一括で採用されているため、5,000人を超えるすべての従業員が共通の人事制度のもとで管理されています。これにより、グループ会社間の人事異動である「職種変更」や、グループを横断して実施するプロジェクトが円滑に実施できるようになりました。2016年に実施したアンケートでは、約86%の従業員が「異動後に成長を実感した」と回答しています。
また2022年5月には、「人材戦略委員会」を設置すると発表しました。人材の採用、育成計画や評価、人事制度の策定など、グループ全体の人材戦略および取り組みにますます力を入れていくようです。
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まとめ

日本の労働力人口が減少していくなかで、どのようにして一人一人の従業員を育成し生かせるかは、企業や人事部門にとって、ますます重要な課題になっていくでしょう。しかし一方で、人材戦略をうまく遂行できれば、経営計画の実現に近づいていきます。本記事を参考に、自社における人材戦略のヒントにしてください。
人材採用戦略の中心に据えている「EVP」の設計方法を解説

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