ダイバーシティ推進で自律自責型のリーダーを育成/株式会社商船三井|FUTURE of WORK

ダイバーシティ推進で自律自責型のリーダーを育成/株式会社商船三井|FUTURE of WORK

エネルギー輸送のリーディングカンパニーとして130年以上も日本の海運業をけん引してきた株式会社商船三井。多国籍な社員・船員を約20,000名雇用し、グローバルな人材育成にも先進的に取り組まれています。人事部長の安藤美和子氏に、商船三井の人事の現状や今後の戦略について、株式会社ビズリーチの執行役員である酒井哲也がお話を伺いました。

安藤 美和子氏

取材対象者プロフィール安藤 美和子氏

株式会社商船三井 人事部長

1989年、大阪商船三井船舶(現・商船三井)に入社、コンテナ事業部門において北米向け輸出営業・予実算管理・海外現地法人管理等を担当。2004年より3年間、人事部にて主に教育・研修を担当した後、コンテナ事業本社組織がある香港に転勤。その後、秘書室、子会社の「フェリーさんふらわあ」(神戸)勤務を経て、2016年、人事部長に着任、現在に至る。

本記事は、株式会社ビズリーチの創業10年を記念して運営していたWebメディア「FUTURE of WORK」(2019年5月~2020年3月)に掲載された記事を転載したものです。所属・役職等は取材時点のものとなります。

個人が自分のキャリアを考え、動く時代に

個人が自分のキャリアを考え、動く時代に

─安藤さんは入社当時から人事部への異動を希望されていたそうですね。

安藤様(以下、安藤):商船三井では、毎年1回、人事評価を行っており、その際に、異動希望先を申告することができます。その最初の自己申告で迷わず「人事部」と書きました。

酒井:なぜ、海運業界で多くの社員が希望する営業を選ばずに人事をご希望されたのですか。

安藤:確かに新入社員に希望部署を聞くと、9割は「営業」と答えます。しかし、私は社員のキャリアに責任を持つ人事にやりがいがありそうだと感じたのです。人事の仕事には、配属先やジョブローテーション先の決定が含まれます。人事の采配によって、仕事のやりがいやモチベーションを感じることもあり、そこに私も関わりたいと考えたんです。

しかし、人事部への異動は、希望を出してから15年かかりました。その頃ちょうど管理職に就くタイミングだったので、初めての人事部への異動が、管理職からスタートすることに当初は驚きました。

酒井:人事に異動されて15年ほどたつと思いますが、現在の入社希望者は、過去と比べてどのような変化を感じられますか?

安藤:大きく変わりました。新卒採用でいえば、学生の企業選びの基準が変化しました。彼らは終身雇用にこだわらず、自分が今の環境で成長できないと感じたら転職を考える人も増えてきたように感じます。当社では1990年代初頭に初めてキャリア採用を実施しましたが、その後、2000年頃から毎年、キャリア採用を実施し、現在では、キャリア採用者が全体の20%弱を占めるほどの規模になっています。

以前は新卒者を大量に採用し、育成していましたが、こちらも大きく変わりました。会社が決めたレールに沿ってキャリアを築けばよかった時代から、自分で自分のキャリアを考える必要がある時代になりましたね。多様な価値観を持った社員たちがいる前提で、育成や制度作りに取り組まなければなりません。

酒井:「一人ひとりの個性を見定め、適切なサポートをする」必要があると実感されているのですね。

安藤:私はさまざまな経験ができるジョブローテーションは、育成の観点からも望ましい仕組みだと考えていますが、最近は専門性を高めたいと考える若手も増えてきました。ただ、私は新入社員に「キャリアは8割が偶然の出会いで決まる。まずは受け入れ、ここだと思ったら深掘りしていく。最初から目指すところを決めすぎてしまうと、自分のチャンスや可能性を閉ざしてしまうこともある」という話をよくしています。

酒井:大企業では、ひとつの部署にいるだけでは会社の全体像は掴みにくいと言われています。どれくらいの期間で別の部署に異動するのかを見極めていらっしゃるのでしょうか。

安藤:商船三井の場合は、海外勤務希望の社員がとても多いので、入社して10年以内には一度、仕事や研修で海外を経験してもらい、異文化の環境で多様な社員と働くことの面白さを感じてもらっています。ただ、海外での刺激を受けて「日本に帰りたくない」と思う社員も出てきて、そういった社員を日本に引き戻すのに苦労しています(笑)。

酒井:「日本人は海外に行くことを躊躇する社員が多い」と言われていますが、御社では逆なのですね。

安藤:本当にボーダーレス化が進んでいるな、と感じます。これからはグローバルでみたときに、日本も魅力的な職場だと感じてもらう必要があります。そのためには、日本の「枠にはめられた窮屈さ」を変えていかなければいけないと思います。

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ダイバーシティ推進と次世代リーダー育成への取り組み

ダイバーシティ推進と次世代リーダー育成への取り組み

─ダイバーシティについて、具体的に取り組まれていることを教えてください。

安藤:商船三井は130年前から海外とビジネスを行っており、常にダイバーシティを意識する環境です。そもそも船には、いろんな国籍の人たちがいますしね。そのため、海外の人たちと共有できる価値観や会社としての指針が必要だと考えるようになりました。そして2015年に商船三井グループ共通の価値観である「MOL CHART」を制定しました。

※MOL CHART

・Challenge 大局観をもって、未来を創造します

・Honesty 正道を歩みます

・Accountability 「自律自責」で物事に取り組みます

・Reliability お客様の信頼に応えます

・Teamwork 強い組織を作ります

酒井:指針ができて運営していくなかで、人事として課題などはございましたか。

安藤:実は本社で働いている外国籍の社員は少数で、会社の意思決定やプロセスは日本語がベースです。ダイバーシティでありながら、実は本当の意味でのダイバーシティができていなかったのではないかと感じています。そこが現在の課題です。

さらに、ダイバーシティには、国籍や性別、年齢など外見的な違いだけでなく、価値観や仕事に対するやりがい、ものの考え方など、内面的な違いも含まれます。同じ価値観を持った同質の人間が集まっていても、なかなかイノベーションを起こすことはできません。さまざまな人が集まることで、いろんなアイデアや対話が生まれ、新しいものが生み出されるのです。

実はキャリア採用者が、内面的なダイバーシティ推進のきっかけになっています。ある日、キャリア採用者から「なぜ、この仕事をやっているんですか」と尋ねられたことがあり、そこで、初めて、自分たちの仕事のやり方を見直すきっかけになったことがあります。

酒井:ダイバーシティ推進では、多様性のある人の存在をきっかけに、自分の業務を見直し改善する力も重要ですね。

安藤:そうですね。ダイバーシティという点では、弊社では2016年に「アスリート採用」を実施し、障がい者でウィルチェアーラグビー(車いすラグビー)選手の倉橋香衣を採用しました。彼女はパラリンピックを目指しながら、業務をこなしています。

倉橋からは「自分のことを特別視しないでほしい」と言われました。健常者と障がい者という違いはあっても、仕事に対するビジョンや生きていくうえでの目標、大事にすることはなにも変わりはありません。そのように、特別な見方をせずに、お互いを理解し合うことが、ダイバーシティだと思っています。

酒井:御社のような歴史ある企業でも、次々に改革に取り組んでいらっしゃるんですね。グローバル人材の育成については、どのようなゴールを目指していらっしゃいますか。

安藤:我々のビジネスの舞台は世界です。どんな場所でも自分の力を発揮できる人材を育成しないといけません。そのためには「自分で考え、自分で行動できる人」に育ってもらう必要があります。社員たちには、グローバルな市場で活躍できる「自律自責型の人材を目指すことを伝えています。

その取り組みの一つとして、2014年から「One MOLグローバル経営塾」を毎年開催<しています。参加者の3分の1が本社採用の日本人社員、3分の2が海外現地法人採用の外国籍社員です。ここでは次世代のグローバル経営幹部候補生を選抜し、受講してもらっています。,/p>

海外現地法人のトップや組織の長になるには、グローバルな環境で、自らのビジョンを語り、多様なバックグラウンドや価値観をもつ人々を率いていかねばなりません。そういったリーダーを育成することを目的としたプログラムです。

酒井:リーダーの必要条件は、環境によって細分化されています。その時々によって求められるような振る舞いをできるようになるには、さまざまな能力が求められます。日本では、「リーダーはこうでなければいけない」という固定観念に縛られている企業やリーダーも多いように思います。

安藤:そもそも、リーダーには「こうでなければいけない」という絶対的なものはないと思います。人それぞれ、強み、弱み、個性も違いますし、自分が思うリーダーでいいのではないでしょうか。大事なのは、人の真似ではなくて、自分ならではのリーダー像を作ることだと思います。

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人事部の存在意義の共有・人材の可視化がこれからのチャレンジ

人事部の存在意義の共有・人材の可視化がこれからのチャレンジ

─今後10年先を見据え、どんなことに取り組んでいきたいと考えていらっしゃいますか。

安藤:まずは人事部の存在意義・期待される役割をしっかりメンバーと認識・共有したいと思っています。人事部は会社が存続していくために必要な経営資源の一つである「ヒト」を司る部署です。つまりは、経営に近い重要な役割を担っており、戦略的に取り組まなければならないと考えております。

また、今後は個人と会社の関係がますます変化していくでしょう。その中で、個人の力を強める仕組みを構築することが重要です。2018年に人事制度を改定して、能力や意欲に応じて社員を早期に登用できるようにしました。その仕組みが社員の活力になっているかを検証し、さらには、社員たちがより自律的にキャリアを築いていくことにもつなげていきたいと思っています。

酒井:社員数が多い企業では、「○○のスキルを持った人材が欲しいけど、社内のどこにいるかわからない」という話を聞きます。探すには、社員の特性を把握していないといけません。御社の船舶がどこの海上でどんな状態でいるかがきちんと可視化されているように、人材も可視化することがこれからはますます重要になっていくと 考えています。

安藤:まさに、私たちの次のチャレンジは「人材の可視化です。どのような経験をし、どのような強みを持ち、どのようなビジョンを抱いているか。そこまで掘り下げないと、「今度、○○の事業を始める」となった際に、「適任がいます」とは言えません。それをこれまでは、人事部の担当が頭のなかの情報だけで調整しており、属人化していました。

酒井:ビズリーチでは、そのような課題に対して「HRMOS(ハーモス)」シリーズ、という採用からパフォーマンス、そして従業員データを可視化するシステムを展開しています。採用時の情報から目標の評価管理、異動やエンゲージメントの度合いなどまでデータを蓄積していくことで、すべての働く人が活躍できる環境を提供できるようになります。

安藤:商船三井でも採用のときにSPI検査などを行っていますが、例えばSPIの点数で高得点を取った社員が10年後どのように成長したかの分析はできていません。そのようなデータの分析は必要ですね。

酒井:システムがあっても、システムに入力するのは人なので、運用できる状態になることで初めて機能を発揮できますよね。どんな理想を描き、人材ポリシーと共通認識のもとでシステムを運用していくのかが重要なポイントだと考えています。

安藤:私たちの頑張り以上に世の中は加速度的に進んでおり、求められるものも拡大しています。人材の可視化により、事業成長を人事の立場から支えていきたいと考えています。

三井商船様×ビズリーチ酒井

取材・文:大橋 博之
カメラマン:中川 文作
記事掲載:2019/5/30

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著者プロフィールBizReach withHR編集部

先進企業の人事担当者へのインタビューや登壇イベントなどを中心に執筆。企業成長に役立つ「先進企業の人事・採用関連の事例」や、 事業を加速させる「採用などの現場ですぐに活用できる具体策」など、価値ある多様なコンテンツをお届けしていきます。