
取材対象者プロフィール相川 雅人氏
三菱地所株式会社 人事部長
「まちづくり」を通じて、企業のあり方や個人の働き方、暮らしの新たな提案を進めてきた三菱地所株式会社。2018年に「新たな価値を創造し続けるオフィス」の実現に向けて本社を移転し、三菱地所自らが実験台となり、空間を生かした生産性向上や新たな価値創造に向けた挑戦が行われています。また、2019年10月には、同社で初の取り組みとなる「副業の解禁」および「一部事業における副業・兼業人材の公募実施」を決定。明治時代に野原だった「丸の内」を、世界でも有数のビジネスセンターに成長させていった三菱地所は、今どのような経営戦略、人事戦略へとかじを切っているのでしょうか。人事部長の相川雅人様に、株式会社ビズリーチの執行役員である酒井哲也が伺いました。
本記事は、株式会社ビズリーチの創業10年を記念して運営していたWebメディア「FUTURE of WORK」(2019年5月~2020年3月)に掲載された記事を転載したものです。所属・役職等は取材時点のものとなります。
丸の内で見てきた人々の働き方や価値観の変化

-御社はこれまで120年以上にわたって「丸の内」の開発を手掛け、日本を代表するビジネスセンターに成長させてきました。御社の歴史、そしてまちづくりの変化についてお聞かせください。
相川氏(以下、相川):丸の内の歴史は、当時三菱社の社長・岩崎彌之助が1890年に政府から土地の払い下げを受けたところから始まりました。明治以降の第一次開発は、イギリスに影響を受けた赤レンガのオフィス建設から始まり、大規模な近代オフィスビル開発へと移行した第二次開発は、戦後の高度成長期からです。
その後、1990年代のバブル崩壊が大きな転機となりました。「働けば働くほど、経済は豊かになり、社会はよくなる」という未来予想図は崩れ、「オフィス一辺倒の街にはサステナビリティー(持続可能性)がない」という価値観が広がっていき、ビジネスパーソン以外にも人々が訪れるような、街としての魅力や多様な機能が、日本経済の中心である丸の内のまちづくりにも求められるようになったのです。1995年に旧丸ビルの建て替えを発表して以降、「世界で最もインタラクションが活発な街」をコンセプトとした第三次開発では、新しい都市機能の創造に取り組んできました。現在は、丸の内再構築のさらなる拡がりと深まりを目指し、丸の内の活気と賑わいを大手町・有楽町にも拡大しています。
不動産事業は、一度作れば50年、100年先まで残り、人々の生活に大きな影響を与えます。だからこそ、今後どんなライフスタイルが求められるのか、人々の価値観はどう変化していくのかを見据えて設計・開発していく必要があります。
酒井:あらためて、不動産事業の時間軸や規模の大きさを実感します。ビズリーチはまだ創業10年ではありますが、産業構造や働き方、人生100年時代の到来など、さまざまな変化に対応してきたことで、事業を拡大できたと考えています。丸の内の進化に携わり、そこで働く相川さんご自身がこの10年間で感じられた大きな変化について教えていただけますか。
相川:私が入社した1990年の丸の内には、スーツとネクタイをしたビジネスパーソンしかいませんでした。しかし、今はビジネスパーソンの服装もさまざまですし、ランチを楽しむご家族、街を歩く外国人観光客、カフェで仕事をする方など、多様な時間の流れが一つの街、同じ空間に共存していることを感じます。特にこの10年間で、街の景色が人々の価値観や時代の変化を映し出すという、不動産事業の面白さを実感しています。

人財面で経営支援をすべく、人事戦略にも変革を

酒井:未来の社会、働き方、暮らし方を想像し、まちづくりを進めてきた御社ですが、次代をつくる企業として、社内ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。
相川:オフィスビル開発を手掛ける会社としては、「空間を生かした生産性向上や新たな価値創造」の可能性に自ら挑戦し、証明していく必要があります。そこで2018年1月の本社移転をきっかけに、自社のオフィス環境を抜本的に見直しました。
新本社のコンセプトは、常に新たなアイデアが生まれ続ける「場」をつくる。多様な人財が自然に集まってつながり、活発なコミュニケーションが発生していくことを目指しています。
例えば、多様なワークスタイルとデベロッパー特有のグループワーク中心の業務スタイルの両立を図るために、部署単位の緩やかなゾーンを決めた「グループアドレス」を導入しました。また、対話の活性化を促すために「事業担当役員の個室」も廃止しました。「カフェテリア」は、社員食堂としての役割のみではなく、社内外のさまざまな人々が集い、ランチタイムのみならず一日中活用できる新しいワークプレイスとしての役割も果たしています。そのほか、新設した「仮眠室」を使用し、ベンチャー企業と共同で仮眠の効果検証実験をするなど、心身を健康に維持できるオフィス環境づくりにも取り組んでいます。
新本社は、当社の働き方改革の推進に加え、「進化し続けるオフィス」の実証実験の場でもあります。多くの企業様が見学に来てくださり、そこで出た意見が私たちのオフィス環境、さらにはお客様への提案や将来のオフィスビルの商品企画につながっているのです。
酒井:自社を「実証実験の場」として位置づけているところに、オフィスづくりやまちづくりに対してあくなき挑戦を続ける御社の強い姿勢を感じます。

相川:さらに、われわれがビジネスモデル革新のために掲げているのが、「スペースの提供だけにとどまらない付加価値の提供」です。これまでは大企業を対象とした、大型オフィスビルの開発・賃貸が事業の柱でした。しかし、ビジネスのスタイルや産業構造が変化している状況で、首都圏ではベンチャー企業やクリエーティブ系企業を中心に小規模オフィスの需要も増えており、丸の内エリアも例外ではありません。三菱地所の従来からのコア顧客層である大企業での実績を生かしながらも、国内外のスタートアップ企業へターゲットを拡大し、オフィス賃貸だけではなく、ときにはビル内交流やエリア交流などを通じて、ビジネスマッチングの機会を創出しています。また、私たち自身も新事業創造に向けた出資や当社が運営するスタートアップ支援施設でのサポート等を通して、イノベーション創出に取り組んでいます。
酒井:御社の取り組みをお聞きしていると、不動産事業という垣根がなくなってきていると感じます。
相川:そうですね。不動産事業という事業領域はベースにありながらも、社会の変化やテクノロジーが劇的に進化するなか、私たちのライバルはもはや不動産会社にとどまらないでしょう。新たな競争力の調達には、最適なパートナーと互いに強みを活用し合うリレーションシップが重要です。私たちは不動産というリアルな「場」を持っていることを強みに、今後も付加価値を提供していきたいと思います。
酒井:ビジネスモデルの革新にともない、人財戦略はどのように変化していきましたか。
相川:2017年に人事制度を改革し、運用を始めましたが、その一環として弁護士や会計士等の有資格者や、新規事業等の特定領域の専門家を、その職務の専任として正社員で採用する「専任職」を新設しました。これまで当社は、中途採用において「総合職」という枠で採用し、業務を通じて経験を重ねてもらっていましたが、手掛ける事業やビジネスのスピード、時代に対応すべく、スペシャリスト人財の獲得を進めています。
例えば、新規事業として、空港ビジネスなどにも事業範囲を広げています。商業施設の整備やホテルなどの周辺施設との連携という従来の経験とスキルで対応できた領域以外に、航空・空港ビジネスへの知見も必要になってきます。そういった特定分野については、中途採用による即戦力人財が欠かせません。
酒井:「総合職」として、さまざまな領域で経験やスキルを積み重ねる御社のカルチャーにおいて、「専任職」を導入することに、懸念はありませんでしたか。
相川:当社グループの中期経営計画において、目指すところが「時代の変化を先取りするスピードで、競争力あふれる企業グループに変革する」と明確なので、人財面で経営を支援する立場の人事としては、経営戦略に沿って採用そのものを変革させることは必然でした。
コトづくり視点で、無数に生まれる「ビジネスの種」

酒井:採用戦略や求める人財像が変われば、組織カルチャーにも変化が起きるのではないかと感じました。新たな人財を受け入れる際に、従来の「三菱地所様らしさ」と「外部からもたらされる新たな風」との融合はどのように進めていますか。
相川:新本社が掲げるコンセプトは、「Borderless!×Socializing!(ボーダーレス・バイ・ソーシャライジング)」なのですが、部門の壁を越えて、多様な人財が横でつながり合い、新しいアイデアを生み出していこうという想いが込められています。変化に対応できる仕組みづくりを、オフィス環境だけではなく、ソフトの面からも支援しています。
コンセプトを具現化するため、推進委員会を設置。委員会メンバーが中心となって、社員を集めてランチをしながら仕事に対する想いを聞く「タウンミーティング」の実施や、成果を褒め合うことを促進するための「表彰制度」の導入など、さまざまな施策が立案・実行されています。また、ランチタイムにさまざまな領域の「変革者たち」を招き、講演会を週に1回以上のペースで開催。社外との接点を常に生むことで、広い視野を持つ社員が増えるよう、「外部からもたらされる新たな風」を社内に取り入れることが重要と考えています。そうやって、社員一人一人が自らの働きがいを考えるようなきっかけをつくることが、人事の重要な役割の一つであると思っています。
酒井:さまざまな取り組みをされていますが、このような活動を通じ、実際に新しい事業アイデアも既に生まれているのでしょうか。
相川:当社は、従来の不動産業にとらわれない幅広い事業を育成することを目的として、2009年より社内で広く公募する「新規事業提案制度」を実施しており、直近3年間での応募件数は70件以上、そのうち既に3件が事業化しています。その3件のうちの一つが、2019年4月に南青山でメディテーション(※)スタジオの運営事業を行う新会社「Medicha株式会社」の設立です。
「スペースを提供する」だけではなく、スペースから生まれる「コトづくり」を広げていくと、何でもビジネスの種になりえるでしょう。人事としては、社員の「やりたい」という気持ちを尊重し、種が育つ機会を支援したいと思っています。
※メディテーション:英語で「瞑想」の意。静かな空間で心身ともにリラックスさせて自分自身と向き合うことで、ストレス軽減・集中力向上・創造力向上・対人コミュニケーション向上など、ビジネスパーソンにうれしい効果があるとされている。

酒井:種が育つには、よい土壌が不可欠だと思いますが、オフィス環境以外にもさまざまな「土壌づくり」がなされているのですね。
相川:まさに先日(2019年10月1日)、オープンイノベーションを促進する、柔軟な働き方の実現に向けて、新たな人事制度を整備していることを発表しました。さまざまな経験を通じて社員一人一人がポテンシャルを最大化し、本業へも生かしていくことを目的として、2020年1月からの「当社社員の副業の解禁」に向け、整備を進めています。
また、当社の既存事業にはない知見を有する人材を広く登用することを目的として、一部事業における副業・兼業人材の公募による受け入れを行うことを決定しました。その第1弾として、ビズリーチで、先ほど話したMedicha株式会社のブランド戦略・マーケティング戦略の立案を担う人材を募集しました。
「Borderless!×Socializing!」は新本社のコンセプトでもあり、働き方改革のコンセプトでもあります。会社が多様な働き方をサポートし、社員に新たな人脈ができること、会社の外でさまざまな経験をしてくれることは、やがて私たちのビジネスに還元されると信じています。
酒井:非常にポジティブな「働き方改革」に共感します。また、その改革の一つとして「採用」という領域で、当社が協力できていることを大変うれしく思います。政府は「働き方改革」の一環で副業・兼業を推進していますが、受け入れ企業はまだまだ少ないのが現状です。御社の今回の挑戦、そして変化への思いを知っていただくことで、「副業・兼業人材が、新事業創出やイノベーション促進の有効な手段の一つになる」という考え方が広がり、御社に追随する企業が、今後増えるのではないかと期待しています。
相川:丸の内エリアの就業人口は約28万人、国を代表する大企業がこれだけ集まる場所は、世界にも類を見ません。当社がこれまで培ってきた事業やそのスケールの大きさは引き続き発信しながらも、柔軟にチャレンジできる社内環境もまた、当社の新たな魅力として伝えていきたいです。

相川 雅人 様 略歴
1990年に三菱地所株式会社入社。広報部でメディア対応、IRを担当した後、土地所有者向けコンサルティング営業に従事し、マンション建て替え、外国人向け賃貸マンションの企画・開発を担当。その後、人事を担当。2014年に、街ブランド企画部東京ビジネス開発支援室長に就任。2016年には、街ブランド推進部長と街ブランド推進部東京ビジネス開発支援室長を兼任。加えて、一般社団法人グローバルビジネスハブ東京代表理事も兼任する。2017年より現職。
取材・文:田中 瑠子
カメラマン:中川 文作
記事掲載:2019/11/19
他の転職サービスとの「違い」が3分でわかる

2009年の創業から、日本の転職市場に新たな選択肢と可能性を創り出してきたビズリーチ。企業規模を問わず多くの企業に選ばれてきた「ビズリーチ」の特長を紹介いたします。