「アライ(Ally)」とは? 企業でアライを増やすために必要な施策や取り組み例を紹介

「アライ(Ally)」とは? 企業でアライを増やすために必要な施策や取り組み例を紹介

「アライ(Ally)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。あまりなじみのない方も多いかもしれません。今回の記事では、LGBTとともに日本に浸透しつつあるアライの必要性やアライの行動の例、アライを増やすためにできる施策について、LGBTへの支援活動を行う「Allies Connect」の代表で、人事のスペシャリストでもある東由紀さんにお話をうかがいました。

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東 由紀氏

東 由紀(ひがし・ゆき)氏

Allies Connect 代表

米国ニューヨーク州立大学卒業、中央大学戦略経営修士。企業の人事部門で人材育成やダイバーシティ&インクルージョン推進を行う傍ら、2010年からLGBTを支援する「アライ」として活動する。2018年にAllies Connectを設立。「法律家が教えるLGBTフレンドリーな職場づくりガイド」(法研、2019年)、「LGBTをめぐる法と社会」(日本加除出版、2019年)など共著。

アライとは何か

近年、LGBTとともに耳にするようになってきたアライという言葉。今回の記事では、その定義やアライを巡る動向について解説します。

アライの定義

アライとは?


出典:アライの役割と意義・価値(PDF)│Allies Connect

アライはLGBTなどのセクシュアルマイノリティー(性的少数者)について理解し、活動をともに支援する仲間のことといわれています。英語で「仲間、味方、支援者、同盟」を意味する「Ally」が語源となっています。

アライを「理解者」「支援者」と表すことについて、上から目線であるという意見もありますが、これはセクシュアルマイノリティーに対し、セクシュアルマジョリティー(性的多数者)であるアライが一方的に「理解する」「支援する」という姿勢が上から目線として捉えられることが原因と考えられます。

実際のアライはマジョリティーがマイノリティーを一方的に理解・支援するものではありません。マイノリティーの人たちが社会や職場で直面する困難や差別は、マジョリティーの人たちによる不理解や誤解が作り出しているとも言えます。そのような困難や差別を是正するための活動を理解し、またともに活動し、周囲の人がアライになるための支援をする人がアライであると解釈するのが適切でしょう。

アライをめぐる社会の動向

毎年6月は「プライド月間」としてLGBTQ+の権利や文化を啓発する活動やイベントが実施され、アライを増やす活動をしている企業の取り組みなどを目にする機会も増えます。LGBTの尊厳のシンボルとして使われている6色のレインボーをあしらったグッズを販売したり、ビデオ会議サービスなどで使えるレインボー柄の背景画像を配布したりと、その取り組みはさまざまです。

そのほかにも、LGBT当事者を起用したCMなどにより、LGBT支援やアライであることを表明する企業の活動を知ることができます。

企業がどのようなLGBT支援を行っているかは、「東京レインボープライド」のようなLGBT関連のイベントに後援・協賛する自治体や企業のリストから、その活動を調べてみるとよいでしょう。

参考:東京レインボープライド

アライはなぜ必要?

企業でLGBT施策を行い、LGBTフレンドリーな職場環境をつくっていくうえで、アライの存在は非常に重要とされています。では、なぜアライは企業内に必要だといわれているのでしょうか。

誤った認識や差別を客観的に正せる

電通ダイバーシティ・ラボによる2020年の調査によると、LGBTにクエスチョニング(性的指向や性自認が定まっていない人)やクィア(性的少数者の総称)、インターセックス(性別を特定する染色体のパターンが一般的なものと合致せず、生殖器の発育が未分化であること)、アセクシュアル(他者に性的にひかれることがない人)やXジェンダー(エックスジェンダー、性自認が男女いずれにも規定されていない人)を加えたLGBTQ+当事者の人々は、回答者の8.9%でした。企業においても、LGBTQ+はマイノリティーであるといえるでしょう。

組織における沈黙の螺旋


出典:アライの役割と意義・価値(PDF)│Allies Connect

LGBTに対する差別的な言動のある職場では、集団のなかでマイノリティーであるLGBTQ+当事者の人々はカミングアウトしたいと思ってもできず、沈黙を強いられてしまいます。そのような状況では、LGBTQ+に対する誤った認識や差別による言動が起こっても、声を上げることは困難です。また、声を上げたとしても、当事者が「傷ついたのでやめてください」と言った場合、それを個人の主観的な意見だとしてマジョリティーが取り合わないというケースも想定されます。

職場におけるアライの存在意義


出典:アライの役割と意義・価値(PDF)│Allies Connect

このようなとき、マジョリティーである集団のなかにアライがいれば、「その考え方は間違っていませんか」「差別にあたると思います」「コンプライアンス違反になります」「ハラスメントになります」と、客観的な立場から誤った認識や差別による言動を是正できます。当事者でないからこそ言えることがあるのです。

参考:電通、「LGBTQ+調査2020」を実施│株式会社電通

LGBT当事者のニーズや課題を代弁でき、LGBT施策を取り入れられる

先ほど紹介した調査の結果では、LGBTQ+当事者は回答者の8.9%でした。つまり、残りの90%強がそれ以外のセクシュアルマジョリティーの立場にある人々ということになります。

90%強の人々のなかにアライがいればいるほど、LGBT当事者のニーズや課題を代弁できる人の数も多くなるため、声は大きく、届きやすくなります。

また、社内で制度や方針の整備、研修の導入などに対して裁量権のある人も、9割近くがセクシュアルマジョリティーである可能性が高いため、そのなかにアライがいればLGBT施策をスムーズに実行しやすくなります。

LGBT当事者の勤続意欲と心理的安全性が高まる

認定NPO法⼈虹⾊ダイバーシティと国際基督教⼤学ジェンダー研究センターが行った調査「niji VOICE2020」によれば、勤続意欲を問う質問で、職場にアライがいるLGBT当事者のうち勤続意欲が「高い」と回答したのは76.8%でしたが、職場にアライがいないLGBT当事者のうち勤続意欲が「高い」と回答したのは51.8%でした。

また、同じ調査で心理的安全性を問う質問では、職場にアライがいるLGBT当事者のうち心理的安全性が「高い」と回答したのは66.5%でしたが、職場にアライがいないLGBT当事者のうち心理的安全性が「高い」と回答したのは19.7%でした。

このことから、職場にアライがいるLGBT当事者は、職場にアライがいないLGBT当事者よりも勤続意欲と心理的安全性が高くなる傾向にあることがわかります。

参考:「niji VOICE 2020」P.49-50│認定NPO法人 虹色ダイバーシティ、国際基督教⼤学 ジェンダー研究センター

アライがいることで、周囲の人の理解度を高められ、アライとしての行動を促進できる

アライの理解度と行動度への影響は?


出典:アライの役割と意義・価値(PDF)│Allies Connect

今回お話をうかがった東由紀さんの研究によれば、アライとして行動する人がいると、その周囲の人のLGBTやアライに対する理解度が高まるだけでなく、周囲の人のアライとしての行動も促進できるということがわかっているそうです。

アライがいればその周囲の人の理解とアライとしての行動を促進できる、つまりアライを増やせるといえます。

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アライになるためには何をすればいい?

アライになるためには、どのようなことをすればいいのでしょうか。「これをすればアライである」と定義することは困難なため、アライがどのような行動をしているかを紹介していきます。

「これをすればアライである」と定義するのは困難

その人が置かれている状況や、周りにLGBT当事者がいるかどうか、またその当事者とどのような関係で、当事者が何を望んでいるかにもよって、どのような行動がアライとして適切であるかは変化します。そのため、「これをすればアライである」と定義することは困難です。

アライとしての行動例

以下に挙げたアライとしての行動例をすべて実行しなければいけないというわけではなく、周囲のLGBT当事者との関係性や職場の状況を見て、できることから実行するとよいでしょう。

◆アライとしての行動例

  • LGBTについて本や研修、セミナーなどから学ぶ
  • LGBT当事者が使ってほしくない言葉を使わないようにする
  • 性別を特定しない言葉を使う(彼女・彼氏→恋人・パートナーなど)
  • LGBTに対する誤解や、からかうような言動を指摘する
  • LGBTについて周囲の人に話したり、SNSでシェアしたりする
  • アライであることを周囲に知ってもらうため、自分がアライであることを表明したり、6色のレインボーのグッズを身につけたりする など

企業でアライを増やすためにできる施策

企業でLGBT施策を進める際に、一緒に行いたいのがアライを増やすための施策です。どのようなことを行えばよいか、解説していきます。

LGBTなどのセクシュアルマイノリティーについて知る

まずはLGBTなどのセクシュアルマイノリティーに関する基礎知識を学習する機会をつくります。同性愛や性別移行に対する誤解を解き、差別的な発言が抑制されるようにしましょう。性的指向・性自認(SOGI※)に関するハラスメントおよび性的指向・性自認の望まぬ暴露(アウティング)が禁止されていることや、人権侵害にあたることも内容に組み込みます。

※SOGI…性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとったもの。

あわせて、LGBTは特別な存在ではなく、性的指向や性自認のあり方の一つであることも内容に盛り込みます。LGBT施策はLGBTに特別な権利を与えるものではなく、セクシュアルマジョリティーの人と同じ権利を享受できるようにするものであることも周知しましょう。また、アライの役割や存在意義、期待される行動を周知することも大切です。LGBTやアライに関するパンフレット、ガイドブックを作成して職場に配置し、興味のある人が手にとれるようにしておきます。

研修やイベントは、LGBTに関する理解度を高めるうえで効果的です。一度限りではなく、継続的に提供できるような体制を構築しましょう。LGBTに特化したものではなくとも、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)などの研修と絡めて行うこともできます。

また、LGBT関連の研修やイベントをすぐに行うことが難しい場合は、「手裏剣戦法」が有効です。例えば女性活躍推進について資料で説明する際に、「ところで、今は女性の話をしていますが、実は性別は女性と男性の二元論ではありません」といってLGBTに関するページを差しはさんだり、ハラスメント研修でLGBTの話題を出したりといったことを繰り返すうちに、徐々に社内の意識を高めることができます。

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アライとしての行動を促す

先述したアライとしての行動例を参考に、「できることから始めてみてください」と行動を促しましょう。社内コミュニケーションツールのアイコンにレインボーのマークを付けることや、レインボーのピンバッジやステッカーなどを配布してそれを利用することから始めてもよいでしょう。

それらに加え、LGBT当事者やアライのロールモデルとの対話会や、職場でありがちなLGBTの方へのハラスメント行動のケーススタディーを行うことも有効です。

「知っている」から「行動する」にバージョンアップすることが必要!


出典:アライの役割と意義・価値(PDF)│Allies Connect

アライに関する企業の取り組みの例

アライに関する企業の取り組みの例としては、以下のようなものがあります。

株式会社プラップジャパン

チョコレートをランダムに3つ組み合わせて配布。アライのロゴが印刷されたチョコレートが出たら「当たり」で、もう1つプレゼントするという取り組みを実施しました。これには、「今は探さなくてはならない存在であるアライを探さなくてもよい会社となるように」という願いが込められています。チョコレートを開ける際、「アライって何?」「アライは見つかった?」といった会話がはずみました。

株式会社リクルート

「あなたと。そして、誰かに」というメッセージカードとあわせて、「LGBTQ ALLY」のバッジを全6種のデザインからランダムに配布しました。1つのパッケージに2つのバッジを入れ、一つは自分がつけ、もう一つはアライになってほしい人に渡すことでアライの輪を広げるという意図があり、アライ行動を示す一つのきっかけとなりました。

参考:LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)著「法律家が教える LGBTフレンドリーな職場づくりガイド」(法研、2019年)

アライであることを可視化する

アライの存在意義を十分に理解し、その活動に賛同しているとしても、アライであることを何らかの形で表明しなければ、周囲には伝わりません。LGBTについて理解を深め、まずはバッジを身につけたり、レインボーのステッカーをPCに貼ったりするだけでも、アライとしての行動になります。

アライがもつ言葉の力は、LGBT施策にも大きなインパクトを与えます。アライを社内に増やし、LGBTフレンドリーな職場環境づくりを推進していきましょう。

参考書籍:LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)著「法律家が教える LGBTフレンドリーな職場づくりガイド」(法研、2019年)

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著者プロフィール鮫島沙織(さめじま・さおり)

ライター・編集者。編集プロダクション、出版社での勤務を経て独立。各種メディアでビジネス、働きかた、旅行、暮らし分野の記事を執筆・制作している。ビジネス書、実用書のブックライティング多数。