2019年に創業120年を迎え、国内シェアNo.1のトマトケチャップや野菜果実ミックスジュースなど、常に人々に新しい食のあり方を提案し続けるカゴメ株式会社。世界各地に関連会社があり、ダイバーシティ経営を積極的に推進されています。カゴメの人事変革を導いている常務執行役員 CHO(最高人事責任者)の有沢正人氏に、今回、株式会社ビズリーチの取締役である多田洋祐が、カゴメのグローバルを含めた人事変革について話を伺いました。

取材対象者プロフィール有沢 正人氏
カゴメ株式会社
常務執行役員CHO(最高人事責任者)
2012年にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメの人事面におけるグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2019年現在、常務執行役員CHOを務める。
本記事は、株式会社ビズリーチの創業10年を記念して運営していたWebメディア「FUTURE of WORK」(2019年5月~2020年3月)に掲載された記事を転載したものです。所属・役職等は取材時点のものとなります。
※株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 多田 洋祐は、2022年7月2日に逝去し、同日をもって代表取締役社長を退任いたしました。生前のご厚誼に深く感謝いたしますとともに、謹んでお知らせいたします。

人事戦略においては社員の「市場価値」を創造することが重要である

─人事戦略における「これまでの10年」を伺いたいです。長年、人事に関わってこられて「これまでの10年」は大きな変化があったと思うのですが、いかがでしょうか。
有沢様(以下、有沢):私は人事がやらないといけないことはなんら変わっていないと思っています。私が人事戦略において一貫して取り組んできたことは、「社員が自主的にキャリアを作れるようにすること」、そして「どうすれば社員の市場価値を高めることができるかを考えること」でした。社内における価値ではなく、市場価値の創造こそが、人事の仕事だと私は思っています。
社内だけなく、異なった業界でも通用する人材を育てていく。そこに変わりはありません。
ただ、周りの環境は日々、変化しています。働き方改革が叫ばれるようになり、HRテックが導入されるようになってきました。また、「不安定で先の見えない時代」など、さまざまな声も飛び交っています。そのような時代に合わせ、仕組みや制度、運用は変化させていかなければなりません。
多田:おっしゃるとおり、変化に適応していかなければ生き残っていけないという意味では「10年前から なにも変わっていない」というのが本質だと思います。現在は「人生100年時代」に突入し、労働寿命は50年から60年に延びると言われています。働く人はより一層、どこにいっても通用する力を身につけようとし、会社のミッションや事業領域が自分の価値観とマッチする会社で働きたいと考え、自分にとって良い環境を求めます。われわれビズリーチも「市場における価値」を高めたい人材が集まり、高め合える会社を作りたいですし、どの企業も社員が市場価値を高められるような人材育成に取り組みはじめることで、人材育成の競争が始まると考えています。
有沢:なかには「市場価値が高まると転職するんじゃないか」と考えている人事の方がいまだにいらっしゃいますが、私からすれば逆です。市場価値が高い人がいる会社に、市場価値の高い人が集まるのです。
そもそも、転職される方がいてもその人のキャリアを優先していただいて構わないと考えています。良い会社ほど「出身者」が大活躍しています。むしろ「さすがカゴメ出身だね」と言われる人たちを増やしたい。すると「カゴメに入社したい」と言う人が集まる、という好循環が生まれます。
多田:私は「これまでの10年」では、労働力人口の変化が印象的です。今までなら大企業が中途採用をする必要はなく、あっても欠員補充くらいでした。労働寿命も今より短かったので、新卒入社した社員を育てて定年まで勤めてくれればよかったからです。
しかし、ビジネス環境が大きく変わり、新卒採用だけでは経営が成り立たなくなってきました。今までは、大企業は募集をすれば簡単に応募が来て、選別する方が大変だったくらいです。ところが、インターネットの普及により企業の情報が可視化され、ビジネスパーソンは自身の志向に合う会社に行くように変わってきています。
新卒採用にはどの企業も頑張って取り組んでいますが、中途採用はまだまだこれからのように思います。
有沢:その意味では、カゴメは中途採用に積極的に取り組んでいます。役員も5人が中途入社です。そもそも私自身が中途入社ですしね(笑)。
自画自賛になりますが、カゴメの社員はみな素晴らしいDNAを持っています。社員はお客様に対して誠実ですし、商品に絶対の自信と愛着を持っている。みんな「カゴメLOVE」です。ところが、そうすると同質性が高くなるという問題が起こります。私は、同質性のなかでは基本的にイノベーションは生まれないと思っています。適切なコンフリクト(衝突、対立)がある程度必要です。そのため、あえてカゴメの文化とは異なる中途人材を積極的に採用するようにしています。われわれカゴメは、「トマトの会社から、野菜の会社」へと一大転換を遂げようとしています。そのキーワードは「イノベーティブ」です。
多田:イノベーティブを実現するためには中途採用が必要ということですね。
有沢:カゴメでは役員を「去年と違うことをやったか」で評価するパートがあります。同じことをやっていても意味はない、とまでは言いませんが、新たな付加価値を持ったものをどうやって世に送り出すかを考えています。重視しているのは「イノベーティブなことを行ったか」です。その起爆剤になるのが、中途で仲間になっていただく人材です。特に、従来は知見のない新しい事業分野などは、プロパー社員と中途社員が一緒に取り組む。中途社員に知識や経験、スキルを提供してもらうことでプロパー社員も新しいことを吸収できますし、中途社員はカゴメのDNAが理解できる。そこに相乗効果が生まれ、1+1が3にも4にもなる。だから、私が入社してからは従来のイメージからはカゴメらしくない人も採用するようにしているんです。
多田:有沢さんが入社される前の中途採用は、欠員補充だったのでしょうか。
有沢:そうです。中途採用は確かに行っていましたが、それほど積極的ではありませんでした。私は「社内リソースで考えるのではなく、マーケットリソースで考えましょう」とよく言っています。そもそもサクセッサー(継承者)をカゴメ外から連れてきてもいい。社内で適材適所の配置を行うのではなく、マーケットから採用してくればいいと思っています。カゴメには、業界のなかでも人材採用においてはアドバンテージがある企業になってほしいと思っているので、あえてそのようなことを言っています。
多田:経営者や役員を社外から採用しようとすると、人事制度を改変したり、社外から来た人が働きやすい社内風土や仕組みを作ったりしなければならないですよね。
有沢:はい、だから私は人事制度や仕組みを全面的に変えてきました。カゴメも私が来る前ははっきり言って年功序列が主流でした。私が入社してすぐ、会長・社長・副社長へのプレゼンテーションの冒頭で、「カゴメを一言で言うと、『スーパー・オールドファッション・ジャパニーズ・コンサバティブ・トラディショナル・カンパニー』ですね」とスピーチしました(笑)。
人事とトップの意識の変化が、企業の風土を変える

─「起爆剤になるのが中途人材」とおっしゃっていましたが、有沢さんはまさに中途入社されて起爆剤になったわけですね。
有沢:トップから「やれることはなんでもやってくれ、どんどん変えてくれ」と言われました。そこで、報酬制度・評価制度など、変えなければならないものは全て変えました。「16年たたないと課長になれないなんて、とんでもない」と言ってそのような画一的な制度はやめました(笑)。
人事スタッフが先頭に立って経営改革に取り組んだことで、経営改革に人事がたずさわるという意識を人事スタッフ自身が持ってくれるようになりました。オペレーター業務がメインだった人事が、戦略を語るようになりました。一大転換でした。
多田:人事は経営の意志です。ビズリーチが提唱してきた「ダイレクトリクルーティング」を実際に行おうとすると、自社に必要な優秀な人材を採用できる一方で、企業にとっては一大決心が必要です。これまでなら求人を出して応募を待っていれば良かったのに、来なくなった。営業活動と一緒で自分たちの方から主体的に動かなければいけなくなった。選考だけしていればよかったものが、自社に振り向いてもらえるように口説かなければならなくなった。そのことに気付いて変革を起こせるのはトップです。企業風土の革命はトップの意志がないと、間違いなく成り立ちません。
この10年で、企業の大きさにかかわらずトップが決断して「変わるぞ」と言った企業から順に変わっています。カゴメ様もトップが「変えるぞ」と言わなければ、有沢さんを採用するという決断はなかったと思います。
有沢:確かに、役員報酬や役員の評価システムの改革は、私だけでは困難です。トップのサポートがないとできないこと。私の仕事はトップを説得することです。
人事のエンパワーメントとサポートは、グローバル戦略に必要不可欠

─今、多くの企業でグローバル化が進んでいます。日本でのグローバル戦略における人事について、どのようにお考えですか。
有沢:私の個人的な意見ですが、日本の企業の人事は、海外の拠点や現地の子会社にもっと頻繁に行かなければいけないと思っています。カゴメの話ですが、私が2012年4月にアメリカの拠点を訪問したとき、アメリカのCEOから「カゴメにも人事部があったんだね」と言われました。これははっきり言って屈辱です。人事が赴くことがないから認知されていないわけです。まずはそこから取り組まなければダメだと思いました。
カゴメの企業理念は各国の言葉に訳され、拠点や関係会社全てに伝わっています。それと同じように、カゴメの人事戦略も基本的にはひとつです。そこは統一感を持つことが大事です。
企業をグローバル化するなら人事が自分で行って、現地を見て、日本の経営の考えをきちんと伝え、それに即して現地スタッフと上手にハーモナイズする。私がそう言うと「難しい」とみんなから言われますが、考えるのではなく、行けばいいんです。もちろん、現地に権限を与えて任せることも大事ですし、本来は国際事業部などの国際部門の仕事だとは思います。だからといって、人事はなにもしなくていいのでしょうか。人事から支援していくことが、グローバル化の第一歩だと言いたいです。
多田:有沢さんのお話は、海外の企業を買収して拠点を作り、そこはそこ、ここはここ、とやっている時代ではないと示唆されていると感じました。「人事の支援がグローバル化の第一歩」とおっしゃっていましたが、やはり、人事のあり方を変えることで、経営のあり方を改善していくことが重要ですね。
また、グローバル化においてはタレントマネジメントが重要です。システムとしてデータを一元管理して、どのように適材適所の配置をするのか。データの可視化すら取り組んでいない日本の企業は多くあります。これではグローバルでの人材の活用は進みません。
有沢:私がカゴメに来て、まず手を付けたのは、日本ではなく海外なんです。たとえばオーストラリアの拠点には人事部がなく、評価の仕組みは極めて恣意的でした。また、ポルトガルの拠点に行ってみたら「人事ってなんですか」と言われました。そんな状態から手を付け、海外の拠点に人事部を作って、スタッフになにをやるべきかを徹底的に教えました。
マネージャー全員を集めて私が言ったのは、「You are all HR manager(君たち全員が人事のマネージャーだ)」。「人事に対して責任を持ってくれ。君たちのミッションはHRだ。私はそれをサポートする」ということでした。これを徹底的にやったことで、今ではアメリカやオーストラリア、ポルトガルは日本より制度が進んでいます。
すると「各国でやって成果を出しているじゃないですか、日本がやらない理由はあるんですか」となるわけです。「海外に遅れを取りますよ」と言うと、今度は日本が遅れまいと焦ってやり始めましたよ。キーワードは「エンパワーメント(権限委譲)」です。現地を中心にエンパワーメントをすることが大事です。私がやるのは、仕組みや考え方をサポートするところまで。人事はサポーター。あとは、現地の立場を最大限に尊重します。
多田:「人事はサポーター」というのは、味方だと思ってもらう、ということですよね。有沢さんが来ると得をすると思ってもらう。それは大事ですよね。有沢さんのお仕事はまさに、経営者と現地のブリッジだと。
有沢:そうです。経営と現場のブリッジがCHOである私の大きな仕事のひとつだと思っています。
人事は10年後、キャリアコンサルタント化する
─今後、未来を考えたとき、人事・採用はどうなっていくのでしょうか。
有沢:10年先の近未来を考えると、人事は今以上に経営に近くなっているでしょうね。私のようなCHOと呼ばれる者がCEOの良きコンサルタントになり、経営の中枢を担っていると思います。
事業戦略を行ううえで大事な柱のひとつが、インフラである人事制度や人事の仕組みであることは今も変わりませんが、その重要性はますます大きくなっていく。また、HRテックが進化することでAIが決めることも多くなると思います。しかし、だからこそ、フェース・トゥ・フェースの対話が大切になるでしょうし、最終的には人間が判断しないといけなくなるでしょう。
また、私たち人事にとっては「次の世代になにを残すか」も仕事です。社長の後継者だけでなく専務や事業本部長などもそうです。後任選びは本人の仕事であると同時に、私たち人事がより適切なサポートをする、次の世代にうまく引き継いでいくことが重要になっていくでしょうね。なんとなく「あの人がいいのではないか」ではなく、「あの人でなければいけない」という説明が今以上に求められるでしょう。
多田:私も、CHOの価値がより高まることは間違いないと思っています。国内の労働力人口は減少しています。人材は企業においてより重要な資産となりますし、「人材獲得競争・育成競争の未来」が待っているでしょう。そのためには、経営は優秀な人材を獲得することにより一層コミットしないといけません。そして、獲得した優秀な人材が活躍できるように育成する必要があります。この「獲得」と「育成」はセットです。どちらかでいいのではなく、両方を経営のトップ自ら積極的に取り組んでいる企業が、間違いなく勝ち残っていくと思います。
有沢:10年後の未来では、人事はキャリアコンサルタント化すると思っています。そのため、転職してもまた、カゴメに戻ってこられる制度を作りました。なぜなら、他の会社で成長して戻ってきてくれたのなら、これほどありがたい話はないからです。「やはり、カゴメがいい」と思ってくれているということですからね。
実際に戻ってきた人を見ると、明らかに前とは違っています。マーケットでもまれ、他の会社で感覚を磨いている。視野の広さ、深掘りの仕方が変わり、物事を3次元、4次元でとらえられるようになっていることがわかります。
また、カゴメでは副業・兼業もできるように制度を作りました。それは働き方改革ではなく、個人のクオリティー・オブ・ライフを上げるのにやれることはなんでもやるためです。
今のカゴメに満足しない人が外に飛び出す。でも、カゴメはこれから制度を良くしていく。すると、「前はできなかったことが今のカゴメならできる」と戻ってくる。そんな会社にしたいですね。だから、フレックスタイムを導入したので定時出社は関係ないし、在宅勤務も月に8日までなら原則OK。自分の思うようにやってお客様に価値を伝え、お客様にパフォーマンスを評価してもらう。そういう会社にしましょうと、今取り組んでいるところです。社員には、カゴメの商品を売るのではなく、カゴメの価値を売ってほしいのです。

取材・文:大橋 博之
カメラマン:矢野 寿明
記事掲載:2019/5/9

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