広告代理店大手のADKホールディングスでは、2021年より、キャリア採用を人事主導から現場の部門主導にシフトする取り組みを進めてきました。部門採用へと動き始めた理由や現場部門が採用を推進するにあたってどのような取り組みを行ったのか、そして、人事が担う役割にどのような変化が生まれたのか。同社でキャリア採用を推進する石田智美氏、長谷川結佳氏にお話を伺いました。

取材対象者プロフィール石田 智美氏
ピープルマネジメント本部 ピープルアクイジション局 キャリア採用グループ

取材対象者プロフィール長谷川 結佳氏
ピープルマネジメント本部 ピープルアクイジション局 キャリア採用グループ
入社者のミスマッチ、人事のリソース不足を解決すべく部門採用を推進

──ADKホールディングスでは現場部門がキャリア採用を推進しているとのことですが、どのようなきっかけで部門採用にシフトしたのでしょうか。
石田:移行を考え始めた大きな理由は、人事のリソースの不足に加えて、採用した人材の現場とのマッチングに課題があったからでした。
以前は、人事主導で現場に人材要件のヒアリングを行い、それをもとに人材紹介会社と話をしたり、ビズリーチでスカウトを送っていました。ただ、人材要件ではマッチしても、その部署のカルチャーや一緒に働く人の性格や特性とマッチするかまで、すべての部署のポジションで精緻に見ることは難しい状況でした。
そうしたなか、せっかく採用した方の短期離職が発生。「こんなはずじゃなかった」という声が、入社者と受け入れ部署の双方から聞こえるようになりました。そこで、現場のメンバー自らが採用したい人材を見極め、採用を推進する方が良いのではないかと考えるようになりました。
私たちのチームでは、純粋持株会社であるADKホールディングスとその傘下のADKマーケティング・ソリューションズ、ADKクリエイティブ・ワン、ADKエモーションズという3つの会社のキャリア採用を担っていますが、これら4社の採用を人事メンバー4人で推進していました。総計60を超えるポジションでキャリア採用を実施しており、とても人事だけでは対応しきれない状況にありました。
こうしたことから、部門採用への移行を決意。1年半ほどかけて段階的に移行を進め、2023年7月ごろにようやく形になってきました。
長谷川:当社の中途採用人材は専門知識を持ったハイクラス層も多く、有資格者や法務、ファイナンス、M&Aの知見を持つ方など、採用難度の高い方ばかりです。部門が求める細かなスキルまで人事が把握するのは難しく、人材紹介会社に説明する際も、どうしても情報の粒度が粗くなってしまうという課題もありました。
また、以前はスカウト文の作成・送信は人事が行い、面談や面接のすべてに人事が同席していました。面接に費やす時間が非常に長く、1日に5~8件の面接が入ることもありました。そうなると、面接をこなすことに追われ、各部門やポジションごとの採用戦略を考える時間が取れません。人事が本来すべき採用戦略の全体設計がおろそかになっていることにも、もどかしさがありました。
──部門採用を進めることで実現したいと考えていたことや採用のあり方とはどういうものでしたか。
長谷川:現在は、スカウト文の作成や送信なども部門主導で行い、面談や面接もすべて現場にお任せする方針で動いています。
以前は、人材紹介会社からの紹介やスカウトへの返信があった際に人事が現場に候補者を紹介するフローだったので、現場からは「候補者はまだ来ないでしょうか」「もっとプッシュしてもらえませんか」と言われることもありました。現場視点では「募集を出して待っていれば多くの応募をいただける」という認識もあったかもしれません。
部門採用を導入することで、「採用には自分たちも積極的に関わる必要がある」「自部門に合う人は、自分たちで見つけた方がマッチングの度合いが高い」というマインドにシフトしていくことを期待しましたし、実際にそうした変化が見られています。
まずは部門・人事双方の役割を明確に提示。そのうえで研修や採用フローの構築を実施

──部門採用を始めるにあたり、現場の反応はいかがでしたか。円滑に進めるために工夫したことはありましたか。
石田:当初は、「仕事が増えて大変」という反応が圧倒的に多かったです。そこで、CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)や各部門の役員レイヤーの協力を得て、採用マッチングのためには現場の力が必要だというメッセージを発信してもらいました。
具体的には、各採用部門の役員と人事との定例会や部門ごとのマネジメント会にて部門主導採用の重要性をお話ししました。ただ採用業務を現場に押し付けるという形になってしまっては、部門採用が進まず、元も子もありません。そこで、「部門に合った候補者に来てもらうには現場の協力が不可欠」ということを、順を追って丁寧に伝えていきました。
長谷川:その説明の際に、部門からは「部門が採用するのなら、人事は何をするのか」という質問をもらいます。
部門採用を進めれば、人事側の面接稼働時間が減り、候補者を増やすためにどうすべきか等、「採用戦略の企画立案」に時間とパワーを注ぐことができます。難度の高いポジションも多いので、今までの手法だけでは採用が難しいケースもあります。専門人材に特化した人材紹介会社にお願いしたり、リファラル採用を強化したりと、新しい手法にトライしていくことが欠かせません。そうしたことに人事が時間を使う重要性も部門に説明し、「部門主導だからといって丸投げしているのではなく、人事は採用のプロとして、全体戦略を考えながら、部門と人事のワンチームで採用を行っていきたい」ということを伝えていきました。
──部門採用の実施に向けて行った取り組みについてお聞かせください。
石田:ビズリーチのコンサルタントと一緒に、各部門に対して研修を行いました。それぞれの部門の採用責任者向けに、オンラインで1時間半の研修を2-3回実施。「待ちの姿勢では難しい」という採用環境の変化やスカウトの送り方、返信がない場合には人材要件の再検討を行うなど、細かいポイントまで伝えました。そのうえで、人事と各部門とで個別の定例会を重ね、「(返信率が悪いのなら)この要件を変えてみてはいかがですか」といったやりとりを繰り返しました。
スカウトを送るターゲット選定から送信までのプロセスには、RPO(採用アウトソーシング企業)に入ってもらいました。部門がゼロからすべて対応するのは大変なので、まずはRPOがターゲットとなる方を選び、そのなかからスカウトを送りたい方を部門が選ぶという流れで採用活動を進めています。
人事は、スカウトの送信状況を常に把握し、送信数などが少なくなってきたときには、「ターゲット層が変わってきていますか」「RPOとの打ち合わせを設定しましょう」などと提案するようにしています。
長谷川:全体研修のほかに、最終面接を担当するメンバーには対面でのグループワークと模擬面接のフィードバックも行いました。
ビズリーチのコンサルタントにも模擬面接を見てもらい、コメントをもらっています。例えば、「面接中の沈黙を恐れてしゃべりすぎないようにしましょう」「候補者が発した言葉を、自分なりに解釈してしまうケースが多いので、まずは相手に聞いて確認しましょう」などのフィードバックがありました。人事から具体的なフィードバックがしにくいことも、ほかの企業の採用事情、面接動向などを知るビズリーチのコンサルタントからの客観的な意見としてコメントをもらうことで、メンバーの納得感にもつながっています。実際に、「面接は正解がわからない。客観的に見てもらえる機会は貴重だった」という声をもらっています。
──部門採用への取り組みを進めるなかで、ビズリーチのコンサルタントに相談したことなどはありましたか。
長谷川:部門採用を本格化するにあたり、部門向けに、ビズリーチの使い方や現在の採用マーケット等についての説明会を実施し、ビズリーチのコンサルタントに同席してもらいました。私たちから説明すると、どうしても「人事がラクをしようとしているのではないか」という見方をされてしまいがちです。しかし、ビズリーチ側から他社事例やマーケット動向を含めて話をしてもらうことで、「部門採用は、採用成功のために必要なこと」という理解が自然に広がっていきました。
石田:社内の評価制度にマッチした面接時の評価項目を作る際に、ビズリーチのコンサルタントから多くのアドバイスをもらいました。
当社の評価制度はグレード制になっており、グレードに応じて給与額が決まっています。各グレードに応じて求められるスキルが明記されているのですが、これまでの中途採用では、採用にあたっての面接に対してのみの評価を行う形式になっていました。そこで、社内の評価制度でグレードを決める際の「スキル判断の軸」を面接にも取り入れるためにサポートしてもらいました。実際に、面接時に見るべきスキルが明確になったことで、メンバーも中途入社者も同じテーブルで評価できるようになり、納得感も高まったと感じています。
部門からの相談や打ち合わせ設定が急増。当事者意識の変化が採用成功を生んでいる

──部門採用にシフトした後の実績や、部門・人事の変化についてお聞かせください。
長谷川:人事主導で進めていた頃の採用数と同人数の採用成功にいたっており、今後はさらに増える見通しです。
部門自らがビズリーチのデータベースにアクセスし、登録者数や年収帯を見るようになったことで、無理難題な人材要件が大幅に減りました。「こんな人材を求めても、採用マーケットにはいないんだ」「この要件で、この年収は、相場とはかけ離れているかもしれない」と部門が気づき、人材要件を再検討するようになりました。
石田:人事サイドの大きな変化としては、部門に加え、人材紹介会社やビズリーチ等の協力会社と向き合う時間が増えたことです。以前は個別の面接対応に大半の時間を要しており、全体の採用戦略を部門や協力会社と話す時間がほとんど取れずにいました。今は、選考対応は部門主導になりましたが、採用という大きな枠組みでは一緒に取り組んでいます。その感覚が以前より強くなったなと感じています。
長谷川:役員自らが「協力会社に挨拶に行こう」と、採用に対する動き方が積極的になりました。「この人材紹介会社はたくさん紹介してくれているので、さらに関係強化できるように打ち合わせがしたい」「より専門人材に特化した協力会社を開拓できないか」という相談が人事に来るようになるなど、変化が生まれています。
石田:採用に対する部門のマインドも非常に能動的になりました。「最近、人材紹介会社からの紹介が少ないですよね。どうしたら良いでしょう」と相談してくれたり、「こんなチャレンジがしたいから、こういう人材にきてほしい」と詳しく教えてくれたりします。
──部門採用へシフトする際に、特に重要なポイントは何だと思われますか。今後、部門採用に取り組みたいと考えている人事・採用担当に向けて、アドバイスをいただけないでしょうか。
石田:人事と部門の役割を明確にしつつ、協働することが大事だと考えています。人事と部門の信頼関係なくしては、採用は絶対にうまくいきませんので、部門採用を進める際には「人事はこんな取り組みをします」と、人事がやるべきこともセットで説明することがとても大事だと思っています。人事は、現場で働いていただける候補者を増やすために動いています。一緒に良い方に入社していただくために尽力している姿勢を丁寧にお話しするのが良いのではないでしょうか。
長谷川:何か一つで良いので、「成功事例」を作ることも大切だと思います。
当社では、ある営業部が独自に「ビズリーチスカウト送信担当者」を立てました。そして、候補者から返信が来ると、その情報を部内の各グループ責任者に共有し、「この方を面接したいグループはありますか」という「ドラフト制」のようなフローで採用を進めました。役割分担が明確になったことで、スカウト送信数も返信率も上がり、面接したいと挙手してくれたメンバーも、採用への当事者意識が高まりました。そんな好循環により、採用成功事例が多く生まれています。
こうした例を横展開していけば、部門主導の動きも加速するのではないかと考えています。部門採用を積極的に進めてくれそうな「味方」となる部門と、まずは成功体験を築く。このような進め方も、部門採用を広げていく一つの方法だと思います。
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