【イベントレポート】変革へ果敢にチャレンジし続けるロームの人事戦略

【イベントレポート】変革へ果敢にチャレンジし続けるロームの人事戦略

2022年7月7日、株式会社ビズリーチは「変革へ果敢にチャレンジし続けるロームの人事戦略」と題したWebセミナーを開催しました。

ローム株式会社 管理本部統括部長の利岡佐光氏にご登壇いただき、自社のカルチャーや事業フェーズに合わせて行った人事制度改革の中身と成果、今後の構想をお話しいただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチ ビズリーチ事業部広域統括部統括部長の山本憲明が務めました。

利岡 佐光氏

登壇者プロフィール利岡 佐光氏

ローム株式会社
管理本部 統括部長

2001年入社。営業部門において、シンガポール、タイ、ドイツの販売現地法人に通算14年間にわたり出向。
担当者から現地法人トップまでさまざまな階層において多様な組織の運営と人財マネジメントを経験し、2019年から人事部門トップとして現在に至る。制度、システムの人事インフラ刷新に着手し、ロームの10年後のありたい姿を実現するために人的資本向上に奮闘中。
山本 憲明氏

モデレータープロフィール山本 憲明氏

株式会社ビズリーチ
ビズリーチ事業部 広域統括部 統括部長

大手人材会社に約14年間在籍し、主に人材紹介領域において個人向け転職支援、企業向け中途採用支援に従事。事業企画や人事の業務を経て、横浜の拠点立ち上げ責任者、名古屋・大阪の拠点責任者を歴任。2018年6月に株式会社ビズリーチに入社し、現在は、関西・名古屋・福岡・静岡・中四国の拠点責任者を務める。

実力主義から能力主義への人事制度変革と、グローバルメジャーに向けた人事構想

1958年に電子部品メーカーとして京都で創業したロームは、トランジスターやダイオードの開発・販売で事業を広げ、ICを開発。1971年には日系企業で初めて米国シリコンバレーに進出し、1981年に現在のローム株式会社に社名変更しました。2020年に代表取締役社長が現在の松本功に変わり、そこから大きな変革を進めています。京都に本社を構え、国内7社、海外32社のグループ会社と、国内22カ所、海外74カ所の拠点を有し、従業員数は23,401人です(2022年3月31日現在)。

2021年に策定したステートメント「Electronics for the Future」を旗印とし、その上位にある企業目的「われわれは、つねに品質を第一とする。いかなる困難があろうとも、良い商品を国の内外へ永続かつ大量に供給し、文化の進歩向上に貢献することを目的とする。」を社内のすみずみまで浸透させています。

会社概要

4,500億円強の売上高の約9割は、IC/LSI、半導体素子という半導体関連です。市場は、自動車、産業機器、民生機器、通信、事務機・電算機などですが、自動車が37%と比較的多くを占めています。販売地域は、日本・アジアで約9割となっています。

製品を通じた社会課題の解決

キーテクノロジーとしては、まずSiC(シリコンカーバイト)をはじめとする世界最先端のパワーデバイスや、なめらかに電気信号を送るアナログデバイスを開発して、「省エネ・高い変換効率」を実現。「小型化・省資源」として、革新的技術が支える世界最小部品RASMIDシリーズなど、デバイスの小型化で原材料使用量の削減にも貢献しています。モバイル製品やキャッシュカードなどに内蔵されるもので、大きさのイメージは砂時計の砂粒程度です。

また、「安全・快適な交通インフラの進化」にも貢献しており、高度な品質が特に求められるなか、センシングデバイスやカメラインターフェース、グラフィックチップセットといった製品を組み合わせ、ソリューション提供をしています。「暮らしの安全安心」のため、モバイルグッズ、スマートフォン、通信といったところにも入っています。

IDM(垂直統合型生産体制)/品質保証

また、製品安全・品質第一のために、垂直統合型生産体制を採り、原材料から最後の製品まで、さらに生産システムも、すべて自社開発。全ての項目、工数においてブラックボックスのない状態で品質管理をし、安定供給につなげています。これはエンジニアにとってもあらゆる活躍のフィールドがあるということで、採用のアドバンテージとなっています。

そして、サステナブルな社会に向けた取り組みとしては、環境・人財・調達などのマネジメントに注力しています。

まず、環境マネジメントでは、「環境ビジョン2050」を策定し、気候変動、資源循環、自然共生への取り組みを推進。再生可能エネルギーについても100%使用を目指し、新社屋および工場での使用を適宜進めています。

人財マネジメントでは、従業員エンゲージメントの向上を目指し、サーベイを実施。ダイバーシティの推進として、女性のキャリア形成促進と女性・外国人のマネジメント層への登用を進めています。ガバナンス改革として、独立社外取締役比率のさらなる引き上げや、中期経営計画に連動した報酬制度の導入などにも取り組んでいます。

調達マネジメントにおいては、購買先との連携を強化し、健全なサプライチェーンの維持を通じて、顧客への継続的な商品供給体制を確立しています。昨今、半導体不足と言われるなかでも、お客様や社会に対して責任を持ってマネジメントを行っています。

企業として、社会貢献にも非常に力を入れています。たとえば、本社社屋は「森の中の工場」をコンセプトに、周辺を緑化整備してきた取り組みにおいて、「緑の認定」SEGES認定を取得。それ以外にも世界中の拠点でさまざまな社会貢献を行っています。

将来世代への教育として、産学連携・共同研究・未来のエンジニア支援などにも注力しており、立命館大学、同志社大学、京都大学、中国の清華大学にローム記念館を設立し、ロボコンへの協賛などを実施。また、創業者の思いから、音楽文化の発展と普及にも力を入れており、公益財団法人ローム ミュージック ファンデーションを通じて、音楽家への支援活動を行うなどしています。

ロームのカルチャーに基づく人事制度

ここからは、ロームの歩みとカルチャーに基づく人事制度の変遷を紹介していきます。

ロームの歩みとこれまでの人事制度

会社の状況として、2000年までは右肩上がりに成長してきましたが、そこから2020年までの約20年間はいわゆる踊り場状態となり、苦しい時代でした。2021年からは復活期として、新しい成長に向け、上向きの目標を掲げて進んでいます。

この間、人事制度においては、成長期にあった1990年代に体制を整えようとして、1999年から「実力主義人事制度」を導入。その後、2016年からは「能力主義人事制度」を導入して現在に至ります。

第一期成長期に導入した人事制度

まず、第一期成長期の1999年から2016年に導入した「実力主義人事制度」では、ジョブ型のように職種を商品開発・研究開発・高度技術・技術・営業・管理と分け、部門別・職種別に賃金テーブルを設定。テーブルごとの金額差も設けることで、実力に見合った給与を受け取れる仕組みです。

狙いは、それまでの年功序列制度から、若手を抜てきできるような制度への転換であり、ベンチャー企業から大企業への急成長期に必要な取り組みでした。結果として、現在の同一労働・同一賃金にも近く、ジョブ型の走りのように時代を先取りする制度となっていました。

しかし、2000年代後半以降の業績低迷とともに、課題が表面化していきます。まず、職種や部門間で給与テーブルが異なることから異動やローテーションが難しく、組織の硬直化を招きました。また、給与制度が社員に公開されていなかったため、給与・賞与・評価・昇進の理解が人によって差があり、社員のモチベーション低下をもたらしました。

さらに当時は、トップダウン色の強い風土といわれ、採用戦略とマネジメントや育成にずれが生じるなど、風土面での課題もありました。

第一期成長期に導入した人事制度の課題から新制度を導入

こうしたことが業績低迷につながったという反省も込めて、2016年からは次の「能力主義人事制度」に移行します。

まず職能資格として、新入社員からグレード別に基本給レンジを設定。各グレードのなかで賞与評価を行い、定期昇給金額を設定する成果評価と給与報酬の組み合わせであり、従業員にとって分かりやすい制度となりました。この制度が現在に至っています。

エンジニアがエンジニアらしく成長できる体制の構築

並行して、エンジニアに持てる力を存分に発揮してもらうため、2019年に技術系社員のキャリア制度を大幅に見直しています。

スペシャリスト職の新設

従来は職能資格に役職を掛け合わせ、その役職には、部下を持つマネジメントキャリアの「ライン職」と、部下を持たずに自身の専門性を高めるキャリアの「専門職」が存在し、それに対する教育制度もありました。しかし、専門職の管理職以上のキャリアが見えにくいという課題があったため、2019年より「スペシャリスト職」を認定制で設けることとしました。

専門職のなかでも、学会や特許、あるいは会社のなかで技術が秀でているなど、その専門性を社内外で認められる人をスペシャリスト職とすることで、技術力で会社に貢献する人材を育て、処遇においても報いることができるようになっています。

スペシャリスト制度の運用状況

スペシャリスト職は4階層で運用しており、シニアフェローは本部長・執行役員級の待遇です。制度開始から2年を経て、エンジニアや専門職のキャリアとして浸透してきています。

グローバルメジャーとしての未来を見据えたこれからの人事戦略

中期経営計画の進捗

そうして2021年には、新しい体制のもとで中期経営計画を立てました。2030年にありたい姿からバックキャストをして、5年後の2025年度に向けた数値目標を掲げています。

それが、売上6,000億円、海外売上比率50%以上、グローバルで戦える営業・開発体制の確立といった内容であるため、人事制度もこれに沿った、さらに先のグローバルメジャーを目がけたものが求められ、新構想に着手。

2020年、松本が代表取締役社長に就き新体制となってから経営アジェンダに置かれ、人事制度を徹底的に見直すべく、3カ月に1度、経営執行会議で進捗報告を行いながら取り組んでいます。

ありたい姿から見た人事制度の軸

社長から与えられたミッションは、社員がチャレンジでき、いきいきと働ける、公正・透明な人事制度ということであり、それを受け、自律的なキャリア支援とダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をポイントとしています。

自律的なキャリア支援としては、次世代リーダーやスペシャリストのための選抜型研修、自ら希望して異動するジョブポスティング制度、自分が目指すリスキリング等のための選択式研修、1on1ミーティングの促進などがあります。

D&Iは一般的な内容ですが、働き方改革推進はコロナ禍の影響もあり、ロームでもかなり進んでいます。

人事制度の部分では、成長とともに報酬をアップさせるということで、グローバル企業レベルの報酬を目指しています。また、成果に伴う給与・賞与のメリハリということで、正しく成果を測れることを考えています。また、属人的処遇差をなくし、それを可視化できるようなツールとして、タレントマネジメントシステムの構築も進めています。

このトライアングルのなかで、社員ファーストの観点でチャレンジ支援・促進を行っていくというのが人事制度の軸となっています。

これからのチャレンジ構想

これからのチャレンジ構想としては、ジョブ型や年俸制を2022年から一部の管理職に導入。世界と戦っていくため、グローバルグレーディングも取り入れています。

スカウターについては、自分の能力と目指すキャリアの差分を可視化し、必要な研修を自ら受けるといった積極的な活動を促すため、2022年4月からスタートしています。

結果的に、社員のチャレンジを促し、高いエンゲージメントを維持して継続的にイノベーションを創出すると、会社も成長するということを信じて取り組みを進めています。

求める人物像

最後に改めて、これから一緒に働いていただく方に対しては、「ロームスピリット」として、情熱・探究心・行動力という3つを挙げています。このような方たちと、ロームの成長や社会のために役立っていきたいと考えています。

Q&Aセッション

セミナー後半には、視聴者から寄せられた質問にお答えしました。

Q
制度や風土を全社に浸透させていくうえでの苦労や工夫を教えてください。
A

どうすれば社員に関心、理解を持ってもらえるかという点は大変苦労しました。そのなかでも、やはり何度も繰り返し訴えていくしかないと感じたため、経営陣は非常に対話を重要視しています。

何度も何度も対話をし、研修などで対話のスキルを身につけるところから取り組み、本音で語り合う風土の醸成が、まず1歩目だといえるでしょう。

また、経営陣は社内のイントラネットを通じて、活発にメッセージを発信しています。時には自ら動画で社員に直接訴えるという場面も作っています。それに対して従業員が、「いいね」ボタンを押せる仕組みもありますので、その反応も注視しています。

Q
人事改革への合意形成プロセスや運営体制を教えてください。
A

コンサルティング会社の協力・支援のもと、改変を行っています。さらに、労働組合を通じて社員の声も取り入れています。

プロセスはその時々によりますが、たとえば、退職率が高いときには抑制策を考え、新規事業に人材を異動させる必要がある場合などは、人事制度を適宜改変し、フレキシブルな体制を目指して変革を行ってきました。

Q
今までの人事制度を変更する際にはパワーや覚悟が必要かと思われますが、グレード制を導入された際のポイントや取り組みの工夫を教えてください。
A

職種によってグレードがありましたが、これは中心をまず決め、そこから調整をかけて決めていきました。ですので、ポジティブ・ネガティブに分かれたというところに課題があり、その是正については今も、時間をかけて取り組んでいるところです。

基本的に導入に際しては、組合や経営陣と議論を重ね、慎重に時間をかけて進めていきました。

Q
人事制度を改変していくなかで、どの施策が特に業績に寄与しましたか。
A

1回目の改変は、ベンチャー企業から大企業への変革のためであり、しっかりとした土台ができたため、社員の福利厚生や給与面、評価面が整ったといえます。

2回目については、縦割りの壁を打破するべく、横のつながりを広げるための取り組みでしたので、それによって、コラボレーションが生まれたという成果がありました。次世代の、新しいパワー系のデバイスが生まれたところにも寄与していたと思います。

やはり、組織構造の作り方や報酬設計も含めた制度変革というのは、社内のコミュニケーションのあり方を変えていくものであり、それがコラボレーションを生む土台になったのでしょう。もちろん当初は反発もあり、その中心が真っ黒な城壁に見えたのが、今では花畑くらいに印象が変わっています。

Q
自律的なキャリア支援の具体的な取り組みについて、もう少し教えてください。特にジョブポスティングについて、どのような仕組みで運用していますか。
A

まだ取り組みの途中ですが、まずジョブポスティングの前にポスト転換というものを考えました。事務職が手を挙げて総合職に転換を図るもので、数年前から行っています。そして次に、シニアの活躍に向けて、定年再雇用者が希望してチャレンジする制度も作りました。部門が求人を出し、オンライン説明会も実施して、その仕事内容に合意できた人が応募するという仕組みで、導入して3年になります。

そのほか、制度化はまだですが、新規事業に向けたプロジェクトへの参画も広く募っています。期限付きのものもあれば無期限のものもあり、何十名といった募集に際して説明会も行います。最終的には関係会社も含めて、全体やあらゆる階層に広げていきたいという目標を掲げている、途上の取り組みになります。

これらの求人による公募は、社内のイントラネットを活用して、自前で行っています。始めた当初はなかなか手が挙がりませんでした。そもそも、受け入れ部門が二の足を踏み、まず求人が出てこなかったのですが、年2回を3年、4年と重ねてきて、最新の求人は約30件にもなっています。人事でも、最初は各部門に働きかけて、求人を相当プッシュしました。広がってきたのは、実際に異動した社員の活躍によるもので、その様子を見た他部門がおのずと公募を活用するようになったという経緯です。

Q
社内副業について、どのような取り組みを行っていますか。いわゆる兼務とは異なりますか。
A

これは制度としては、これからになります。すでに兼務は多数行われており、社内横断プロジェクトの参加者も多数います。この先に考えているのが、閑散期、繁忙期など季節的な業務がある、あるいは今日たまたま何時間か時間が取れるといった場合に、スポットで随時手を挙げられる仕組みの制度化です。

社内のリソース活用のための苦肉の策ですが、それにより、個人のチャレンジに対する意欲の促進や、副次的に風通しの良さにもつながることを期待しています。

Q
さまざまな働き方ができるようになり、「働く会社を自分で選ぶ」という時代になりつつあります。今後どのような会社が「選ばれる会社」になっていくでしょうか。
A

私見ですが、「会社でワクワクしたい」というのがあります。社員がニコニコ、ワクワクしていれば、それにつられて周囲も明るくなり、そういったところが成長につながるでしょう。

社員がいきいきと働いている姿を見ていただくことで、「選ばれる会社」になれるのではと思います。ロームをそのような会社にしたいと考え、日々取り組んでいます。

最後に、視聴者の皆様へメッセージをいただきました。

利岡 佐光氏
利岡 佐光氏

これからも日本の半導体業界で、また世界とも厳しく戦っていくなかで、われわれは勝ち残っていきたいと考えております。

それを作っていくのは、社員一人一人です。

そういった力強い思いを持った人たちと一緒に仕事がしたいと思っています。

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著者プロフィール久保田かおる(くぼた・かおる)

横浜市生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。株式会社リクルートで12年、旅行・学び領域での編集/クライアントワーク経験を積み、当時の社是である「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」を実践。現在はフリーランスで、経営者やVC/CVC、コンサルタント、エンジニア、HR担当者、医師に対する取材・執筆を中心に活動。6年間のインタビュー実績はのべ1,618名。