【イベントレポート】人事・採用の基本をマスター 選考プロセスの組み立て方編(第4回/全6回)

【イベントレポート】人事・採用の基本をマスター 選考プロセスの組み立て方編(第4回/全6回)


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2022年5月17日、株式会社ビズリーチは「人事・採用の基本をマスター」と題したWebセミナーを開催しました。

株式会社人材研究所 代表取締役社長・曽和利光氏にご登壇いただき、採用活動の基礎・基本となるテーマを、全6回のWebセミナーで伝えていきます。第4回は「選考プロセスの組み立て方編」として、採用チームを作る目的や採用担当者の要件、チーム作りの注意点などを解説します。

この連続セミナーのレポート記事一覧は下記のリンクからどうぞ。

曽和 利光氏

登壇者プロフィール曽和 利光氏

株式会社人材研究所 代表取締役社長

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

著書等:「人と組織のマネジメントバイアス」、「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」、「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント」、「「ネットワーク採用」とは何か」、「知名度ゼロでも『この会社で働きたい』と思われる社長の採用ルール48」、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」

就活ペルソナからプロセス設計まで 〜どんな就職・転職活動をするのかを想定する〜

採用プロセスを組み立てるうえで、まず行うのが「就活ペルソナ」を作ることです。

想定した採用ターゲット(ペルソナ)は、「今の環境なら、どんな就職・転職活動を行うだろうか」を、みずみずしい人間像で描いていきます。

就活ペルソナを考える際は、

  • そもそもどの程度の就職・転職活動量か
  • 活動の時期はいつ頃か(長期休暇なのか夏なのか冬なのか)
  • 主に利用する情報収集チャネルは何か
  • イベント、インターンなどの新しい採用手法に参加しそうなタイプかどうか
  • どんな価値観で、どんなメッセージが「刺さる」のか

といった要素を、一つ一つ検討していきます。できるだけ具体的に、人物が生き生きと動き出すように想像していきましょう。

就活ペルソナを描いたら、採用プロセス設計の大きな流れに組み込んでいきます。

結果から逆算して、どこのルートから何人の応募を集めたいのか、「歩留まり率」から数字を出します。初期母集団の目安が見えれば、現実的にどんな採用活動をすべきかが考えられます。

採用プロセス設計に反映する

採用プロセス設計のフローチャートを、時間軸に置き換えたのが採用スケジュールです。

採用スケジュールに落とし込む

内定受諾数から逆算した数字をどう達成できるのか、現実味を考えながら採用活動期間を考えます。

候補者集団形成から内定受諾、内定後フォローまで個別のタスクに落とし込んでいくと、リクルーターが毎月何時間を面接に使うべきかなどが見えてきます。

毎月のすべきことを縦軸で見ると、人事担当者の延べ活動時間も分かり、採用人数に対しての人事のマンパワーが足りるかどうかも計算できます。マンパワー不足が明確になれば、現場の協力体制を整えたり、採用のアウトソーシングをしたりと、解決方法を検討することができます。

こうしたシミュレーションをせずになんとなく進めてしまうとどうなるのか。多くの企業は、マンパワー不足により、選考が途中で滞留し始めます。

採用活動において最も避けるべきことが、プロセス途中の停滞です。「合否の連絡待ち」「次の面接日程の調整待ち」といった状況が続くと、途中辞退が大量に発生します。採用では、候補者集団がすっと流れるようにプロセス設計をすることが、人事の大事な役割なのです。

各選考プロセスの数値目標設定 〜一般的水準、改善ポイント、数値に影響を与える施策〜

各選考プロセスの数値目標は、現実味のある数字で設計することが大事です。

過去の採用データがあればそれを参考にしてもいいですし、今の市場での一般的な水準を参考にしてもいいでしょう。

選考プロセスには、重視すべき6つの「歩留まり」があります。

  1. 受験率
  2. 書類合格率
  3. 適性検査合格率
  4. 面接合格率
  5. 途中辞退率
  6. 内定辞退率

プレエントリーとは本格的に選考を受け始める前の、個人情報だけ届く状態を指しています。

選考プロセスにおいて重視すべき6つの「歩留まり」

各プロセスの数字はすべて関係し合っていますが、今回は、一つ一つにどんな改善ポイントがあるかを見ていきたいと思います。

(1)受験率

受験率は、売り手市場かどうかや企業の人気度によっても大きく変わります。あくまでも一般的な数値として紹介します。

受験率の一般的な水準は30%程度。プレエントリーがあった人数全体の3分の1程度は受験するということです。

すでに受験率が60~70%と高い場合は、そこからの伸びしろはないといえるので、ほかのプロセスでの改善に力を入れたほうがいいでしょう。もし20%ほどしかない場合は、改善の余地は大きいです。

受験率を左右するポイントは、応募のハードルです。応募のためにすべきことが多いほど受験率は低くなります。候補者が気軽に受験できるよう、ハードルを下げる工夫を考えてみましょう。

例:

  • エントリーシート、履歴書などの「持参書類」を減らし、来た場所で記入してもらうスタイルにする
  • 説明会や選考の候補日程を増やす(平日昼間のみだと学生、現職に就いている人にはハードルが高い)
  • 拘束時間を短く、動画説明会でもOKとする
  • 候補者にとってアクセスしやすい場所にする(候補者の職場の近くのカフェでカジュアル面談を行うなど)
  • 交通費を出す 
  • 説明会参加を受験の条件としない

また、候補者を待たせないことも重要です。待たせているだけの状態が続けば辞退率につながるからです。エントリー直後にレスポンスをし、電話を活用して候補者の情報を引き出すのも一つです。

「ちなみに、なぜ当社にエントリーしていただけたのでしょうか」「ちなみに、今はどんなお仕事をされていますか」と電話面談のように聞いていくのを、私は「ちなみに攻撃」と呼んで活用しています。

スカウトメディア全盛期の今、企業側から声をかけている以上は、候補者が行ってみようと思えるような「受け皿企画」を面白くすることも大切です。

候補者にとって、最もつまらないものが「知らない企業の会社説明会」です。面白いものにするために、候補者との接点がある内容にしていくといいでしょう。

例えば、

  • 「業界」説明会 
  • 「就職・転職応援セミナー」(自己分析・会社選び・面接対策など)
  • 他社とのコラボ(特に、商流を同じくする会社となら実施しやすい)
  • 勉強になるもの(財務会計、マーケティング、PCスキル等々)
  • 「1日で内定が出る」「複数社同時に受験可能」等のメリット
  • 古くからある王道の「飲食」「懇親会」

などを検討してみてはいかがでしょうか。

(1)受験率

(2)書類合格率

書類によって精度の高い選考をするのは難しいというのが私の持論です。そのため、そもそも書類選考自体を廃止することも一つの手と考えています。 

書類を書いてもらう場合は、「書いて持ってきてもらう」のではなく、「来た場所で書いてもらう」ほうが応募のハードルは下がります。

(2)書類合格率

候補者はちょっとしたことでも「めんどくさい」と思って二の足を踏んでしまいがちです。書類を用意する大変な準備はできるだけ減らし、来て10分ほどで記入できるシートに変えてみてはどうでしょうか。面接で詳細を聞く素材として情報がもらえれば十分です。

来てから書かせる書類の例

中途採用で人材紹介会社を活用しているところは、書類合格率を3割以下に下げないことも重要です。

人材紹介会社の視点に立つと、候補者に「ぜひ受けましょう」と勧めた企業から書類選考で落とされてしまうと、紹介モチベーションが大きく下がります。「あの企業はなかなか通らないから」と紹介数が減ってしまう可能性もある。3割を下回っている企業は一度見直してみるといいかもしれません。

(3)適性検査合格率

適性検査は、科学的根拠に基づいて設計されているため、精度の高い選考につながります。数字ではっきりと結果が出るので、「適性検査で50枠の合格者を出そう」という歩留まりの操作がしやすいのもポイントです。

ただ、採用データがそろっていない導入初年度は思い切った絞り込みは危険です。自社にマッチした人材がどういう人か、データで傾向が見えてきてから絞っていくといいと思います。

データが蓄積されていったあとは、初期選考の段階で導入し優秀層を絞ることで、採用マンパワーの削減にもつながります。

(3)適性検査合格率

(4)面接合格率

一般的な面接合格率は30%です。10~20%になっているのであれば、面接担当者が落としすぎている可能性があります。

求める人物像を強く言いすぎると、迷ったら落としてしまおうという判断をしがちです。「なぜこの候補者を合格にしたのか…と責められたくない」とリスク回避の心理が働いてしまうのです。

(4)面接合格率

新卒採用の合格率は1%といわれています。これは、面接合格率30%の面接を4回繰り返した数字です。精度の低い1回の面接で落としすぎるのは危険なので、面接担当者のトレーニングを実施するのも改善策の一つでしょう。

また、相対評価によって精度が高まることがあるのでグループ面接を取り入れるのもいいと思います。

世の中の「面接合格率」のイメージ

注意したいのは、合格率についての黄金律です。

面接合格率の30%はあくまでも平均です。最初は高いのですが、時間の経過とともに候補者の数が限られてくることもあり、合格率は徐々に下がっていきます。採用をスタートしたばかりの段階では5割近く合格として、最終的に30%になるよう調整するのも重要です。最初から30%を基準として忠実に進めていると、合格にすべき人も落としてしまうかもしれません。

合格率についての「黄金律」

(5)途中辞退率

途中辞退率は、書類選考を受けたものの面接を受けなかったなどのケースを指します。

辞退率は、「内定辞退率」が目立つために重視されがちですが、KPIとしては途中辞退率を見るべきです。内定辞退率は、優秀層を採ろうと攻めた採用をすればするほど上がるものですが、途中辞退率は、そもそも選考を受け切らなかったということ。ここは防御していくことができます。

改善の最大のポイントは「スピード」です。選考スピードを上げることで途中辞退率は明確に下がります。

マンパワーが足りなくて対応できない場合は、アウトソーシングの活用や、辞退可能性の高い層から先に対応するなどの工夫が大切です。

(5)途中辞退率

歩留まりを上げる施策としては、合格者が次の面接に来たくなるような工夫ができるといいでしょう。

  • 受験率向上と同様に、持参物を減らしてハードルを下げる
  • 適性検査のフィードバックをする
  • 即日通知でモチベーションを上げる
  • 交通費を支給する

などのほかに、「待たせる時間をつくらない」こと。つまり、滞留を起こさない採用フローの組み立てが重要です。

選考途中でもフォローや歩留まりを上げる施策を

(6)内定辞退率

内定辞退率は低いに越したことはありません。

ただ、いい低さと悪い低さがあるので、単純にKPIにしても本質的ではありません。優秀層を狙い攻めた採用をすれば、それだけ競合が強く、内定辞退率は高くなるからです。

改善のためには、内定提示でのフォロートーク、意思決定をサポートする採用担当者の力量が試されます。

(6)内定辞退率

では、内定提示ではどんな工夫があるのでしょう。

一つは、「最終面接合格」と「内定」をきちんと区別することです。

内定ではなく最終面接合格を伝え、「あとはあなたの意思次第」としたうえで、意思確認の面接後に正式に内定を出しましょう。

内定出しについて(1)「最終面接合格」と「内定」の区別

また、内定を伝える際には、必ず内定者とリレーションのある人事担当者や責任者が行いましょう。メールや電話などで内定告知をせず、面接の感想や他社の就活状況などを聞いたうえで、入社の意志が高まっていたら内定を伝えること。

直接歓迎の意を伝えたり、お祝いの食事の場を作ったり、書面をきちんと出したりと、重要な決定であること演出することも大切です。

内定出しについて(2)1to1での丁寧な内定出し

Q&A

セミナー終盤には視聴者からの質問に答えていただきました。抜粋して掲載します。

Q
面接回数は何回ぐらいが妥当ですか?
A

面接合格率30%を軸に逆算すると、おおよその目安の回数が出てきます。

人材紹介会社からの一般的な合格率は10%なので、その場合の面接回数は2回が妥当でしょう。

Q
受け皿企画から応募につなげる工夫とは?
A

中途採用なら、「ぜひ、当社を受けませんか」と直接伝えやすいと思います。新卒採用では、「次も来ませんか」とカジュアルな面談を用意したり、キャリア相談の機会を用意したりと内容を工夫しながら、ずっと「面談」で進めていくというやり方がよくあります。

受け皿企画で接点を増やし、本人が選考に応募しているという気持ちになっていなかったとしても、実質的には進めている。「じゃあ、応募します」と本人が決めたときには、次は最終面接だけ、というケースもあります。

最後に、視聴者の皆さんへメッセージをいただきました。

株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏
曽和 利光 氏

採用プロセス設計は、採用活動のなかで一番つまらなくて難しく、ややこしいところです。

人事の方は人と接するのが好き、面接が好き、というタイプが多く、数値設計は苦手なのでやっていない、という企業もあるでしょう。

しかし、だからこそ伸びしろが大きい部分です。面白みのない作業かもしれませんが、採用力を高めるためには、「きちんと設計すれば採用力が上がる」と信じて、ぜひご検討いただければと思います。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。