【イベントレポート】「個」の多様性を活かしたソニーの人事戦略

【イベントレポート】「個」の多様性を活かしたソニーの人事戦略

2022年1月20日、株式会社ビズリーチは「『個』の多様性を活かしたソニーの人事戦略」と題したWebセミナーを開催しました。

ソニー株式会社執行役員の山本洋史様にご登壇いただき、社員の活躍を支援する人事戦略の考えや具体的なメソッドについてお話しいただきました。モデレーターは、HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏が務めました。

山本 洋史氏

登壇者プロフィール山本 洋史氏

ソニー株式会社
執行役員(人事、総務担当)

1988年4月、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。入社時配属から現在に至るまで一貫して人事業務に従事。1997年より株式会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメントへ異動し新会社の立ち上げ、2000年から2007年までは米国へ赴任し海外人事業務を担当。
帰国後は、役員報酬、人材開発、複数事業の人事責任者を歴任。2021年4月、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業を担うソニー株式会社が発足、執行役員就任。
楠田 祐氏

モデレータープロフィール楠田 祐氏

HRエグゼクティブコンソーシアム
代表

日本電気株式会社(NEC)など、東証1部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)客員教授を7年経験した後、2017年4月、HRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。
2009年から6年連続で年間500社の人事部門を訪問し、人事部門の役割と人事担当者のキャリアについて研究。

ソニーグループについて

本日は、ソニーグループの観点から「『個』の多様性を活かしたソニーの人事戦略」の全体像をお話ししたいと思います。

1946年に創業したソニーは、2021年4月に6つの事業がフラットにつながる新たな経営体制を確立し、ソニーグループとして発展を目指す組織になっています。

グループ経営体制(2021年4月以降)

1997年度と2020年度の連結売上高の構成を比較すると、ポートフォリオが多様化し、ゲーム、エンターテインメント、金融事業が拡大していることが分かります。

連結売上高構成比

2022年春には、ソニーモビリティ株式会社を設立し、EV(電気自動車)市場への参画も本格的に検討を進めていきます。

ほかにも、クリエーターを映像制作の時間と空間の制約から解放しようと、3D背景での撮影が可能な「バーチャルプロダクション」、スポーツのビデオ判定を支える動作の解析ツール「ホークアイ」の多様な競技への導入といった、新たな事業についても展開していきます。

創業者の思いをつなぐソニーのキャリア観

ソニーの原点は、創業者の一人、井深大(いぶか・まさる)による

真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設。日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動し、技術を通じて⽇本の⽂化に貢献すること(設立趣意書)

にあります。

ソニーの原点

技術の力で人々の生活を豊かにしたいという創業者の思いは、創業時から一貫して変わっていません。

「Purpose」に支えられた企業文化

この創業者の思いを引き継ぎ、新たに「Purpose」を定めました。

ソニーが何のために存在するのかを明記した「Purpose」は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」です。社員が長期視点での価値創出に向けて、同じベクトルで進むための存在意義を定めています。

Purpose

ソニーグループのアイデンティティは「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」であり、価値創造を果たすための基盤は「テクノロジー」と「人材」です。

多様な人材がクリエイティビティを最大限に発揮することで、世界に感動を届けたいと考えています。

創出価値

Sony’s People Philosophy(ソニーの人事理念)

「設立趣意書」に記された創業者、井深の言葉、

真面目なる技術者の技能を、最大限に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想⼯場を建設。従業員は厳選されたる、かなり小員数をもって構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限度に発揮せしむ

また、もう一人の創業者である盛田が、入社式のたびに新入社員に伝えてきた言葉。

ソニーで働いてみて、違うと思ったら、すぐに退職したほうがよい。人生は一度しかない。ソニーで働くと決めた以上は、お互いに責任がある

創業者からの、個の自主性と挑戦を尊重、会社と社員はあくまで対等であり、おのおのがその責任を果たす必要があるという考えが引き継がれています。

ソニーのキャリアに対する考え方

これらの考えをベースに、多様な人材が生み出す価値を最大化し、グループのさらなる進化を実現するため、「Purpose」と同様、11万人の社員を束ねる人材理念(People Philosophy)についても再定義しました。

Sony's People Philosophy

「Special You, Diverse Sony」です。

この言葉には、異なる個性を持つ一人ひとりと、多様な「個」を受け入れるソニーとが「Purpose」を中心にともに成長する、言い換えると主役はあなた、多様性こそがソニーの競争力」という意味で、井深、盛田の時代から大切にし、その後、進化してきた人事の考え方を、わかりやすい言葉に置き換えました。

多様な事業を持つソニーでは、事業ごとに価値創出に必要な人材やマネジメント方法が異なるため、人材理念を共有しつつ、各事業で最適な人事戦略を立案・実行することが適切と考えています。グループ共通の人事戦略のフレームワークを、「個を求む」「個を伸ばす」「個を活かす」と整理しました。

多様な個を軸とする人事戦略

「個を求む」では、グループ横断で採用活動を強化し、より幅広い人材にアプローチすることが可能となり、「Purpose」に共感する挑戦心と成長意欲に満ちた人材の獲得につながっています。

「個を伸ばす」では、社員が自発的に学び刺激し合う関係や機会をつくることで、事業の枠を超えた多様なキャリアに挑戦できる仕組みを強化しています。

次世代経営チームの育成に向けては、経営キーポジションの特定とタレントプールの構築を行い、各タレントの経験・バックグラウンドを踏まえ成長の機会を提供しています。また、グローバルで基幹人材の成長を支援するソニーユニバーシティを通じて、各事業と連携し、タレントの発掘やプログラムの充実を図っています。

「個を活かす」では、あらゆる人事施策の効果は最終的にすべてエンゲージメントに反映されるとの考えから、社員への意識調査によりエンゲージメント指標を設定しており、近年ではどの事業も高水準かつ上昇傾向にあります。

またエンゲージメント等の評価結果は、各事業責任者を含むソニーグループ役員の評価指標の一部として反映されています。

「個を求む・個を伸ばす・個を活かす」人材戦略と人事制度

ソニーでは、多様性こそが競争力であるとの考えから、さまざまな制度を設計しています。

多様な社員の価値創造・成長を支援する選択肢の提供

なかでも「自分のキャリアは自分で築く」を支えるソニーの人事施策として、次のような制度があります。

  • 上長の事前承認なく社内求人に応募し異動できる「社内募集制度」
  • 現在の業務を継続しながら別部署での仕事やプロジェクトに参画する兼業型「キャリアプラス制度」
  • ハイパフォーマーが会社からFA権を付与され、挑戦したい部署とのマッチングを図れる「FA制度」
  • 自分のキャリア情報を社内データベースに登録してマッチングを図る「キャリアリンク制度」
2015年 新たに導入した施策

多様な「個」を強みに変えるためには、会社と社員が選び合い、支え合う関係でなくてはいけません。上の各制度には、企業文化に加えて、相互が「選択できること」が大事だという考えがあります。

社内募集制度が導入されたのは1966年でした。その際の社内報では「自らの努力でチャンスをつかむ」というメッセージを井深が発信しています。

(社内募集制度は)向上心と意欲に支えられた能力を持った人に対して、会社が常にチャンスを提供しよう、しかもチャンスはできるだけ平等に提供しよう、というものです(井深大)

成長へかじを切るタイミングで社員のチャレンジマインドを尊重しなければソニーの未来はないという考えから、その後もFA制度などが導入され、適材適所が図られてきました。

創業者の思いが受け継がれていることもあり、過去6年間(2015年~2020年)の異動実績は、社内募集で1,075人、FAで120人、キャリアリンクで86人、キャリアプラスで171人になりました。

社内兼業制度であるキャリアプラスでは社員の隠れた能力の発掘につながったり、FA制度では一人の実績豊富な社員に対して20件のオファーが来たり、さまざまなケースが見られます。マネージャー層に対しては、「社員に細かな成長機会をもたらさなければ退職してしまう可能性があるというリテンション施策になっています。

これらの制度は、定着しており、制度利用時と利用後を比べると、利用後のエンゲージメントが大きく上昇することも分かりました。

制度利用後のエンゲージメントの向上

多様な「個」を支える・強みに変える人事施策としてはほかにも、以下の制度を導入しました。

  • シニア層のライフ&キャリア形成支援を行う「Career Canvas」
  • キャリアの多様性と両立支援制度「Symphony Plan(シンフォニー・プラン)」

シンフォニー・プランでは、多様なバックグラウンドを持つ社員がどのようなライフステージにおいてもキャリアが途切れない環境を整えようと、不妊治療やがん治療、介護などと仕事の両立が図れる制度を設計しています。これらの両立は社会全体の課題であり、ソニーがチャレンジを進めることで、社会価値の創出につなげたいと考えています。

また、社員のアイデア実現の場として、2014年より社内スタートアップの創出支援「Sony Startup Acceleration Program」をスタートさせ、2019年からは、社外の方に対しても、新規事業創出サービスを提供しています。

社員が集って互いに刺激を受けて成長する場としてつくられた「PORT」(品川、みなとみらい)では、オンラインのコミュニティー活動などが随時開催され、社員がリードする持続的な学びの場となっています。

社員のアイデアの実現

あらゆる人事施策の効果については、春のミニサーベイ、秋のフルサーベイによってスコア化され、マネージャー層へ改善点がリポートされる仕組みも導入しています。調査をきっかけに、定期的に取り組み状況を振り返ることができ、チームとの継続的な対話を通じて改善活動を行うことで、社員エンゲージメントを高め、よりよいソニーをつくることにつながっていきます。

Be Heard(社員エンゲージメントとサーベイ)

以上、「多様な『個』を支える・強みに変える人事施策」についてご紹介させていただきました。

多様な個の成長=グループ全体の成長

これからも、ソニーグループが一層成長していくため、多様な人材がクリエイティビティを最大限に発揮できる環境、企業文化をどう進化させていくのか、引き続き、取り組んでいきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

モデレーターとのトークセッション

楠田 祐氏(以下、楠田):ソニーには、「自由闊達」なカルチャーや、「自分のキャリアは自分で築く」マインドが創業以来、連綿と続いている。そうした印象を持ってきましたが、本当に大切に守り続けていらっしゃるのだなとよく分かりました。

また、人事制度にはブームがありますが、それにもあまり乗らず、「いかに自分たちの事業とカルチャーで立ち続けるか」を考えていらっしゃると、外から感じています。

山本 洋史氏(以下、山本):ありがとうございます。やはり創業者の思いが強いんですよね。ソニーグループ株式会社会長兼社長CEOの吉田憲一郎も、入社式で「皆さんにチャレンジの機会を提供することは経営の責任である」と伝えています。

楠田:いいですね。カルチャーが浸透しているなかで、実際はどうなのだろうと気になったのが、社内募集制度でした。同じような制度で、「部下を他部署に取られた」と社内でハレーションが起きている会社も少なくないと思うのですが、ソニーではいかがでしょうか。

山本:どこにでも起こる問題ですよね。

自分の部下が社内公募で異動していくと、誰もが複雑な思いを抱きます。いろいろな声が人事のもとに届きますし、ネガティブなものもありました。

ただ、マネージャー層から制度自体を否定する声が出たことはないのです。

楠田:なるほど、それは興味深いですね。

自分自身も異動によってチャンスを広げてきたという方が多いからなのでしょうか。

山本:そうですね。新しい事業を始めた経験などから、社内メンバーを集めるときには、「意欲と情熱のある人材が鍵になる」ということが共通理解としてあります。

1966年と早い段階で、トップ主導で取り入れて実施してきたという歴史があるからこそだと思います。

楠田:今後ソニーはコングロマリットで事業展開をされていくと思いますが、「Purpose」の浸透が難しいという課題はあるのでしょうか。

山本:上層部のアサインが重要になると考えています。「Purpose」の実現に向けて動ける経営者をアサインし、各事業の連携を担保していくことが大切ですね。

楠田:変化が大きくなる社会のなかで、カルチャーの浸透には人事の役割がますます大事になっていきますね。

Q&A

セミナー終盤には、視聴者の皆様から多くのご質問をいただきました。抜粋してお答えします。

Q
【「Purpose」について】
策定までの流れ、社員の巻き込み方、根付かせていくうえで日常的に実施されていることを教えてください。
A

事業ポートフォリオが変化していくなかで議論がスタートしました。グローバルでいろいろな意見を吸い上げたうえで、経営陣で決定し、トップから直接「Purpose」に込められたメッセージを伝えていきました。伝える際は、タウンホールミーティングを積極的に活用しました。

また、当事者意識を持ってもらうために、社内施策としてマイパーパスを考えて発表してもらう社内施策を行いました。

Q
【人材配置に関する価値観】
「個を求む」「個を伸ばす」とのお話がありました。「個」を重視した採用から、配置の際重視していること、大切にしている価値観はありますか? 採用と配置のギャップ、難しいと感じる点などがあれば伺いたいです。
A

採用と配置のギャップという点では、職種別採用を徹底することで、業務に対するミスマッチは少ないのでは、と感じています。一方、個人が持っているポテンシャルは見えづらいので、そこは入社後に時間をかけて見ていくしかないと思います。

Q
【社員の評価】
兼務やPJ型募集に参加している社員の評価やグレードはどのように扱われるのでしょうか?
A

評価は主務の管理職が行います。その際、兼務の仕事も考慮して総合的な評価をしています。兼務についても評価に取り込んでいるのは、もっと多くの社員に、新しいチャレンジの足掛かりにしていってほしいと考えているからです。

Q
【社員のキャリア形成】
ミドルシニアのキャリア自律がうたわれる一方で、今後を見据えると若年層のキャリア自律も重要であると考えています。若年層向けにキャリア形成の観点から何か取り組まれていることはありますか?
A

若年層だけを対象に行っていることはありません。ただ、若年層の思いに応えることはとても大事で、マネージャー層には若年層のキャリア観、気持ちをしっかり理解したうえで向き合ってほしいと考えています。また今後、その理解を促すための取り組みに力を入れていきたいと考えています。

Q
【社員エンゲージメント】
フルサーベイとミニサーベイの差を具体的に教えていただきたいです。
また、その結果をどのように活用していますか?
A

フルサーベイは秋に実施。ミニサーベイは春に、パルスサーベイのようなイメージで、エンゲージメントに直接関連する質問のみ行っています。

調査結果の差は、役員報酬の一部に入れており、改善できたかどうかで役員報酬の一部に反映させています。また、マネージャー層にはリポートを出しており、部下から見た自身のリーダーシップ、見習いたい点・改善点を伝えることで、行動変容のヒントになるように活用しています。

Q
【人事部門体制】
人事部門はどういった体制(人数・役割分担)で活動されているのでしょうか?
A

現在、ソニーグループ株式会社と各事業会社間で、人事の体制の見直しを進めており、事業計画に向けて議論中です。

現状の人事課題は事業個社ごとに違いますが、一つの例としては、事業構造の変化により、コアの事業を支えている人材とは異なる人材が必要になってきており、そのギャップをどう埋めていくのかが大きなチャレンジだと認識しています。

Q
【人材を見抜くノウハウ】
ソニーは学歴不問採用を表明されているそうですが、特徴ある人材を見抜くノウハウをどのように蓄積されてきたのでしょうか?
A

失敗もたくさんしているのですが、自分の思いをしっかり持っていらっしゃる方は活躍する可能性が高いのではないかと思っています。

リーダーシップ人材は何かを成し遂げたい「思い」を持っています。そのような方々をどう生かすか、どうサポートするかが人事の役割だと思っています。

セミナーの最後にお二人からメッセージをいただきました。

楠田 祐 氏
楠田 祐 氏

社員が活躍するにはどうしたらいいのかを真剣に考えるのが人事の仕事です。

人事は、トップと真剣に向き合うことが不可欠です。プロフェッショナルとしての人事が求められる今、プロフェッショナルとは何か、これからも皆さんと議論していきたいと思っています。

山本 洋史 氏
山本 洋史 氏

本日は貴重な登壇機会をいただきありがとうございました。

ソニーが取り組む事業はこれからも変化していくと思いますが、あらゆる事業の軸は人にある、人の心を動かすことがソニーの「Purpose」だとすると、われわれはソニーの人事として、社員の心を動かせるよう、しっかりと進化していきたいと思います。

今回のような機会を通じて、皆さんのお話も伺い、切磋琢磨させていただければと思います。

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。