2021年12月16日、株式会社ビズリーチは「Amazonに学ぶ、人材紹介会社だけに頼らない採用実践法」と題したWebセミナーを開催しました。
アマゾンジャパン合同会社人事統括本部人事部部長の篠塚寛訓様にご登壇いただき、採用における母集団形成について具体的なメソッドを含めお話しいただきました。

登壇者プロフィール篠塚 寛訓氏
アマゾンジャパン合同会社 人事統括本部 人事部 部長(Corporate HRBP)
その後、株式会社日経HRを経て、2012年にアマゾンジャパン合同会社に入社。プログラムマネージャーを経験した後、2015年から2021年までコーポレート部門の採用統括責任者として従事。現在はコーポレート部門のHRBPとして人事業務全般を担当。
人材採用マーケットの現状と課題
近年の日本では、労働力人口が減少に転じ下記のように売り手市場が続いています。
- 2021年9月の有効求人倍率は1.16倍(厚生労働省)
- 2021年9月の完全失業率は2.8%(総務省)
企業の採用ニーズは常に変化しており、「専門分野に特化した人材」と「多くの人材の確保」という採用の2つの課題があると捉えています。
また、終身雇用の縮小により、新卒採用から専門職(中途)採用の強化にシフトしており、どのような企業でも、いかにうまく人材を採用していくかが課題になっていくといえるでしょう。
多彩な人材採用を行うAmazonの採用指針とは

Amazonは、1995年7月に営業開始後、今では21カ国に展開。売り上げは3,860億ドルにのぼり、社員数は146万人以上と、急成長を遂げています。
Amazonの採用指針においては、「どうすればリクルーティングではなくタレントアクイジションができるか」を大切にしています。その方がこれまで何をやってきたかというポジションをベースにした経験ではなく、「その人が持っているコンピテンシーを問い続けながら採用しなさい」というのが、Amazonの採用方針です。
例えば、アパレル業界でバイヤー経験があるからOKではなくて、「このポジションで成功するためには『データをもとに戦略立案できる能力』が必要である。その力を持った人を見つけてほしい」といったイメージです。

リクルーティングではなく、タレントアクイジションに近づけるためには、必要なタレントの整理をすることが大切であり、その一つの視点が、最大公約数の確認です。
Amazonでは、どんな職種であれデータ分析ができることが重要条件です。また、Amazonで働くための必要なコンピテンシーとして「16項目のリーダーシップ・プリンシプル」があり、それらに合う人材を整理する必要があります。
その人材によって「自社で採用するべき」か「人材紹介会社に依頼するべき」かを考えています。
では、人材紹介会社の利用を検討するべき条件とは何か。Amazonでは次の要素だと捉えています。
■人材紹介会社の利用を検討するべき条件
- 汎用性の低いタレントの採用
- 特殊な資格やスキルが必要な人材の採用
- 募集人数の少ない勤務地での採用
- ヘッドハンターを好むタレントの採用
例えば弁護士などの専門ポジションや、年間1名ほどしか採用しない地域・ポジションであれば、自社のリソース(リクルーター)を使わなくてもいいのではないかと考えています。
また、バックオフィス系の候補者には、「転職では必ずエージェントを介したい」という方もいるので、職種などの傾向を捉えながら手法を選択しています。
自社内での候補者獲得の手法
採用活動でもっとも大事なのは「どうやって候補者を獲得するのか」です。では、候補者をどうやって探してきて面接を受けてもらうのか。われわれは下記の3つのステップ・カテゴリーで考えていきます。
- ブランディング
- リクルーティングマーケティング
- ダイレクトソーシング
今回はあくまでも、「面接に進んでもらうためにはどうしたらいいか」に絞ってお話しします。会社によっては、認知が必要なのか、会社やビジネスに対する理解が必要なのかなど課題が異なるため、どこに課題があるのかによってリソースを配分する必要があります。
ブランディング
ブランディングは、今日、明日で変えられるものではありませんが、長期的な認知、興味につながるインパクトの大きいものです。一方で、企業のイメージが良くても働いている社員の現実とかけ離れていては意味がありません。コストと時間がかかり、効果測定が難しいという課題もあります。
Amazonは「ネット通販の会社」というイメージが強いため、働く場所としてのAmazonにどう関連づけるかが採用ブランディングにおいては重要です。
直近のAmazonでは「われわれと未来を一緒に作っていきましょう」という採用メッセージを打ち出しています。

リクルーティングマーケティング
リクルーティングマーケティングは、部署ごとやエンジニアなどの特定職種ごとに候補者を集めることができ、効果測定がしやすいという利点があります。目的を持ってピンポイントにメッセージを打ち出していけるので、認知、理解、興味、応募などすべてのフェーズで使える施策です。
ただ、ジョブレベルの高い役職者や、対象が少ない専門職採用においては効果的ではないケースもあります。こういったポジションは採用イベントなどで見つけることは難しく、そもそも候補者の母集団が作れないからです。
また、個別のメッセージとブランドメッセージに相違があると信頼を失うことになるため、情報の整合性を意識しなければいけません。
Amazonでは職種別の採用イベントとして「Amazon Tech Night(テックナイト)」を定期開催しています。ソフトウエアのエンジニア採用が難しいなか、Amazonのエンジニアと他社のエンジニアが出会う機会を作っているのです。
ダイレクトソーシング
ダイレクトソーシングは、Amazonの採用において、この6年間でもっとも力を入れてきた施策です。人材紹介会社が行っていることがダイレクトソーシングであり、その仕組みを内製化して「Amazon専用の人材紹介会社」を社内で作れないかと考えてきました。
ダイレクトソーシングには次のような有効性があります。
- 求人要項に合った人材を探せる
- 転職潜在層へもアプローチできる
- 候補者との関係性を強化できる
- 理解や関心を高め、応募を促進できる
ただ、リクルーターの育成はそう簡単ではないという課題があります。データベースをサーチしてメールを送り返信に対応する…というのは地道な仕事であり、この仕事に人事部のエースプレーヤーを入れる決断はなかなかしにくいでしょう。ですが、Amazonではこの仕事こそがダイレクトソーシングの肝だと思っています。
なぜならば、転職潜在層の方にスカウトを送ることは非常に難しい仕事なので、エースプレーヤーこそがやるべき役割だと認識しています。Amazonでは、ダイレクトソーシング専任のチームを作ってエース人材に入ってもらうことで、安定的なダイレクトソーシングができるようになりました。
また、企業によっては「候補者情報の共有を嫌がるリクルーターが出てくる」という問題もあります。そこで取り組んだのが、チーム内での完全分業化です。「候補者を担当するダイレクトソーシング側のリクルーター」と「採用部門を担当するビジネス側のリクルーター」を作り、入社に至るには2人を介さないといけないという、大手の人材紹介会社が行っているような仕組みを取り入れました。
またダイレクトソーシングのツールには、下記のようなサービスがあり、ジョブレベルに応じて使い分けをしています。
- 大手転職サイト
- 「ビズリーチ」
- 「LinkedIn」
- 自社候補者データベース
「LinkedIn」は転職潜在層が多い傾向があるので、自社にあった方がいても、どう口説いていくかが課題です。またAmazonでは、過去に応募していただいた候補者のデータベースが充実しつつあり、再アプローチなども含め活用しています。
まとめ

今回のテーマである「人材紹介会社だけに頼らない採用実践法」を考えるにあたっては、人材紹介会社に依頼する案件の整理が大切だとお話ししました。
自社ではどのような人材が必要なのか、職種ごとの課題と特性を整理し、それぞれどのような手法であれば採用できるのかを都度見直していく必要があります。
そして、施策ごとに中長期的な戦略と短期的な作戦を考えることも重要です。例えばAmazon Tech Nightは、長い目でAmazonを知ってもらい、将来働くならここもいいかも…と思ってもらえるような情報発信の機会だと捉えています。
最後に、もっとも重要なのは効果測定を徹底的にすることです。何曜日の何時なら返信が多いのか、どの媒体だとどういった候補者が多いのかなど、細かく見ていく姿勢が大切です。
質疑応答
セミナー後半には、視聴者から多くの質問が寄せられました。以下抜粋してお答えしています。
要件定義を人事部側だけで行うのは無理なので、部門がまず横断で取り組んでくださいとお願いしています。
ただ、部門から上がってくる要件は表面的な内容も多いので、リクルーターがコンサルタントとして入り「実際に、このポジションにはどのような能力・スキルが必要ですか」と掘り下げていきます。どんな能力をカバーしてほしいのか部門でジョブディスクリプションを書いてもらうこともあります。
部門からの要望が、存在しないような人材を求める「ユニコーンハンティング」であるケースも少なくありません。ただ、「こんな人いませんよ」というと現場には言い訳に聞こえるので、われわれはデータで、このプロファイルの人がどれだけいるのか、数字などファクトを出して会話していきます。
候補者を「転職を検討している人」と「今はまだ転職を検討していない人」の2パターンに分けて考えています。
前者では、その場やイベントの後で話すときに、ポジションを具体的に伝えることもあります。
ただ、大半は中長期的に転職を検討している方なので、定期的にメールマガジンをお送りしたり、ほかのイベントに参加していただいたりして、接点を持つようにしています。入社者から「転職したいというタイミングで、Amazonから声がかかったから受けてみた」と言われるケースも多く、地道にご連絡するなどタイミングを合わせる努力をしています。
「SPI」は以前、新卒採用で使っていましたが、現在は自社製のオリジナルテストを使っています。エンジニア向けと非エンジニア向けの大きく2つで、ジョブレベルごとに内容を分けています。
テストを実施するときに気にしているのは、「テストだけで不採用になり面接に進めない」という体験はよくないのではという点。ここは今も議論しています。
外部の会社にモニタリングをお願いしており、ABテストをしたり、日本におけるAmazonのイメージとわれわれが本来あるべき姿を比べたり、「マーケットにおけるAmazonのパーセプション(認知)を変えられたのか」を検証しています。
採用人気ランキングなどもありますが、ランキングが上位だから採用したい人材が入社してくれるとは限りません。われわれがターゲットとする人材にどういう受け止められ方をしたのかをリサーチして、状況把握に努めています。
自社に来てほしい人材が利用するような媒体で小さな広告を出して、認知度を上げる施策などはいかがでしょう。
知り合いの企業では、地域に特化したバス広告で認知を上げたケースもありました。
「すでに一度興味を持ってもらっている」点が一番のメリットだと思います。
ダイレクトソーシングでは、候補者の連絡先を知ることが一番大変なことです。せっかくデータベースに連絡先があるなら、そこからはうまく興味を持ってもらえるようアプローチをしていく作業がポイントです。
各部門から必要なポジションニーズが出てきた際にデータベース検索をかけてスカウトを送ります。
普段からDMを送って興味を持ち続けてもらうよう、こまめな情報発信が大切です。
「ビズリーチ」に限らず、データベースを持っているサービスには特性があります。自分たちが求める人材がどのデータベースにいるかを整理することと、自社の良さやアピールポイントをきちんと言語化することが大切です。
「スカウトをいただいたけれど、今は転職を考えていない」とお返事いただくことはよくあります。そこで、「では、なぜ今ではないのでしょうか?」と会話をすることが大事だと思います。
そこから候補者の方とキャッチボールをすることで、何らかのヒントが出てきたり、転職を考えていただけたりすることもあります。「この人になら、こんな情報を提供すれば動いてくれるかもしれない」など、相手に応じたメッセージを伝えていくのです。
「お客様の課題を聞いて、自社のサービスで課題を解決できる部分を話す」のは、営業という仕事と似ている部分かもしれません。
最後に、視聴者の皆様へのメッセージをいただきました。

約16年、採用という仕事に携わってきましたが、雇用の流動化が進み、もっと適材適所の雇用が広がることで、みんなが幸せに働ける社会になったらいいなと願いながら仕事をしています。
本日のお話が、同じような思いを持つ皆様にとって、少しでもプラスになればいいと思っています。本日はありがとうございました。
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