2021年5月20日、株式会社ビズリーチは「Amazonに学ぶ、活躍する人材を見極める選考プロセス」と題したWebセミナーを開催しました。
アマゾンジャパン合同会社人事統括本部人事部部長(タレントアクイジション)の篠塚寛訓様にご登壇いただき、入社後の活躍を見据えた採用の進め方を、具体的なメソッドを含めお話しいただきました。モデレーターは、株式会社ビズリーチ代表取締役社長の多田洋祐が務めました。

登壇者プロフィール篠塚 寛訓氏
アマゾンジャパン合同会社 人事統括本部 人事部 部長(タレントアクイジション)

モデレータープロフィール多田 洋祐氏
株式会社ビズリーチ 代表取締役社長
※株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 多田 洋祐は、2022年7月2日に逝去し、同日をもって代表取締役社長を退任いたしました。生前のご厚誼に深く感謝いたしますとともに、謹んでお知らせいたします。
Amazonの概要
1995年の営業開始から25年で、Amazonは、従業員数129万8,000人、売り上げ3,861億ドルの巨大企業に成長しています(2020年12月時点)。私自身がアマゾンジャパンに入社した2012年は、世界全体の従業員数は約5万人でしたので、その拡大スピードの速さに驚かされます。
採用を進めるにあたり、Amazonでは「入社後に活躍し、ハッピーに働けるか」「仕事を通じてキャリアアップしていけるか」を何よりも重視してきました。
Amazonは「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」をビジョンに掲げ、お客様からスタートし、常にお客様の立場で考えることを行動指針として大切にしています。採用する人材においても、このビジョンに共感していただけるかが、まずは見るべきポイントになります。
そして、お客様満足度を高める3つの柱に、「価値」「利便性」「品揃え」を置き、あらゆるビジネスの基軸としています。お買い求めいただきやすい価格で、便利に、豊富な品揃えでお客様にご提供できるかを常に考えることで、Amazonのイノベーションは生まれてきました。
Amazonのカルチャーを支える、リーダーシップ・プリンシプル
では、イノベーションを生む人材はどういう人なのか。Amazonの成長の源にあるのが、「リーダーシップ・プリンシプル(Our Leadership Principles)」です。
Amazonで活躍する人、イノベーションを生み出す人の採用において、リーダーシップ・プリンシプルに沿って仕事ができるかどうかは、重要な指針となります。
選考フローで、リーダーシップ・プリンシプルを体現できる人かを見極め、入社後の評価、将来的なキャリア形成にもリーダーシップ・プリンシプルがかかわってきます。メンバー育成においても、理念をどれだけ強められるかという観点で、マネジメントプランを考えているのです。
リーダーシップ・プリンシプルは、次の14項目で構成されています。
【Our Leadership Principles】
- Customer Obsession:カスタマーへのこだわり
- Ownership:オーナーシップ
- Invent and Simplify:新たな方法を模索し、簡略化を図る
- Are Right, A Lot:適切なリスクをとり、正しく判断する
- Hire and Develop the Best:最良の人材を採用・育成する
- Insist on the Highest Standards:最高水準の追求
- Think Big:広い視野で構想する
- Bias for Action:行動へのこだわり
- Frugality:倹約
- Learn and Be Curious:学び、好奇心を持つ
- Earn Trust of Others:周囲の信頼を確立する
- Dive Deep:とことん深く掘り下げる
- Have Backbone; Disagree and Commit:意見を異にできる気骨があり、しかし決めたらコミットする
- Deliver Results:確実な成果を上げる
「Customer Obsession」は、Amazonが最も大切にしている考え方の一つです。「お客様を起点に考える」ことが、あらゆる判断において優先されます。
Amazonらしい理念である「Disagree and Commit」は、「決まったことに対しては、それが自分の意見と異なるものであっても100%コミットしよう」という考え方です。Amazonでは、意見を言うことが非常に重視されます。周りの考えと違っていても自分の意見はきちんとぶつけ、それが新しい議論を生み、イノベーションにつながると考えられているのです。
採用プロセスと採用手法
次に、Amazonの具体的な採用プロセスについてご紹介したいと思います。

書類選考後は、ポジションによってはオンラインアセスメント(テスト)を実施します。エンジニア職ではベーシックスキルや仕事のクオリティーを見るうえで活用します。
その後、配属部署の直属の上司となるハイヤリングマネージャーが1次面接を担当します。リーダーシップ・プリンシプルのなかから、募集ポジションごとに大事だと思う2項目を重点的に見たうえで、必要なハードスキルや知識、経験の有無を確認します。また、一定以上の職位候補の方には、レポート作成能力、英語力を見るライティングエクササイズがあります。
ここまで終えたら、次は複数の面接官による「フルループ面接」になります。これこそが、Amazon独自の取り組みとして力を入れているものです。
フルループ面接では、4~8名の面接官と、1対1の面接を各45分ほど行います(候補者は、のべ3~4時間面接することになります)。すべてが終わったあとは、全面接官が一堂に会して「Hiring Debrief Meeting(合否ミーティング)」が開かれ、30分かけて合否を決定します。
合否を決める基準は「リーダーシップ・プリンシプルに沿って仕事をしていただけるかどうか」です。フルループ面接では、各面接官に2~3項目のリーダーシップ・プリンシプルを見てもらい、4~8名全員で14項目を網羅できるようアサインします。面接官は、自分が担当したリーダーシップ・プリンシプルの項目に基づき、候補者の良かった点、足りない点をレポートにまとめ、それを持ち寄ってHiring Debrief Meetingが行われます。
面接で採用手法として取り入れているのは、「Behavioral Interviewing & STAR」です。
これは、候補者の行動特性(強みや弱み)を、過去の具体的なパフォーマンスから読み解くというものです。候補者が自認する強みではなく、過去の「事実」を掘り下げることで、未来のパフォーマンスを予測します。また、過去の行動を振り返るうえでは、STARのフレームワークで情報を整理していきます。
【STARのフレームワーク】
- Situation:状況を5W1H(いつ、どこで、誰と、何を、どうしたか、なぜ?)で深掘りする
- Task:候補者の役割や位置づけを確認する
- Actions:「私」と「私たち」を分け、実務能力等を確認する
- Results:候補者が行ったことの個人と組織への影響、最終結果を確認する
面接での質問は、業務上の具体的なシーンを下記のように細かく掘り下げていきます。
【質問例】
- 難しい顧客対応の場面で、どのように解決したか教えてください。
- プロセスを簡略化し、改善させた事例を教えてください。
- これまで最も誇りに思える成果をあげた事例を教えてください。
- 下された判断に対して、お客様のためにならないと思って反対した事例を教えてください。
例えば、「社内で反対意見をぶつけた経験があれば教えてください」と質問するとき、面接では詳細がわかるまで「なぜ?」を繰り返します。
それはいつ、どんな内容について「異を唱えた」のか。どうしてそう考えたのか。そのシーンにおいて自身はどんな役割(位置づけ)だったのか。一人だったのか、チームで動いたのか。そのアクションを起こしたことで、個人やチーム、組織にどんな影響があったのか…。
このように、過去の行動を見ることが、候補者を理解するうえで何よりも大事だと考えています。
専門知識や経験などの「ハードスキル」と、リーダーシップ・プリンシプルにつながる「ソフトスキル」でAmazonの環境下で活躍できるかを確認し、ハードスキル・ソフトスキルを合わせてどのような結果が出るのかを見ています。
FeedbackとHiring Debrief Meeting
フルループ面接後に重要なのは、FeedbackとHiring Debrief Meetingです。Feedbackとは、ここでは面接担当者が作成する面接レポートのことです。
ビジネスドキュメントに似た形で、この人を採用すべきか・すべきではないかを、ハードスキル、ソフトスキル両面で、良さや足りないところの根拠となる事例やデータを入れて記します。
例えば、「この候補者は**の力が足りないと思います。面接のなかで〇〇について掘り下げ、△△と質問を重ねましたが、答えが出てきませんでした」など、意見と理由を文章化し、リーダーシップ・プリンシプルに照らし合わせた評価も書きます。
このレポートをもとに行うのが、全面接官が集まるHiring Debrief Meetingです。フルループ面接がユニークなのは、4~8人の面接官のなかに「バーレーザー(Bar Raiser)」という役割が必ず1人入っていることです。
バーレーザーとは、「Amazonの採用のバーを上げる人」のことです。
Amazonの採用にふさわしいかを判断するために、特別なトレーニングを受けたバーレーザーの中から候補者の配属ポジションと利害関係のない社内の第三者が、バーレーザーに選出されます。
Amazonの選考基準では、リーダーシップ・プリンシプルに沿って仕事をしていただける人であることが欠かせません。しかし、配属部門のメンバーが面接官になると、「理念の部分では弱いけれど、圧倒的に実績があり、すぐに売り上げを上げるだろう」と、つい短期的な利点にフォーカスしてしまい、理念フィットから目を背けて採用してしまうことが起こり得ます。
Amazonの採用基準であるリーダーシップ・プリンシプルへの共感がぶれないようにするためには、客観的な判断ができるバーレーザーの存在が重要なのです。
Hiring Debrief Meetingでは意見が割れることがほとんどですが、最終的な採用判断はハイヤリングマネージャーとバーレーザーの合意のうえで決められます。判断基準は、リーダーシップ・プリンシプルと、既存の社員の中央値より優秀であるか。2人がともにOKを出さなければ不採用になります。
成長スピードの速い会社なので、今あるものに満足しないマインドもまた重要です。3年後、5年後のAmazonでも候補者自身が変化し続け活躍できるか。バーレーザーは中長期的な視野で判断しなければいけません。
さらに、採用に不慣れな面接官のサポートをはじめ面接官の質向上も担っており、Amazonの採用において、バーレーザーの役割はとても重要です。

一連の採用プロセスにおいて、Amazonが大切にしているのは「候補者の満足度」です。
残念ながら不採用になった方にも、「Amazonを受けて学びがあった」「面接を通じて気づきがあった」と思っていただきたい。また違う時期に、あるいは違うポジションで、「また挑戦しよう」と思ってもらえたら……。そんな中長期的な視点を大切にしています。
質疑応答
本セミナーでは、視聴者の方から80以上もの質問が寄せられました。当日、リアルタイムでモデレーターの多田が抜粋したものを、篠塚様にお答えいただきました。
Q1. 「リーダーシップ・プリンシプルに沿って行動できるか」を見極めるには面接時間がかなり必要でしょうか?
A. 1回ごとの面接時間は、1対1で45分です。1面接で2~3つのリーダーシップ・プリンシプルを見るので、一つのリーダーシップ・プリンシプルに約15分かけて掘り下げています。候補者にとっては、45分の面接を4~8回受けることになるので、とてもパワーを要します。シアトルのAmazon本社では1日で全面接を行うことが多いですが、アマゾンジャパンでは2~3日に分けることが多く、今はすべてオンラインで行っています。
Q2. リーダーシップ・プリンシプル14項目の数に意図はありますか。これまで、項目内容の変更を重ねてきたのでしょうか?
A. 数に意図はなく、2005年にリーダーシップ・プリンシプルが誕生したときは、4項目でした。もともとは、エンジニア採用向けに作られ、そこから、ほかの職種にもどう応用できるかという視点で改定されてきました。
Q3. フルループ面接の面接官の選定基準を教えてください。面接する人数はどのように決めるのでしょうか?
A. 人数はジョブレベル(職務等級)によって変わり、上のポジションほど人数が多くなります。面接官は、採用対象のポジションと同じか、それ以上の階級になり、職種や性別が偏らないようバランスよくアサインしています。その面接官の中に、採用ポジションと利害関係のないバーレーザーが1人入ります。
Q4. 質問を掘り下げるコツを教えてください。
A. 「なぜそうしたのか?」を繰り返し聞きます。「結果的にうまくいったこと」にはあまりフォーカスせず、行動に至ったプロセス、どう考え抜いたのかを深掘りします。行動した結果として失敗したとしても、ロジックを立てて動いたのなら、そこに未来のパフォーマンスのヒントがあると考えます。
Q5. Hiring Debrief Meetingは、意見が割れて決まらないこともあるのでしょうか? きっちり30分で決まるのでしょうか?
A. 30分と決めます。もし時間内に決まらなかったら、決め手に欠けた=ご縁がなかったということで不採用にしています。意見がぶつかることは多いものの、同じカルチャーの環境下で仕事をしているメンバーなので、最終的な結論に納得感はあります。リーダーシップ・プリンシプルが判断軸の中心にあるのも、合意に至る大きな理由だと思います。
Q6. 採用プロセスや採用手法が非常に具体的に設計されていますが、それでもミスマッチは起こるのでしょうか?
A. それはあります。ただ、そのミスマッチの原因をきちんと言語化することが大事だと思います。入社後すぐ辞めてしまうケースは特に、会社にとっても本人にとっても不幸です。どうして辞める決断をしたのかをインタビューし、そのインプットを次の採用に生かします。データベースで候補者をサーチする際の、何を掘り下げて確認するべきか、チェックポイントの精度を上げるヒントにもなっています。
Q7. 候補者からの個別相談にはどう対応していますか? また、採用が決まったあとのオファー面談はどのように進めていますか?
A. 担当リクルーターが年収や勤務開始日などの条件・待遇面の相談に対応します。オファー面談では、ハイヤリングマネージャーが候補者の感じている疑問点や不安に感じている点をクリアにできるよう、仕事や職場環境、求められる成果などを改めてお話しし、最終的な内定受諾に向けてサポートします。
Q8. 合否を決める際の定量的な基準はありますか?
A. 数値的なものはありません。既存社員の中央値より上にいる人を採用するという点も、バーレーザーを含む面接官の主観になります。
Q9. 日本オフィスならではの採用プロセス、採用手法はありますか?
A. 日本独自のものはなく、グローバルで採用方法が統一されています。
Q10. 接回数の妥当な数の分析もしていますか?
A. 面接回数はジョブレベルごとに異なり、リサーチしたうえで決めています。数年に一度は、採用結果、入社後の活躍などの情報から、採用プロセスも見直しています。
Q11. 面接官のトレーニングに、マニュアルはありますか?
A. 初めて面接を担当する社員には、トレーニングを必ず受けてもらいます。初回面接は、シャドーイングで先輩面接官の様子を見て、次はほかの面接官に同席してもらうなど、段階を追って独り立ちを目指します。
Q12. 面接官になる方は、面接に多くの時間がとられるのでは? 月間での対応時間などは定められているのでしょうか?
A. 時間制限などは特にありません。リーダーシップ・プリンシプルに「Hire and Develop the Best 最良の人材を採用・育成する」という項目があり、採用はすべての社員がやるべきだ、という考えが浸透しています。忙しいから面接に入れないといった意見は、Amazonのカルチャーでは、ほとんど出てきません。
セミナー終盤まで多くの質問が寄せられ、すべての質問に答えることが難しいほど盛り上がりを見せた本セミナー。最後に篠塚様よりメッセージをいただきました。
篠塚:最後までお付き合いいただきありがとうございました。Amazonをよりよい会社にしたいのはもちろん、正しい採用を広げることで日本での採用活動全体を盛り上げていきたいという思いを強く持っています。今後どこかでお会いした際は、また情報交換をしていきたいので、どうぞよろしくお願いいたします。
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