裁量労働制の全体像やメリット・デメリットを簡単にわかりやすく解説

裁量労働制の全体像やメリット・デメリットを簡単にわかりやすく解説

時間に縛られず、自由度の高い働き方ができる「裁量労働制」。働き方改革の一環や、時間管理が難しいテレワークへの対応として、導入を検討している企業もあるでしょう。この記事では、裁量労働制について、人事担当者が押さえておきたい事項をまとめて解説します。

裁量労働制とは

裁量労働制とは

裁量労働制の正式名称は「裁量労働のみなし時間制」で、「労働時間が労働者の裁量にゆだねられている労働契約」のこと。実際に働いた時間に関係なく、労働時間が長くても短くても「労使で事前に取り決めた労働時間分を働いたことにする」もので、「みなし労働時間制」のひとつです。

基本的に「時間外労働」という概念がなく、労働者保護の観点から適用可能な職種が限られています。1987年の労働基準法改正で導入され、当初はシステムエンジニアなどの専門職のみが適用対象でしたが、1998年には「企業の中枢部門において企画・立案・調査・分析の業務」を行う一部の労働者にも適用が可能になりました。

裁量労働制の労働時間

裁量労働制の労働時間

裁量労働制の労働時間は労働者個人の裁量に任されます。労使間の契約で、「みなし労働時間を1日8時間」とした場合、実際の労働時間が3時間でも10時間でも、契約した8時間が働いたことになります。出勤、退勤、始業、終業などのすべての労働時間を個人の裁量で決めることができます。

割増賃金が発生する場合

裁量労働制は実際に働いた時間に関係なく、時間外労働という概念がないので原則として残業代は発生しません。しかし以下の特例には注意が必要です。

  • 深夜労働をした場合(22時以降、翌朝5時までの時間帯)
  • 法定休日に労働した場合
  • みなし労働時間が8時間を超える場合

これらには手当が発生することが労働基準法で定められています。

深夜労働をした場合

22時以降、翌朝5時までの時間帯に労働させた場合、その時間分の割増賃金を支払うことが必要です。固定残業代(みなし残業)の定めがない場合、

  • 時間外深夜労働については基礎賃金×1.5

の残業代を支給します。

休日出勤した場合

裁量労働制でも一般の労働者と同様に休日を設ける必要があり、休日に労働した場合は休日手当を支払います。休日手当は実労働時間を基準にして算定します。固定残業代(みなし残業)の定めがない場合、

  • 法定外休日(=時間外に相当)については基礎賃金×1.25
  • 法的休日については基礎賃金×1.35

の手当を支給します。

みなし労働時間が8時間を超えている場合

労使間の契約で、みなし労働時間が1日8時間を超えるように設定した場合、8時間を超える分について時間外手当を支払うことが必要です。

  • 超える時間分は基礎賃金×1.25

の残業代を支給します。

裁量労働制は「働かせ放題」ではない

裁量労働制はみなし労働時間で給与を計算するため、「企業側は労働者の勤務時間を把握しなくてよい」「時間の制限なく働かせ放題」と思っている人もいるようですが、これは大きな誤解です。

裁量労働制であっても、原則として法定労働時間は守らなければいけません。また、前述したように休日出勤や深夜労働の手当を計算するには、時間外労働について企業側がきちんと把握しなければなりません。裁量労働制でも、企業側が労働者一人一人の労働時間を把握していないと労働基準法に違反するリスクがあるのです。

労働時間を把握する方法

企業側が労働時間の実態を把握する方法としては、「出勤簿やタイムカードで記録する」「勤怠管理システムを導入する」「休日出勤や深夜労働は事前承認制にする」などがあります。労働者側は「自分の裁量で、自由な時間で働けるはずなのに勤怠管理?」と煩わしく感じるかもしれませんが、自身を守るためにも必要なものだと理解してもらいましょう。

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裁量労働制の対象業務、対象職種

裁量労働制の対象業務、対象職種

裁量労働制はすべての企業や業種で導入できるというものではありません。「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2つがあり、対象になる業務が異なります。

(1)専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、その名の通り専門的な業務が対象です。適用できるのは下記の19業務に限定されています。下記は「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」とされ、労使協定を結ぶことで専門業務型裁量労働制の導入が許可されます。

  1. 新商品、新技術の研究開発または人文科学、自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システムの分析・設計の業務
  3. 記事の取材・編集または放送の業務
  4. デザインの考案の業務
  5. 放送番組、映画等のプロデューサー、ディレクターの業務
  6. いわゆるコピーライターの業務
  7. いわゆるシステムコンサルタントの業務
  8. いわゆるインテリアコーディネーターの業務
  9. ゲーム用ソフトウエアの創作の業務
  10. いわゆる証券アナリストの業務
  11. 金融商品の開発の業務
  12. 大学での教授研究の業務
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務

参考:厚労省「裁量労働制の概要」

(2)企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、下記の4つの事項すべてに該当する業務を行う労働者が対象になります。おおむね、経営ポジション、コンサルタント、新規事業開発担当、リサーチ業務担当などが該当すると考えられます。

  1. 事業の運営に関する事項(対象事業場の属する企業・対象事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす事項) についての業務であること
  2. 企画、立案、調査及び分析の業務(企画、立案、調査及び分析という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務であって、部署が所掌する業務ではなく、個々の労働者が担当する業務)であること
  3. 当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること
  4. 当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること

参考:東京労働局・労働基準監督署「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために

裁量労働制の導入には労使協定が必要

裁量労働制を導入する際、会社側が一方的に裁量労働制を導入することはできません。会社側と労働者側が労使協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが必要です。この協定で、みなし時間制の規定や、労働者の健康確保措置、苦情処理措置などを定めます。

また、みなし労働時間を法定労働時間の8時間を超えて設定する場合には、36協定の締結も必要になります。36協定では「一般労働者の残業時間は月45時間まで、年間360時間まで」と定められています。この上限を超えない働き方になるように留意しましょう。

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裁量労働制と他の制度との違い

裁量労働制と他の制度との違い

裁量労働制と類似した制度もあります。混同しないように気をつけましょう。

フレックスタイム制度

フレックスタイム制度は、一定期間内(上限1カ月)の所定労働時間があらかじめ定められ、労働者は各勤務日の労働時間を自分で決めて働く制度です。例えば、3月の所定労働時間が月160時間なら、1日5時間の日があっても、10時間の日があっても、トータルで160時間になればOKです。

フレックスタイム制度を導入している企業では、必ず勤務していなければいけない「コアタイム」を設けているケースも多く、その場合は「コアタイムに就業していれば、始業・終業の時刻は自分で決められる」ということになります。就業時刻が労働者側である程度自由に決められる点は、裁量労働制と同じですが、「みなし労働時間」の設定がないので、所定の総労働時間は働かなければならないという点が裁量労働制と異なります。

みなし残業制度(固定残業代制度)

みなし残業制度は、法律上は「みなし労働時間制」といい、実際の残業時間にかかわらず、契約した残業時間を働いたものとみなす制度です。残業代の支給方法に関わる制度であり、所定労働時間は働かなければならない点が裁量労働制と異なります。会社にとっては定めた時間内の残業ならば、面倒な残業代の計算をしなくて済むメリットがあり、労働者にとっては残業時間が少なくても、一定の残業代が受け取れるメリットがあります。実際の残業時間がみなし時間より多くなった場合には、超過した分の残業代が発生します。

事業場外みなし労働時間制

事業場外みなし労働時間制とは、会社以外で仕事をしていて、使用者の指揮監督が及ばず労働時間を算出することが困難な場合に、所定の時間労働したとみなす制度です。裁量労働制との違いとして、事業場外みなし労働時間制の対象業務は「(1)会社の外で働いている」「(2)会社が実際の労働時間について算定困難である」の2つを満たせばよく、外回りの多い営業や添乗員、在宅勤務などにも適用可能です。また、事業場外みなし労働時間制は時間外労働も割増賃金の支払い対象になります。

高度プロフェッショナル制度

一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たした、専門的かつ高度な職業能力を持つ労働者を、残業代などの割増賃金が発生する労働時間の規制対象外とする制度です。2019年4月から施行され、「ホワイトカラーエグゼンプション」とも呼ばれます。所定労働時間の定めがない点は裁量労働制と同じですが、高度プロフェッショナル制度は深夜・休日労働も割増賃金の支払いがありません。証券アナリスト、コンサルタント、研究開発職など19の業務に限定されています。

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裁量労働制のメリット・デメリット

裁量労働制のメリット・デメリット

裁量労働制を導入するメリット・デメリットについて、企業側・従業員側のそれぞれから見てみましょう。

企業のメリット・デメリット

企業側から見たメリット・デメリットを整理します。

メリット(1)人件費の予測が容易

休日出勤や深夜残業の割増賃金の支払い義務はありますが、原則として時間外労働による残業代が発生しません。人件費を予測しやすい点は、裁量労働制を導入する大きなメリットです。

メリット(2)労務管理負担の軽減

毎月、従業員一人一人の残業代を計算し、時間外労働に対する残業代を支給するのは手間のかかる作業です。裁量労働制を導入すれば、労務管理負担の大幅な軽減になります。

デメリット(1)導入手続きが負担

裁量労働制の導入には所定の手続きが必要です。労使委員会を設置し、決議の内容は所定の様式で労働基準監督署に提出することが義務付けられています。複雑な手続きを行わなければならないのは、大きな負担といえるでしょう。

デメリット(2)評価制度を変える必要性

働き方が変われば、人事評価の方法も変わるはずです。裁量労働制に合った、労働時間に左右されない評価方法を導入する必要があります。一般的には、それまでよりも成果を重視するように変更することが多いでしょう。

デメリット(3)一般の従業員とのアンバランス

裁量労働制の労働者には、基本的に時間的な拘束ができないので、社内会議の設定などが難しくなることも。裁量労働制と一般的な時間管理の従業員が混在している場合、双方に不満が出る可能性があります。

労働者のメリット・デメリット

労働者側から見たメリット・デメリットを整理します。

メリット(1)労働時間の短縮

自分の仕事の処理能力を高め、所定労働時間よりも短い時間で必要な成果をあげれば、勤務時間を短縮することが可能です。労働時間を短縮できて、定められた給与を得られるのは大きなメリットです。

メリット(2)自分のペースで働ける

原則として仕事のやり方が自分の裁量に任されるので、自分のペースで働けます。就業時間も自分で決められるので、満員電車を避ける時差通勤も可能です。自分で仕事を調整できれば平日に病気治療のための通院や、子どもの授業参観などに行くこともでき、ワークライフバランスを整えやすいでしょう。「自分の時間の使い方について、周囲の目や評価を気にする必要がない」という精神的な自由は、最大のメリットといえるかもしれません。

デメリット(1)長時間労働による過労

メリット(1)で挙げたように労働時間が短縮できればよいのですが、必ずしもそうとは限らないでしょう。もし、みなし労働時間よりも実労働時間が長い状況が常態化すれば、過労につながります。

デメリット(2)原則として残業代が出ない

原則として休日や深夜の手当以外の時間外労働による残業代は出ません。みなし労働時間以上に働いた場合、「損をしている」という感覚になる人もいるでしょう。

裁量労働制で働く人は労働時間が長くても満足度は高め

では、実際に裁量労働制で働いている人は、この制度をどう感じているのでしょうか。2014年の労働政策研究所による「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者結果」を見てみましょう。

裁量労働制が適用されている労働者で「満足」と「やや満足」と答えた人は、専門業務型で7割弱、企画業務型で8割弱。高めの数値になっています。

裁量労働制の適用を受けていることの満足度

一方、不満な点としては、「労働時間(在社時間)が長い」「業務量が過大」「給与が低い」が比較的高くなっています。

裁量労働制の適用に不満な点(複数回答)

「200時間以上250時間未満」「250時間以上」といった長い労働時間は「通常の労働時間制」に比べて、裁量労働制の「企画業務型」の方が割合が高く、「専門業務型」はさらに割合が高くなる傾向が見られます。

1カ月の実労働時間

出典:厚生労働省と労働政策研究所「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」

裁量労働制での求人の注意点

裁量労働制での求人の注意点

裁量労働制を導入した場合、求職者からは「多様な働き方を導入している」「自分のペースで仕事に打ち込める」とポジティブに受け止められる可能性がある一方、「定額働かせ放題のブラック企業かもしれない」と疑われる可能性もあります。運用時は労使協定を結ぶなどの法令を遵守することはもちろん、求職者に対しては「具体的な仕事内容と求められる成果」や「みなし労働時間と実際の労働環境」をきちんと説明できるようにしておくことが必要です。

また、裁量労働制で雇用する人は、裁量を持たせられるプロフェッショナルな人材でなければいけません。新入社員やその業務の未経験者には常に具体的な指示が必要なため、すぐに裁量労働制を適用すると違法になります。プロフェッショナル人材の採用方法については、下記の資料もぜひ参考にしてください。

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