経営者の皆さんは、いかに経営と採用を接続し、事業を運営しているのでしょう。岐阜を拠点にデジタルマーケティング事業を手掛ける、株式会社アクシス。代表取締役を務める臼井氏に話を伺いました。
※連載企画「地方企業の経営と採用を考える」第1回目の記事はこちらから、第3回目の記事はこちらからどうぞ。
「企業の売上・利益を最大化させる戦略Web集客パートナー」として、インターネットを活用し、ビジネスの成長を加速させるマーケティング支援会社。SEO、リスティング広告、ホームページ制作、アクセス解析など、社内のWeb担当者のように全体を見渡して戦略設計から施策までを提案している。
事業内容:Web戦略コンサルティング、Web集客改善コンサルティング、アクセス解析によるサイト改善、SEO対策、リスティング広告、SNS広告、YouTube広告、ホームページ制作、ランディングページ(LP)制作、MA/SFA導入・運用支援(HubSpot・Pardot)
従業員数:28名(2021年7月末時点)

インタビュイープロフィール臼井 教司氏
株式会社アクシス 代表取締役

インタビュアープロフィール山本 憲明氏
株式会社ビズリーチ 広域統括部 統括部長
物流からデジタルマーケティングへ、大胆なピボットを伴う事業承継
――はじめに、臼井様のご経歴、アクシスの代表取締役になられた背景から教えてください。
アクシスは、1983年に父が創業した会社の子会社で、2011年に代表に就任しました。親会社は兄が継いでおり、私はそもそも、岐阜に戻るつもりも、継ぐ気もなかったです。高校からアメリカ留学を経験し、大学卒業後は東京で働くことになりました。26歳の時、子会社の立ち上げに携わることになります。「インターネット事業をやるべきです」と社長に進言してインターネットコンテンツサイトの企画を手掛け、2年後には上場を果たすこともできました。その後は香港や台湾で新規事業の立ち上げを経験させていただき、2003年にはウォルト・ディズニー・カンパニーに誘われてジョイン。インターネットサービスの企画や新規事業開発に7年間携わりました。

岐阜に戻ろうと思ったのは、ちょうどヘッドハンティング会社から「ロサンゼルスで働きませんか?」と打診されたとき。同じタイミングで父から「子会社を継ぐ人がいないから、岐阜に帰ってきてほしい」と言われ、これも何かの巡り合わせかなと、アメリカではなく岐阜へ戻ることにしたのです。
――デジタルマーケティング事業を始めた理由とは?
当時、アクシスは親会社の物流事業を担っていました。自社トラックを持ちドライバーがモノを運ぶ、私にはまったく未知の領域です。継ぐのであれば、得意なデジタルマーケティングでなければ私はワークしません。「まったく新しい事業をやるけれどいいのか」と事前に父にも話したうえで、すべての事業を撤退。デジタルマーケティング事業を始め、継いだのは「アクシス」という社名と、銀行口座だけでした。
――まさに第二創業ですね。それほどドラスティックなピボット(事業転換)に、創業者のお父様は反対しなかったのでしょうか。

岐阜へ戻る前に「好きにやらせてほしい」と伝えていたので、心配だけど継いでくれるなら任せた、という心境だったのだと思います。デジタルマーケティングは、前職のウォルト・ディズニー・ジャパンでネットサービス全体のディレクション業務を任されており、スキルや経験に自信がありました。気鋭のIT企業様とたくさんお取引させていただいていたので、ネットワークもそれなりにありました。
岐阜という地方から、IT事業を立ち上げるのは新しい挑戦だと思っていました。でも、いざ事業を始めてみると、起業の大変さを痛感…。事業の土台となる設備投資やベースの売り上げがあることがいかに恵まれているか、改めて身に染みましたね。
誰も岐阜の会社に発注しない、そんな構造を変えたかった
――裸一貫で始めたデジタルマーケティング事業。第二創業を通じて実現したかったことは何でしたか?
岐阜で事業を始めて驚いたのは、「誰も岐阜の会社に発注しない」ということでした。岐阜の会社は「名古屋なら実力があるだろう」と名古屋の会社に発注し、名古屋の会社は「東京の会社は実力があるから」と東京に発注する。岐阜にはまったくお金が落ちないのです。岐阜の経営者の方々と話していると「岐阜はいいところ」「この地域が好き」と言われているものの、岐阜から発信して、地元の経済を回そうという発想はあまり感じられません。経営者自身が新しい技術や組織論を学ぼうとせず、従業員への教育もしていない…。そんな会社もあるように感じられました。
大手企業の地方支社なら、教育は行き届いているだろうと思ったら、優秀な人材は本社に引き抜かれていってしまう。地方が直面している現実を前に、「この構造を変えたい」と強く思いました。

デジタルマーケティング事業は、東京でやった方がビジネスチャンスは多く、効率的です。ただ、岐阜に本社を構え、ハンデのある田舎の企業が日本一になることはこの国にとっても大きな意味があるのではないか。はじめは、とにかくお金をもうけて社員がよい暮らしができるように…という思いだけだったのが、事業に大義があると、まったく違うパワーが出てくるのを感じます。
――岐阜で事業を続けるなか、苦労されたこと、課題に感じることは?
採用には今も苦労しています。2020年はコロナ禍の影響でリモートワークが進みました。働く場所の制約がなくなり、「これで東京在住のいい人材を採用できるようになる」と期待しました。
でも1年たち、期待していたこととはまったく逆のことが起きていると気づきました。つまり、東京の資本力のある企業が、地方の優秀な人材を採用できるようになっただけだったのです。個人にとっては、地方にいながら、給与水準の高いところで働く選択肢が生まれたということ。このままでは、地方は大都市の「養分」として、どんどん吸い取られていってしまう。地方の企業こそ、全国の優秀な人材を採用して立ち上がっていかなければ、国力にはつながらない。創業時から抱いていた危機感が一層強くなっています。
――岐阜で事業展開を進めるうえで、東京の競合企業に勝つためのアクシスの強み、優位性とは何ですか?
Web戦略コンサルティングには、SEO対策、リスティング広告、ホームページ制作、アクセス解析などさまざまな要素があります。大手企業になるほど特定の分野に強い人材が生まれ、専門領域の分業が始まりますが、アクシスは戦略を一気通貫で見られる人材がほとんどです。お客様のビジネスを広げるために、どんなWeb戦略を立てるべきか。きちんとゴールを設定して伴走できるのが、私たちの強みです。そして、ここはとても手間がかかるので、効率化に進んだ大手競合がなかなか参入できない部分でもあります。アクシスのミッションは「お客さまの成果に繋げること」であり、さまざまな技術は手段のひとつに過ぎません。提供価値はあくまでも「戦略にもとづく成果」です。
この1年は、都内の上場企業からの依頼が増えています。「事業戦略からWeb戦略に落とし込んで、きちんと成果まで見てくれる」と言っていただけることが多いですね。
採用は投資。補充ではなく事業の成長スピードを買う
――これまでの採用についてお伺いします。第二創業から組織の成長フェーズに合わせて、どのように仲間を集め、採用をしてきましたか?

事業の立ち上げフェーズでは、一人一人を口説いてまわりました。デジタルマーケティングの論文や本を読んで「この著者の知見がほしい」と思ったら、講演セミナーなどに出かけて終了後に声をかける。原始的なヘッドハンティング手法ですね。創業メンバーの家まで行って「あなたと一緒にやりたい!」と話をしていました。
創業時は、技術部門の役員と2人体制で、採用のことを何も知らず、手当たり次第に求人媒体へ載せていました。とにかく忙しくて人が足りなかった。技術力のある人がほしいものの採用基準もバラバラで、適切な採用コストも分かっていませんでした。
――採用への考え方が変わるきっかけは何でしたか?
考え方が変わったのは、1から10へと組織を大きくするフェーズに入ったときです。新しい人材が入って事業が急伸したり、逆に組織内がぎくしゃくしたりする経験を重ね、「ヒト」でいかに会社が変わるかを思い知ったのです。
事業の立ち上げフェーズでは、事業で利益を出したい、お客様の声に応えたいということが最優先事項でしたが、「ヒト」の重要性、優先順位が上がってきました。採用はコストではなく投資であり、人材に見合った年収を提示することをポジティブに捉えるようになりました。その後の10から100への組織拡大フェーズでは、効率化に向けた仕組みをつくる段階となり、「事業拡大を経験した人がほしい」と人材要件が具体的になっていきます。事業の立ち上げフェーズと、1から10へと組織を大きくするフェーズ、10から100への組織拡大フェーズとでは、必要な人材が違うのだと学び、求める経験やスキル、求める人物像など募集要項に書けることが増えていきました。
――10から100への組織拡大フェーズを超えると、必要な人材はどう変わっていくと思いますか?
さらに次の拡大フェーズになれば、非連続の成長に向けた新規事業を展開するために、再び事業を立ち上げるようなプロフェッショナル人材が必要になるでしょう。マネジメント人材も含め、異なる強みを持ったメンバーの協業が重要です。
これまでは、技術に特化したプロフェッショナル人材が「自分はマネジメントに向かないから」と会社を離れることがありました。でも、技術一本でもキャリアパスを描けるような会社の仕組みがあれば、多様な人材が活躍できます。人事制度の仕組み化は、今後の大きな課題です。
――まさに「採用は投資」という考えのもと、組織づくりを進めていくのですね。
最近は、採用は補充や追加ではなく「スピードを買う」ためのものだと考えています。事業の成長スピードを上げられるのであれば、人材に見合った年収を提示するのは当然のこと。そうすると今後は、採用という観点からM&Aを検討する。そんな選択肢も出てくると思います。
求職者に最初に会うのは社長、漏れなく求職者を引きつける
――採用に対する考え方が変わったことで、具体的に何か取り組んだことがあれば教えてください。

当初は採用目的ではなかったのですが、情報を発信するようになりました。コーポレートサイトを改修したり、個人ではTwitterを始めたりしました。その他、オウンドメディアでの記事掲載を進めています。
以前、応募してくれた20代後半の候補者から「もっと事業内容や組織風土について知りたい。会社の中身が見えないから情報を発信してほしい」と言われたことがありました。たしかに、転職は本人の人生にとってとても大きな転機なのに、会社側が情報を発信もせず、どんな会社かわからないのに人が欲しいというのは、つじつまが合っていません。
ビズリーチをはじめとする採用ツールだけに頼るのではなく、自分たちでもできることをやり始めました。その情報に触れた求職者は、応募の段階で明らかに他の求職者と違うんです。特にTwitterはクライアントへの情報提供を目的に始めたのですが、DMで直接ご応募くださる求職者もいらっしゃいます。業種や業態によってSNSとの相性も異なるかと思いますが、比較的年齢層の若い当社にTwitterは相性がよかったように思います。
――最後に、採用に対し経営者としてどのように関わっていくか、お話しいただけますか?
採用に対する考え方や取り組み内容は変わりましたが、変わらないこともあります。それは、面接は代表である私が必ず最初にお会いすること。いい方がいたら漏れなく引きつけたいからです。社長が1次面接に出てきたら、求職者にもこちらの本気度が伝わりやすいでしょう? 採用にそれだけ時間は取られますし、当社の規模だからできることかもしれませんが、変わらずに続けていきたいと思います。
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