自動車のサスペンションやステアリングに使われる部品「ボールジョイント」の国内生産数トップクラスを誇る株式会社ソミック石川(以下、ソミック石川)。1916年の創業から静岡県浜松市を拠点に工場を構え、現在は世界6カ国に10の工場を設立しグローバルに事業展開しています。
ソミックグループの次の100年の飛躍に向け、2018年に設立されたのが株式会社ソミックマネージメントホールディングス(以下、ソミックマネージメントHD)。同社では、「世界一の人事部」を目指して、人事制度改革や組織開発を推進しています。さらに、スカウトを活用した積極的な採用活動により、静岡県に縁のなかった首都圏の人材をも引き付け、グローバル人材の採用に成功。その採用戦略と今後について、ソミックマネージメントHDの経営推進部人財採用室で主務を務める市川雄一郎様に伺いました。
グローバル企業として、横断的な人材マネジメントを加速するソミックマネージメントHD
株式会社ソミックマネージメントホールディングス 経営推進部 人財採用室 主務 兼 株式会社ソミック石川 人事部 人事管理室 採用G 主務 市川 雄一郎 様
グループの力を最大化するため、ホールディングスが「壁」を取り払う
ソミックマネージメントHDは、ソミック石川が創業100周年の節目を迎えた2016年に、次の100年に向けてさまざまな取り組みを進めるなかで、2018年7月に設立されました。従来の方法にとらわれない事業領域・製品の新たな可能性に挑戦していこうと、業務を行っています。そして人事部は、それらを実現するにあたり中核となる人材の採用やマネジメントが求められています。
ソミック石川の従業員数は約1,700人で、さらにアメリカやフランス、タイなど海外にも拠点があり、グローバル連結では約6,000人と、既に多くの優秀な人材が活躍しています。さらに、関係会社もソミックマネージメントHD以外に5社あります。しかしながら、従来型の「社籍」「拠点」「職能」などによる区分を軸とした人材のマネジメントだと、親会社であるソミック石川を起点として行われがちでした。これでは、グループの力を最大化できず、私たちが次の100年に目指す変革や挑戦も起きづらいでしょう。そこで、親会社・関係会社という関係性、いわば「壁」を取り払い、ソミックグループとして全社員を最大限に生かすことが、グローバル企業として飛躍するうえで必要な土壌であると考えました。
何より、全ての社員にとって、公平な環境で人材の配置・育成がなされることは、社員一人一人の夢をかなえること。そして、その積み重ねが会社の発展にもつながると考えています。全社員が「ソミックで働いていることを通じ、幸せを感じられる」ために、人事ができることは何かを考え、日々取り組んでいます。
変化が不安にならないよう、「言葉」だけではなく「仕組み」で示す
先ほど申し上げた通り、ソミック石川の従業員は国内ベースでは約1,700人ですが、グローバル連結だと約6,000人。そして、10年後には現在の約3倍となる3,000億円の売り上げを目指しています。外部環境が変化しているなかで、その高い目標を実現するため、社内の組織力強化や体質改善が必要不可欠。事業が浜松から世界へ進出したように、私たち人事の目標は「世界一の人事部」となること。今はその過程として「日本一の人事部」を目指し、改革に取り組んでいます。
具体的な改革としては、たとえばいわゆる「日本型雇用」の見直しです。製造業においては、従業員規模が大きくなるほど年功序列を重視する傾向があるといわれていますが、弊社も例外ではありませんでした。しかし、賃金制度に自由度を加え、さらに、個々の成長意欲に応えるため新たな研修制度も開始したところです。
ただし「変化」とは、必ずしもポジティブに捉えられるとは限りません。ときに、不安を抱かせる要因にもなり得るもの。さらに2020年は新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、日常生活に加え景気や経営の動向に不安も集まり、一層「変化」に対し敏感になっている社員やそのご家族の方もいるのではないかと考えています。そんななかで、「ソミックグループは元気で、前を向いて挑戦し続けています」という姿勢を「言葉」だけではなく「仕組み」として示したいと考え、改革の勢いを緩めることなく取り組み続けています。
採用プロセスにあった「過去のあたりまえ」を取り払う
「居住地」という制約を外したことで広がった、採用の可能性
人事で取り組んでいる改革は、現社員向けの雇用制度だけではありません。採用活動もこの1~2年で大きく変化しています。もともとソミック石川の従業員は8割以上が地元在住者で、静岡県や愛知県が中心でした。
しかし、自動車業界、そして弊社が必要している人材や職種が変化するなか、求める人材を採用するには「居住地」という自分たちで勝手に決めた「制約」を取り払っていいのではないか、と考えたのです。そこで、企業が直接人材データベースを検索できるビズリーチのようなスカウト型サービスなども含めた「ダイレクトリクルーティング」に力を入れ始めました。私もその流れで現取締役から声を掛けられたのをきっかけに、2020年2月に入社をしました。以前は人材紹介や転職コンサルタントをしていたのですが、現在採用チームには、私のような仕事をしていた転職者が複数名おり、ダイレクトリクルーティングでの採用を加速させています。
今の転職市場には、勤務地には特にこだわらず、事業やビジョンへの共感や、自己成長の実現を目的として、企業を選択している人も多くいます。スカウトを受け取った時点では、弊社をご存じではない方にも、1to1でメッセージを発信し、会社を知っていただくチャンスを作ること。この活動が、求める人材を採用する可能性を広げていると感じています。
新型コロナウイルス感染症の拡大前から、面談・面接はオンラインを活用
「居住地(静岡県)」という制約を外したことで、取り入れたのがオンラインでの面談・面接です。弊社では、新型コロナウイルス感染症が拡大する前の2019年10月から導入をしていました。当初は、最終面接だけは対面で行っていましたが、役員から「コロナ対策として、最終面接までオンラインで実施するのが最善である」と声が上がり、現在では原則全てオンライン上で完結しております。もちろん、候補者の方から「会社の雰囲気を実際に見たい」などのご希望があった場合は、面接当日までの2週間検温をしていただくなど、徹底した確認をしたうえでご来社いただき、会社をご案内しています。
導入当初は、面接官から「オンラインだと人柄や雰囲気がわかりづらい」という声もありましたが、オンラインにおける面談・面接の流れをしっかりと決めて共有することで、解消に至りました。新型コロナウイルス感染症への対策として今年に入って急きょ導入したというわけではなく、昨年から徐々に移行できていた点もよかったのかもしれません。
人事である私の場合、面談・面接の両方について、多い日は7件、平均4件ほど対応しています。面談・面接をオンラインにしたことにより、1日にできる回数、つまり会える候補者の人数は大幅に増えたと感じています。
人材データベースの検索は、まず「人探し」の前に「言葉探し」を目的に
「過去のあたりまえ」を見直すという点でいうと、ビズリーチの人材データベースを検索する際にも私なりの使い方があります。
人材データベースから「候補者」を探す際に重要なのは「検索条件」となる「キーワード」です。言い方を変えると、検索条件の設定に漏れやズレがあると、候補者になり得る人材を見逃してしまうこともあるのです。そこで私は、いきなり「人」を探そうとするのではなく、まずは「私たちが見落としているキーワード」を探すことを目的に、さまざまな方の職務経歴に書かれている内容を見るようにしています。
この作業により、自分たちで作成した「要件定義」の内容や単語の適切さが確認できます。同じ自動車業界で同じ業務でも、会社によって、表現する言葉や、担当業務の範囲が異なるケースはあります。逆のケースもまたしかりで、「職種名」は違っても、実はやっている内容や必要なスキルは近いこともあるのです。先入観を持った検索によって優秀な人材を見逃してしまってはもったいないので、それを防ぐべく、必ずこのプロセスを挟むようにしています。
最近では、採用活動の精度を高めるための振り返りシートも作成しました。設定した単語によって、スカウトの返信率など活動結果がどう変わるかを検証でき、設定した要件などの課題を抽出できるようにしています。浮き彫りになった課題は、必ずしも「採用活動時の要件定義」の範囲だけではないかもしれません。たとえば、課題が「入社後の社内制度」であるならば、その制度改革に向けた一つのエビデンスにもなり得るでしょう。

ソミックグループが考える「グローバル人材」とは
グローバルに向け「働く場所(国)が変わっても、力を発揮できる人材」が必要
自動車の国内市場が縮小し、自動車メーカーが海外への販路拡大を進めるなかで、部品メーカーである私たちもグローバル化を求められており、それに伴い「グローバル化に対応できる人材」が必要となっています。
ひとくちに「グローバル人材」といっても、会社によって定義する人材要件はさまざまかと思いますが、弊社ではグローバル人材をシンプルに「活躍の場が限定されていない人材」と定義しています。つまり、働く場所・国が変わっても力が発揮でき、そこで求められている目的や役割を全うできる人です。
候補者探しの段階では、特に国籍については気にしていないのですが、経験やスキル、また今後任せたいミッションに対してマッチしていただけそうかを総合的に判断すると、結果的に海外出身の候補者の方が多く、ビズリーチ経由で2020年に入社が決定した直近4名の社員も全員が外国籍でした。
将来的に海外での業務に従事していただく可能性もありますが、現時点では静岡県での活躍を期待するポジションもあります。よって「グローバル人材」というキーワードで募集をしてしまうと、ミスマッチも起きかねません。一番重要な条件は「ソミックという会社に興味を持ってくれているか」ということ。さらに、期待するミッションや役割、そして私たちの理念に共感してくれる方であれば、採用のチャンスはあると思っています。なので、スカウト型だけではなく、人材紹介会社(エージェント)経由の場合も、エージェントの方の提案に任せるのではなく、私のほうでしっかり弊社やポジションとのマッチングを考え、そのうえで、弊社の求める「グローバル人材」の要件にあてはまりそうかを判断するようにしています。
(編集部注)一般的なグローバル人材の定義とは
「グローバル人材」という言葉は現在、さまざまな場面で多義的に用いられています。国は、日本の成長を支えるグローバル人材の育成、グローバル人材が活用される仕組みの構築を目指しており、グローバル人材を主に次のように定義しています。
「日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材」
しかし、グローバル化が進むなかでグローバル人材を必要とする会社は増えているものの、約7割の企業は「海外事業に必要な人材が不足している」と回答している現状です。
参考:総務省の「グローバル人材育成の推進に関する政策評価」(2017年)
(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/107317_00009.html)
「人と人とのつながり」を第一に考える採用活動を
ビズリーチを使ってスカウトした中途入社者(左:長岐様、右:朴様)と一緒に
※次回は、中途入社された2人のインタビューをご紹介します
「言葉」だけで表面的な判断をしないよう、「面談」でマッチングを図る
弊社は自動車部品の開発から販売まで一貫した体制で手がけているので、多くの職種がありますが、候補者の方が希望されている職種を、弊社で用意できるとは限りません。ただ、その方が現時点で希望していない職種でも、十分にその方のスキルや経験を生かせるケースはあります。そういった際、いきなり「面接」ではなく、まずはお互いの本音を交換できる「面談」を挟むことで、ギャップを埋め、動機付けをすることが効果的です。
最近の例でいうと、「生産管理」でエージェントから推薦してもらった候補者を「事業企画」で採用したことです。その方は、学生時代に経営や経済を学んできたことに加え、面談で話を聞くと、実は弊社においては生産管理よりも事業企画に近い業務だったのです。言葉で表面的な判断をしていたら、お互いにとって事業企画という選択肢はなかったかもしれません。「まずは、候補者の方と直接話す機会を作ること」、これが活動の基本になると思っています。
また、弊社は従業員人数も多く、100年以上の歴史がある企業ですが、失敗を恐れずにチャレンジできる環境があります。ベンチャーと大企業の双方のいいところを経験できる基盤とポテンシャルがあるでしょう。そういった環境のなかで、弊社のイメージに対し何か誤解を持たれていることは「面談」でしっかり払しょくしていきたいですし、候補者の方が「目指したい姿」に、弊社がどう活躍の機会を用意できるかについて、十分に考えたうえで、提案するべきだと思っています。
採用活動・人事制度を改革するなか、2020年は内定辞退・早期離職ゼロ
面談は、1回あたり1時間、必要であれば複数回行います。もちろん時間や労力がかかるものですが、この面談への手間は絶対に惜しみません。
面談に注力してからというもの、2020年はビズリーチ経由で内定辞退が発生していません。また、12名の採用に成功(2020年1月~2020年11月実績)と、採用活動は以前に比べてハイペースになりましたが、離職に至ったケースはありません。弊社への転職を機に静岡県へ移住される中途入社者も多く、外部から来た方が旧来の組織になじむには時間が必要です。オンボーディング施策はまだ開発途中のところですが、人事をはじめ積極的に声を掛けるなどの「人を大切にする文化」によって支えられているかと思います。現在は、社内ドキュメントの英語化対応の検討など、入社後のインフラ面を整えるプロジェクトも始動しており、より「誰もが活躍しやすい環境」に向けた準備が進んでいます。
弊社の理念は「人のつながりを大切にし、力いっぱいの努力で、世の中の役に立ち、愛される会社となる」。人事もまさにこの「人と人とのつながり」を第一に考えて活動することが、良い採用につながると考えています。どんなに便利なITツールやHRテックが出てきても、「人と人とのつながり」でしか形成できない部分があるのではないでしょうか。私たち人事も、これまで以上に「人と人とのつながり」を大切にしながら、次の100年に向けた制度改革や採用活動を通じ、社員の幸せを実現する「世界一の人事部」を目指していきます。
※掲載情報は記事制作時点のものとなります。
執筆:中澤広美(KWC)、編集:瀬戸 香菜子(HRreview編集部)
「採用強社」の成功事例インタビューから学ぶ

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本資料ではEVPを策定した企業と転職者の声、具体的な事例、およびメリットをわかりやすくご紹介します。