本人に悪気はなくても、相手を不快にさせてしまったり、傷つけてしまったりするのがハラスメントです。社内の雰囲気が悪くなる恐れがあり、時には離職や訴訟などに発展する場合もあるため、働きやすい職場を保つためには、ハラスメントを防ぐことが大切です。
この記事では、ハラスメント対策の専門家である一般社団法人「日本ハラスメントリスク管理協会」参事(法律アドバイザー)である榎本あつし氏の監修のもと、企業においてどのようなハラスメントが起こりうるか、またどのような対策が有効なのかを紹介します。

監修者プロフィール榎本 あつし(えのもと・あつし)氏
一般社団法人「日本ハラスメントリスク管理協会」参事(法律アドバイザー)、社会保険労務士法人HABITAT代表
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ハラスメントの定義

ハラスメントとは「嫌がらせ」や「いじめ」を意味する言葉です。さまざまな種類がありますが、どのハラスメントにも共通するのは、言動によって相手を不快な気持ちにさせたり悩ませたりすることです。
ハラスメント対策をするには、まず何が「ハラスメント」に該当するのかを押さえておきましょう。「これくらいは許されるはず」という行動がハラスメントになってしまったり、逆に「ハラスメントといわれたくないから、指示や指導は我慢しよう」とマネージメントができなくなったりしては、業務遂行に支障が出かねません。
ハラスメントにはさまざまな種類がありますが、まずは企業において代表的な「パワーハラスメント」の定義について見ていきます。厚生労働省は、以下の3点全てを満たす行動や発言をパワーハラスメントと定義しています。なおこの要件はおおむね、他のハラスメントにもあてはまるものです。
優越的な関係を背景とした言動
上司や先輩など、職責が上の相手によるケースです。ただし同僚や後輩、部下であっても、知識や経験がより豊富な場合や、集団を組織することで優位に立つ場合などは「優越的な関係」に該当することもあります。
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
社会通念に照らして、明らかに業務上の必要性がない言動をさします。たとえば人格を否定する言動、必要以上の長時間の拘束などが含まれます。客観的に見て業務上必要な指示や指導は、ハラスメントには該当しません。
労働者の就業環境が害される
言動により、従業員が就業するうえで看過できない支障が生じる状況をさします。ただしこれは、「特定の従業員やその言動を受けた人の感じ方、受け止め方」がそのまま基準となるのではなく、「職場の一般的な人の感じ方、受け止め方」を基準として判断します。

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ハラスメント対策の重要性

働き方の多様化や人手不足による人材獲得競争が激化するなか、従業員一人一人がパフォーマンスを発揮できるように組織全体でサポートしていくことが大切です。それに伴い、個々の従業員が安心して活躍できる環境を整えるために、企業でハラスメント対策を行う重要性は増しています。また下記のように、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントについては、法律によって企業での対策が義務付けられています。
- パワーハラスメント:労働施策総合推進法
- セクシュアルハラスメント:男女雇用機会均等法
- マタニティハラスメント:男女雇用機会均等法、育児・介護休業法
その他のハラスメントについても、健全な労働環境を保つためには対策が必要不可欠です。

ハラスメントが企業に及ぼす影響

次に、適切なハラスメント対策を行わない場合、企業にどのような影響やリスクが生じうるか、見ていきます。
職場環境の悪化
ハラスメントを受けると被害者のモチベーションが低下し、業務に支障が出るケースが少なくありません。また被害者以外の従業員も、職場でハラスメントが起きていれば不快感を抱いたり、自身が被害に遭わないように萎縮したりする可能性もあります。これらにより、職場環境が悪化するリスクがあります。
離職者の増加
被害者が「これ以上、この会社で働きたくない」と思ったときや、休職期間を満了したあとに、退職する場合もあります。また、行為をとがめられた加害者が退職を余儀なくされることもあるでしょう。さらに、両者に近しい従業員らが退職する可能性も。それにより、人手不足になって生産性が低下する恐れがあります。
社会的評価の低下
ハラスメントによって、被害者がメンタル不調になって休職・退職するだけでなく、命を落としてしまうという事例も実際に起きています。加害者となった人の言動が不法行為と認定されれば、企業には法的責任が生じ、被害者や遺族に損害賠償責任を負う可能性があります。また、風評被害によって取引先や顧客のイメージ低下を招くことも起こりえますし、もっと深刻な場合、訴訟に至るなどして報道され、社会的評価が低下する恐れもあります。

押さえておきたい8つのハラスメント

ハラスメントには多くの種類があり、近年は新たなハラスメントに区分されるものも生まれています。ここでは、企業の人事・採用担当者が押さえておきたい8つのハラスメントを取り上げます。
パワーハラスメント
企業における代表的なハラスメントです。主に上司から部下へ、先輩から後輩に対して行われるケースが多く、「やめちまえ」などと暴言を吐いたり、暴力を振るったりして精神的・身体的な苦痛を与えることをさします。先に触れたように、法律で企業での対策が義務付けられています。
セクシュアルハラスメント
相手に不快感を与える性的な発言や行動のことで、恋愛や結婚について尋ねたり、強引にデートに誘ったりという事例が該当します。こちらも、法律によって企業での対策が義務付けられています。ニュースなどでは男性から女性へのセクシュアルハラスメントが多く取り上げられているイメージですが、近年では女性から男性への場合や、同性同士のケースも珍しくありません。
マタニティハラスメント
妊娠中や出産間近、子育て中などの女性に向けた嫌がらせのこと。妊娠した女性従業員を解雇や異動したり、降格したりというケースが該当します。マタニティハラスメントも企業には防止措置をはかる義務があり、女性が安心して出産し、産後も職場復帰しやすい環境・制度を整備することが大切です。
パタニティハラスメント
男性が子育てのために育児休暇取得や時短勤務をしようとする場合、批判的な発言をしたり、異動などをほのめかしたりすることです。近年、国は男性の育休取得促進に力を入れており、2022年4月から改正育児・介護休業法が段階的に施行されることもあって、この流れは加速していくでしょう。企業には、女性だけでなく男性の子育てを支援する制度設計が求められます。
モラルハラスメント
無視や人格否定など、言葉や態度で心を傷つけてしまうハラスメントで、職場環境配慮義務(※)によって企業が責任を問われることもあります。パワーハラスメントと似ている部分もありますが、パワーハラスメントは加害者が優位な立場であるのに対し、モラルハラスメントは力関係を問わない精神的な攻撃をさします。加害者は被害者に対してのみ態度を変えることも多く、パワーハラスメントよりも周囲が気づきにくい傾向もあります。
(※)職場環境配慮義務…従業員が身体的、精神的に安全を確保して働けるように、企業や使用者が職場環境に配慮する義務のこと。
アルコールハラスメント
職場の飲み会に参加するように強要したり、宴席でアルコールを飲むように強制したりすることです。なかには「社風」や「文化」としてお酒を勧めてくるケースもあるでしょう。しかし、無理な飲酒によって体調が急変することもあるので注意が必要です。
時短ハラスメント
「働き方改革」の推進によって、企業には長時間労働の是正が求められています。そのため労働時間の削減を求める一方、結果については従来通りを要求し、時短の方法については職場や従業員に任せることをいいます。企業は現場に任せっきりにするのではなく、実効性のある施策を示すことが大切です。
終われハラスメント
採用活動において、求職者に自社へ入社してもらうために、就職・転職活動を終えるように誘導・強制することをいいます。人事や採用担当者は意図せず終われハラスメントを行っている場合もあるため、注意が必要です。求職者の心証を損ね、周囲に悪い評判が伝わる可能性もあるので控えるべきでしょう。

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ハラスメントの原因

では、このようなハラスメントはなぜ生まれてしまうのでしょうか。想定される原因を紹介します。
「このくらいは許される」という個人の感覚
たとえ同じような言動でも「Aさんだと受け入れられる」「Bさんだとハラスメントと感じる」というように、ハラスメントの加害者になる場合とならない場合があります。被害者についても同様です。個人個人によって受け止め方に違いがあり許容範囲も異なるので、ハラスメントのガイドラインを定めても、感情や感覚を規定することは難しいです。それゆえ「このくらいなら許されるだろう」という感覚のズレがハラスメントを生む原因になってしまいます。
世代間や男女間の感覚の差異
かつては「ハラスメント」という言葉や概念は一般的に知られておらず、「指導」などとして行われている場合もありました。1989年に「セクシャルハラスメント」が新語・流行語大賞を受賞してからハラスメントが知られるようになり、徐々に社会の風潮は変わりましたが、「自分もされてきた」「上司はこういうもの」という世代間、男女間の感覚の違いによって、ハラスメントが起きることもあります。
組織風土に問題がある
組織風土に問題がある場合、社会では「ハラスメント」に相当することが「当たり前」になっているケースもあります。たとえばお酒の席で関係性を深めようとする「飲みニケーション」が多い企業ではアルコールハラスメントが、女性従業員が少ない企業ではセクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントが発生している場合もあります。いわゆる「自社の常識、社会の非常識」にならないよう、確認する必要があるでしょう。
テレワークでコミュニケーションを取りづらくなっている
新型コロナウイルス感染症の流行を機にテレワークが増えた企業では、以前よりコミュニケーションを取りづらくなっていることもあります。その場合、部下や後輩の労働状況を把握できないため、パワーハラスメントなどが生じかねません。
ハラスメント予防・対策のポイント

最後に、企業で取り組めるハラスメントの予防・対策のポイントについて紹介します。
社内で規定を設けて明文化し、周知徹底する
まずは会社として、何がハラスメントに当たるのか、ハラスメントが起きた場合にどうするのか、規定を設けて明文化することが重要です。そのうえで、役職や正規・非正規雇用などを問わず、従業員全員に周知徹底しましょう。
専門の担当者や窓口を設置する
次に、社内の体制を整備し、専門の担当者や相談窓口を設置しましょう。いざというときに相談・対応できるようにしておくことに加え、会社としてハラスメント対策に力を入れていることを示す効果も生まれます。
研修やセミナーを取り入れる
ハラスメント対策には、細かな配慮が不可欠です。先に述べたような個人個人の感覚のズレを埋めるためにも、各種研修やセミナーなどを取り入れ、従業員の意識や知識を高めることも大事です。
外部の専門家と連携する
ハラスメントが起きてしまった場合、会社の対応によっては従業員のメンタル不調が悪化したり、こじれて訴訟に発展したりするケースも想定できます。社内で完結させようとせず、外部の専門家と連携するのも効果的です。
プライバシーの保護を徹底する
担当者や通報窓口を設置しても、相談したという事実やその内容が同僚や加害者らに伝わってしまった場合、被害者が心ない言葉をかけられたり、責められたりする「セカンドハラスメント」を引き起こす可能性があります。
セカンドハラスメントを恐れて相談できないという事態を招かないためにも、企業はプライバシーの保護や徹底した情報管理が求められます。被害者をはじめとする従業員全員が、安心して相談できる体制整備が不可欠です。
テレワーク対策
テレワークの増加により、「勤務中は常にパソコンのカメラをオンにするように求められる」「リモート会議で、自宅の様子やプライバシーについて踏み込んだ質問をされる」などの新たなハラスメントも生まれています。このようなルール決めや発言をしないようにテレワーク対策をするのはもちろんのこと、時代や労働環境の変化を敏感に察知し、その都度、新たに必要な対策がないかを精査することも大事です。

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まとめ

ハラスメントにはさまざまな種類があり、該当する言動はそれぞれで異なります。しかし、すべてのハラスメントに共通するのは「相手を不快な気持ちにさせたり、悩ませたりすること」です。従業員をハラスメントから守ることは、社内外における企業の信頼にもつながります。改めて自社のハラスメント予防や対策について見直し、適切な対応ができるように取り組んでいきましょう。
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