自社の従業員が一時の感情に任せた発言や行動をしてしまったせいで、職場の人間関係がギクシャクしたり取引先との関係に影響が出たり、という経験はありませんか?
こういったことは日常的に発生しうる光景ですが、実はいずれも「アンガーマネジメント」を実践して怒りをコントロールさえできれば防ぐことができます。それによって人間関係は円滑になり、仕事もスムーズに進みます。そこでこの記事では、日本のアンガーマネジメント第一人者である安藤俊介氏監修のもと、アンガーマネジメントの概要や、アンガーマネジメントによって企業が得られるメリット、導入方法について紹介します。

監修者プロフィール安藤 俊介(あんどう・しゅんすけ)氏
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事、アンガーマネジメントコンサルタント
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アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで生まれたメソッドです。当初は犯罪者の矯正などに用いられていましたが、現在は企業や教育現場、アスリートのメンタルトレーニングなど幅広い分野で取り入れられています。
アンガーマネジメントとは、自分の「感情の癖」を知ることで、怒りと上手に付き合えるようにすることです。同じ状況でも、イライラしている人もいれば、うまく受け流せる人もいます。これは「怒りっぽい人だから」「穏やかな人だから」と思うかもしれませんが、「怒りっぽい」のは性格や気質ではなく、訓練によってコントロールすることができます。怒りと上手に付き合うための心理トレーニングがアンガーマネジメントなのです。

アンガーマネジメントを企業で取り入れる意義

アンガーマネジメントを企業に取り入れることで、職場環境の改善に期待できます。例えば、厚生労働省がまとめた2020年度の「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、過去3年間に「パワーハラスメントに関する相談があった」と答えた企業・団体は48.2%に上り、その内容の74.5%は「精神的な攻撃」で、最も多いのが「上司(役員以外)から部下へ」でした。また過去3年間のパワーハラスメントの相談件数については、最も多いのが「変わらない」で、次が「増えている」でした。
これは、怒りをコントロールできていてない従業員が多いことを意味しているといえるでしょう。企業としてアンガーマネジメントを取り入れ、パワーハラスメントに代表されるハラスメントが減れば、従業員は気持ちよく働けるので、企業にとっても離職率の低下や生産性の向上を見込めます。怒りを上手にコントロールすることで、従業員にとっても企業にとっても多くのメリットが期待できます。
参考:令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書│厚生労働省
*調査対象は全国の従業員30人以上の企業・団体で、回答数は6,426
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アンガーマネジメントを実践する効果

次に、アンガーマネジメントが従業員や企業に及ぼす具体的な効果について紹介します。
職場や取引先とのコミュニケーションがスムーズになる
何か問題が起きてもすぐにイライラせず感情をうまくコントロールできるため、職場や取引先とのコミュニケーションがスムーズになり、人間関係が円滑になります。その結果、チームや部署内の風通しが良くなり、心理的安全性が高まることも見込めます。
従業員のメンタルヘルスが改善する
職場のコミュニケーションがスムーズになれば、上司や先輩から理不尽に怒られたりイライラしたりすることが減り、ハラスメントの発生も防げるようになるでしょう。それにより、仕事に集中して取り組める環境が整い、従業員のメンタルヘルスの改善が見込まれます。また、上司が部下に適切なコミュニケーションや指導をできるようになり、人材の育成や定着にもつながります。
業務効率や業績がアップする
感情を上手に制御できるようになるので、感情に振り回されることがなくなり仕事をよりスムーズに進められます。仕事のやりがいや意欲が掻き立てられ、エンゲージメントの向上が見込めるでしょう。それによって個々人の業務効率が高まり、チームや会社全体の業績アップにも期待できます。
アンガーマネジメントを導入する際のステップ

次に、企業がアンガーマネジメントを導入する際の流れやコツを紹介します。
アンガーマネジメントの実行を周知する
まずは、会社として「アンガーマネジメント」を取り入れることを従業員に周知し、意識を高めたり、関心を促したりしましょう。
研修を行う
研修でアンガーマネジメントの方法やコツを教えると、より効果的な実践を見込めるでしょう。外部講師を活用するのも手です。例えば「日本アンガーマネジメント協会」など、企業研修に講師を派遣している団体もあります。同協会の研修では、「自分がどのようなことに怒りを感じやすいか」を客観的に把握するための診断などを受けられます(この自己診断については後述します)。
実践する
準備が整ったら、実際に従業員にアンガーマネジメントを実践してもらいましょう。トレーニングをせずにいきなり本番で結果を出せないのと同様、アンガーマネジメントも日々の積み重ねが大切です。続けているうちに、これまでなら腹が立っていたような物事を受け流せるようになるでしょう。
定期的に研修や面談を行う
日々のトレーニングで怒りをある程度コントロールできるようになったとしても、「どのような場面や物事に怒りを感じやすいか」は状況に応じて変化していきます。定期的な研修や面談で現在の自分の「怒りの癖、傾向」を見つめ直してPDCA(計画・実行・評価・改善)を繰り返し、アンガーマネジメントの精度を高めていきましょう。

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何に「怒り」を感じやすいタイプなのか、傾向を把握する

自分の怒りの傾向を知るために有効なのが、日本アンガーマネジメント協会が作成した「アンガーマネジメント診断」です。12の質問の回答によって6タイプに分類され、どのようなことに怒りを感じやすいかを把握できます。
まず、下記の12の質問に対して最も当てはまる回答を選び点数を付けます。
- まったくそう思わない…1点
- そう思わない…2点
- どちらかと言うとそう思わない…3点
- どちらかと言うとそう思う…4点
- そう思う…5点
- すごくそう思う…6点
- Q1. 世の中には尊重すべき規律があり、人はそれに従うべきだ
- Q2. ものごとは納得いくまでつきつめたいと思う
- Q3. 私は自分に自信がある
- Q4. リーダー的な役割が自分の性に合っていると思う
- Q5. 人の気持ちを間違って理解していたということがよくある
- Q6. 簡単には解決できない強いコンプレックスがある
- Q7. たとえ小さな不正でも見逃されるべきではないと思う
- Q8. 好き嫌いがはっきりしているほうだ
- Q9. 自分はもっと評価されてよいと思う
- Q10. 言いたいことははっきりと主張すべきだ
- Q11. 自分で決めたルールを大事にしている
- Q12. 人の言うことをそのまま素直に聞くのが苦手だ
次に、選んだ回答の点数を下記の組み合わせ通りに合計します。点数の一番高いものが怒りのタイプといえます。
- Q1+Q7 の合計点が1番高い
→「公明正大」タイプ
- Q2+Q8 の合計点が1番高い
→「博学多才」タイプ
- Q3+Q9 の合計点が1番高い
→「威風堂々」タイプ
- Q4+Q10の合計点が1番高い
→「外柔内剛」タイプ
- Q5+Q11の合計点が1番高い
→「用心堅固」タイプ
- Q6+Q12の合計点が1番高い
→「天真爛漫」タイプ
では、それぞれのタイプの特徴を見ていきましょう。
公明正大タイプ
正義感や道徳心が強く、自分の理想や信念を大切にし、定めた目標に向かって努力するタイプ。ルール違反をする人に対して怒りを覚えやすく、「間違っている」と思うと必要以上に介入してしまう場合もあります。
博学多才タイプ
好き嫌いがはっきりしている完璧主義なタイプで、何事にも白黒つけたがる傾向があります。優柔不断な人や考え方が異なる人、自分とは価値観が合わない人に対して怒りを感じやすいです。
威風堂々タイプ
自分に自信を持っていてリーダー的素質もあるタイプ。周囲が自分の期待通りに動いてくれなかったり、自分に対して低い評価をされたりすると、腹を立ててしまう傾向にあります。
外柔内剛タイプ
外見は穏やかに見えるものの、確固たる自分の意思を持っているタイプ。責任感があり、自主性が強いのも特徴です。どうしても譲れない自分のルールに反する事態になると、怒りを抱きやすいです。
用心堅固タイプ
頭の回転が早く、周囲の人との衝突を避ける賢さと用心深さを持つタイプ。ただし人に心を開きにくく、人間関係で怒りを感じやすいです。また必要以上に悲観的になってしまい、胸のうちにストレスをため込んでしまう傾向にあります。
天真爛漫タイプ
自分の思いや感情を素直に表現できるタイプ。目標に対して突き進み、リーダーシップもあります。ただ自分の主張が通らないと怒りを覚えやすく、注目されないとフラストレーションを抱える傾向にあります。
このような診断で、自分が怒りやストレスを感じやすい場面がわかれば、「少し落ち着こう」と意識できるようになります。またイライラし始めた際も、沸点に達しないように怒りをコントロールできるようになるでしょう。

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アンガーマネジメント実践のポイント

最後に、怒りを鎮めるために実践できる具体的なコツを紹介します。
6秒数える
「怒りが生まれてから6秒あれば理性が働く」といわれています。怒りを覚えたとき、感情に任せて口を開いたり物にあたったりするかわりに意識して6秒数えてみると、心を落ち着かせられるでしょう。
深呼吸をする
同様に、その場で深呼吸するのもオススメです。深く息を吸って、吐くことを何度か繰り返すと、心拍数や血圧が落ち着いて副交感神経の働きが高まるため、リラックスできます。
怒りを感じそうな場面や物事から離れる
その場にいると怒りがおさまりそうにない場合、少し距離を置くのがオススメです。例えばトイレやコンビニに行くなど、物理的に距離を置いてみると気が紛れ、冷静さを取り戻せるでしょう。
怒りを点数化する
感情をコントロールするコツとして、自分の怒りを客観視することも挙げられます。そのためには、怒りを点数化するのがオススメです。点数化して以前の怒りと比較することで、その場の感情を分析できるようになり、また自分が何に怒りを感じやすいかを知る手がかりにもなります。
リフレーミングをする
怒りを覚える原因の多くは、個人個人の「~であるべき」という思いです。人は、他人や物事が自分の望まない方向に動いたときに怒りを感じやすいので、意識的に視点を変えて物事を見たり、相手の立場になってみたりすることも大事です。自分にとって「当たり前」と思っていたことを見つめ直すことで、怒りをコントロールしやすくなるでしょう。

アンガーマネジメントで働きやすい職場を目指そう

今回ご紹介したように、アンガーマネジメントによって怒りをコントロールできれば、職場環境や従業員のメンタルヘルス改善、業績アップが見込めます。またリモートワークの増加など、働き方に変化があるなかで重要性が増しているコミュニケーションスキルも向上し、より効果的な人材育成にもつながるでしょう。
怒りの感情をすべて抑えるのではなく、必要なときは怒ることももちろん大事です。大切なのは、怒りとうまく付き合うこと。ぜひ自社でアンガーマネジメントを率先して取り入れ、組織づくりに生かしてみてください。
■参考資料
安藤俊介著「はじめての『アンガーマネジメント』実践ブック」ディスカヴァー・トゥエンティワン刊

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