【イベントレポート】会社と個人の成長を両立するアサヒ飲料の人事戦略

2021年7月6日、株式会社ビズリーチは「会社と個人の成長を両立するアサヒ飲料の人事戦略」と題したWebセミナーを開催しました。

アサヒ飲料株式会社人事総務部長の相田幸明様にご登壇いただき、社員の活躍を支援する人事戦略の考えや具体的なメソッドを含めお話しいただきました。モデレーターは、HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐様が務めました。

相田 幸明氏

登壇者プロフィール相田 幸明氏

アサヒ飲料株式会社 人事総務部長

1995年、大学卒業後、アサヒ飲料株式会社に入社。支店営業、サプライチェーンマネジメント部門を経て、2010年から経営企画部門で企業提携・自販機事業・子会社経営管理を担う。2015年、人事総務部人事グループリーダーとして、人材育成戦略の再構築等を推進。2018年から現職。人事制度改革等、人事戦略の推進ならびに総務、法務領域のマネジメントを手掛ける。
楠田 祐氏

モデレータープロフィール楠田 祐氏

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表

日本電気株式会社(NEC)など、東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)客員教授を7年経験した後、2017年4月、HRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。2009年から6年連続で年間500社の人事部門を訪問し、人事部門の役割と人事担当者のキャリアについて研究。

アサヒグループ、アサヒ飲料の会社紹介

楠田 食品メーカー大手のアサヒ飲料様の特徴は、階層別の研修をなくしたり、20代でストレッチアサインメントを与えたりと、日本がこれまで行っていた年功序列や同世代に同じ育成をするということから脱して新たなチャレンジを行っていることだと考えています。

集団的な人材管理マネジメントではなく個にフォーカスしてポテンシャルが高い人をどんどん引き上げていく。このような人事戦略を取ろうとすると、社長や役員のコミットメントが必要で改革は大変ですが、アサヒ飲料の米女太一社長は人事部長出身の方で人事改革に積極的に取り組まれているのだと思います。では相田さん、本日の講演をよろしくお願いします。

相田 アサヒ飲料の人事戦略についてお話しする前に、アサヒグループホールディングスならびにアサヒ飲料についてご紹介させていただきます。

アサヒグループは1949年に設立され、現在グローバルで約3万人の従業員を有しています。2009年よりグローバル化にかじを切り、2015年以降はヨーロッパ、オーストラリアで展開。社員構成は国内と海外で半々です。

売り上げの37%を国内の酒類事業、39%を国際事業が占めており、ほか17%を国内飲料事業、6%を食品事業が担っています。

アサヒグループホールディングス社の概要

アサヒ飲料は1972年に創立され、グループ内の飲料事業を担っています。日本と東アジアで展開しており、2013年のカルピスとの事業統合で現在の組織の土台ができました。

代表的な商品には、137年の歴史を誇る「三ツ矢サイダー」や、1904年に誕生し、117年目を迎えた「ウィルキンソン」、1919年生まれの「カルピス」があります。

目下の課題は、ブランド名と企業名がリンクしない点。商品ブランドとコーポレーションブランドをどう一致させるか、広告戦略で試行錯誤を続けています。

人事戦略のベースになるもの

アサヒグループの人事戦略のベースには、グローバル化を見据え2018年に制定した「アサヒグループ フィロソフィー」があります。

アサヒグループフィロソフィー

アサヒグループは、グローバル企業でありながら、地域で個別経営を進めているため、エリア特性を大事にした事業展開が不可欠です。社員一人一人の成長に裏打ちされ企業が成長していくということを約束として示しており、これに基づいてピープル・ステートメントも定められています。すべての人事戦略は、ピープル・ステートメントの4点を軸に考えられたものになっています。

アサヒグループ ピープル・ステートメント

アサヒ飲料のビジョンは、「社会の新たな価値を創造し、我々の『つなげる力』で発展させ、いちばん信頼される企業となる」。

ビジョンの中心にある「つなげる力」には、100年以上続くブランドを3つも有している強みが込められています。今あるものを次世代につなげていくことが、アサヒ飲料の大事なDNAだと考えています。現在は業界3位ですが、「100年のワクワクと笑顔」を届けるべく、中期経営計画で業界のリーディングカンパニーを目指しています。

アサヒ飲料 ビジョン

アサヒ飲料の人事戦略

アサヒ飲料では、社会環境や社会課題を意識したうえで、企業理念や存在意義を定めています。経営戦略はそれをベースにしており、人事戦略はあくまでも経営戦略と連動した形で組むべきだと考えています。

経営戦略が柱となり、それを私たちがどう実現するかが人事戦略になっています。

100年以上続くブランドを、社会環境の変化に応じていかに新しい時代にアジャストして進化させていくか。ビジネスプランとそれを実現できる人材が必要です。新規ビジネスであれば、海外への愛飲展開をどうするかが新たな挑戦になるでしょう。

人事戦略の位置づけ

人事戦略はすべて、経営方針の実現に結実するように考えられています。柱となる経営戦略を、人でどう実現していくのかが人事戦略となっています。

短期的には実力主義の会社にすること、長期的には社員一人一人が安心して活躍できる会社にすることを目指しています。

人事戦略 概念図

人事制度

ここからは、人事制度の詳細を説明していきたいと思います。

能力発揮、実力主義の人事制度

アサヒ飲料の複線型人事制度は、能力に応じて登用アセスメントがあり、資格・グレード制度も設けています。管理職になってからはミッション・グレード制のマネジメント職と、ジョブ・グレード制のプロフェッショナル職が用意されています。

この人事制度によって実現したいのは、4つ。

1つ目が、社員のパフォーマンスに応じてきちんと報酬が反映される「脱年功序列、実力主義」

2つ目が、「登用の公平化と透明化」です。個人的なコネクションで上に引き上げてもらうようなことが起こらないよう、管理職になってからは2度のアセスメントを通らなければ進まない仕組みを整えました。

3つ目は、「『個』の能力の評価」。プロフェッショナル制度を入れることで専門的なスキルを高く評価する仕組みを構築しています。プロフェッショナル職も、マネジメント職と同じように仕事の難易度や幅を広げられるようにしています。

4つ目は、「社員成長の加速」です。実力次第で、管理職登用は最短で31歳になっています。

人事制度

評価制度

アサヒ飲料の評価制度は、

  • スキル(能力)とパフォーマンスのバランスで育成方針を見極める
  • ジョブグレード制と結び付けることで、適所適材の配置の実現を目指す

ことを目的としています。

スキル評価と業績評価で9つのボックスに分け、それぞれのボックスで育成を考えていきます。ハイパフォーマンス×ハイスキルの人は、後述のCDP(キャリアデベロップメントプログラム)対象者として育成し、役職登用の候補となります。ローパフォーマンス×ハイスキルの人は、能力はあるのに力が発揮できていないということ。仕事が合っていない可能性を含め原因を探り、人事異動の検討にもつなげていきます。ハイパフォーマンス×ミドルスキルの人は、今は能力を発揮できていても、自己研鑽をしなければ頭打ちになる可能性があります。スキルアップのために何に取り組むべきか助言するなど、個人に合わせたフィードバックにつなげる評価制度になっています。

また、従来の評価面談に加え、上司と部下の1on1を週1回から月1回行い、コミュニケーション量を増やすことで心理的安全性の担保につなげています。

評価制度

サクセッションプラン/CDP(キャリアデベロップメントプログラム)

CDPは、ハイポテンシャル人材を計画的にプールし、幹部候補を養成するプログラムです。28歳までをプールA、35歳までをプールBとし、それぞれへの個別のキャリアプランを立案。「本人が描きたいキャリア」と、「適性を見たうえでの人事が考えるキャリア」の両方をベースにキャリア計画を立案しています。

管理職になると、選抜研修で選ばれた人材、および評価が高い人材を対象として後継者育成計画(サクセッションプラン)を立案しています。サクセッションプランを立案することは、本来の役割に加え、優秀人材の部門別の偏りを早めに是正することにも役立っています。

人材育成戦略

若手の人材育成は、会社の投資です。

2000年は30代が会社の中心で、若い頃から修羅場を経験する機会がありました。しかし、2020年になると、40~50代半ばが全体の65%を占めており、30代から大きなスケールで仕事をする機会が減っています。OJTだけでは、人材育成が足りなくなっているため、OFF-JTでどう育成するかが、育成計画の重要なポイントになっています。

選抜型・手上げ型研修の導入

従来の人材育成では、1~2日の階層別研修を実施していましたが、研修後1~2カ月たつとこれまで通りの日常に戻ってしまい「生きた投資になっているのか」という疑問がありました。

そこで、階層別研修は4年前に廃止し、現在は選抜型・手上げ型研修に特化しています。半年~1年の研修後は、人事異動により新しい仕事を担い、研修で学んだことを実践でトライできる枠組みを作りました。

人材育成戦略 考え方

研修プログラムでは、若手は入社3年目から部門のリーダーになれるような養成をし、30歳前後では未来の経営幹部候補として、10年後の未来のビジネスを1年弱で考えてもらいます。さらに上の30代半ば~40代では、次世代の経営者養成のためのプログラムになっています。

研修内容を実践に生かすことが重要なので、研修後は何らかの人事異動があります。仕事が変わったり、役職登用により、レベルの高い仕事を任されたりと、現場で「修羅場」を経験できるように設計しています。

リモートワークによって可能になった社内塾・社内副業制度

トップ層の育成に限らず、すべての社員への施策も整備しています。ピープル・ステートメントにある「学習する組織」を作るべく、学び続ける企業風土のための2つの施策をご紹介します。

1.アサヒ飲料 社内塾

社員が講師となってオンラインで勉強会を開催しています。講師側も受講者側も自ら手を挙げ、自律的な学びの機会になっています。社内講師なので、かなり実践に近い内容になるのも特徴です。

2.社内副業制度

リモートワークを活用し、希望する他部署の仕事ができる制度です。例えば、今後のキャリアを広げるために、地方勤務のメンバーが本社の戦略業務を経験するケースも多くあります。

人材育成に関する施策例

若手社員に望む成長のステップ

入社後から常に成長・活性を繰り返してほしいと、アサヒ飲料では、3年タームで変化を与えています。

3年以上同じ業務を続けると、人はコンフォートゾーンに入り、成長のカーブが緩やかになります。吸収力が高いうちは、ゾーンに入ったら次のところにいくというキャリアプランを実施しています。

キャリア形成では、「未来を起点に現在を考える」意識を持つよう、新入社員研修から問いかけを重ねています。10年後のキャリアをイメージしたうえで、今自分がすべき自己研鑽を考えていく。バックキャスティング思考を大切にしています。

アサヒ飲料の採用戦略

新卒採用

新卒の採用戦略は、最初から幹部候補を採用し、入社後は競争環境で育っていくことを期待しています。

経営戦略や将来展望をベースにした採用として、既存領域を主導する力、新規領域に果敢に挑戦してビジネススケールを上げる力が必要です。

地頭の良さやタフさなど、面接だけではなかなか見られない要素を、インターンシップの活用によって見極めています。

採用戦略 新卒採用

インターンの開始後、就職希望企業ランキングは目に見えて上がっています。ただ、学生の内定辞退も増えており、採用には課題が多いのも事実です。かつては食品メーカーや飲料会社が採用競合でしたが、今は総合商社やコンサルティングファーム、放送や通信が直接の競合になっています。2021年の内定辞退率は4割強で、当社を辞退した学生は、他業種に行くことが多いです。インターンを活用し、アサヒ飲料への理解度をもっと高めていく必要があります。

キャリア採用

キャリア採用は、3年前から人事戦略に組み込む形で再開しました。その理由は3つです。

  • 年齢構成のゆがみを補正

30代社員が少ないため、社内の年齢バランスをとるためにキャリア人材が必要です。

  • 離職率の増加

35歳以下の離職率が約3%。若手が、年間5~10名程度離職しており、人員補強としてのキャリア採用が欠かせません。

  • 多様性を経験したこと

2013年のアサヒ飲料とカルピス社の統合により、出身の違いへの抵抗が大幅に低下しました。以前は、プロパー社員の多いカルチャーになじめずにキャリア入社メンバーが離職してしまうケースが多くありましたが、今は出身会社、持っている企業文化の違いを認め合える風土があります。

キャリア入社メンバーには、選抜型・手上げ型研修への参加を促し、CDPに積極的に入れて、登用を躊躇しないことを決めています。多様な人材が前職の実績を当社で生かすことが事業成長につながるよう進めています。

人事部の体制

人事のミッションは、人で会社を変えることです。また、生産性視点で各部門のお手本になるよう少人数で難度の高いミッションを実現する事例となることが求められています。

部内には、人事戦略の立案を担う人事企画グループ、人材育成戦略の立案を担う人材開発グループの2つがあり、各7名、計14名で、社員約3,000人のキャリアを支えています。

モデレーター楠田様と相田様とのトークセッション

楠田 ここまで変えようとしたときに、選抜型・手上げ型研修の導入では、現場の部長職に変化への戸惑いはありましたか。

相田 選抜型・手上げ型研修によって「優秀な部下がとられる」という懸念はあったと思います。

そこで、研修導入は上位層からスタートさせ、徐々に若手へと落としていきました。まずは上位層が研修に参加し、人事異動により新たなチャレンジを経験します。すると、成長実感の手ごたえから「自分の部下にも経験させてあげたい」と思うメンバーが増えます。若手層に導入する段階で、反発はほとんどありませんでした。

楠田 プロフェッショナル職は、メーカーだからこそ重要だと思います。マネジメント職よりも年収が上がる制度が必要なのではないでしょうか。学会や博士課程など功績が認められたら一時金を出すということなどがあれば、リカレントやプロフェッショナル業務への邁進につながるのではないでしょうか。

相田 おっしゃる通りで、プロフェッショナル職の活用が組織活性化の大きなポイントだと思っています。例えば缶コーヒー一つとっても、世の中はコンビニエンスストアでの高品質なひきたてコーヒーが飲めるようになっているのに、当社での缶コーヒーの作り方はずっと変わっていません。新しい作り方を開発し、世の中にないものを作れたら、それは素晴らしいイノベーションになるでしょう。そうした研究開発に力を入れる人事制度を考えていきたいです。

ほかにも、工場勤務の人がリモートワークできる仕組みを作るDX人材なども、プロフェッショナル職として、今後ますます重要になるでしょう。

質疑応答

本セミナーでは、視聴者の方から多くのご質問をいただきました。お答えいただいた回答を抜粋してご紹介します。

セミナー参加者からの質問

Q1. アサヒグループ内の人事異動はありますか。

A. あります。

ホールディングスカンパニー内で人材がミックスされ、海外の会社に異動することもあり、流動的な活用が進んでいます。

セミナー参加者からの質問

Q2. 2013年のカルピス社との統合後、組織統合はどのように進めましたか。

A. 組織統合は5年をかけて、かなり慎重に進めていきました。

コーポレート部門はシステムや制度の早急な統合が必要でしたが、営業や生産などのほかの部門では、5年かけて双方の人材を現場に送り合い、現場ベースで理解・融合が進むようにしました。

セミナー参加者からの質問

Q3. 企業文化が違う2社の統合で、軋轢や不和が生まれたことはありましたか。

A. 個人レベルではさまざまあったかもしれません。企業としては、双方のいいところを組み合わせて、いい会社にしていこうというメッセージを発信し、融合を進めました。

カルピス社は、創業者の思いを大事に継承していく文化、カルピスという歴史あるブランドを掘り下げ、魅力を掘り起こし続ける文化が素晴らしいと思いました。
一方、アサヒ飲料には、カルピス社にはない、前に進んでいく突進力、挑戦心があった。両者を掛け合わせたら、すごくいい会社になると確信していました。
実際に、統合後は売り上げも利益も飛躍的に上がっています。お互いのいいところを全面的に取り入れた成果が出ていると思います。

セミナー参加者からの質問

Q4. 1on1を効果的に進める工夫を教えてください。

A. 人数の多い部署でも、最低でも月に1回は1on1を行い、部下の状態を正確に把握します。その積み重ねにより、評価の9つのボックスに正しくプロットされるようになっています。

1on1研修は、マネジメント側、メンバー側それぞれに向けたものがあり、評価制度を熟知するための研修も始めています。1on1は業務進捗の確認になってしまうケースが多いので、部下の課題をどうヒアリングするかという研修に力を入れています。

セミナー参加者からの質問

Q5. アセスメントでは具体的に何をしていますか。

A. ケースワークを行っています。

上位層では、ケースワークをベースに戦略を立案してプレゼンテーションをしたり、アセッサーを相手に模擬面接を受けたり。CDPでは年に2回タレントレビューを行っています。

セミナー参加者からの質問

Q6. マネジメント職とプロフェッショナル職の給与差はありますか。

A. マネジメント職もプロフェッショナル職も、職務難易度やレンジが同じであれば報酬は同じです。

マネジメント職とプロフェッショナル職の横異動は、本人の希望でも、会社からの提案でも可能になっています。

セミナーの最後に、モデレーターの楠田様と登壇者の相田様のお二人からメッセージをいただきました。

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楠田 祐氏

社会情勢は、いつも一進一退を繰り返しています。コロナ禍の状況下である今はまさに『一退』のとき。今の時期に人事が制度設計などの準備をしておくことが、長期的な組織発展においてとても重要です。ぜひ一緒に取り組んでいきましょう

相田様
相田 幸明氏

コロナ禍の状況下で、社員を見ている人事は本当に忙しいと思います。良い戦略や仕組みづくりが大切な今、少しでも皆様の参考になればと登壇させていただきました。生々しいリアルな情報も出しましたが、情報開示することで皆様へのヒントが増えれば幸いです。このような機会をいただきありがとうございました

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著者プロフィール田中瑠子(たなか・るみ)

神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。株式会社リクルートで広告営業、幻冬舎ルネッサンスでの書籍編集者を経てフリーランスに。職人からアスリート、ビジネスパーソンまで多くの人物インタビューを手がける。取材・執筆業の傍ら、週末はチアダンスインストラクターとして活動している。