新型コロナウイルス感染症拡大の影響でリモートワークが一気に進んだ2020年。中途採用でも、初回面談から最終面接までがすべてオンラインで進むなど、採用のパラダイムシフトが進んでいます。
中途採用のあり方は、これからどのように変化していくのでしょうか。
今回のオンラインセミナーでは、米サンフランシスコ在住のギャップインク社・松浦克次氏を招待。コカ・コーラ ボトラーズジャパンで採用を担う巻山修二氏とともに、日米それぞれの採用のあり方について語っていただきました。
モデレーターはHRエグゼクティブコンソーシアム代表・楠田祐氏が務め、視聴者からの質問や相談に対して多くの意見を交わしました。
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登壇者プロフィール
Gap Inc.
Total Rewards Program Delivery & Technology team, Manager
米国ビジネススクールにて人事の修士号を取得後、ソフトバンクグループ人事事業会社に入社。その後HRBPO事業スタートアップ、外資系生命保険会社の人事を経て、2011年にギャップジャパン株式会社入社。2017年Gap Inc.に転籍し渡米。現在はサンフランシスコ在住。
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
人事統括部 人財開発部 採用課長
明治大学経営学部を卒業後、1995年東京コカ・コーラ ボトリング株式会社に入社。自動販売機営業を担当後、人事課にて採用担当に従事。チェーンストア営業、営業企画、人事ビジネスパートナーを経て、2017年7月から採用課長として会社統合後の新たな採用手法と仕組みの再構築を手掛ける。
モデレーター
HRエグゼクティブコンソーシアム代表
日本電気株式会社(NEC)など、東証1部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)客員教授を7年経験した後、2017年4月、HRエグゼクティブコンソーシアム代表に就任。2009年から6年連続で年間500社の人事部門を訪問し、人事部門の役割と人事担当者のキャリアについて研究。2014年には日本テレビ「news zero」のコメンテーターを務めた。多数の企業で顧問などを務めるかたわら、年間50回以上の人事向けセミナーに登壇するほか、シンガーソングライターとしてもプロ活動している。
日米企業のオンライン採用の今
――ビズリーチが実施した企業アンケートでは、2020年の採用面接でオンライン対応をしている企業は約7割、オンライン化のメリットを感じている企業も7割という結果が出ています。その一方で、「職場の雰囲気を伝えにくい」「候補者の人となりをつかみにくい」といった懸念の声が上がっているのも事実です。
アメリカは、国土の広さや国内時差などからオンライン採用が日本より一般的ですね。アメリカ全体の特徴について教えていただけますか。
松浦:私は2017年にギャップジャパンから米ギャップインク社に転籍し、渡米しました。当時、現在のポジションに私が採用されるために行われた6回の面接はすべてオンライン面接でした。面接官は全て米国在住で私は日本に居ましたから、当然ですね。
渡米後すぐにチームメンバーの採用をすることになりましたが、それも全てオンライン。無事採用となりその新しい同僚と会えたのは彼の入社日のこと。オンライン面接では顔しかわかりませんでしたので、「そんなに背が高かったんだね」と驚きました。アメリカは国土が広いので、拠点間をオンラインでつなぐコミュニケーションは日常的です。
一方、どこでもオンラインが主流かといえば、そこは企業によってさまざまではないでしょうか。シリコンバレーにはスタートアップ企業が非常に多くあり、彼らは対面面接をより大事にしている印象があります。
――コカ・コーラ ボトラーズジャパン様の採用はいかがでしょうか。
巻山:コカ・コーラ ボトラーズジャパンが統合されたのが2018年からで、それまではコカ・コーラウエストとコカ・コーライーストジャパンの東西2社がそれぞれの採用手法で進めていました。ようやく先進的な採用を進めようと、スタート地点に立てたのはごく最近です。
統合を機に人事制度を整え、職務に必要な能力を細かに記載したジョブディスクリプション(職務記述書)に応じた人員配置へとかじを切りました。ジョブディスクリプションがあれば、その内容にフィットする経歴・実績があるか確認すべきことが明確で、オンライン面接との相性もいい。中途採用では、地方や海外在住の方とのオンライン面接を一つの手段として進めてきました。
新卒採用は、総合職コースのほかに、ファイナンスや人事、ITなど特定のポジションに限定してジョブ型採用を進めています。新卒採用は2020年1月に初めてオンライン面接を導入し、内々定の提示まで、すべてオンラインで進めました。新卒採用においては、対面でもオンラインでも、大きな違いはないのではないかと自信を持って実施しています。
松浦:求職者視点としても、現職につきながらの日程調整が大変だったところから、来社しなくていいとなれば、時間の融通が利きます。地方の候補者にとって、物理的な距離のハンディキャップがなくなったもの大きいですよね。
巻山:そうですね。企業側も、小さな会議室を一つ用意できれば済みます。
オンライン面接においてトラブルがあったとすれば、学生側のネットワーク環境がときどき断絶することくらいでしたね。学生がスマホを落としてしまうようなことがあったのですが、大慌てで謝る姿をみて、「緊張のなか、きちんと謝れる学生だな」とむしろ好印象につながったケースもあります。オンラインだからこそ得られる情報もあるのだと、気付かされました。
――アメリカは、部門のハイヤリングマネージャー(採用責任者)がジョブディスクリプションを出して採用するのが一般的ですよね。アメリカで感じる、ジョブ型採用の影響はどんなことがありますか。
松浦:採用にハイヤリングマネージャーの意向がかなり反映されており、「チームメンバーは、チームのリソース(資産)である」という意識が強いです。例えば、私が他部署のメンバーから「このデータを分析したいから、ちょっと手伝ってくれないか」とお願いされたら、まずはチームマネージャーに相談します。
リソースはチームのためのものなので、勝手に他部門に使うのは許されない。もしその部門と向かうベクトルが同じなら受けることもありますが、基本的には上司に相談します。私は彼のリソースですから、彼の許可なしに私というリソースを勝手に他に使うことはできません。
人材流動性から見る「カルチャーフィット」の重視度
――日本とアメリカの採用手法の違いについてお伺いしていきたいと思います。そもそもアメリカは人材流動性の高さが日本とは異なります。採用手法の特徴には何があるのでしょう。
松浦:アメリカの場合、採用手法のほとんどがダイレクトリクルーティングです。LinkedInの認知率が非常に高く、企業は直接個人に対しどんどんアプローチおり、転職人材紹介会社を使うのは、市場にほとんどいない特殊な専門職を採用するときくらいだと思います。
巻山:当社はまだまだ人材紹介会社経由の決定は多いものの、ダイレクトリクルーティングの即戦力採用も年々強化しています。
――そのなかで、オンラインでの採用活動の懸念はどう感じていますか。
巻山:オンラインは、言語的コミュニケーションに強いので、論理性や想像力などは問題なく評価できます。弱いのは「非言語的コミュニケーション」です。周りとどうコミュニケーションをとって物事を進めていくのか、面接でのふとした表情やしぐさから最初は見えていなかった性格を引き出したりするのは、対面と異なり難しいものです。
コカ・コーラ ボトラーズジャパンは、ものづくりの現場社員も多く、まだ一部では日系のドメスティックなカルチャーも残っている会社です。
一方、コーポレート部門には外資のカルチャーがどんどん入ってきていて、日系と外資のハイブリッドになっています。外資出身者がコーポレート部門に入社すると、他部門との調整でそのドメスティック感に戸惑いを感じて辞めてしまったこともありました。
カルチャーフィットは非常に重要なので、オンライン面接ではシチュエーショナル・クエスチョン(シチュエーションを問う質問)を積極的に行っています。
松浦:なるほど、面白いですね。巻山さんのお話を聞いていると、アメリカでは「カルチャーフィット」へ対する重視度合いが低いと感じました。
例えばシリコンバレーには世界中から優秀な人が集まってきます。そういった人たちの獲得合戦がここでは毎日のように行われていますから、優秀な人をずっと自社に引き付けておくことには限界があります。人材流動性が高く、終身雇用の概念はないので、企業への帰属意識というものもない。
このため必要としているカルチャーフィットは「一定期間、一緒に仕事をするうえで問題にならない程度」なんです。
巻山:そもそも、世界中から人が集まっているわけですから、バックグラウンドがあまりに多様ですよね。
松浦:そうです。価値観の土台が違いますから、そこを合わせようという考えはありません。多様なメンバーがチームとして成り立っているのは、「チームの目指す先に自分が貢献できるか、自分が成長できるか」という目的の一致があるからです。
――人材流動性の高さは、自分のポジションを常に自分で確立していくタフさが求められます。企業と求職者の動き方に特徴はありますか。
松浦:アメリカ内でも、シリコンバレーの雇用の流動性は特に高いと思います。10年同じ会社に勤めていた人が、採用面接に行くと「10年何をしていたのか、動けなかったのか、動かなかったのか」と聞かれてしまう。日本では考えられない問いかけかもしれないですよね。
自分のスキルを生かせるチャンス、自分を成長させられるチャンスがあれば、そこにチャレンジする。そのチャンスが「自社」でなく「他社」であれば、転職という選択をすることが、ごく当たり前なのです。
社会全体で、人材リソースの適正配置を回しているという考え方と個人が自分の市場価値を常に意識しているという点がベースにあると思います。
質疑応答
セミナー後半では、参加者からさまざまな質問があがり、お二人にお答えいただきました。
キャリア採用の場合、過去の経歴や実績を上手に話す人が多いですが、その人の本質を見抜くための面接のコツはありますか。
巻山:シチュエーショナル・クエスチョンをすることが多いです。コンフリクト(意見の対立・衝突)が起きたときの事例など、できるだけ想定していないような質問を投げかけます。職場の上司からの評価だけではなく、同僚や家族、友人からどんな性格と言われることが多いかなど、自己評価だけではなく「他者目線」を入れた質問をするようにしますね。
日本から海外の求職者にオンライン面接をアレンジする際、どうしても早朝、深夜になってしまいます。「求職者目線が足りない」などと、会社のイメージが悪くなりませんか。
松浦:求職者にとっても、時差があるというのは想定しているでしょう。グローバルチャンスを得たいという方には、そういうものだというマインドセットがあると思います。アメリカは、求職者と企業がフラットなので、雇用される側と雇用主という上下関係があまりない。もし、あまりに無理のあるスケジュールであれば「その時間は難しいので、○時でお願いできませんか」と向こうから言ってくるはずです。
これまで中途採用において、「ずっといてくれるか」というカルチャーフィットを大事にしてきました。今回のセミナーの学びを踏まえて、雇用の流動化が進むなか、これからどうこの価値観を変化すべきなのでしょうか。
巻山:私もかつてはそのような価値観を持っていました。しかし最近は「短期間でその人が功績を残してくれるならそれでいい」と考えるようにしています。ただ、実際に早期に退職者が出てしまったときは、その方とどこに理由があったのか退職前面談を行い、今の組織の足りなかった部分を把握するようにしています。
現状の組織が抱える問題点は採用面接時に候補者にも開示し、会社が目指す理想と現実のギャップをきちんと伝える。「あなたの力が必要だけれど、現実にはこんな課題がある」と理解したうえで入っていただければ、新たな価値観においてもミスマッチを減らせるのではないかと考えています。
アメリカにおいて、採用手法のトレンドはありますか。
松浦:今のところ、アメリカの転職市場で圧倒的に強いのはLinkedInです。ビジネスパーソンにはさまざまな企業採用担当者から毎日オファーが来るので、採用する企業側も毎日が勝負です。金銭的な報酬、カフェテリアの無償提供など、企業は個人に対して直接的な手法で、いかにして優秀な人材を採用し、定着させるかを施します。
一方、個人は自分の得意スキルを磨き、企業にとって「ほしい人材」だと思わせるための努力をしています。
今後、オンライン採用を加速化させていくなかで、面接についてアドバイスをいただけますか。
巻山:当社は1回の面接に1時間かけています。最初に人事側から、会社や求人内容についてしっかりと説明をします。その後、候補者へ質問していく流れです。じっくりインタビューできるよう1on1が基本ですが、HRビジネスパートナー(HRBP)(※)と現場のハイヤリングマネージャーの2名で対応することもあります。
※HRビジネスパートナー(HRBP):経営幹部と共に組織や事業に合わせながら人事戦略を設計し、人事の目標を設定する担当
松浦:オンラインの面接を6回受けたと言いましたが、1回あたりの時間は30~45分と短めです。回数を増やすことでさまざまな人と会うことができました。質問内容については、持っているスキルや仕事の進め方、チームメンバーへのアプローチ方法などコンピテンシーベース(好業績を生む行動特性)です。出身国もさまざまなので、お互いの理解がしやすい「業務」にフォーカスして進めていくのがポイントかもしれません。
イベント総括
オンライン採用元年ともいうべき、採用の変革真っただ中にいる今。企業担当者からも、多くの質問が寄せられました。
一つ一つの質問にフランクに、事例を混ぜながら話したお二人。
「思い切って新しい手法に挑戦し失敗したとしても、マイナスになることは何もない」「チェンジマネジメントを、人事が責任を持ってリードしていくべき」というご意見をいただきました。まさに「トライ&エラー」でチャレンジを止めないことが大事になっていくことでしょう。
セミナーの最後には「888(ぱちぱちぱち)」と、オンライン上の拍手がたくさん送られました。
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