企業や組織を運営していくうえで、さまざまな目的や意味を込めて行われる「人事異動」。人事異動にはさまざまなメリットがある一方で、社員のモチベーションを下げてしまう可能性もあるなど影響範囲はさまざまであるため、慎重に検討しなければなりません。
そこで今回の記事では、人事異動を効果的に活用し、企業や組織、そして社員の成長につなげるためのポイントを紹介します。
人事異動の目的
人事異動の目的には「経営戦略・組織目標の達成」や、「人材育成」「組織の活性化」などがあります。それぞれの項目について詳しく解説しましょう。
経営戦略・組織目標の達成
経営戦略や各組織目標の達成に向けて、組織図や人材配置を考える必要があります。組織体制はそのまま人員配置だけを変更するケースもあれば、新たに部署を設置したり、従来の部署を廃止または統合したりするケースもあります。目的に応じ、社内の状況や社員の能力に合わせて、フレキシブルな組織開発および人材の活用が求められます。
このように、人事異動は経営戦略や組織目標を実現するために必要なものです。
人材育成
人はさまざまな業務を通じ、視野や知識を広げ、経験を積むことで自分の強みや弱み、得意・不得意な分野、業務内容を理解していきます。ある部署ではなかなか成果を出せなかった社員に対しては、その適性を見極め、適材適所の人事異動を行う必要もあるでしょう。
人事異動によって、さまざまな部署に所属し、社内・社外のコミュニケーションを重ねることで、同じ会社にいながらも、多様な経験・価値観を得ることができます。異動先でこれまでの知識や経験を生かせるでしょう。
組織の活性化
同じ部署で長期にわたって同じ業務内容の場合、マンネリ化してしまいモチベーションが低下することがあります。新たな部署に異動したり、人事異動によって新たなメンバーが入ってきたりすることで組織が刺激され、社員のモチベーションが向上し、組織の活性化につながります。
また、同じ部署で業務をし続けていると、自分の部署のことだけしか考えないような視野狭窄に陥ることもあります。他部署との連携を強化し、各部署が不足を解消して組織全体を活性化するためには、人事異動は有効な方法といえるでしょう。
人事異動の種類
一口に人事異動といってもさまざまな種類があります。今回は6つに分けて解説します。
部署異動
部署異動とは、営業部から人事部、技術部から総務部といったように、それまで在籍していた部署とは異なる新たな部署に配属される人事異動のことを指します。
転勤
勤務地を変更することを転勤とよびます。一口に転勤といっても転居を伴う遠距離の異動や、都内の営業所から横浜の営業所への異動など比較的近距離の転勤まで、さまざまなパターンがあります。
また、転勤は必ずしも部署の異動が発生するとは限らず、同じ部署内で勤務する場所が変わるだけというパターンも存在します。
昇進
係長から課長へ、課長から部長へといったように、職位が上がることを昇進とよびます。
昇進は昇格と混同されやすいですが、昇格は社内におけるグレードや職能資格制度などによって評価が上がることであり、必ずしも人事異動に結びつくものではありません。
降格
昇進とは反対に、課長から係長、または部長から課長といったように、職位が下がることを降格とよびます。また、職能資格や給与等級の引き下げを降格とする場合もあります。
出向
会社に籍は置いたまま、他社で業務に従事することを出向とよびます。自社のグループ会社や子会社に出向するケースもあれば、業務提携などにより関係会社へ出向するパターンなどもあります。
転籍
出向とは異なり、それまで勤めていた会社を退職したうえでグループ会社や小会社などへ籍を移すことを転籍とよびます。転職と混同されやすいですが、転籍はあくまでも会社の指示や意向によるものであり、自身の意志によって籍を移す転職とは異なります。
人事異動がもたらす影響
人事異動は対象となる本人はもちろんのこと、企業や組織全体に対してもさまざまな影響をもたらします。
社員への影響
異動対象となる社員本人が希望する部署への配属はモチベーションが向上する効果が見込める一方で、現在の業務において高い成果を残している場合など、社員本人の希望に添わない場合には、人事異動にともないモチベーションが低下することも考えられます。
そもそも人事異動は就業規則に定めておけば、社員の了承を得ることなく異動命令を出すことができますが、明確な理由がなければ社員は納得できず、人事異動を契機に退職するケースも想定されます。
組織への影響
技術部門などで専門性の高い技術や経験、ノウハウを保有するエンジニアが人事異動の対象になると、部署やチーム内の他のエンジニアに技術や経験、ノウハウを継承できず、提供するサービスや製品の品質面に影響が出ることも考えられます。
また、社内外の人との関係を構築してきた人材が異動になった場合、それまでの人脈が薄れ、組織や部署の運営に支障をきたすことも考えられるでしょう。
従来型の人事異動における課題
これまでの日本企業では、定期的な部署異動や昇進によって、社員を「ゼネラリスト」として長い時間かけて育成していくという方針が一般的でした。
しかし、社員のキャリア観が多様化し、「ゼネラリストとして企業のなかで成長していく」ということだけが、目指すキャリアではなくなってきています。そのため、従来型の人事異動の考え方では、個人が考えるキャリア観と企業や組織の間でギャップが生じ、社員のモチベーションを維持することが難しくなっています。
社員の成長につながる人事異動を実現するための3つのポイント
個人や組織が抱える課題を解決し、それぞれにとって効果的な人事異動を実現するためには、人事異動を命ずる前後でどのようなポイントを押さえておくべきなのでしょうか。
客観的な評価に基づいて判断する
人事異動は会社と社員の成長につながることが大前提です。そのためには、適切な人事評価を行い、客観的なデータをもとに、社員のパフォーマンスを最大限発揮できるような人事異動を考えることが重要といえるでしょう。
これを実現するための一つの方法として、社員のスキルや経験値などの情報をデータ化し一元管理する、タレントマネジメントシステムのような人事評価に役立つシステムの活用を検討するのもおすすめです。
社員のキャリア観を把握しておく
経営者や管理職としては、人事異動が社員のキャリアアップにつながると考えていても、社員本人はさまざまな理由で希望しない場合もあります。そこで、今後どのようなキャリアを考えているのかをヒアリングし、できる限り本人の希望や意向をくんで検討することが求められます。
社員によっては、結婚や子育て、介護など、家族の事情によって転勤が難しい場合も想定されるでしょう。社員と個別にキャリア観や家族状況について話し合いの場をもち、日頃からコミュニケーションを重ねておくことが重要です。
人事異動した後のフォロー
異動直後は研修がメインとなる場合、実務における評価がしづらいものです。また、社員本人も環境や仕事に慣れるまで時間がかかり、能力を発揮しづらい場合があります。結果として、異動した社員にとって不利な評価に結びつきやすく、モチベーションが下がる社員も少なくありません。
このような異動直後の不利な評価を生じさせないためにも、目標管理制度によってスキルや経験に応じた適切な目標を設定することが大前提といえます。また、異動直後の研修を含む一定期間は、既存のメンバーと同じ評価方式ではなく、実績が上がらなかったとしても平均またはそれ以上の評定とするなどの考慮も求められます。
人事異動の効果的な伝え方
社員の希望や意向を尊重したとしても、会社としてやむを得ない理由で異動を命じなければならないケースもあるでしょう。そのような場合、伝え方次第で社員のモチベーション低下やトラブルへの発展を防ぐことができます。
社員に対する伝え方としてもっとも重要なのは、「異動先の部門が求めている理由」を説明することです。たとえば、営業部門から企画部門への異動を命じる場合には「商品やサービスの知識が豊富で現場の声を反映できる人材を求めている」「これまで営業戦略の企画に携わってきた経験を生かせると考えてお願いしたい」といったように、社員のこれまでの評価や実績と、異動先で求められていることを関連付けて説明すると納得してもらいやすく、社員のモチベーションも向上させやすいはずです。
人材育成および組織の活性化に欠かせない人事異動
人事異動は戦略的な人材育成および組織活性化に向けた重要なカギとなります。効果的な人事異動を実現するためにも、今回紹介したように、人事異動を命じる際の社員への伝え方や異動後のフォローまで含めて工夫してみましょう。
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